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■春転(2)
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ちなみにこの日のデートは中断されることになる。《こうちゃんさん》から
「お前の苗字のことで週刊誌が報道してて、記者会見して明確にしたほうがいいとコスモスが言ってる」
という連絡が入る。それで龍虎はMと連絡を取り、こういうことをしたのである。
・和城理紗に代々木に居たMをマンション裏に転送してもらう。
・《こうちゃんさん》にMを事務所に転送させる。
・Mが記者会見に出る。
・会見終了後、《こうちゃんさん》にMを再び川口市のマンションに転送してもらう。
・和城理紗がMを浦和の千里の家に転送する
・Fは明け方、理史とのデート終了後(朝食後)、バイクで100m走った所で《こうちゃんさん》に代々木に転送してもらう。
それで、Fは記者会見をしているMをネットで見ながら、理史といちゃいちゃしていたのである。Mもこの日は彩佳とナイトライフをせずに純粋に睡眠を取ることができて、結構疲れが取れた。
またこの夜、Fは理史を初めて八王子の家に招待した。
交通量が少し減った21時過ぎ、理史のCR-ZをFが運転して、八王子の家まで連れて行った。
「こんな所にポルシェを置いていたのか」
「むしろここはポルシェを置くためだけに確保した土地なんだよ。だからその家はとっても狭い」
と言って、家の中にも入れる。
「ほんとに狭い」
「駆け出しの頃に買った物件だから。このくらいが当時のボクの経済力では限界だったんだよ。でもさすがに狭いから、もう少し広い場所に移動しようかなとも思ってるんだけどね」
理史は彼女の言い方に違和感を感じた。まるでここにいる子が6年前からアクアとして活動していたかのような言い方である。以前聞いたのでは2人が“アクア”を分担して演じるようになったのは2017年からという話だった。しかしもしかして最初からアクアって2人でやっていたとか??
この子はまだ自分に何か重大な秘密を隠している。
アメリカで結婚するなんて嘘ついた理由もまだ話してくれないし。
「龍、今ならお金には困ってないだろうし、せめて200坪程度の土地を買って、そこにこのガレージ移して、家はもう少し大きいの建てればいいと思う」
「工務店さんも同じ意見だった。ガレージを立体駐車場に改造するなら、その費用で土地が買えるって。それでとりあえず土地を探してる所なんだけどね」
と言って、Fは《じゅうちゃんさん》から連絡無いけど、なかなか見つからないのかなあ、などと考えていた。
“1時間後”、龍虎はバッグの中から小さい紙袋を取りだした。
「取り敢えずサトシにもここの鍵預けておくよ。これ門のリモコン、こちらこの建物の鍵。どちらもコピー作ってもらった」
「門のリモコンって、これ普通に押せばいいだけかな」
「そうそう。ガレージは空いてるから適当に使って。門の前まで来てリモコンのボタン押したら門が開く。出る時は門の前でボタン押したら門が閉じる。まあ放置してても5分後には閉じるけどね」
「分かった。ありがとう。預かる」
それから2人は下着を整えて、川口市のマンションに戻った。
今日は1日中一緒にいたので、さすがに立たない。そしたら龍はフェラをしてくれた。理史は至福の思いだった。
そのまま朝まで一緒に眠った(純粋に眠った)。
もうすぐ日が昇る夜明けの空の下、龍虎がNinja250で走り去って行くのを見送り、理史は自分の部屋に戻ってから、少し考えた。
やっぱり何か変だ、と理史は思った。
昨日、龍(マクラ)は僕に自分のパスポートを見せてくれた。そこには確かに「長野龍虎・女」と記載されていた。一方、アクアはテレビの記者会見で「長野龍虎・男」と書かれたパスポートを見せていた。
ふたりは従兄妹同士で、偶然同じ日に生まれ、各々の親同士が当時連絡が取れない状態になっていたから、偶然同じ名前を付けてしまったと言っていた。
だいたいその話ができすぎている。
そもそも“龍虎”という名前は男の子には付けるかも知れないけど、女の子に付ける名前ではない気がする。
山梨の旅館で会った時、龍(マクラ)は、あのポルシェを父の遺品だと言っていた。父母を幼い頃に亡くして、自分は田代の両親に育てられたとも言っていた。
それって、アクアの話じゃん!
