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■春転(32)
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本選出場者の中で、上記の7名は東京に出てくる準備があるので、その日のうちに地元に帰した。
G650 16:00-20:00 熊谷→与那国(池田芽衣)
G450 16:10-17:30 熊谷→高松(四宮七菜)
____ 19:00-20:00 高松→福岡(森田浩絵)
Honda
Red 16:20-17:50 熊谷→函館(風谷リンゴ)
Honda
Blue 16:30-17:30 熊谷→富山(広中礼音)
Honda
Orange 16:40-17:40 熊谷→中部(成瀬久美)
鈴木春南ちゃん(東京)はお父さんの車で熊谷まで来ていたので、そのまま自家用車で帰って行った。
徳島県在住の四宮さんを徳島飛行場ではなく高松空港に運んだのは、彼女たちがお父さんの車で高松空港に来ていて、その車が高松空港にあったからである。
風谷リンゴが帰りの飛行機の“離陸順”を気にしていたので「遠くまで行く子を優先するから」と説明すると納得していた。取り敢えず、礼音より自分が先だったので満足したようである!
これ以外の子(本部メンバーには入らない子)は翌日以降の送り届けとなった。なお、今回12位以下の子は全員信濃町ガールズの地方メンバーに入ることになった(既に地方メンバーという子も3人いた)。地方メンバーは毎月無料でレッスンが受けられるだけでも美味しいし、タレントを目指す子たちとの交流も有意義である。更にライブのバックダンスをするというのも特に地方在住の子には、なかなか得られない体験だ。
5,7,8,9位の子は、他の事務所のオーディションを受けたいと言っていたのでホテル富士に移ってもらった。自力帰還になるので羽田からの航空券代だけ渡した。
川崎ゆりこは
「今年上位進出した男の娘は礼音ちゃんだけか。残念」
などと言っていたが、翌日7月19日に連絡があったのである。電話を受けたのはゆりこ自身であった。
電話して来たのは狛江市(東京都)に住む鈴木春南(はるな)ちゃんである。彼女は中学1年生である。
「すみません。頂いた書類の中に《女子寮入寮申込書》というのがあったんですが、私、都内在住なんですけど、入寮しないといけませんか?」
「はい。一応ご説明はしたと思うんですが、現在コロナが流行中なので、都内に住んでいる人でも寮に入ってもらって、できるだけ外部との接触が無いようにして、学校や仕事先との往復も専属の送迎チームでするようにしようという方針なんですよ。それで昨年も都内在住の豊科リエナちゃんに、やはり入寮してもらったんですけどね。それに寮に住んでいると研修に参加するのに便利ですし。学校は転校して頂くことになりますけど、新しい学校の制服代とか、引越費用とかもこちらで負担しますので」
と川崎ゆりこは説明する。
「ああ、なるほどですね。確か、女子寮の1階が研修所だったんでしたっけ?」
「そうなんですよ。まだうちの事務所にお金が無かった頃に、夜中でも思いっきり声を出して練習できる場所が欲しいというので作って、ついでにそこに泊まり込んでいたのが発端で、それで寮と研修所が一体になってるんですよ」
「分かりました。転校するのは構いません」
「じゃ、夏休み中にそのあたりの手続きをして、9月からは新しい中学に通ってもらうということで」
「それ私立になります?」
「一応中学生の場合は、デビュー予定の子以外は公立に通わせる方針です。それで仕事も基本的には、学校の授業が終わった後と、土日祝日だけですね」
「なるほどですね。分かりました」
「じゃ、春南ちゃんが信濃町ガールズに入ってくれるの楽しみにしてるね。君の部屋は女子寮2階に用意しておくから」
この時点でゆりこの頭の中にあったのは、こういうプランである。
広中礼音→男の子だから残念だけど男子寮の2F
風谷リンゴ→優勝者だから(女子寮)3F
池田芽衣・四宮七菜・鈴木春南・森田浩絵・成瀬久美→2F
2階には現在空きが4部屋しかないので、現在2階に住んでいる唯一の高校生・酒井青花(大仙イリヤ)に3階に移動してもらう。
しかし春南は言ったのである。
「あ、その件なんですけど、私、男子なんですけど、女子寮に入っていいんですか?」
ゆりこは一瞬、彼女が言ったことばが理解できなかった。たっぷり5秒沈黙する。その間にオーディションでの彼女の服装を頭の中でプレイバックする。最初の審査では、ライドブルーのブラウスに、可愛い真っ白なレースのスカートを穿いていた。ダンステストでは、レオタードを着ていたが・・・胸少しあった気がするぞ!?最終審査では可愛い花柄のドレス着てたじゃん!?? それでも男の子だというの〜〜?
