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■春転(19)
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6月5日(土).
川崎市内のオープンセットで『魅惑の美少女シンデレラ・シンドルバッド』の撮影が始まった。『シンデレラ』からのスピンオフ作品である。撮影はこの日から8月上旬まで、放送は7〜9月の月曜で、12回の予定だが、オリンピックの影響で回数が減らされる可能性もある。
主人公のシンデレラ=シンドルバッドには、新人の恋珠ルビー(中3)、ルビーの参謀で、6頭立て馬車ならぬ直列6気筒エンジン(その駆動映像が流れる)のベンツ S450 でシンデレラを“パーティー会場”まで運ぶヨンドルには松田理史(23), 古参の船員ハンドルにアクア主演のシンデレラでもその役を演じた佐々木恒美(38).ほか船員には高校生から大学生世代の男性俳優を配している。
シンドル(シンデレラ)の姉は岡原襟花(21)が演じるが、これはいじわるな姉ではなく、アクア版シンデレラと同様“弟”シンドルを頼りにしている優しい姉である。
(以上で年齢は2021年度にその年齢になるという意味)
このドラマにはルビーの“小間使いの娘”役で、水森ビーナ(柴田数紀)も出演しており、彼(彼女?)の初レギュラードラマとなった。実はシンドルが女装してシンデレラに変身している間、シンドルの代役を務める役が必要だったので
「あまりギャラは出せないですけど、そこそこ上手くて“男装できる女優”が居ませんか?」と言われ、コスモスが(詩恩の代役として)演技経験が豊かなビーナを推薦したのである。
(ビーナは松梨詩恩によく似ているので、てっきり詩恩がカメオ出演していると思った視聴者もあったもよう)
ヨンドル役に松田理史が選ばれたのは、ドラマ成立のため演技力のある若手俳優が求められた(それで鳥山プロデューサーが推薦した前田智士は却下された→前田智士は宝島に出ることになる)こと、監督をすることになった美高鏡子が理史とマクラの関係を知っていたので、ルビーとも岡原襟花とも恋愛可能性のない人物として推薦したためである。美高はテレビ局側には「彼には既に恋人がいるから」とだけ説明している。
このドラマの主題歌は恋珠ルビーが歌う『ガラスの靴は魔法の靴』、エンディングは岡原襟花が歌う『可愛い娘にご用心』で、前者は6/30, 後者は6/16に発売される。
同じ日に発売することを双方の事務所が嫌がったので、6/30は主演のルビーに譲り、岡原は半月も前になるが6/16を選択した。ちなみに6/23は常滑舞音、7/7はラピスラズリとぶつかるので、岡原の事務所社長は「前門の虎後門の狼」と悩み2週間前にすることにした。6/16は高崎ひろかとぶつかっていたが僅差で1位を取れた。
ビーナ(数紀)はゆりこ副社長から
「お芝居ではメイド服とかも着てもらうし、“ちゃんとおっぱいのある”状態にしといてね。もし豊胸手術するなら病院紹介するけど」
とも言われたが
「手術は勘弁して下さい」
と言って、ユカリ・恵夢に頼んで、バストと股間の偽装を再調整してもらった。いったん外して肌を休めるために一晩おき、土曜の朝再偽装している。
ユカリたちからは
「今日は女子制服で帰寮したね。とうとう女子制服で通学することにしたの?」
と訊かれた。
「コーラス部で女子制服でピアノ伴奏した後、男子制服に戻るのうっかり忘れてたんだよ」
「どうして伴奏するのに女子制服着るわけ?」
「女声合唱だからと言われた」
「女声合唱でも男子がピアノ伴奏するのは普通にある気がする」
「むしろ男子部員が少なくてパートとして成り立たない時に女声合唱で出て男子に伴奏や指揮を頼むことがよくある」
「あ、そうかも」
「きっと数紀ちゃんの女子制服姿を見たかったから、かついだんだよ」
「うーん・・・」
6月6日(日). アクアが出演する群像劇ドラマ『夏の飛び魚』の第1回が放送された。オリンピックを目指す水泳選手たちを描いたもので、アクアは“男子水泳選手”役で出演している。当然“平らな”胸を曝している。ドラマの中では
「君、乳首が大きいね」
