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■春金(16)

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G450は羽田から1時間ほどのフライトで能登空港に着陸する。今日1日運転手を務めてくれる、福井さんという女性がトヨタ・スペイドを持って来てくれていたので、それに乗り込む。
 
「狭い車でごめんなさいね。能登は細い道が多いから、3ナンバーは機動性が落ちるのよね」
と言っているが、アナさんは
「私たちみんな細いから大丈夫ですよ」
と言った。
 
助手席にAさんが乗り、後部座席にアナ・オナ姉妹と恵真が乗る。恵真は運転席の後に座るように言われた。
 
のと里山海道を1時間ほど走って津幡町の火牛スポーツセンターに入る。
 
「アクアゾーンは今日午前中、貸し切りにしてるから」
「へー」
 
それでアクアゾーンに入るのだが、入口の所の検温、問診票の記入に加えて簡易検査キットで感染の有無をチェックされる。ほんとに厳重だなと思った。全員陰性ということで中に入ることができる。むろん4人とも女子更衣室を使うのだが、全てのロッカーに“消毒済”の紙テープが貼られている。渡された鍵でアンロックしてから扉を開く時、この紙テープが破れる。使えば破れるようになっている訳だ。
 
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服を全部脱いでアンダーショーツを穿いた上で、渡された水着を着る。わりとおとなしめの水着でホッとした。
 
女子更衣室を出てプールエリアに入るが、左手にある大きな遊泳プールには透明アクリル板の区切りがある。
 
「水の循環もこの区分ごとになっていて、浄水施設でも水は混じり合わないようになっている。そもそも水の循環速度を本来の倍の速度にしてある」
 
「浄水施設でも混じり合わないようにするって、物凄くお金が掛かっているのでは?」
「感染対策にこのアクアゾーンだけで2億かけたらしいからね」
「恐ろしいですね」
 
それでこの遊泳プールを中心に撮影をしたが、奥の方にある滑り台でも撮影した。水着も4回着替えた。ビキニは断固拒否した!
 
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その後、布面積の多い水着に着替えてから、スライダーに行く。
 

「これ、もしかしてあの高さを滑り降りるんですか?」
「スライダーってやったことない?」
「ないです」
「じゃ初体験で」
「なんか怖そうな気がします」
「取り敢えず1回練習してみよう」
 
それでちゃんと水泳帽とゴーグルまで着けてから、Aと書かれたコースで滑り降りてみたが・・・怖かった!!
 
「もう1回くらい練習しようか」
と言われて再度Aを滑ったが、やはり怖い。
 
「では撮影しよう」
と言われて、足の先に1台小型カメラを取り付けられ、1台はベッドライトのような感じで頭にカメラを取り付けられる。
 
「動画撮影するから、できるだけ笑顔で」
「無理ですー」
とは言ったものの、恵真は頑張ってこの状態で滑り降りた。
 
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「念のためもう1回撮影」
「え〜〜〜!?」
それで再度Aコースを滑り降りる。4回目で少しは慣れてきたものの、やはり怖い。特にストンと落ちる所などビクッとする。
 
「よし、次はCコース行ってみよう」
「あのぉ、それって、より怖いコースとか」
「当然」
「Bじゃダメなんですか?」
「2位ではダメ。1位を目指そう」
と言われたが、アナさんが
「1度Bを滑ってからCにしましょう」
と言ってくれたので、結局、恵真はカメラを付けたまま1度Bを滑り、最後にCを滑った。
 
もうとても笑顔などする余裕が無く、本当に怖かった!!
 

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スライダーの後は、水泳帽とゴーグルを外し、水着もやや布面積の少ないものに変える。でもビキニでないならいいことにした。
 
外周の“流れるプール”を、Aさん、アナさん・オナさんと一緒に歩く。そして歩きながら撮影する。これはとても楽しかった。
 
ずっと外側に景色が見えているのだが、途中彼岸花が咲いている所がある。
 
「これ凄い。4色の彼岸花だ」
「この世とあの世の境だから、彼岸花が咲いているらしいよ」
「Aさん、向こうに行かれるんですか?」
「あんたもだいぶ言うようになってきたね」
「でも赤以外にも彼岸花ってあったんですね」
「うん。珍しいものだと思う。4色揃っているのはここだけかもね」
 
この4色の彼岸花を背景にプール内から写真・動画を撮ったが、その後、プールを出て、許可を取り(着衣で)その4色の彼岸花が並んでいる所のすぐ前でも撮影をした。ここは通常は保安上の理由で立入禁止区域になっており、無断で入ると警報が鳴るらしいが、Aさんの顔で特別に許可をもらった。でも警備員さんがずっと付いていた。
 
