広告:放浪息子(10)-ビームコミックス-志村貴子
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■春金(8)

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西湖の学校では、毎年春に全校生徒の胸部X線間接撮影と心電図検査が行われていたのだが、今年はそもそも4-5月は休校していたし、感染対策についても不明な点が多かったことから延期していた。
 
それで9月に入ってすぐにこれらの検査が行われた。
 
西湖(実際には西湖F:聖子)は、普通に他の女子生徒と一緒に保健室に行き、列に並んで心電図検査をし、レントゲン車の中でX線撮影をした。
 
その様子を保健の先生は腕を組んで眺めていた。
 
建前としては、西湖は実は男の子でバストなどは無いので、ふだんブレストフォームを貼り付けて胸があるように偽装していると学校側には言っている(そのことを他の生徒は知らない)。
 
しかしブレストフォームをつけていたら、心電図の信号は取れないはずである。実際、胸がとっても小さいのでブレストフォームで偽装している瀬梨香の場合はいつも心電図を取る時はそれを外している。しかし西湖はそのまま心電図検査を受けている。
 
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それで保健室の先生は、西湖はブレストフォームで偽装しているという建前で実は女性ホルモンの服用で胸を大きくしているのでは?と疑っているのである。
 

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恵真の高校では取り敢えず9月第1週(9/1-4)も体育の授業は休止されていたので恵真が女子更衣室を使う機会は無かったが、9月3日、西湖の高校と同様、延期されていた胸部X線間接撮影と心電図検査が行われた。
 
男女別に呼び出されて、授業の途中抜け出して検査に行く。保健委員の子が恵真の書類を女子の方に入れておいてくれたので、恵真は一希たちと一緒に女子の番で保健室に行った。
 
ついでに身体測定も行われたので、他の女子たちと一緒に保健室の中で制服を脱ぎ下着姿になる。他の子が自分を見ているのを意識したが、恵真は気にせず制服を脱いだ。そして恵真の下着姿を見て、他の子たちがホッとしているのを感じた。
 
なお、恵真は数日前から、姉に言われてナプキンを装着しているのだが、羽無しタイプだし、薄型なので。付けているのは目立たなかった。
 
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保健室の先生は恵真を見ると一瞬「あら?」という顔をしたが、恵真の下着姿が普通に女子にしか見えないのでスルーしたようである。
 
身長体重を保険の先生が計り、女子の保健委員が記録した。
 
「162.1」
「40.6kg」
 
なお、下着の分として0.1kgを引いて、40.5kgとして記録された。
 
(ブラジャーはだいたい50-60g, ショーツは20-30g程度である)
 
続いて心電図検査に行く。室内に心電図の測定器が持ち込まれており、上半身裸になってベッドに寝て電極を付けられる。
 
ひとりの子が検査を受けている間に次の子が脱ぐのだが、恵真は敢えて後を向いて服を脱いだので、前の子の裸は見ていない。これは前に並んでいる子に予め約束しておいたことである。
 
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でも恵真が上半身脱いだ所は次の子にしっかり見られた!
 
次の子は「へー」という顔をしていた。
 
それで恵真は胸付近に多数の電極を付けられて心電図検査を受けた。
 

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心電図検査を受けた後は、上半身裸のまま、保健室のすぐそばに駐めてあるレントゲン車に移り、そこでX線検査を受けた。
 
「妊娠中または妊娠している可能性がある場合は、そこの黄色い札を掲げてください」
 
と言われたが、妊娠した覚えはないので、そのまま検査室に入り、撮影をされた。検査室の手前にある更衣室では前の子が服を着ていたので、それを見ないように視線をそらしたのだが、
 
「えまちゃん、見てもいいよ。見ずに歩いたらぶつかるよ」
と彼女から言われたので、普通に前を見て検査室に進んだ。
 
検査が終わった後、次の子からも同様のことを言われた。
 
しかしともかくもこれで恵真は、身体検査等を他の女子と一緒に受けるのはOKと女子のクラスメイトたちからは認定されたようであった。
 
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ところで、恵真は数日前からお腹(下腹部)が痛い感じがして、何だろうと思っていた。
 
その日、帰宅してからいつものように夕飯(今日は鶏の唐揚げ)を作り、やがて帰ってきた母や姉たちと一緒に食べていたのだが、その食べている最中に急に変な感じがして、トイレに飛び込んだ。
 
