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■春転(11)

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放送局に入った時はもうリハーサルが終わった所だった。リハーサルには水谷雪花ちゃんが出てくれていて、舞音はディレクターさんの指示などの伝達を受けた。(つまり佐藤先生とは最悪あの時間には解放する約束だったのだろう。だから恐らくはそのギリギリの時間まで歌を洗練させたのであろう)
 
この日は、様々なマネキンが多数並ぶセットで、舞音もその中でマネキンの振りをしている所からスタートするという演出だった。中央に立っている、舞音そっくりの顔のマネキンかと思わせておいて本物の舞音は実は後の端から2番目に居たという仕掛けである。この演出は話題になり、バラエティ番組でパロディまで作られた。この時のビデオがその後、何十年にもわたり様々な回顧番組で、繰り返し放送されることにもなる。
 
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また、後にベスト盤を作る時に同じ演出で再撮影したものを、おまけPVとして収録した。
 
結局この日仕事が終わったのは21時すぎであった。朝8時から13時間稼働だった(でもきっとエステや美容室は労働時間にカウントされていない)。
 

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この日の番組の感想では「舞音ちゃんって美人だね」という声が多数あったようだ。午前中にエステされて、念入りにスキンケアしてもらったからかも、と舞音は思った。
 
この放送の影響もあったのか『舞音の招きマネキン』のCDが5/10-16の週間統計で累計50万枚を突破。また発売したばかりの『風のいざない/マイルドな夜明け』も週間ランキング1位で60万枚を越えて《ダブルプラチナ×2》となり、招き猫の歌のヒットがただの偶然ではなかったことを証明した。
 
この統計が発表されると、またルビー・水谷姉妹・リズム・スピカ・コリンに安原祥子が来て
「一発屋返上おめでとう」
といって、お祝いをしてくれた。
 
「その単語は私も気になってた」
と舞音は正直に言った。
 
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「でも1発屋は0発屋よりは凄い」
とルビー。
「芸能界には30-40年前の1発ヒットでいまだに食って行ってるという凄い人もいる」
とリズム。
「同じ曲の新録音CDをひたすら毎年出す歌手もいる」
とスピカ。
 
「それ他の歌を歌いたくても、あれを歌ってくださいよと言われるんだろうね」
 

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5月14日(金)、数紀はこの日5時間目が音楽の時間だった。音楽の時間は声のパート別に着席する。
 
「ボクはテノールかなあ」
などと言っていたら、一昨日の転入以来結構よく話している芙実ちゃんが
「先生、この子、今週転校してきたので音域のテストしてください」
と言った。
 
それで先生のピアノに合わせて声を出していくが
「あんた正確な音程で歌うね!」
と驚いたように言われた。
 
ピアノの音に合わせて「ララララ・ラララララ(ドレミファ・ソファミレド)」と声を出して行っていたのだが
 
「あんたはソプラノに入りなさい」
と言われた。
 
「テノールじゃないんですか?」
 
「柴田さんの声はテノールの下の方(F3以下)が出ないからテノールは無理。アルトでもいいけど、ソプラノは一番上の音(A5)がわずかに出ないだけだから、ソプラノに入って練習していれば、ちゃんと出るようになるよ。低い声はあまり練習してなくても出なくなることはないけど、高い声は練習していれば出るようになるものだから」
と先生は言った。
 
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「でも私男子なんですけど」
 
「そういえば男子制服着てるね。男の子になりたい女の子?それならテノール歌いたいかも知れないけど、高校卒業してから男性ホルモン飲んで声を低くすればいいよ。高校生の内はホルモンとかしない方がいいから、ソプラノで歌ってるといいと思う」
と先生は言った。
 
え〜?だってボク声変わりで結構声が低くなったのにと思ったが、取り敢えず先生の判定ではソプラノである。
 
「わーい。私と一緒だ。ソプラノの席に行こ行こ」
と芙実ちゃんに言われて、一緒にソプラノの席に行き、彼女の隣に座った。
 

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アクアは『シンデレラ』撮影中の途中5/16だけ撮影から抜け、小浜のミューズシアターでネットライブをした(16日はシンデレラの出ないシーンを撮影する)。
 
5/15の撮影が終わった後“葉月が”Honda-JetRedで小浜に移動し、翌日朝、アクア自身は小浜に転送される(郷愁村に居たFを山村に転送させ、千里家の地下にいたMは和城理紗に転送してもらう)。そしてライブをしてから、また転送で東京に戻してもらった後、千里の家で2人ともその夜は寝た。葉月は5/16ライブが終わった後で、Honda-HetRedで東京に戻った。アクアを往復転送したのは、体力を使わせないようにである(身代わりの葉月は辛い!)。
 