「君男の子なの?」
「はい、そうです」
「女の子になりたい男の子だっけ?」
「よく女の子になっちゃいなよとか友だちに言われるから、女の子になってもいいなあとは思いますけど、取り敢えず今の所は男の子です。ちんちんまだ付いてるし」
“まだ付いてる”というのは、その内取りたいということだろう。
「だけど“春南”(はるな)って女の子っぽい名前だよね?」
「春は中国の五行思想で東に当たり、日の昇る方位、南は“指南”の南で人を指揮することで、のし上がって頭領になる名前、と父は言ってました」
「そんなこと言われると、男の子の名前かも知れない気がして来た」
「でもボクの名前聞いた人はたいてい女の子だと思うみたいです」
「うん。そう思う」
と言ってから、ゆりこは更に訊く。
「君、声変わりまだだよね?」
「声変わりはしたんですけど、声は2度くらい低くなっただけで済みました。声変わり前は上のEが出てたのに、今Dまでしか出ないのが悔しいです。睾丸取りたい気分だったんですけど、お父さんが未成年の内はダメと言ったから」
未成年の内はということは18歳になったら取ってもいいということ?それに睾丸を取らない代わりに女性ホルモンを飲んでいたのては?とゆりこは疑った。だって、あんたレオタード着た時に胸あったじゃん!
「声は、練習していればまたEは出るようになると思う」
とゆりこは言う。
「そうですか」
「高い声は練習でわりと出るようになるんだよ」
「へー。だったら頑張って練習します」
「よしよし。でも、もし君女の子になりたい気持ちがあったら、女子制服で通学できる中学を紹介しようか?」
「あ、セーラー服とかいいいですねー。でもボクあまり女の子の格好で人前に出たことないから、当面は男子制服で通学します」
「うん。それは無理しなくていいよ。でも君、大歓迎だから、早くこちらに出て来てくれるのを楽しみにしてるよ」
「で、結局女子寮に入ることになるんでしょうか」
「そうだね。女子中学生になっちゃうんなら、女子寮に入れてもいいけど、男子中学生をまだしばらくするのなら、男子寮の方かな」
「ああ、男子寮もあるんですね」
「うん。もし女子中学生になる気になったら、いつでも女子寮に移っていいから。女子下着を着けて、女子制服で通学することが条件。ヒゲはレーザー脱毛してもらって」
この子にたとえ睾丸があったとしても、女子とトラブルを起こすとはとうてい考えられない。
「あ、ボク女子下着しか着けないですし、ヒゲは生えたことないです。でも取り敢えず男子寮に入れてください。申込書はどうしましょう?」
ヒゲ生えたことないって、明らかにホルモンやってる。
「女子寮入寮申込書の先頭の“女子”という所を二重線で消して“男子”に訂正して記入して。記入する内容は同じだから」
三等親以内の親族を除いて男性を寮内に入れないこと、なんて条項あるけど・・・この子は本当に男子をシャットアウトした方が良かったりして?
「分かりました!」
「申込書を女子から男子に訂正するんじゃなくて、君の性別を女子に訂正してもいいけどね。ちょっとした手術受けて」
「あはは。それもいいなあ。でも取り敢えず男子として入寮させてください」
「OKOK」
ということで、この日、ゆりこはとても楽しい気分になったのであった。
さて、舞音は自動車学校に通う傍ら、新しいアルバムの制作を進めていた。
実は『タイカジキ、カニエビ、イカタコ、サケマグロ』で舞音は子供たちの“人気のお姉さん”になったので、童謡を歌ってくれないかというオファーがあったのである。舞音はこれを水谷姉妹と一緒に歌うことにした。クレジットは“舞音withスイスイ”である。
水谷姉妹のことを“スイスイ”と呼ぶのは実はアクアのネーミングである。
「水谷康恵・水谷雪花、で頭文字をとって“水水(スイスイ)”ね」
などと言っていた。
演奏に関しては、信濃町バンドのピックアップメンバーでアンサンブル・オーケストラを編成して、それで伴奏してもらう。山本コリンが仮歌係を務める。
そしてオーケストラと一緒に童謡を録音している最中に、“招き猫”バンドの方は、舞音のCM集アルバム第二弾“招き猫2”の制作作業を進める。
要するに舞音はアルバム2枚を同時進行で作るのである!