「子供の頃の病気治療の影響で大きくなったまま戻らないんですよ」
という会話が入っていた。
アクアの乳首が大きいというのは昨年のドラマ『サーファーの夏』に出演した時も指摘されていたので、極めて少数の“アクア男子説”を信じる人たちは
「やはりアクアにはバストは無いこと、このドラマが吹き替えで撮影されたのではない証拠」と言った。
しかし多くの視聴者は
「アクアにおっぱいが無いわけがない」
「こちらの方こそフェイクなのでは」
といった見方をしていた。
2021年6月6日(日・大安・たいら)
海原重観(うなばらしげみ)と長野支香が婚姻届けを提出したことをマスコミ各社に送ったFAXで発表した。
2人の間には、実は小学2年生になる女の子・美奈代がおり、3人はこれまでも事実上家族として暮らしていたことを明かした。
2人の交際は、ワンティスのメンバーを含むごく親しい人だけが知っており、これまでマスコミに流れたことも無かったので驚かれた。
6月7日朝7時。
第2回ビデオガールコンテストの一次審査結果が、応募者全員にメールで一斉通知された。
今回の応募者は約15千人で、一次審査合格者は140人である。一次審査の通過率は107分の1ということになる。
6月7日(月)に発表された5/31-6/6の週間売上統計では、6/2に発売されたアクアの『綺羅星の如く』がトップであったが、『シンデレラ』の放送があったことから、舞音が歌う主題歌『ガラスのエンブレム』も35万枚売れて2位であった。『ガラスのエンブレム』はこれで累計60万枚のダブルプラチナとなり、舞音4枚目のダブルプラチナである。また『マイルドな夜明け』の累計売上は98万枚となり、ミリオン確実の情勢となった。
6月7日(月).
信濃町ガールズの上田雅水のホームページ上の性別が昨日まで男の表示だったのが女に変更された。姉の信希も4月4日に変更されていたので、2人は兄弟から姉妹になったことになる。
上田信希の性別変更の次は、木下宏紀ではと予想していたファンが多かったので、まだ中学生の雅水の性別変更には驚いた人も多かったようである。
「やはり性別を変えたい人は§§ミュージックに入るといいんだな」
「いや、かなりの実力がないと入れてくれない」
「うん。今の信濃町ガールズって、並みの事務所ならトップスターになれる実力の持ち主がごろごろ居る」
「でも性別の曖昧な子が多いね」
「あそこはアクアがいるから、曖昧な性別の子がたくさん応募してくるんだと思うよ」
「ふつうの事務所だと門前払いか色物扱いだもんねー」
「あそこはアクアもいるし、白鳥リズムもいるし、ラピスラズリの町田朱美もいるし、あれだけ性別が曖昧なタレントが多ければ、安心感があるよね」
「エーヨも元男の子」
「あれジョークじゃないの?」
「半陰陽だったらしいよ。男の子だと思ってたのに突然生理が始まったって」
「精密検査受けたら、君は女の子だよと言われたらしいね」
「それで去年の夏休みに、ちんちんみたいに見えていたクリトリスを短く切って、陰嚢の中央に切れ目を入れて割れ目ちゃんにして、尿道口も普通の女子の位置に移動する手術を東大で受けて、立派な女の子になったらしい。韮崎の中学の同級生の情報」
「ほぼ性転換手術という気がする」
「実際そうだと思う。赤ちゃんが産めるというのが普通のと違う点」
「立って小便しようとして、あそうか、ちんちん取っちゃったんだとか思うらしい」
「まあ無くなったものは仕方ない」
「常滑舞音の性別は怪しくないんだっけ?」
「ビデオ見てると16歳の女子として普通の成熟をしていると思う。だから普通の女子だと思う」
「ヌード見てみたいな」
「16歳ではヌードになれないし」
「ドル箱アイドルだから事務所が24-25歳までは許可しないでしょ」
6月7日(月)朝。
菱田ユカリ(三陸セレン)と須舞恵夢(山鹿クロム)が、不本意ながら学生服を着て、中学に登校する前、フロントでユキさんと話していたら、エレベータから“ブラウスを着てスカートを穿き、胸元にはリボンを結んだ”柴田数紀が出て来た。
「数紀ちゃん、その格好で通学するようになったんだ?」