コスモスはこのライブのリハーサル役に数紀を指名した(葉月はリハーサルに間に合わない)。それで数紀は5月14日(金)の授業が終わった後、佐々木春夏マネージャーに学校まで迎えにきてもらい、まずは熊谷に移動する。佐々木は
 
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「制服じゃきついでしょ。この服に着替えなよ」
と言って、カットソーとスリムジーンズを渡した。
 
「ありがとうございます」
と言って、数紀はプリウスの後部座席で制服の上下を脱ぎ、ワイシャツも脱いでカットソーを着、七分丈のスリムジーンズを穿いた。
 
郷愁飛行場で別途来ていた伴奏者の面々、司会役の甲斐姉妹と合流する。
 
伴奏者は10人おり、6人はサポート・ミュージシャンということだったが、全員“信濃町バンド”のメンバーらしい。コロナのご時世、この手のスタッフも全て自前で確保する方針という。
 

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佐々木マネージャーを含めて14人で Gulfstream G450 に乗り、小浜に移動する。
 
「でも§§ミュージックって凄いですよね。男子寮・女子寮があって、自前のハイヤー会社・自前の航空機・自前のネットテレビ局・自前のミュージシャン集団に全国10ヶ所の研修所とか」
 
と数紀は隣の席になった佐々木に言った。
 
「それはラピスラズリが売れたからできるようになったことだと思うよ」
と佐々木は言う。
「アクアさんじゃなくて?」
 
「2019年度まではうちの会社はアクアのみに依存している会社だった。でもラピスが売れたことで、複数のアーティストで支える会社になった。それで様々な投資ができるようになった」
「へー」
 
「更に今年は第3の核となる、常滑舞音が出て来たし」
「あの子凄いですね」
 
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「エーヨも数紀ちゃんも第4の核を目指そう」
と佐々木が言うと。佐々木の向こう側にいた甲斐絵代子は
「私には無理ー」
と言ったが数紀は
 
「第4の核かあ。なれたらいいなあ」
と言った。
 
佐々木は笑顔で頷いていた。
 
「柴田数紀ちゃんって芸名ですか?」
と絵代子の向こう側に座っている波津子が尋ねる。
 
「本名。芸名は今コスモス社長が考え中」
「へー」
「まあ今回はお客さんの前に立つ訳ではないから、芸名無しで」
と佐々木は言った。
 

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ミューズ飛行場に着陸する。藍小浜に入り、今日はこのまま休んでということだった。しかし数紀は晩御飯を食べた後で、佐々木に電話して言った。
 
「アクアさんの楽曲はだいたい歌えるとは思うんですけど、リハーサル前に練習したいんです。どこか適当な練習場所はありませんか?」
 
この時、数紀はカラオケボックスみたいなものを考えていた。しかし佐々木は言った。
 
「ああ。ミューズシアターで歌えばいいね」
「え〜〜!?」
 
取り敢えず1階のエントランスに降りた。佐々木さんがすぐ来るが、続けてエレメントガードのメンバーのひとりが降りてきた。確かドラムスの人だったかなと数紀は思った。
 
「これ伴奏音源です」
と言ってCDを1枚佐々木に渡す。
「さんきゅさんきゅ」
 
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「川井さんでしたっけ。ありがとうございます」
と数紀も言った。
 
「うん。ボクは川井唯。もう少し小柄だったら“かわいい・かわいゆい”とか名乗るんだけど、ボクの体格じゃ無理だ」
なとと言って笑っているので、数紀もつられて笑った。
 
お茶目な人だなと思う。
 
彼は身長180cmくらいあり、腕も太くて柔道か空手でもやりそうな雰囲気である。でも声はハイトーンだ。彼はアクアのボディガードを兼ねているんだとセレンが言っていた。昔、アクアがテレビ番組に出演している時に銃を持った男に襲われる事件があり、その後、ボディガードを兼ねてバンドに加入したのだとか。ズボンの中にいつも特殊警棒を忍ばせているし、上半身には防弾チョッキを着けているとも聞いた。胸板が厚く感じるのはそのせいだろうか。国内では使うことがないが、射撃も上手く、国体に出たこともあるらしい。
 
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佐々木・川井・数紀の3人で藍小浜の地下に降りる。
 
「凄い」
 
大きな地下通路がある。そこにコンパクトカーが1台駐めてある。邦江姉の専用車(ノート)に似てるなと数紀は思った。
 
「乗って乗って」
と言われるので、乗り込む。それで佐々木さんの運転で大きな地下通路を走って行く。
 
「音が静かですね?ハイブリッドですか?」
「リーフは電気自動車。ここは地下だから、換気の問題でハイブリッドも含めてガソリン車は使用禁止なのよ。一応ここの空気は30分で完全に入れ替わるけどね」
「へー」
 