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許可を取るのに、Aさんが、ここの社長さんと直接電話で話していたが、電話の向こうから聞こえてくるのが若い女性の声なので、へー、ムーランって、女社長さんなのかと感心した。
 
これで火牛スポーツセンターでの撮影は終了した。
 

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トレーラー・レストラン“ムーラン”で福井さんも一緒に5人で昼食を取る。ここで他のお客さんに協力をお願いして、いったん退席してもらい、恵真だけのショット、それに“ブラスチックスタイル”という宇宙服みたいな制服?を着たウェイトレスさんたちと一緒の撮影もした。
 
お客さんたちには5分で戻ってもらう。
 
「アイドルさんですか?」
「そうそう。羽鳥セシルという名前で売り出す予定だから」
とAさんが言っている。名前を間違えないのは珍しい!
 
「サイン頂けます?」
「いいよ」
 
と“Aさんが”言って、撮影に協力してくれたお客さん5人に、藍色の色紙・金色のサインペンでサインをしエア握手した。これがセシルが最初に一般の人に渡したサインである。客のひとりが
「モーリーさんのサインももらえませんか?」
と言ったので
「高いわよ」
などと言って、普通の白い色紙に黒いサインペンでサインしてあげていた。
 
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そういえば、Aさんのことを白河社長も“モーリーさん”と呼んでいたなと恵真は思った(母は「ミモちゃん」と言っていた)。
 

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昼食の後は、福井さんのスペイドに乗って、のと里山海道を北上、西山ICで降りる。
 
県道を走り、やがてアリス館滋賀に着く。たくさんお花が咲いているので、この花をバックに撮影した。30分ほどで撮影を終えて、県道を10分ほど北上。巌門(がんもん)に至る。
 

 
「“げんもん”じゃなくて“がんもん”なんですか?」
「“厳格”の“厳”じゃなくて“巌窟王”の“巌”よ」
 
恵真はAさんがスマホで示してくれた文字を10秒くらい、じーっと見詰め
「あ、山冠があるかないかだ!」
と声を挙げた。
 
「男と女は、ちんちんがあるかないかの違いね」
「なぜ、そういう話になるんです?」
 
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結構な高低差の道を降りて船着き場まで行く。小さな船に乗るが、お客さんは恵真たち4人だけであった。しばらく待っても他に誰も来ないので船を出してもらった。本来はマスクをずっと着用しておかないといけないのだが、船内の撮影のため、特に許可をもらっていたので、マスクを外して撮影した。
 
巌門という貫通した海食洞の途中まで船が入る。海底が浅いので、手こぎの小さな船なら通れるが、遊覧船サイズの船は通過できないということで途中からバックする。
 
「長い年月の間に波が岩に穴を開けたんですね」
「人工的にヴァギナを作るのに、あそこに棒を当てて圧迫して、少しずつ凹みを大きくしていくやり方もあるのよ」
 
この人は一体何を突然言い出すんだ!?
 
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「時間がかかりそうですね」
「そうね。100年もすれば結婚できるサイズのヴァギナができるかな」
「Aさんはそうやってヴァギナを作ったんですか?」
「私100歳に見える?」
「400歳くらいかと思いました」
 
巌門をバックに撮影する。
 
船はその後、鷹ノ巣岩の横を通り、碁盤島・虎岩の間を通り抜けてから船着き場に戻った。しかし船着き場から売店などのある所まで登る道が辛かった!軽い登山の感覚である。そこでソフトクリームを持って撮影する。更に巌門の裏側にある大洞窟の中でも撮影をした。
 
能登金剛センター内の食堂でカレーパンをテイクアウトし、次の撮影地に行く車内で食べたが美味しかった。
 
巌門から近い所にある機具岩(はたぐいわ)という所で撮影する。
 
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「ここも巌門と同じタイプの海食洞ですね」
「そうそう。この穴が空いてるのが女岩」
「Aさん、そんなに穴が欲しかったら、頭に穴を開けるのとかどうです?」
「あんたのお股に穴を開けてから考えるわ」
と言われて、恵真はドキッとした。
 
ボク、やはりお股に穴を開ける手術しちゃうのかな・・・。
 
「どうかした?」
「いえ」
「何なら明日は北海度に行くのやめて、お股に穴を開けに行く?」
「それはまた今度で」
「ふむ」
 
ここは短時間の撮影で次に行く。
 
“世界一長いベンチ”に行く。但しこれは過去の記録で、現在は3位らしい(1位は富山県瑞泉寺前のベンチ 653.02m, 2位はポーランドのシェチュナ・スタジアムのベンチ 613.13m)。
 