バンドはサポートミュージシャンが5人(Vn Fl Cla Sax Tp)入れて9人編成にしている。
こちらは仮歌係に数紀(水森ビーナ)が指名された。制作はこういう手順で行われる。
舞音がCMで歌った(ショート版)の歌唱を参考に、招き猫の4人と数紀でフルレングスの仮演奏を作り、その録音を舞音に聞いてもらう
→それをベースに舞音がエレクトーンを弾き語りして第2次仮音源を作る
→それを元に特にテンポと強弱に注意して、再度数紀が仮歌係になり9ピースバンドで本演奏を作る
→これに舞音が歌を乗せる。
それで実は数紀は舞音たちと一緒に泊まり込むことになった。
そういう訳で舞音は7/19-8/10 くらいの日程で、郷愁村のコテージ桜に水谷姉妹・山本コリン・ビーナと一緒に泊まり込む。このコテージにSTAGEAを持ち込んでいる。
「ボクが女の子たちと同じコテージってまずいですよー」
と数紀は言ったものの
「松梨詩恩ちゃんによれば少なくともビーナちゃんが女の子とセックスすることは不可能らしいし、姫路スピカちゃんの情報では数紀ちゃんは性転換手術済みらしいし、ビーナちゃんには生理があるという説も出ているから女子またはそれに準じる状態と思われるので、全く問題無い」
と舞音は言うし、
「かずちゃんとは何度か一緒に着替えたけど、ちんちんはもう無いみたいですよ。おっばいはまだ小さいけど」
と水谷姉妹が言う。
「まあ万が一男の子だったら、私が去勢しちゃうから心配しないで」
と山本コリン。
もっともこのコテージは中央の居間の周囲にドアで区切られた5つの個室が星形に並んでいるので、5人が各々の個室で寝ることで、数紀やセレン・クロムのような女性不感症の子なら女子と一緒でもあまり問題無かったようである。
でも数紀は入浴中を覗かれて!“確かに女子であること”を確認された(毎度のセクハラ)。
なお東京で仕事がある時はヘリコプターで空輸する!それで舞音も数紀も週に3回くらいヘリコプターで東京と熊谷を往復することになった。
なお、招き猫バンドのメンバー、オーケストラのメンバーは郷愁マンションに泊まり込む(20日以降オーディション参加者と交替で入居。食事はホテル昭和からデリバリー)。長期滞在には洗濯機や冷蔵庫も揃っている郷愁マンションの方が、ホテル昭和の客室より便利である。
この期間、外出は届け出制で、外食禁止(郷愁村内はOK)、夜9時以降のアルコール禁止である。恋人はずっと一緒にいるのなら連れ込んで良い!が、頻繁に外部から家族や恋人が来訪するというのは感染防止の観点から認められない。この“隔離生活”ができる人のみで、楽団員は構成している。
実際にはオーケストラの伴奏は7月中に完成し、楽団員は退去した(バンドの方は結局お盆すぎまで掛かった)。
こういう場合、業界の慣習で8/1-10日分の日当もちゃんと支払う。“お笑い”という制度である。楽団員たちには美味しいボーナスになったようである。
舞音と数紀の二輪車教習は7/26までに全ての教習が終了。7/27(火)に卒業試験を受けて合格。翌日7/28(水)に東京に戻ってきて鮫洲の運転免許試験場で筆記試験を受け合格し、2人とも新しいブルーの帯の免許証を手にした。
「よし、新しいCMを撮影するよ」
「また草津温泉に行こう」
「ひぇー!」
今度は400ccも持って行く。
撮影はまたワルキューレに舞音が跨がっている所から始まる。花ちゃんに「君にはまだ少し早い」と言われて追い出され、花ちゃんがワルキューレで走り去るのを“3姉妹”で見る。
「格好いいねぇ!」
「私たちも行こう」
と“長女”セシルが言うと
「私二輪の免許取ったんだよ」
と“次女”舞音が免許を見せる(本名・生年月日・番号などはモザイク)。
「じゃ、舞音は私の250cc使っていいよ」
と言ってセシルが舞音にCBR250RRを譲る。
「じゃ、舞音ちゃん、私のスクーター使って」
と舞音が“三女”舞音!に譲る。
それでセシルのCBR400R, 舞音のCBR250RR, 舞音!のタクト・マネーで一緒に走って行く、というストーリーになっていた。
ここで実際にはビーナをスタンドイン・ボディダブルにして撮影している。
(1) 400cc セシル 250cc 舞音 50cc ビーナ
(2) 400cc セシル 250cc ビーナ 50cc 舞音
という2通りの配役で撮影して、うまく繋ぎ合わせているのである。ビーナは舞音と同じ髪型のウィッグを着けて、舞音本人と並んだ後ろ姿などをそのまま撮影されている。
舞音は
「お仕事が忙しいから2人に分身してみました」
などとコメントしていた。
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