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■春金(3)

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少し時間を置いて1時間目の授業が始まる。英語の時間で、桜田先生の担当である。女子大を出たばかり22歳の先生だ。冒頭出欠が取られるが、休んでいる子は例によって誰かが代返し、恵真は普通に返事し、全員出席とされる。空いている机が2つあるのに!もっとも桜田先生の場合は代返に気付いたもののスルーした感じはあった。担任の場合はそもそも代返に気付いてない感じだった!
 
休んでいるのは、1人は学校恐怖症のようなものになって、6月授業開始後数回出て来ただけでその後休んでいる女の子(たまに保健室登校してる)、もうひとりは不良っぽい男の子である。そちらはきっと学校をサボッて町にでも出ているのかも。
 
それで恵真は授業を受けた。授業中に先生からの質問があり、恵真は「浜梨さん」と指名されたので「はい」と言って立ち上がる。
 
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先生は今恵真の服装に気付いたようでギョっとする。
 
「浜梨さんだっけ?」
「そうです」
「その制服を着てるの?」
「いけませんか?」
「それも制服だから、校則違反ではないと思う。私、あなたはその傾向かなという気もしていたよ。何か困ったことあったら相談してね、応援してあげるから」
と先生が言ったので、恵真はじわっとした。
 
「だけど声が女の子の声だね」
「練習しました。1ヶ月くらいの練習でやっとこの声が出るようになったんです」
「へー。練習で出るもんなんだ。でも元々浜梨さんってハイトーンだったし、喉仏も無かったもんね。女の子の声が出やすかったのかもね」
 
と先生が言う。恵真はこれまでも極力自分の喉仏が目立たないように気をつけていたので、実は喉仏があることを知っていたのは、一希など少数の子に留まる。
 
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「それでこの質問の答えは?」
「それは第4文型 SVOO です。I gave my mother a pack of sausages で、my motherと a pack of sausages は=(イコール)で結べないので、この場合は SVOO になります」
 
「そうだね。my mother が a pack of sausages とイコールだったらホラーだね」
と先生が言うと教室は爆笑になった。
 
ひとりの子が質問する。
 
「もしお母さんがいつもみんなにソーセージをくれるので、ソーセージパックというあだ名があったりしたらどうなるでしょうか?」
 
「あり得ないことではないね。その場合は・・・広中さん?」
 
指名された汐里はよそ見をしていて先生の話を聞いてなかった。隣の子から教えてもらう。それで答える。
 
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「その場合 They call my mother a pack of sausages ですか?」
「そうそう、呼ばれているだから call を使うね。callはこういう第5文型SVOC になることが多い。callで第4文型になる例を何か知ってる」
 
「えっと・・・・ I call him a taxi とか」
「そうそう。私が彼にタクシーを呼んであげる。するとhim と taxi はイコールではないから、これはSVOO の第4文型」
 
しかし先生は付け加えた。
「もっとも彼のあだ名がタクシーだったら、第5文型の可能性もあるけどね」
 
苦笑する声が教室のあちこちからある。
 
「それって、女の子に呼ばれたらすぐ車で来てくれて、あちこち運んでくれる男の子のことですか?」
と質問がある。
 
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「うんうん。そういう男の子っているよね。昔はアッシーなんて言われたらしいけど、さすがにこの言葉は死語かな」
と先生は楽しそうに言った。
 

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「つまらないことで呼び出して御免ね」
「ううん。まこちゃんは大事な時だもん。妊娠しているとアビガンとか使えないしさ。いつでも呼んでね。絶対罹らないようにしなくちゃ。ボクが行けなかったら、誰か行かせるから自分で運転したり、公共交通機関使ったりは、しないでね」
「うん」
 
それでフェイはヒロシの運転するスバル・レヴォーグの後部座席にのんびりと座り、レコード会社まで運んでもらった。
 
フェイの運転は、マリなどと同じで、運転している内に心あらぬ状態になり、気付いたらどこかにぶつけてたなどということがあるので、ヒロシはフェイにできるだけ運転させないようにしている。運転する場合は、免許持ってない子でもいいから助手席に乗ってもらって、心がどこかの世界に行ってしまわないよう、おしゃべりなどしてもらうようにしている。
 
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レコード会社の前に付ける。
 
「じゃ帰りはまた呼んでね」
「うん。ありがとう」
 
それでヒロシは制作作業をしているスタジオに戻った。
 

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恵真は2時間目の後の休み時間、一希から
「一緒にトイレに行こうよ」
と誘われた。それで恵真は一希と一緒にトイレに行く。
 
女子トイレはソーシャルディスタンスを取るため、廊下までずらっと列ができているので、その列の最後尾に並ぶ。前に並んでいた5組の由希代から訊かれる。
 
「あれ?転校生」
「違うよ。えまちゃんだよ」
「ん?」
と言って由希代はじーっと恵真の顔を見た。
 
「あ、ほんとにえまちゃんだ。どうしたの?」
「女の子になったんだよ」
「へー。えまちゃんなら、性転換してもあまり驚かないなあ。よろしく」
「こちらこそ、よろしくー」
 
ということで済んでしまった!
 