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「確かに長いベンチですね」
「じゃ、このベンチを向こうまで往復走ってこようか」
「え〜〜〜!?」
「撮影はアナちゃんとオナちゃんに任せた」
「分担して撮影するんですか?」
「セリネが向こうまで走って行く最中はアナちゃんが撮影し、戻ってくる所はオナちゃんが撮影する」
 
「それって結局私たちも往復走るんですか?」
と姉妹が文句を言った。
 
「撮影する人まで走ったら画面が揺れてまともな画像になりません」
「それはまずいわね」
 
ということで。アナ・オナ姉妹は停まっている所に恵真が走って寄って行くという形で撮影することになった。それでアナ・オナは歩いて次の撮影ボイントまで行くのだが、恵真は断続的に走ることになった。
 
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疲れた!
 

その後、ヤセの断崖に行く予定だったが
「突き落とされたら嫌だから」
とAさんが言ってパス!
 
関野鼻で撮影したがここもアップダウンが凄くてなかなか辛かった。
 
「今日はひたすら運動なんですね」
「若いから頑張ろう」
 
そして最後はまた県道を走り、権現岩(トトロ岩)まで行く。
 
「君に最高の衣装を用意した」
と言われて出て来たのはトトロの着ぐるみである。
 
「これ着るんですか〜?」
「可愛いから似合うよ」
 
それで恵真はその着ぐるみを着てトトロ岩の前で撮影したが、今日の撮影の中でいちばん恥ずかしかった!
 

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9月23日(火・祝日ではない)、§§ミュージック総選挙まの投票が締め切られた。無意味な競争を防ぐため、中間結果は一切公開されなかった。最終得票数も公表しないことにしているのだが、結果を見たケイ・コスモス・ゆりこの3人はその結果に驚きの声をあげた。
 
アクア__ 2,406,373
ラピスラズリ 901,224
白鳥リズム_ 193,026
品川ありさ_ 192,963
高崎ひろか_ 192,589
姫路スピカ_ 191,915
西宮ネオン_ 120,172
川崎ゆりこ_ 115,382
山下ルンバ__87,635
 
これ以外は全員5万票以下である。
 
「ゆりゆり善戦してる」
「開けてびっくり」
とゆりこは笑顔である。
 
「でも何この横一線は?」
「ほとんど差が無いですね」
「特に白鳥リズムと品川ありさの差なんて、わずか63票」
「昔みたいな手書きの投票用紙なら確認のため再集計が必要な所だね」
「品川ありさと高崎ひろかも374票差」
 
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「あけぼのテレビ効果だと思う」
とゆりこは言った。
 
「これまでは過去の実績から、品川ありさ・高崎ひろかは、テレビや雑誌への露出が多かった。だけど、あけぼのテレビでは全員平等にチャンスがある。メインの子たちは、みんな似たような時間露出している。それで第3グループが追い上げてきたんだと思う」
 
「それってこの後数年は、熾烈な争いが続くということだよね」
とケイが訊く。
「だと思いますよ」
と、ゆりこは答えた。
 
「高崎ひろか・品川ありさのファンはアクアのファンと重なっている。ラピスに追い上げられるかもという危機感でアクアのファンクラブは引き締めに尽力した。それがひろか・ありさ票の伸び悩みにつながったと思う」
 
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「白鳥リズムは他の子とあまりファン層が重なってないんですよね」
「あの子は個性が強いからね」
「女性ファンが多いし。他の子はアクアを除けば男子ファンが圧倒的」
 
(西宮ネオンが忘れられている)
 
「だからリズムが善戦したんでしょうね」
 
「今回は複数の子のファンクラブに入っている人から、ファンクラブ単位で投票させて欲しいとか、せめて2票投票させて欲しいとかいう声が大きかったけど、2票投票する方式なら、全然結果は違ったろうね」
 
「それなら純粋に、ひろか・ありさの戦いになってますね」
 

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「で、どうします?」
とゆりこは尋ねる。
 
「1位アクア、2位ラピスラズリ、3位リズムと発表するしかないと思う」
とコスモス。
 
「変な操作は無しだよね?」
とケイ。
 
「うん。そういう不誠実なことをしてはいけない。恨みっこ無し」
とコスモスは言った。
 
ゆりこは言った。
「得票数は公開しない方針だったけど、公開しましょうよ」
 
コスモスも言った。
「うん。これは公開したほうがいいと思う。物凄く惜しかったんだということをファンの人たちには知っておいてほしい」
 
「うん。そうしよう」
とケイも言って、得票数は公開されることになった。
 
 
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