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■春金(19)

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2020年10月2日、日本水連は、第62回日本選手権(25m)水泳競技大会(10.17-18)および第3回日本社会人選手権水泳競技大会(11.6-8)を無観客試合で実施することを発表した。
 
この日、青葉は桃香・早月・由美と一緒に北陸新幹線で大宮に出た。青葉はラピスラズリと一緒に『作曲家アルバム』の取材をするのだが、桃香たちは、実は高岡から浦和のマンションに移動するのである。桃香は3月に青葉の卒業式に参列しようと高岡に移動したまま、コロナで移動の自粛が呼びかけられているのもあり、ずっと高岡に居座っていた。
 
高岡の高園家の家計は、青葉の収入と千里の仕送りで支えられている。子供たちは朋子が見ていられるので、桃香は朋子からしばしば
「あんた、パートとか出ないの?」
と言われていたので、それから逃げだそうというので、埼玉に移動することにしたのである。
 
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おりしも政府がGOTOキャンペーンを始めたので、それを利用して旅行代金を割り引いてもらい、地域共通クーポンもゲットしようと桃香は考えた。
 
「それって旅行する人向けでしょ?あんた、片道だけじゃん。旅館にも泊まらないし」
「宿泊券と帰りの切符は売り飛ばす」
「不正行為だと思う」
 
ともかくもそれで桃香が埼玉に移動することになったのだが、桃香は衛生観念がわりといい加減である。桃香はいいとして早月と由美が心配だと朋子から心配され青葉が付き添って一緒に新幹線に乗ることにしたのである。
 
なお、青葉・桃香・早月・由美は全員、治験中(ということを桃香は知らない)のワクチンを接種しているので、感染の心配は比較的小さい。
 
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それで大宮駅まで出て、彪志にセレナで迎えにきてもらったので、一緒に浦和のマンションに入った。週末、このマンションは次のように使用されることになる。
 
Room.1 千里・京平
Room.2 青葉と彪志
Room.3 桃香・早月・由美
 
早月と由美は京平と6月以来3ヶ月ぶりの再会である。早月が
「お兄ちゃーん」
と言って、なついていたが、京平も久しぶりの妹たちとの再会に嬉しそうだった。桃香は、京平を半年ぶりに見て、彼が結構男っぽくなっているので驚いていたが、ずっと彪志と一緒に暮らしているからだろう。(6月にディズニーランドで京平に会ったのは、季里子と一緒に住んでいるほうの桃香である)
 
青葉は10月3日には八住純先生、4日には蔵田孝治先生の取材をした。そして4日夕方の新幹線で高岡に戻った。ちなみに青葉は『旅行ではなくビジネスだから』と言って、GOTOは使用していない。桃香は「もったいない」と言っていたが。
 
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青葉が帰った後は、部屋割はこのようになった。
 
Room.1 千里・京平
Room.2 彪志
Room.3 桃香・早月・由美
 
京平は千里がいない日は彪志と寝る。御飯は千里がいれば千里が作るが、いない日は《てんちゃん》か《すーちゃん》が作って、京平が「お母ちゃんが作っておいてくれた」と言って出していた。桃香にはとても料理などさせられない。桃香には
 
「感染の危険があるから買物には行かなくて良い」
 
と言ってある。桃香に買物など任せたら食費が1日1万円かかることになりかねない!欲しいものはメモに書いてもらい、《てんちゃん》か《すーちゃん》が週2回の買い出し日に買ってくれる。
 

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青葉の東京出張中は“巨大熊110番”への対応は、千里が代行してくれた。10月2日、青葉と入れ替わるように高岡に来てくれた。
 
(この週末、千里3は川崎で試合があるので高岡に来たのは2番である)
 
千里は金曜日の夕方から日曜の夜まで、ずっと高園家に滞在して作曲作業をしていたので明恵・真珠の2人も高園家にこの間ずっと滞在し、スマホに通報がある度に千里に対応してもらった。
 
だだ昼間1時間ほどジョギングに出たので、明恵と真珠は自転車で伴走した。
 
「一緒に走らない?」
「千里さん、ハイペースだからとても付いていけません」
 
この土日に通報があったのは全てツキノワグマで、1件“遭遇中”!のものもあったが、千里の誘導で、クマと距離を置くことが出来て無事だった。
 
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取り敢えずこれまでの所“巨大熊110番”への通報があった案件では人的被害は出ていない。
 