それで車は200mほど走り、何か小さな施設?のある所に停まる。
 
車を降りて、施設?の中に入る。エレベータで上に昇る。佐々木に付いていくと、広いステージがあり、巨大な劇場が姿を現した。
 
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「大きいですね」
「明日はここで歌うんだよ」
「楽しそう」
と数紀が言うと、佐々木も川井も微笑んでいる。
 
「今は座席だけが並んでいるけど、明日ここにモニターや書き割りを並べて2万人の観客がいるかのような景観になる」
「それも楽しみです」
 

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「じゃこのCDに伴奏が入っているから、このCDプレイヤーに掛けて、思う存分練習して」
「ありがとうございます」
 
「じゃ、唯ちゃん後はよろしく」
 
と言って、佐々木は帰っていく。
 
「川井さんは?」
「ボクはここに居るだけ。女の子を1人にする訳にはいかないからね」
「すみません!」
と言いつつ、ボク女の子じゃないけど、と数紀は思った。
 
ここで物凄い誤解があった訳だが
 
・数紀は川井唯を男性と思っているので、男2人でここに居ると思っている。
・川井唯は数紀を女の子と思っているので、女2人でここに居ると思っている。
 
しかし誤解があっても、特に何の支障も無い!ので、この夜は4時間ほど、数紀はここで伴奏音源を流しながら歌ったのであった。
 
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「君凄く歌がうまいね」
と川井さんから言われる。
 
「ありがとうございます」
「高い声もファルセットで歌っちゃうし」
「実声と声質が違ってて聞き苦しいんですけど」
「ミドルボイスを覚えればいいよ」
「ミドル?」
「実声とファルセットの中間の声の出し方があるんだよ。それを使って移行すると実声の部分とファルセットの部分がきれいにつながって自然な感じになる。民謡とかやる人には必須の技術」
「へー」
「ボイストレーニングに通うといいね。ゆりこ副社長に言えば、いい所紹介してくれるよ」
「じゃ聞いてみます」
 
「それに、ちゃんとアクアの振付が出来てたね」
 
「アクアさんのビデオはいつも見てますから」
「見てるだけでできるのは天才だよ」
「褒めてくださってありがとうございます」
と数紀は笑顔で答えた。
 
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振付に関しては少し勘違いしていた所を川井さんが直してくれて、それで完璧になったと言われた。
 

結構長時間練習していたので、川井さんが自販機でスポーツドリンクを買ってくれた。それで数紀はドリンクで水分とカロリー補給をしながら歌った。
 
23時頃「じゃ今日はこれで切り上げます」と言うと、川井さんが車を呼んでくれて、それで旅館に戻った。川井さんが「君頑張ったからサービス」と言って、数紀の部屋にフライドチキンとラーメンを届けさせてくれたので、数紀はそれを食べて、お腹も充分満ちたところで眠った。
 

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翌日は午後からリハーサルということだったので、午前中は頂いたスコアをずっと読んでいた。11時頃にお昼をデリバリーしてもらったので、それを食べる。11時半に佐々木さんが来て「これ前半の衣装」と言って渡される。
 
白いドレスである。すっごく可愛いデザインだ。高そう!でもドレスなの!?
 
「アクアが着る本番衣装はこれと同じもので別だけどこの衣装、リハが終わった後クリーニングに出して万一の時の予備にも使いたいから、あまり汗とかで汚したくないのよ。暑くて申し訳無いけどスリップを着けてくれる?」
 
と言ってロングスリップ(新品)も渡される。
 
「えっと、スリップ着るなら、その下は?」
「普通のブラとショーツでいいよ」
 
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やはりブラとショーツなのか!?
 
「後半で着替えるから替えの下着と、リハが終わった後のアウターの替えもね」
「分かりました」
 

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それで佐々木さんが出て行った後、数紀は服を全部脱ぎ、シャワーで首から下だけ汗を流した上で、お気に入りのブラとショーツを着ける(なぜか持ってきている)。そしてスリップを着けてから、ドレスを着た。
 
「あ、背中のファスナーが」
と思う。隣の部屋にいる甲斐姉妹に電話したら、波津子ちゃんが来てくれて、背中のファスナーをあげてくれた。
 
「これ凄い可愛い衣装だね」
「可愛くて恥ずかしい」
 
11:45頃、メイク担当の弓長さんが来てメイクをしてくれた。メイク道具は自分のを使用する。これは松梨詩恩姉のスタンドインをする時にメイクが必要なので標準的なものを揃えていつも持ち歩いていた。
 

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