それでパンティを下げてみると、装着していたナプキンが真っ赤になっているので「これ何?」と狼狽した。
 
戸惑って、どこを怪我したんだろう?などと考えていたら、姉がトイレのドアをトントンとした。
 
「大丈夫?」
「お姉ちゃん、ボクどうしたんだろう?たくさん血が出てる」
 
姉は言った。
「生理が来たんじゃないの?」
 
「生理!?」
 
そういえば確かにこれは生理かも。どこか怪我して血が出てるとかいうのとは違うのである。お腹が痛いのは痛いのだが、怪我した痛さとは違う。
 
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「ボク生理になるんだっけ?」
 
「女の子なら普通に来て当然」
「え〜?」
 
「何日か前から、お腹痛いと言っていたのはPMSだったんだね」
「PMS?」
「生理前症候群(premenstrual syndrome)。生理の少し前から、お腹が痛くなったり頭痛がしたり、あるいはイライラしたりブルーな気分になったりするんだよ。女の子には避けようが無いもの」
 
「へー」
 
「ナプキン付けてた?」
「うん。お姉ちゃんに言われたから」
「処理の仕方分かる?」
「たぶん。あ、でも替えのナプキンが無いかも」
「トイレの棚にある、スリムガード、私のだから使っていいよ」
「分かった。借りる」
 
「まあ自分の好みのがあったらドラッグストアで買ってトイレにストックしておくといいね。あんたナプキン買うのは平気でしょ?」
 
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「お姉ちゃんのお使いでだいぶ買ったし」
 
恵真はこれまでしばしば姉に言われてナプキンを(姉の代わりに)買いに行っていたのである。
 
しかしともかくも恵真は経血をトイレットペーパーで拭き取り、血を吸ったナプキンは丸くして汚物入れに捨てた。そして棚(この家にはトイレの個室が2つあるが、この棚は両個室の間にあり、どちらからも取れる)からスリムガードを1個取るとショーツに貼り付けた。
 
これが恵真の初潮であった。
 
この日は、仮名Mさんと一緒に病院に性別検査に行った日から14日目だったのだが、そのことを恵真は意識していない。
 
しかし、恵真は、自分は女の子の形に外見だけ成型しているだけなのに、どうして生理が来ちゃうんだろう?と不思議に思った。
 
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「私たちって、なんか小さい頃に劇で女役をさせられているよね」
とその日千里は言った。
 
「黒歴史にしたいけどね」
と冬子も言った。
 
「私は、小学4年の時に、白雪姫をやった。本来白雪姫役だった子が本番直前に腹痛で病院に運び込まれちゃってさ。クラスでいちばん細い子だったから、誰もその衣装の入る子がいなくて」
と千里。
 
「その衣装が千里には入ったんだ?」
と冬子。
 
「冬も、バレエでフロリーナ姫とか代役で踊ってるし」
と千里。
 
「よくそういうの覚えてるね」
 
「いや、学芸会でも『白雪姫』の母親と、『眠り姫』のカラボスをやってる」
と政子が言う。
 
「なんでそういうの、みんな覚えてるのさ」
 
「龍虎の方がもっと女役してる」
と川崎ゆりこが言う。
 
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「白鳥の湖の32回転はテレビでも披露してたね」
「うん。凄かった。バレエやめてからだいぶ経つのにちゃんと踊れる所が凄い」
 
「あれは本来オデット・オディールを踊ることになってた子が、本番までに32回転をマスターできなかったんで、やむを得ず龍虎が踊ったんだよ」
 
「やはり代役だったのか」
「しかしそれで32回転できるのが凄い」
 
「それ以前に、くるみ割り人形の金平糖も踊ってるし」
「女役ばかりじゃん」
 
「龍虎は学校の学習発表会でも、自分から進んでサウンド・オブ・ミュージックのマリア役に立候補したことがある」
 
「やはり、元々女役をしたかったんだ?」
「本人によると主役に立候補したら、主役が女だったと」
「苦しい言い訳するなあ。女役が好きなんですと言えばいいのに」
 
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「次の年は『十二月(じゅうにつき)』のアーニャを演じてるし」
「間違い無く女性志向だな」
 

恵真は小学生の時の“シンデレラ事件”のことを思い出していた。
 
その年、恵真たちのクラスは学習発表会でシンデレラを上演することになっていて、シンデレラ役は、T子ちゃんという“女王様”型の女子が演じる予定だった。彼女は常に自分がトップでないと気が済まないたちで、実際に頭も良く、勉強の成績もトップだった。
 