ジョギングに出たり、お風呂に入ったりしている間以外は、千里はずっと桃香の部屋で譜面を書いていたが、千里が書いている『少女と子ギツネのロンド』という曲の譜面を見て真珠が言った。
 
「何か可愛い作品ですね」
 
「うん。新人アイドル歌手に提供する曲なのよ」
「へー。フルートが入るんですか」
 
譜面を見るとボーカルとフルートが絡み合うように曲は進行している。
 
「うん。フルートの吹き語りで歌ってもらう」
「無茶な気がします」
 

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10月6日、日本水連は、春に実施する予定であったものの延期になっていた日本選手権を「2020年12月3日から6日までの4日間、東京アクアティクスセンターでの開催を目指す」と発表した。
 
アクアティクスセンターは辰巳水泳場のすぐそばに作られたプールで、東京五輪の会場として予定されている。
 

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“巨大熊110番”は10月中旬に、とんでもない“熊”を捕まえることになる。
 
お昼頃、年配の男性から通報があった。電話を受けたのは幸花である。青葉は偶然ニュースを読み終わったところだったので対応してもらう。青葉は電話を代わった瞬間、溜息をついた。
 
「それ熊じゃないです」
「え?猪か何かですか?」
 
実は大きな猪は熊と誤認される場合がわりとある。
 
「人間ですよ。着ぐるみを着て横たわっています」
「え〜〜〜!?」
 
通報者と“巨大熊”の距離は50-60mあったので、通報者にも分からなかったのだろうが、男性が近づいてみると、本当にそれは着ぐるみである。もっともとても精巧に出来ていて、ちょっと見には、近くでもかなり本物の熊に見える。
 
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「あんた、何してんの?」
「すみません。****の撮影です」
と“熊”が言う。
 
どうも写真投稿サイトに上げるのが目的で撮影していたようで、撮影係の人もバツが悪そうな顔をして出て来た。
 
「あんたたち、こんな格好で山道におったら、本物と間違われて射殺されても知らんよ」
 
通報者の男性は退職した学校の元校長で、電話の向こうの青葉とも話し合い、警察に通報させてもらうことにした。
 
「警察が来るまでここに居なさい」
と、元校長ならではの威厳で命じると、撮影をしていた2人も
「すみません」
と言って、おとなしくしていた。
 
それで2人は駆け付けた警官に道路不法占用の疑いで事情聴取され、厳重注意の上で解放された。
 
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この件は、〒〒テレビの夕方のニュース番組(森本メイが読んだ)でも放送され、石川県中の笑いものとなることになる。富山や福井でも翌日報道された。
 
彼らは金沢市内の大学生で、北陸のあちこちで写真撮影をしては、写真投稿サイトにアップしており、けっこうな“ファン”もいたと警察に話したらしいが、たっぷり叱られた。また警官からも、本物と間違われて射殺されちゃうよと、さんざん脅されてので、二度としませんと誓ったという。
 
ニュースでは匿名で報道したし、彼らも報道される前に警察署内から、そのアカウントを削除したので、彼らの名前はネットでもあまり広まることはなかった。
 
しかし先日からの“巨大熊”騒動は、こいつらのせいだったのかということで、事件はこれで解決したと多くの人が思ったのである。
 
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「霊界ではなくて電網界の事件だったね」
「どちらも目に見えない所にあるのは似てる」
 
「巨大熊110番はどうする?」
「念のためもう少し続けましょうか?」
 
実際当初は2日に1回くらいだった通報が、最近毎日あるようになっていた。1日に2件あった日もある。どうもクマたちが冬ごもり前に活動を活発化させている感じである。県がまとめたクマの出没件数もどんどん増えており、報道各社は頻繁に、クマに遭遇しないようにする心掛けや、万一出会った場合の対処についても報道していた。
 
柿の木などに実がなっていると、それを取りにクマが来るというので、全部取ってしまった人や、そもそも柿の木自体を切った人などもあったようである。
 
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「しかしこれでは霊界探訪のネタにならない」
と幸花は嘆くように言った。
 
「まあそういうこともあるさ。仕方ないよ」
と神谷内さんは言うが、ここまで結構な予算を掛けているので頭が痛いだろう。
 

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恵真は10月3日(土)に12回目のセッションをし、この日は3曲目の歌で琴沢幸穂作詞作曲の『少女と子ギツネのロンド』という曲を渡された。そして
 