「そういうわけじゃないんだけど、金曜日に女子制服に着替えた時、男子制服を学校に忘れてきたことにさっき気付いて。仕方ないからこれで登校して、学校で着替える」
と言う。
「じゃ私が学校まで送ってあげるよ」
「すみません」
それでユキさんが数紀をヴィッツに乗せて学校まで運んであげた。
それを見送ってユカリと恵夢は言い合った。
「もうあのまま通学すればいいと思うなあ」
「同感」
ユキに学校まで送ってもらった数紀は音楽準備室まで行き、金曜日に着替えた時うっかり置き忘れていた男子制服の紙袋を取り、教室に戻った。
「お早う」
と既に教室に来ていた芙実から声を掛けられる。
「あれ、今日から女子制服にしたの?」
と公佳が言う。
「違うんだよ」
と言って、数紀は金曜日に男子制服を学校に忘れていったことを説明した。
「でも女子制服着てる方がかずちゃんは自然な気がする」
「うん。男子制服姿は不自然だよね」
取り敢えず、教室はまだ彼女たちだけだったので、数紀はショーツ穿いてるのをこの2人になら見られてもいいやと思い、その場でスカートをズボンに履き替えた。そしてリボンを外してネクタイに替えようとしたら、そのネクタイをさっと奪われる。
由美である。
「これは没収」
「え〜〜?」
「かずちゃんはネクタイよりリボンの方が可愛いから、ずっとリボンを着けてること」
「だってネクタイ結ばなきゃ校則違反だよぉ」
「いや、かずちゃんは女子制服で通学していいという許可証が出ているはず」
「なんでみんな知ってるの〜?」
(実は担任がクラス委員に話を通しておいたからである。だから全員知ってる)
「だから今日はリボン着けててね」
「まあいいけど」(←なぜ簡単に妥協する?)
「ところで、今日の体育は水泳なんだけど、かずちゃん水着は持って来てるよね?」
「え、ほんと?知らなかった」
「ラインでも回っていたはずなんだけど」
「見てなかった」
どうしよう?と思う。
今日は“おっぱい”あるから、水着になれないよぉ。
「ボク今日は見学しようかな」
「かずちゃん、泳げないんだっけ?」
「800mくらいは泳げるよ」
「すごいじゃん」
「実は飛鳥姉(松梨詩恩)が泳げないから、ドラマや映画で飛鳥姉が泳ぐシーンは全部ボクが吹き替えてたんだよね」
「ほほぉ」
「そういう時、かずちゃんは男子水着だったのかな?女子水着だったのかな?」
「男子水着では吹き替えにならないよ!」
「要するに女子水着は普通に着れるんだ!」
「うっ・・・何故バレたんだろう」
「自分で言った」
「今日水着持って来てないなら、購買部で1着買ってくればいいよ」
「大して高いものでもないもんね」
「お金持って来てないなら貸してあげるよ」
「えーっと・・・」
「付いてってあげるよ」
と言って、2時間目が終わった後の10分間の休みに、女子数人に連行!されて数紀は購買部に行った。
「すみませーん。この子のサイズのスクール水着ください」
と公佳が言う。
「はいはい。あんたならSで良さそうね」
と言って、購買部のおばちゃんはSサイズのスクール水着を売ってくれた。
数紀は身長157cm、顔が女顔で今日はブラウスを着てリボンもしている。当然売ってくれたのは女子用スクール水着である!数紀の身長はSかMか微妙な線だが胸が(女子としては)小さいようなので、おばちゃんはSでいいだろうと判断したようだ。
代金は1200円で、数紀が払う。
一緒に300円のバスタオル、100円の水着入れも買った。
「でもこれを着るの〜?」
と数紀は情けない顔をしている。
「女子用水着いつも着てるんでしょ?」
「それとも男子用水着を着る?」
「いや男子用はちょっと事情があって着れない」
「まあそうだろうね」
とみんな頷いていた。
4時間目は体育で水泳である。この水泳での着替えは、体育委員の秀美ちゃんが先生に訊いてきてくれて、数紀は“女子職員用”更衣室を使ってという指示だった
それで仕方ないので数紀はそこでブラウス、アンダーシャツ、ブラジャー、ショーツを脱いで、さっき買った女子用スクール水着を着けた。土曜日にタックされた時にあの付近の毛は全部剃られているので、幸いにも水着から、はみ出したりはしていない(数紀は脇毛は脱毛済みである)。
でもこれ胸が目立つよう、と思う。