龍(マクラ)と話していると、しばしば彼女の話というのは、アクアの過去の話と重複している。
ひょっとして、実は龍こそ“アクア”だということはないか?そしてむしろ男の子のアクアのほうが龍の従兄弟だということは?顔が似ているからスタンドインを務めていたということは充分ありえる。
でも“アクア”が実は龍であって、女の子だったとしたら、男の子を装う理由が分からない。アイドルは女の子として売った方が絶対有利だ。市場規模がまるで違う。
そんなことを理史は考えていたのだが、考えている内に、あちこちこんがらがってしまって、訳が分からなくなってしまった!
まあいいや。龍(マクラ)は、その内、自分のことはきちんと説明すると言っていた。それを待つしかないかも知れない。あの2人には何か複雑な事情が存在している。
理史はこの日はそのあたりで考えるのをやめた。
熊谷の郷愁プールで合宿をしていた、水泳の日本女子代表・長距離組は4月15日にここでの合宿を終え、16日 G450で能登空港に飛び、津幡に移動した。結局、水野コーチも津幡まで付いてきてくれることになった。水野コーチの費用に関しては、報償は水連から引き続き出るが、滞在費は若葉の好意でもってもらえる。
久しぶりに津幡に来た金堂だが、部屋は竹下リルの部屋の隣に取ってもらっていた。ここでオリンピックまでひたすら練習することになる。彼女の滞在費も全て若葉が出す。日本代表への個人的な支援である。金堂を歓迎し、エア握手した若葉は
「久しぶりだね、多江ちゃん。遠慮無く、たくさん食べてたくさん泳いでね」
と笑顔で言った。
「ありがとうございます。たくさん食べます」
「よしよし」
きっと金堂家ではお母さんが御飯をうっかり炊きすぎて困ってそう、と青葉は思った。
なお、津幡組でNTC-E/JISSでの日本代表合宿に参加していた女子短距離の希美と夏鈴、および津幡組唯一(?)の男子・筒石は、16日に新幹線で熊谷に移動して、女子長距離陣が出た後の郷愁ブールでしばらく練習することにした。
実は・・・隔離なのである!
この3人は合宿中に多数の選手・コーチと接触したのでオリンピックの日程が迫っていることもあり、2週間の隔離をジャネが指示した。
3人の中で筒石は
「俺コロナには1度かかったから、もうかからないよ」
と主張したが
「いや、君康なら分からん」
とジャネは言っていた。
実際には彼にはマラが付き添って、練習に付き合い、食事などの世話もしてくれる。マラは希美と夏鈴にも色々指導をしてあげていた。
ジャネ(マソ)はマラに「君康が部屋を汚させないように監視して」と依頼している。過去に筒石が滞在した部屋はしばしば“改修工事”が必要なほど破壊されており、何事にも寛容な若葉から、さすがにジャネに苦言があった。
なお2週間後の隔離明けには、マラが君康のボルボを運転して彼を津幡に運ぶ予定である。希美と夏鈴については、布恋か百合花が車で迎えに行く予定である。
4月24日(土)、17時で仕事が終わった舞音は熊谷の郷愁飛行場に連れて行かれ、Honda-Jet
Orangeでセントレアまで飛んだ。
「この色のホンダジェットは初めて乗った」
と舞音が言うと
「ホンダジェットは5機体制になるらしいよ」
と村上麗子が言う。
「へー!」
「2機新たに注文して、それは夏頃導入されるらしいけど、この機体はキャンセル品を1割引で買ったらしい」
「ああ、今のご時世なら、キャンセルする所あるでしょうね」
「そのオレンジの機体の処女飛行だよ」
「すごーい!」
この日はホテルで休む(実家に泊まってもいいのだが、実家だと親御さんの手前、あまり早朝には連れ出しにくい(←違法労働行為)のでホテルになった)。
朝(?)3時に起こされる。悠木恵美の運転する車で現場まで行く。撮影場所は東側が開いている県道34号線で、半田市に入っている。この日の半田市の夜明けはこのようになっている
天文薄明開始 3:37
航海薄明開始 4:10
夜明け___ 4:35
市民薄明開始 4:42
日出____ 5:09