「この曲は必ず使う」
と言われた。つまり、もう1曲が『風の中のココ』か『君に会いに来た』のどちらかになるということだ。
 
しかし今回の曲は作曲者名が知っている名前だったので驚く。かなりヒット曲のある作曲家さんだ。こんな有名な人の作品を頂けるなんてとも思うが、有名作曲家だから、必ず使うのだろう。
 
ボーカルとフルートが絡み合うようにできている歌だ。パート1のボーカルが少女、パート2のフルートが子ギツネを表している。女の子キツネだな、と恵真は思った。でもこれはボーカル2人のデュエットでも歌えそうだ。
 
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これも声域は最高音E♭6まで使用している。フルートの方はF6まで行っている。ボーカル2人で歌う場合は、このF6の音が出せる人がパート2を歌う必要がある。
 
「この曲はフルートの吹き語りで歌ってもらうから」
「それ無理ですけど」
「録音する時は、別録りで勘弁してあげる」
「実演奏も別でお願いします」
「じゃデビューまでに分身の術をマスターしておいてね」
 

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歌とフルートの練習をした後で、先週パスしていた水着撮影をした。行ったのは深川アリーナである。
 
「ここはメインプールとサブプールがあって、夏の間は両方開けていて、春秋は8レーンのメインプールだけ営業し、冬は4レーンのサブプールだけを営業する」
 
「なるほどー。需要に合わせているんですね」
 
それで恵真たちは現在閉鎖しているサブプールで撮影させてもらったのである。2種類の水着で1時間ほどの撮影であった。ここも津幡のアクアゾーン同様、各レーンがアクリル板で区切られていた。
 
「ところで性別はどうすることとになった?」
「変更しようというので、裁判所に申請書を提出しました。たぶん来週くらいに一度裁判官さんとの面談があると思います」
 
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「あんた可愛い男の娘として売り出そうと思ってたのになあ。女になってしまうなんて」
「すみません」
「性転換手術して男になった上で女装するつもりない?」
「意味が分かりません」
 

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実際、10月5日(月)に裁判所からは呼び出しがあり(恵真がAさんとのセッションをしていた間に呼出状が届いていた)、母と恵真は再度会社と学校を休み、裁判所を訪れた。裁判官からいくつかの点を訊かれたが、予め母と問答の練習をしておいたので、よどみなく答えられた。
 
「君、生理はあるんだっけ?」
と訊かれたので
「はい。既に2回来ました」
と恵真は答えた。
 
「最後に再確認しますけど、あなたは女性として生きて行きたいんですね?」
「はい。女の子として生きていきたいです」
「いったん女への訂正が認められた場合、二度と男には戻れませんけど、いいですか?」
「はい。男に戻るつもりはありません」
 
裁判官は頷いていた。それで問答は終わり、結果は1ヶ月程度で通知すると言われた。
 
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青葉たちは“お化け熊”という仮想敵?の件が空振りになってしまったので、代わりのネタとしてH高校のミステリーハンティング同好会の子たちが聞き込んできた“幽霊時計”というのを取材に行くことにした。
 
10月17-18日に、東京で短水路日本選手権が行われたので、青葉がそれから戻った後の、10月24日(土)に取材する。
 
金沢市近郊のL温泉というところの老舗旅館にある GrandFather's Clock の前で頻繁に幽霊が目撃されているという。それを見に行くことにしたのである。
 
ミステリーハンティング同好会の米山さん、明恵・真珠のコンビ、青葉と幸花、神谷内さんに、今回なかなか出番が無かった森下カメラマンに城山ドライバーという8人で、城山さんの運転するエスティマに乗りL温泉まで行く。
 
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この日、米山さんは女子制服を着ていた!
 
「その制服で通学してるの?」
「通学したいですー。今は放課後に着ているだけなんですよ。思い切って先生に打診してみたら、性同一性障害という診断書を出してくれと言われたので、クリニックに通ってみることにしました」
 
「女子としての通学が認められたらいいね」
「そういうことできるとは思ってもいなかったので期待しています」
「女性ホルモンは飲んでるんでしょ?」
「飲んでます。既に男性機能は消失しました」
「おお、それはおめでとう」
「ちんちん立たなくなったので凄く気持ちが楽になりました。立つ度に凄く辛い気持ちになっていたので」
「良かったね」
 
「下着はいつも女子下着?」
「男子制服着てても下着は女子下着ですよ」
「だよね」
 
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