ただ、意地悪だし、他人に容赦無い性格だった。しかし彼女がシンデレラをしたいと言うので
 
「本当は母親役の方が似合うけど」
などとみんな陰口をたたきながらも、彼女を主役に練習を進めていた。
 
ところが・・・
 
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彼女は本番の2日前に階段から落ちて、足の骨を折る大怪我をしてしまったのである。取り敢えず劇に出るのは無理である。
 
しかし病院の先生が止めるのを強引に車椅子で出て来た彼女は言った。
 
「私以外の女子に私の衣装着せてシンデレラやらせたら、その子、ただじゃ済まないからね」
 
クラスメイトたちは困った。その時、一希が言った。
 

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「えまちゃんに、シンデレラをやらせたらどう?女子でないならいいよね?」
T子はその提案に驚いたが言った。
 
「まあ男子ならいいか。私の衣装が入るもんならね」
 
それで実際にシンデレラの衣装を着せてみると、恵真はきれいにそれが着られた。
 
「信じられない!私より細い男子がいるなんて」
「本当に男子なのかは、やや疑惑があるけどね」
「でもいいよ。私の衣装が入ったから、浜梨君がやって」
「まあ他の男子では絶対にその衣装、入らなかったな」
 
それで恵真がシンデレラを演じることになったのである。
 
「だいたいスカート穿いて歩いて転ばないのが凄い」
「え?転ぶものなの?」
「いや、気にしないで」
 
恵真はこの劇に実はシンデレラの姉役で出ることになっていた。シンデレラの母及び2人の姉役は全員男子だった。女子たちがやりたがらなかったからである。
 
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やりたがらなかったのは、1つには悪役だからというのと、1つにはT子をいじめる役なんて、恐ろしくてできない!という本音があった。
 
姉役だったので、シンデレラのセリフをかなり覚えていたこともあり、一晩で全部セリフを頭の中に叩き込むことができた。
 
そして翌日、美事にシンデレラ役をやり遂げたのだが、観客からは「可愛い!」という声があがっていたし、誰もシンデレラを男の子が演じているとは思いもよらなかったようであった。
 
なおT子ちゃんはその年の暮れにお父さんの仕事(大きな会社の支店長さん)の都合で転校して行き、恵真たちのクラスは彼女の“支配”から開放されて、その後は和気藹々としたクラスに変わった。
 
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でも翌年、恵真は今度は白雪姫をやらされた!
 
「なんでボクが白雪姫なの?女子の誰かがすればいいじゃん」
 
「去年のシンデレラがあまりにも可愛かったから、また、えまちゃんのドレス姿を見たいということで女子一同の意見がまとまった」
 
実態は有力候補2人のどちらにするか調整が付かず、2人とも降りて、恵真に白雪姫役が回ってきたというのが裏事情だったことを一希から後に聞いた。
 
その2人は、どちらも男装して小人のリーダー役と王子様役をした(このふたりは張りあっていた訳ではなく、むしろお互いに譲り合っていた)。
 
例によって恵真の白雪姫役は、観客の誰もそれを演じているのが男の子だなんて夢にも思わなかったようであった。
 
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なお昔風の白雪姫のシナリオだったので、母親(演じたのは一希)と戦って倒したりはしない。隣の国の王子様と結婚して幸せになりました、で終わっていた。
 

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その日香沙が学校に出て行くと、クラスメイトの女子・遠藤さんに呼ばれた。
 
「浜梨君、ちょっと」
「なあに?」
「浜梨君、英語の発音わりときれいだよね」
「お母ちゃんが時々、今夜は全部英語!とかいって、英語で会話したりしてるおかげなんだけどね」
 
「いい環境だね!」
 
実は恵真がわりと英語は得意なのも、母が昔からやっているこの英語教育のおかげである。
 
「それでさあ、英語部が文化祭でやる英語劇にゲスト出演してくれない?頭数が足りなくて」
 
「いいけど、何やるの?」
「悪役なんだけどいい?」
「そのくらい問題無い」
「Sleeping Beauty(眠り姫)やるんだけど、姫を眠らせてしまう悪い魔法使いでカラボスという役なの」
 
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「へー、まあいいよ」
 
香沙は“魔法使い”と聞いたので、それが女役だとは、夢にも思わなかった!
 
 
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