ライダースーツを着るが、黒い人工皮革(合成皮革より丈夫)のスーツで、胸に Tact, 背中に Mane と赤い文字で入っているのが格好いい。ついでに舞音のシンボルマークとなった招き猫の絵も入っている。同伴しているメイク係の重信さんがメイクしてくれる。
撮影は天文薄明が始まった3:40頃から始まった。
悠木恵美にリハーサル役をしてもらうことにし、舞音と同じライダースーツを着てスクーターで走行し。それで構図などが検討された。1時間ほどリハーサルを兼ねた試行錯誤がされて、4:40頃から舞音本人を使って撮影を始める。但し高校生の舞音は22:00-5:00 の間は使えないので(使ってるじゃん!)、実際に放送に使用する映像は5:00以降に撮影したものだけにするという話だった。
舞音は実は道路で走るのは初めてだったので最初はちょっと不安だったものの、持ち前の度胸で何とか走行した。それで何度も道を往復している所を撮影される。
しかし東に向かって走っている時にちょうど朝日が登ってきて、とても美しい映像が撮れた。
これがCMでメインに使われることになるが、この映像があまりに美しかったので、この後、スクーターやバイクで朝日に向かって走る“舞音ごっこ”が若い人たちの間で流行ることになる。
スクーターのそばに立つ写真なども撮影したりしていたので、撮影が終わったのは7時頃である。セントレアに行って Honda-Jet
Orangeで郷愁飛行場に移動する。ホテル昭和内に部屋を取ってもらったのでそこで仮眠した(悠木恵美と村上麗子も別の部屋で仮眠した:メイクさんは先に東京に帰った)。
そのあと、お昼からSCCのドライバーさんに東京まで悠木恵美・村上麗子と一緒に運んでもらい、午後からはまた別の仕事をした。
「遠征しても休ませてはもらえないのね」
などとさすがにちょっと疲れた舞音がグチをこぼすと、
「こないだ羽鳥セシルちゃんは沖縄日帰りで仕事したらしいですよ」
などと村上麗子がいう。
「ひゃー!」
「完璧にブラック企業だね」
と悠木恵美が笑って言っていた。
「アクアは北海道と九州を1日で掛け持ちなんてのもあったみたいだし」
「恐ろしい」
「ローザ+リリンはグアム日帰りをやらされたらしい」
「信じられない!」
11日にバスケットの第1次合宿を終えた千里は4月16日から25日まで、第2次合宿に参加した。場所は前回と同じ北区NTCである。第1次は30名招集されていたが、第2次に招集されたのは22名である。いきなり8名カットされた。これで千里・玲央美・亜津子よりも上の年齢の選手はいなくなった。
「恐いなあ。次にカットされるのは私たちだね」
「まあパリが終わったら引退してもいいかな」
「早いね。私はロサンゼルスまでやるつもりだけど」
「なんか、おばあちゃんの会話になってる気がする」
3人は若い選手たちと積極的にマッチングの練習をし、そもそも若い選手の倍練習していた。
「123コンビは強すぎるし、物凄いエネルギー」
とナナ(青葉の親友・寺島奈々美)が言う。
「ナナには今回のオリンピックでは私を抜いて正シューターになってもらわないと」
と言うが
「無理ですー」
と本人は最初から諦めている。
「まあ私とレオはフランスリーグで鍛えられているし、ハナはWNBAで鍛えられているしね」
「WBDAにもサンに似た選手がいるという噂を聞いたのだが」
と亜津子が言う。
「へー、そうなんだ?」
と千里は取り敢えずしらばっくれておく。
昨年は結局WBDAには行けなかった。千里以外にも、アメリカに入国できなかった選手、隔離期間の問題で自国リーグを優先して参加を見合わせた選手は多かった。初期の段階では国境を越えての移動ができず、カナダのチームが参戦できないなどの問題も起きた。
今年はどういう形での開催になるのだろうか。この時期、明確な入国時の検疫記録がないと活動できないから、アメリカ・リーグへの参戦は実はハードルが高い。千里にしても玲央美にしても、フランスリーグにはヨーロッパ(正確にはシェンゲン圏)から出てないことにして参戦している(実際各々が使用しているパスポートには入出国記録が無い)
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