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■春転(20)
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6月10日(木)満月。
古庄夏樹(38)は、千葉市内の病院で、人生初の出産をして、可愛い女の子(美奈と命名)を産み落とした。
これは実は、夏樹の兄・春道と妻・柚希の子供の代理出産なのである。
春道と柚希の間にどうしても子供ができず、春道の側にも柚希の側にも問題があるようだったので、代わりに、春道の妹である夏樹と、柚希の妹である麻夜との間で子供を作ることにしたのである。そうすると生まれた子供は、春道の両親の孫でもあり、柚希の両親の孫でもある。
具体的には麻夜の精子を採取して、夏樹の生理周期に合わせて人工授精した。精子を提供した麻夜はもう10年以上、女性として暮らしていたが、精子提供の翌月、性転換手術を受け、現在は法的にも女性になっている。
夏樹は、出産の痛みが想像を遙かに超えるものだった(死ぬかと思った)ので、兄たちに協力したことをかなり後悔した。
生まれた子供はいったん夏樹の子供として戸籍に登録され(父親欄は空白)、特別養子縁組により、春道と柚希の子供にする予定である。夏樹との法的な親子関係は消滅する。情が移って子供を兄夫婦に渡したくなくなったりしないよう、美奈は生まれてすぐ、別室に移された。
しかし夏樹は遺伝子上の子供が3人もいるのに、全員(社会的には)自分の子供でないということになった。
夏樹は年齢的にもこれ以上の出産は厳しいだろうし、ちょっと寂しい気もした。
6月10,12,13日、バスケット女子日本代表とポルトガル代表の親善試合(三井不動産カップ2021神奈川大会)が行われ、3戦3勝した。
日本側では若手選手と厳しい生存競争をしていた27歳のポイントガード・杉山友梨花がMVPに輝き、彼女は代表の座をほぼ確実にした。
今回千里はあまり出番が無かった。やばいかなあと思う。
6月13日(日).
この日、あけぼのテレビでは14:00-16:00に島原バレエ団のバレエ公演があけぼのテレビ第12スタジオから生中継で放送された。スポンサー付きの無料放送である。
放送を何気なく見ていた人が、主役のオデットをアクアが踊っていることに気付く。
何で〜?と思ったらテロップが流れる。
「主役を踊る予定だった赤迫理奈が本番直前に怪我をしたため、バレエ経験者で、偶然居合わせたアクアが代役でオデットを踊っております」
というのである。
これを見た人がネットに書き込み、ネットを見た人があけぼのテレビに接続し、接続回線数は、うなぎ登りに上がる。あけぼのテレビの技術部が悲鳴をあげ、あけぼのテレビ史上初の配信フレイムレート落とし(30fpa→24fps)が行われる事態となった。
この事件では、アクアは偶然、赤迫さんが怪我する現場に居合わせ、
「アクアちゃん、オデット踊ったことあったよね?」
と言われて、唐突に代役をすることになってしまったのである。
トウシューズについては緊急に和城理紗に連絡して自宅マンションから持って来てもらったので、自分のトウシューズを使うことができた(そのほかバレエ用のアンダーウェアも自分のを使用している)。
「あれ?そのトウシューズは?」
「自分のものです。1個あけぼのテレビの自分のロッカーに置いていたので」
「さすがですね」
などと島原さんと会話した。
アクアは黒鳥の32回転もしっかり美しく踊り、結局ひとつも間違わずにオデットを演じきって、バレエ団の団員たちから称賛された。あけぼのテレビを見ていたバレエ関係者からも「プロの公演として許される最低ラインのレベルには到達している」と評価され、急に言われて代役したにしては充分上手い踊りであったと褒める人が多かった。
むろん多くの視聴者は、アクアの華麗な踊りに魅了されていた。
しかしオデット/オディールの衣装は、結構胸が強調されるし、またバレエの衣装そのものが、股間のラインを明確に見せてしまう。それでアクアに豊かなバストがあり、お股はスッキリしたラインであることが、この放送を見た人たちには、あらためて認識されることとなった。
2021年6月14日(月).