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トイレのドアは自動ドア(に3-5月の休校期間に改造されていた)なので、手を触れずに中に入ることができる。学校で女子トイレに入るのは初めてである。ドキドキ。
 
緊張する。
 
でも一希や由希代ちゃんとおしゃべりしているので気が紛れる。
 
やがて空いた個室に入り、トイレットペーパーで掴んでロックを掛ける。更にトイレットペーパーを取り、便座除菌クリーナーを噴霧する。それでドアロックを拭き、便座を拭く。スカートをめくり、パンティを下げて、おしっこする。もう半月ほど女の子式におしっこをしているので、だいぶ慣れたものの、女の子のおしっこって、何の障害も無しに、ストレートに下に落ちていく感じだよなあ、と恵真は思っていた。最初の一週間くらいはよけい大変な気もしたのだが、きっと慣れの問題だろう。
 
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終わってからあの付近を拭く。立ち上がってパンティをあげる。この時、股間成型する前は、股間に付いている余分なものの処理が結構面倒だったのだが、女の子のお股の形にしてもらってからは、とっても楽でいい。女の子っていいなあ、と恵真は思った。
 
手を洗ってからトイレの外に出る。一希が出てくるのを待って一緒に教室に戻った。
 

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お昼休み。お弁当を食べてから、恵真は、一希・汐里・真結・望海、それにクラス委員の裕佳と一緒に話した(お弁当を食べながらの会話は感染防止の観点から今年は禁止されている。会話する時はマスクが必須)。
 
「一希ちゃんから聞いた時はびっくりしたけど、えまちゃんなら、いいんじゃないかなと思ったよ」
と裕佳は言う。
 
「だいたい以前から、しばしばブラジャー着けてたし、ワイシャツじゃなくてブラウス着てる日もよくあったよね」
と真結。
 
そんなにブラジャーつけてたっけ??ブラウスも夏休み直前の1週間だけだったつもりなのだが。
 
「小学生の頃は、スカート穿いて登校してくる日もあったよ」
「なんだ。昔からそういう感じだったんだ?」
「スカートでなくても、たいてい女の子用のズボン穿いてたね」
「そのスカート穿いて学校行ったのは覚えてないけど、女の子ズボンを穿いてたのは自分でも覚えてる。お姉ちゃんがくれるからそれでもいいよねと思って穿いて行ってた」
 
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「女子用ズボンで、トイレに困らなかった?前開きのあるタイプ?」
と望海が尋ねる。
 
「そういう日は個室を使ってたよ。ちなみに女子用ズボンは、前開きがあっても、そこからアレを出すことはできない。女子用ズボンのファスナーは着脱のためだけにあるから、短くて、アレのある位置までは下がらないから」
 
「へー。そうなんだ?」
と裕佳が感心するように言うが
 
「そもそも、そこから出すものが付いてないのではと噂されていけどね」
と一希が言う。
 
「それこの学校でも男子たちが噂してたよ」
と望海も言う。
 
「で、望海ちゃんは付いているのではという噂が」
「えへへ。男子トイレこっそり使ってるの何度か見られた」
「使えるのが凄い」
 
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「でも先生たちからも何も言われなかったからホッとした。何か言ったのは桜田先生だけで、それも、校則違反にはならないから、いいよと言われたし」
と恵真は言う。
 
「まあ根本的に、生徒の顔を全く覚えてない先生が多い」
「やる気の無い先生が多いもんねー、うちの学校」
「ここは生徒も誰でも入れるけど、教師も誰でもなれる」
「漢和辞典の引けない国語の先生とか、連立方程式を解けない数学の先生とか」
「欠勤があまりにも多すぎる先生とか、出勤してきても全部自習にしちゃう先生とか」
「仕方ないから出来のいい子が教師代わりになって授業進めてるもんね」
 
「いや、授業するのは自分が物凄く勉強になる」
と裕佳が言うが、彼女は、特に古典、地理、化学などの“担当”だ。
 
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「桜田先生は稀に見る良い先生」
「英語の先生の中で発音がきれいなの、桜田先生だけだもんね」
「なんでこんな高校に来たんだろう?」
「最初受けた高校、内定してたのに、コネ採用の人に割り込まれて落とされたらしいよ。木下先生が言ってた」
「それは気の毒な」
 
「校則については、私も確認したけど、学校行事とか、対外試合などでは制服あるいは体操服や各部で定めたユニフォームを着用すること、とは書いてあるけど、男子は男子制服、女子は女子制服を着なければならないという規則はどこにも無い」
 
