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■春金(7)
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しかし、こんなに縮んでたら、疑似割れ目ちゃんの接着が少々外れていてもこぼれないわけだ、と恵真は納得した(納得するのか?)。それでまだ接着剤での補修はしなくてもいいかなと思った。
いつものように、ちんちんを指で押さえて回転運動を掛けるが、凄く気持ちいい。久しぶりだからかな?
(恵真はちんちんを握って往復運動するということをした経験が無い)
恵真は今夜は何だか物凄く気持ちいい気がした。こんなに気持ちいいのって初めてかも。
それにいつもは指で回転運動を掛けていると、軸の弾力で?しばしば指先から逃げるように外れてしまうことがあるのだが、今日は全く外れず、ずっと気持ちいいままだった。
やがて逝った感覚がある。恵真は下着を戻し、そのまま深い眠りに落ちていった。
夏樹は爽快に目が覚めた。
夏樹は昨年9月、四国お遍路中に唐突に性転換してしまった。法的な元妻である季里子(結婚はしたが性的な関係は無い。人工授精で子供を作るための契約結婚)にも承諾を得て3月までには性別の訂正も完了した。
そして性転換以来、完全に自慰にハマってしまった。
夏樹は男性時代はあまり自慰をしていなかった。女の子になりたいという気持ちか強かったので、男にしかない器官を使うことに抵抗があったのである。
しかし女の身体になったことから、自慰に対する抵抗感から解放された。
男性時代もたまにしてしまうことはあった。その時は、強い罪悪感と不快感に苛まれた。しかし女になってからは自慰をする度に大きな幸福感と満足感を得られている。
それで夏樹は生理中を除いて、ほぼ毎日自慰をするようになってしまったのである。
男性時代には得られなかった物凄い快感がそこにはあった。昨夜も自慰した後自然にやってくる睡魔で眠り、ぐっすりと寝て爽快に目ざめた。
夏樹としては自分の年齢(38歳)もあり、今から恋愛・結婚なども考えられないので、男性とのセックスも妊娠出産も経験しないまま、やがて10年後くらいに閉経を迎えるのだろうなと思っていた。
その日、夏樹のアパートに、兄の春道がやってきた。突然の訪問だったのでびっくりする。
「おにいちゃん」
「久しぶりだな」
「なんか恥ずかしー。こういう格好してるの見られるのって」
「お前元々女性的な性格だったもんな。自由に生きればいいと思うよ。お前、父ちゃんたちに孫の顔まで見せてやったし」
「私自身は、あの子たちの新しいパパに遠慮して、顔を見せないようにしてるけど、お父ちゃん・お母ちゃんは、わりと頻繁に孫の顔を見に行っているみたい」
「親孝行だと思うよ。ところでさ、お前結婚しないの?」
「アテが無いし」
「恋人とかいないの?」
「いないよー。今更38歳の元男とかに興味を持ってくれる男性なんていないしさ」
「だったらさ、頼みがあるんだけど」
「何?」
「俺の子供を産んでくれない?」
は!?と思う。お兄ちゃんの子供を私が産む!??
唐突に兄に抱かれるシーンを想像した。
「待って。そういうのは勘弁して。私たち兄妹なんだから」
と夏樹は焦って言った。
砂原室長は青葉たちアナウンサー室にいたアナウンサーたちに解説した。
「そもそも熊という生き物は、ネコ目クマ科の8種の動物を言う」
「ネコの仲間なんですか?」
「ネコ目の中に、ネコ亜目とイヌ亜目があって。クマとかアライグマ・アナグマなどはイヌ亜目に分類される。イヌ亜目には更にイヌ下目とクマ下目があり、クマ下目の中に、イタチ上科、クマ上科、アシカなどの鰭脚類がある」
と言って、砂原室長はホワイトボードに分類図を描いた。
ネコ目
┣ネコ亜目(ネコ科・ハイエナ科など)
┃
┗イヌ亜目
┣イヌ下目
┃ ┗イヌ科(タヌキを含む)
┗クマ下目
┣イタチ上科
┃┣イタチ科
┃┃(アナグマを含む)
┃┣アライグマ科
┃┣レッサーパンダ科
┃┗スカンク科
┣クマ上科
┃┗クマ科
┗鰭脚類
(アシカ科・セイウチ科・アザラシ科)
「クマ科は更に、クマ亜科とメガネグマ亜科、ジャイアントパンダ亜科に分類される。クマ亜科に更にこのような属・種・亜種が含まれる」