6/7-13の週間統計で、舞音の4枚目のシングル『風のいざない/マイルドな夜明け』が累計売上110万枚となり100万枚を突破した。
2ndシングル『とことこ・なめなめ・招き猫』についで2枚目のミリオンてある。
『舞音の招きマネキン』は90万枚、『ガラスのエンブレム』も80万枚に到達していてその2枚もミリオンに到達する可能性が出て来た。
6月15日(火).
この日、舞音と花咲ロンドが主演する『招きマネキン』のドラマ最終回が放送され、その美しい終わり方に涙する人まで出た。
ラストで舞音は初めて微笑むのだが、“完”の文字が出た後、舞音は自ら動いて歌を歌い始め、花咲ロンドと彼氏も奥から出て来て、唱和する、というミュージカル的な演出が行われた、
このドラマの放送の影響もあり、『舞音の招きマネキン』はこの週だけで一気に40万枚を売り、6/20までの累計売上統計が130万枚に到達。舞音にとって3枚目のミリオンとなった。
そしてこの週は『ガラスのエンブレム』も売れ続けて100万枚を突破。2つのCDが同時にミリオンに到達して、舞音のミリオンは合計4枚となる。
これで過去にミリオンを3枚出しているラピスラズリを抜き去り、常滑真音はミリオンの数ではアクアに次ぐ§§ミュージック第2の歌手となったのである。
ミリオン到達順序は2nd『招き猫』(4/4)→4th『マイルド』(6/13)→3rd『マネキン』5th『ガラス』(6/20)
6月20日時点で最高売上は『舞音の招きマネキン』130万枚。
6月17日(木)、アクアMは単独で写真家の桜井理佳さんのオフィスを訪れた。
実は写真集について、§§ミュージック側と桜井サイドとで揉めている問題があったのである。
§§ミュージックでは、昨年の“カナダ”写真集同様、女性の写真集と誤認(?)されて景品表示法違反にならないよう、写真集の帯に
「アクアは男の子アイドルです。女の子ではありません」
という注記を入れたいとして、念のため桜井さんの承認も取ろうとした。
ところが桜井さんはそれは承諾できないと言ったのである。
「だってアクアちゃんは女の子じゃない。それを男の子であるかのように装うのは、写真集を買ってくれるファンの人たちに嘘をつくことになる。それは私の良心が許さない」
と言う。
この問題にコスモスは苦慮し、幾つかの方策を考えた。
(1)帯の無い写真集を製作してもらい、それを全て§§ミュージックで買取り、そこにこちらで勝手に帯をつけて書店に売る(基本的にアクアの写真集は通常の書籍のような委託販売ではなく買取制)
(2)これに妥協してもらうための解決金を例えば3億円くらい支払う。
(3)写真集には何のコメントもつけずに販売し、マスメディアやネットで「アクアは男の子であり、これらの写真はフェイクです」といった情報を流す。
(3)をすれば桜井さんは激怒するだろう。(1)の方法では桜井さんはこちらに写真集を売るのを拒否するかも知れない。(2)も難しい。彼女はお金が欲しいわけではない。良心に反すると主張しているのである。
ゆりこは第4の方法を提案した。
(4)もうこの際「アクアは実は女の子です」と発表しちゃう。
そしたらそんなコメントつける必要もない。桜井さんも満足する。だいたい、これ以上、アクアが男の子だと主張し続けるのは厳しい。これには山村マネージャーも大賛成した。
コスモスも万策尽きて「もうゆりこの提案で行こうか」などと言い出した。
ケイは本人の意向を聞いてみようと言った。
そこで本人を呼んだら、
「私に桜井さんと話し合わせてください」
とアクアは言ったのである。
それでアクアは桜井さんと連絡を取り、会って話すことにして、この日彼女の事務所にやってきた。
アクアは最初に謝った。