シャワーを通っておそるおそるプールに出る。
「おお、可愛い可愛い」
と芙実から言われた。
「まあこの姿を見ればかずちゃんの性別を誤解する人はいないね」
と由美が言っている。
それで授業が始まるが、体育の先生(男性)は特に数紀の女子水着姿には注意を留めなかった。人は不自然なものには目を留めるが、数紀の女子水着姿は自然なので気にならないのである。
もっとも数紀がプールを何往復も泳ぐので
「柴田さん、たくさん泳げるね」
と先生は褒めていた。
数紀は胸が目立つことをこの日は気にしていたのだが、女子たちは(男子たちも)むしろ、数紀のお股に“何も出っ張りがない”ことに注目していた。
授業が終わってから着替えようと思い、女子職員用更衣室に戻ると、由美がいる。
「このズボンは没収」
「ちょっとぉ」
「かずちゃんが女子だということが確実になったから、女子なら潔くスカート穿きなよ。今教室からスカート持って来てあげるから」
「ボク男の子だけど」
「却下」
それで、その日の午後、数紀はスカート姿で授業を受けたのであった。
5時間目が終わった所でトイレに行きたくなる。それで教室を出てトイレの所に行き、男子トイレに入ろうとしたら、男子から
「女子は男子トイレ進入禁止」
と言って追い出されてしまった。
「何やってんの?」
と毬恵が声を掛けた。
「いや、トイレに入ろうとしたら男子に追い出された」
「かずちゃん、せっかく性転換手術まで受けて女の子になったんだから、男子トイレに入っちゃいけないよ」
「ボク、性転換手術とか受けてないけど」
「中学生の性転換手術は禁止だからこっそり受けたんでしょ?大丈夫だよ。誰にも言わないから」
女子お得意の“誰にも言わないから”というのは実際には伝搬速度が倍になるキーワードである、きっとこの噂もう全員が聞いてるなと数紀は思った。
「恐かったら、一緒に入ってあげるよ」
と言って、毬恵は数紀の手を引いて一緒に女子トイレに入ってくれた。そして列に並ぶと他の女子たちが数紀に声を掛けてくれるので、数紀はふだんの調子が出て彼女たちとおしゃべりしながら列の進むのを待った。
それでこの日から数紀は女子トイレを使うことになってしまったのである。
6月8日(火)
菱田ユカリと須舞恵夢が、不本意ながら学生服を着て、中学に登校する前、フロントでツキさんと話していたら、エレベータから“ブラウスを着てスカートを穿き、胸元にはリボンを結んだ”柴田数紀が出て来た。
「数紀ちゃん、やはりその格好で通学するようになったんだ?」
「男子制服を没収されちゃって。裸では通学できないし」
「数紀ちゃんは最初から女子制服通学で良かったと思うなあ」
「スカート穿くのはいいけど、女子と一緒に着替えたり、女子トイレ使うの恥ずかしい」
「それは絶対嘘だ」
「放送局とかで普通に女子楽屋とか女子トイレ使ってるじゃん」
とユカリ・恵夢は指摘した。
(数紀は小学生の時から一貫して女性用楽屋を使用している。これは詩恩との引き継ぎの必要があるため。詩恩は彼を最初から“妹”とみんなに紹介していた)
なおこの日は登校したら由美がズボンを返してくれたので、数紀はその日午前中はスボンを穿いていた。でもみんなが「スカートの方が可愛いよ」というので、「ボク男の子なのに」と言いながらも、うまく乗せられて午後からはスカートを穿いた。結局この後、数紀はズボンを穿いたりスカートを穿いたりするようになる。
トイレはスカートの時だけでなくズボンの時でも女子トイレを使用する。個室がたくさんあるからトイレは楽になった。またプールの更衣室についても、次からは他の女子と一緒でいいよと言われてしまった。
もっともこの高校のプール用女子更衣室は、洋服屋さんの試着室のような個室の着替えボックスが多数あり、みんなそこで水着と普通の服を交換するので、お互い裸を他の子に曝す必要が無く、数紀も気が楽だった。(男子更衣室にはこのボックスが無い!)
しかし数紀はこのようにして転入後1ヶ月もしない内に半ば(?)女子高生になってしまったのである。彼は生徒手帳の性別が女になっていることに未だに気付いていない。
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