クマ亜科
┣マレーグマ属
┣ナマケグマ属
┗クマ属
┣ツキノワグマ種(ツキノワグマ属とする考え方もある)
┣アメリカグマ種(↓のグリズリーより小型)
┣ホッキョクグマ種(但しヒグマとの生殖境界が無い)
┗ヒグマ種
┣ヨーロッパヒグマ亜種
┣コディアックヒグマ亜種(アラスカにいる)
┣ヒマラヤマグマ亜種
┣ハイイログマ亜種(アメリカに居る。別名グリズリー)
┗エゾヒグマ亜種(★北海道にいるのはこれ)
(8種というのは、ジャイアントパンダ、メガネグマ、マレーグマ、ナマケグマ、ツキノワグマ、アメリカグマ、ホッキョクグマ、ヒグマ、と数えた場合)
「ツキノワグマは漢字で書くと“月輪熊”、ヒグマは“羆”。ヒグマを“緋熊”と書く人もあるけど、それは当て字。元々“羆”と書かれていたのを見て、誰かが“四熊”と2文字と誤解して『しぐま』と読んじゃったのが発端らしい。それで“しぐま”がいつのまにか“ひぐま”になっちゃった」
「犯人は江戸っ子かな」
「一日中・山道の世界だ(*3)」
(*3)“旧中山道”(きゅう・なかせんどう)と書かれた原稿の“旧”の字が“1日”に見えて「いちにちじゅう・やまみち」と誤読したもの。しばしば、有賀さつきが誤読したと思われているが、実際には別のアナウンサーが誤読したのを有賀さつきが「きゅう・ちゅうさんどう、ですよね」とやっちゃった!
「日本には、本州・四国にツキノワグマ、北海道にエゾヒグマがいるけど、両者は生態上、大きな違いがあり、全く別の生物と考えた方がいい」
「九州には居ないんですか?」
「昔はツキノワグマがいたけど、最近は全く目撃されず、絶滅したものと思われる。また、遙か古代には本州にもヒグマがいたことが、骨が発見されることから推定されるけど、現在は居ない。ヒグマがいるのは北海道だけ」
「両者の違いだけど、まず外見では、ツキノワグマはだいたい成獣で1m-1.5m程度。希に1.8mくらいのいるらしいけど、めったに見ない。それに対してヒグマは2-3mに達する、つまりツキノワグマの倍の体格がある。体重では3-4倍。ただし、どちらもメスは小柄で、オスより2割くらい小さい」
「毛並みだけど、日本のツキノワグマはだいたい黒い色で、胸の付近に三日月型の白い毛があるけど、1割ほど無い個体もある。エゾヒグマは金毛と呼ばれる茶色のものと、銀毛と呼ばれる白色のものが居る。金毛のヒグマの1割ほどにツキノワグマ同様、胸の所に白い毛がある」
「どちらも雑食性で、ブナやナラの実を食べるし、昆虫や蟹なども食べる。蜜蜂などはわりと好物で、蜜蜂の巣を見つけると巣を破壊して蜂も蜜も食べる」
「くまのプーさんだ」
「プーさんの品種は何ですかね?」
「あれは元々テディベアのぬいぐるみから生まれた物語なんだけど、テディベアのモデルになったのは、アメリカグマだね。これはハイイログマ、別名グリズリーより小型で、グリズリーの住んでない地域に住んでいる熊。日本のツキノワグマと立場が似ていると思う」
「なるほどー」
「アメリカグマもツキノワグマ同様に、草食傾向が強くて、ネズミや蟹とかの小動物なら食べるけど、大きな動物を捕食したりはしない」
「へー」
「ツキノワグマも、人間を捕食目的に襲ったりはしないんだよ。遭遇した場合に自衛のためやむを得ず戦うだけ。そもそもツキノワグマは昼行性なんだけど」
「夜行性じゃないんですか!」
「クマは基本的には夜は寝てるよ。ただ、今からの時期、秋には、冬ごもり準備のため、人里に柿の実とかを狙いに来る時は、人間が寝静まった夜に出てくる。でもそれは例外的なものだよ」
「人間が寝静まった所を狙うんですか?」
「こそ泥だね。基本的には人間が怖いからね」
「ああ」
「それとクマは基本的に昼行性だけど、実は朝晩、日が昇る頃と、日が沈む頃に最も活動が活発になる。薄明性と言うんだよ」
「へー!」
「朝御飯と晩御飯かな」
「だから実は、早朝ジョギングとか、夕方のジョギングとかが危険」
「そうだったのか」
「あと薄明性の動物は、満月の夜とかも活動するから注意して」
「わっ」
「だからツキノワグマってのは元々臆病な生き物だから、鈴とかラジオとかで人間が近づいてくることを報せれば向こうから逃げてくれる」