「私が撮影の時に、これはフェイクですというのをきちんと説明しなかったために桜井さんに私が女の子であるかのような誤解を与えてしまってすみません。ボクは本当に男の子なんですよ。それを桜井さんに確認してもらいたかったので今日はお邪魔しました」
「アクアちゃん、そういうのやめようよ。もう国民はみんなアクアちゃんが女の子てあることを知っているよ」
と桜井さんは言う。
「だったら、この場で脱いでみます。今日は偽装せずに来ました」
「脱ぐの?」
「はい」
と言って、アクアが服を脱ぎ始めるので
「待った!」
と言って、アクアをオフィス内にあるスタジオに連れて行く。
「ここで脱いでくれる?」
「はい。写真撮影してもいいですよ」
「撮っていいの〜?」
「女の子に偽装した状態のヌードを公開するのは、ファンの人たちに嘘をつくことになるからできませんけど、偽装してない状態でのヌードなら構いません」
とアクアは言った。
そしてスタジオの中で服を全部脱ぎ、オールヌードになってしまった。桜井さんが息を呑む。
「触っていい?」
「桜井さんならいいですよ」
それで桜井さんは“そこ”に触る。
動かす!
「大きくなるじゃん」
「男の子なので」
つまり桜井さんは、それが「作り物ではない」ことを確認したのである。
「撮影していい?」
「どうぞ。写真集に入れてもいいですよ」
それで桜井さんはオールヌードのアクアを50枚くらい撮影した。色々ポーズに注文をつける。
「これ、小人の小屋の前で指示されたポーズだ」
「それを覚えてるということはお姫様の格好で私のカメラの前に立ったアクアちゃんなのかなあ」
10分ほどにわたって、アクアのヌードを撮影した上で、桜井さんはアクアにいったん服を着るように言う。
「君が水着姿で撮った写真と今撮った写真を重ねてみる」
と言って桜井さんは、パソコン上で2つの写真を重ねてみた。アクアも眺める。
「完全に重なるね」
「本人ですから。でも桜井さんもさすがプロですね、正確に同じアングルで撮影してる」
「そりゃ当然よ。だけど君も正確に同じポーズを取ってる」
「指示された通りのポーズを取っただけです」
「アクアちゃんもさすがだね」
「でもこれで私が男の子で、女の子のように見せていたのはフェイクであることをご理解して頂けましたでしょうか」
「理解しない!」
「え〜〜〜!?」
「だってこれ絶対何か仕掛けがある。でもヌードまで撮らせてくれたアクアちゃんに敬意を表して、今回は帯のコメントの件は妥協するよ」
「ありがとうございます!」
「でもマジでアクアちゃん、女の子であることを公表しようよぉ」
「ボク男の子なんですけど」
「それだけは絶対嘘だ」
「でも女の子水着でカメラの前に立ったのが私であることは納得して頂けましたよね」
「たとえ双子であったとしても、身体のパーツの配置は微妙に異なる。完全に重なるというのは同一人物としか考えられない」
写真家さんらしい見解である。アクアは桜井さんのこの言葉を半月ほど後に思い出し、ある重要事件の解決方法を思いつくことになる。
「別に双子の姉妹とかいませんし」
とアクアは言うが、少し後ろめたい。でもそれを顔に出すようなアクアではない。このあたりは俳優(女優?)として鍛えられている。
「まあ今年はいいわ。でも来年も撮らせてよ」
「はい。ぜひお願いします」
「今度こそ、女の子モードのヌードで」
「あはははは」
そういうことで、今年は桜井さんは妥協してくれたのである。
ちなみにこの日撮った写真は、あそこに猫の絵を貼って隠した上で写真集の最後のページに掲載された。
そして桜井さんの小学生の娘さんに書かせた丸文字で
「アクアのセミヌード撮っちゃった」
というコメントを付けたのであった!
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