と裕佳。
 
「まあ普通そんなことまで明記しない」
 
「でもそもそも制服については、ゆるいと思うよ」
と望海は言う。
 
「ボクなんか、こうやって、女子制服の上に、下はズボン穿いてるけど、何も言われない」
と望海が言うと
「望海ちゃんのは、校則に表示された形ではないから、違反の可能性がある」
と裕佳。
 
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「いっそ上も男子制服着たら?」
「それ悩むなあ」
「堂々と男子トイレ使えるよ」
 
「私が着てた男子制服があげられたらいいんだけど」
と恵真が言うが
「サイズ的にどう考えても無理」
と真結に言われた。
 
恵真は身長162cmでウェストは60cm 体重41kg だが、望海は身長170cm, ウェストは76cm 体重65kg てある。どう考えても“幾何学的に”入らない。
 

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「だいたい、うちの学校、ほとんど生活指導とか無いもんね〜」
「それは言えてる。頭髪検査とかも無いし」
「タバコとお酒だけは厳しいけどね。見つかれば一発退学だし」
 
「でも真結ちゃん、パーマはやめた方がいいと思うよ。髪痛めるもん」
 
「男女交際についてもゆるいよね。校内でベタベタしてるカップルいるし」
「かなり濃厚なことしてる子たちもいる」
「校内に避妊具の自販機があるのって、うちの学校くらいじゃない?」
「いやいいことだと思う。やるなら生でやっちゃダメ」
 
という会話が実は恵真は理解できてない。
 
「妊娠しても何も言われないし」
「いや、**ちゃんは、保険の先生から病院行けと言われたらしい」
「それもいいことだ」
「女先生たちでカンパしてくれたらしいよ」
「優しいね」
「6月の**ちゃんはみんなカンパしたね」
 
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その時は女子生徒だけでカンパしたのだが、恵真も一希たちとおしゃべりしている時に回ってきたので500円カンパしている。でも何のカンパかは知らなかった。
 
「3年の**さんは、出産して、子連れで登校してきてるね」
「うん。授業中はお母さんが見てくれてて、休み時間に授乳してるらしい」
「産んだの凄いなあ」
「でもきちんと結婚したしね」
「産むなら結婚しなさいと教頭から言われたらしいよ」
「それはいいことを言う」
「教頭先生は割といい人」
「うん。いい人だと思う」
 
「でも昔は女の子は13歳くらいで結婚していたというし、今の時代は異様に遅いのかも知れないよ」
 
恵真は、もしかしてここ凄くいい高校なのではという気がしてきた。
 
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「でも、えまちゃんは元々女子ではないかという説もあるけどね」
と真結が言うと
 
「確かに女子であることを確認したよ」
と一希と汐里は言う。
 
「お風呂も一緒に入ったからね」
「女湯に入れるんだ!」
 
「お股には何も付いてなかったし、おっぱいも確かにあったから、女の子であることは間違い無い」
 
「やはり性転換手術しちゃったんだ?」
「うーん。。。。それは何と言うか」
 
「高校進学前に性転換したんだったりして」
「ありそー」
 
「今日は既に2回連れ込んでるけど、この子に女子トイレ使わせるのは問題ないよね?」
と一希が言うと
「それは問題無い」
とみんな言う。
 
「この子、女子更衣室で着替えさせてもいいよね?」
と一希が言うと、恵真とお風呂にも行った汐里を除く3人が顔を見合わせている。
 
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「それは審査させて欲しい」
と裕佳は言った。
 

さて、L中学では、美鶴は委員長の愛花莉を含むクラスの女子たちと一緒にお昼休み、ぞろぞろと女子更衣室に行った。
 
「脱いでみてくれる?」
「いいよ」
と言って、美鶴はブラウスを脱ぎ、スカートを脱いだ。
 
「確かに女の子だね!」
「下着も脱いだ方がいい?」
 
女子たちが顔を見合わせていたが、委員長の愛花莉が
「これで充分だと思う」
と言った。
 
「だってもし付いてたらパンティに盛り上がりができると思うもん」
と愛花莉は言ったのだが、美鶴は
 
「疑惑を残さないように脱ぐよ」
と言ってショーツを脱いでしまう(ブラは着けたまま)。
 
股間には何もぶらぶらするようなものは無い。
 
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「ちんちん無いね」
「やはり手術して切っちゃったんだ?」
 
「毛が短い」
「一度剃られた後、まだ伸びてないから」
「ああ、手術の時は剃られるよね」
 
その短い毛の中に、縦の筋が見える。
 
「ちゃんと割れ目ちゃんまであるんだね」
「間違い無く女の子だね」
「これならお嫁さんに行けるね」
 
「ごめんね。パンティまで脱いでもらって」
「うん、いいよ」
 
これで美鶴は“審査合格”となり、女子更衣室を使えることになった。
 

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