「なるほどー」
「でもヒグマは違う。元々肉食性が強いし、わりと大きな動物でも狙う。だから人間はヒグマにとっては“美味しい餌”になり得る」
「怖いなあ」
「ヒグマはグルメな傾向があって“好み”を覚える。いったん食べて美味しいと思ったものはまた狙う。だから人間を食べたことのあるヒクマは、確実にまた人間を狙うから、人を食ったヒグマは必ず仕留めておかないと、被害が広がるんだよ」
「マジ怖いですね」
「室長、みんなに三毛別(さんけべつ)羆事件のことを教えてあげてください」
と青葉が言った。
「うん。あれは悲惨な事件だったんだよ」
と言って、砂原室長は事件の概要を語り始めたが、女子アナウンサーの中には青ざめる者もいた。
大正4年、北海道苫前(とままえ)の三毛別(さんけべつ)の集落で起きた、羆による村襲撃事件で、度重なる襲撃により7人が羆に殺され、多数の負傷者を出した。警察だけではなく陸軍部隊まで出動したものの、最後はベテランのマタギにより仕留められた。記録に残る中で最大のヒグマ食害事件である。
その詳細はあまりにも悲惨であり、ここには書かないので、勇気のある人はネットで検索してもらいたい。
「アメリカとかでは、ヒグマ(グリズリー)に襲われた時の用心に森に入る時、マグナム銃を携帯する人もあるらしいけど、普通の.44マグナム程度ではヒグマは倒せないから」
「マグナムで倒せないなら、どういうので倒すんです?」
「熊撃ち専用の巨大な弾丸があるんだよ。専用の銃も」
「へー」
「だからマグナムは気休めにすぎない。襲われた時に最後の1発を残して全弾撃って、それでクマが倒れるか逃げるかしてくれたら幸い」
「最後の1発はどうするんですか?」
「それはもうクマに食べられるのは必至と思われた時に、生きながら食べられる恐怖を味あわなくて済むように、自分の頭に撃ち込む」
「きゃー!」
「あとクマの習性として、犬などと似て、食べ物を保存する傾向がある。それに執着心が強くて、一度食べ物を得られた場所にはまた来るし、一度自分が獲得したものは、自分のものであるという強い認識を持つ。それを奪われたりすると、物凄く怒るし、執拗にそれを取り戻そうとする」
「それで福岡大学ワンゲル部事件になるんですよね」
と青葉が言った。
「そうなんだよ。あの事件ではヒグマに一度取られた荷物を、愚かにも取り返してしまった。それでヒグマに再度襲撃され3人が死亡することになった」
「ああ」
「以前カナダで森の中でクマに遭遇した人が、食べ物などを落としながら逃げて何とか人がたくさんいる駐車場まで逃げ切った映像が公開されたことがある。その人は食べ物を少しずつ落としていき、最後はリュックを落とした。クマが落ちた食べ物を食べたり、最後はリュックをあさっている内に逃げ切った」
「三枚のお札だ」
「あれは元々はクマに遭遇した話だと思う」
と砂原室長は言う。
「でもそれで落としたリュックとかが落ちているのを見ても絶対に回収してはいけない。それはもうクマにあげたものだと思わなければならない。万一回収したりしたら、クマはそれを取り戻しにくるから」
「リュックより命の方が大事だということを認識する必要がありますね」
「クマってジャイアンみたいかも」
と森本メイが言う。
「そうそう。俺の物は俺の物、お前の物も俺の物。あと、クマは火を恐れないから焚き火とかしてても、熊よけにはならない。三毛別事件でも、ヒグマは火を焚いている民家に平気で侵入している」
「ほんとにやっかいな動物ですね」
「ほんとに怖い猛獣なんだよ」
「でもツキノワグマはもっと温和なんですよね」
「そうそう。だから、ツキノワグマの場合は、相手を刺激しないことが大切。向こうはあまり人間を食う気は無いから」
「でもおとなしいからといって油断は禁物」
「そうなんだよ。クマの中では最もおとなしいと考えられるジャイアントパンダだって、外国で、女性アナウンサーがジャイアントパンダの檻の中に入ってレポートしてて、足の指を食いちぎられたことがあるから」
「檻の中でレポートってのは、さすがに舐めすぎてますよ」
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春金(7)