広告:Back-Street-Girls(12)-ヤングマガジンコミックス-ジャスミン・ギュ-ebook
[携帯Top] [文字サイズ]

■春転(12)

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 
前頁 次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

12時頃、甲斐姉妹と一緒に旅館の地下に行った。電気自動車の大型バスで伴奏者などと一緒にステージ下に移動する。
 
「柴田さんだっけ?すっごい可愛いね」
などとフルートを手にした伴奏者さんが数紀を見て言う。彼女も白いドレスだが、シンプルなものである。
 
「このドレスは可愛いですけど」
と数紀は言っておく。
 
「いや本人が充分可愛い」
とトランペットを持った人が言う。
 
「この子に芸名無いの、不便だよ。何か名前付けちゃおうよ」
とエレメントガードのリーダー、ヤコが言う。
 
「じゃ凄い美少女だからビーナスで」
と川井唯さん。
 
うっそー!? そんなの恐れ多いと数紀は思う(女の子名前ではないかという問題には気付いていない)。
 
↓ ↑ Bottom Top

「ビーナスは長すぎるからビーナで」
とアクアのメインマネージャーの山村さんが言った。
 
「ビーナを弾くビーナスだな(*9)」
などとヤコさんが言っている。
 
それで数紀の芸名は“ビーナ”になってしまったのである。
(後でコスモス社長が“苗字”を付けてくれて“水森ビーナ”になる)
 
ちなみに誰も数紀が男の子であることに気付いていない!
 
(*9)ローマ神話のビーナス(ギリシャ神話のアフロディーテ)に相当するインドの女神はサラスヴァティで、サラスヴァティが弾く楽器がビーナである。これが日本に来ると、琵琶(びわ)を弾く弁財天に変化する。
 

↓ ↑ Bottom Top

既に舞台のセットは組み立ててあった。午前中に組んだのだろう。
 
13時ジャストにリハーサルは始まる。こういう大きな会場で、多数のバックバンドとバックダンサーの前で歌うのは本当に壮絶快感だった。数紀は、自分もその内、自身のライブでこういう体験ができるようになりたいなあと思った。
 
長時間に及ぶのでダンサーの子たちは2班に分けて交替で踊らせた。でも数紀は1人で歌っていく。
 

↓ ↑ Bottom Top

後半は衣装が変わり、王子様風の衣装を着て歌った(スリップを脱いでブラとパンティも交換した上で、キャミソールとペティパンツを着け王子様衣装を着た)。着替え時間をストップウォッチで測られた。本番の進行の参考にするためらしい。
 
本番は2時間なのだが、リハーサルでは様々なことを確認したり、リテイクしたりもしたので3時間半ほどに及んだ、
 
リハーサルの最中に観客席に書き割りやモニターが並べられていくので次第に満員の観客という雰囲気になっていく。これいいなあと数紀は思った。
 
リハが終わったのは16時半頃であった。
 
「お疲れ様でしたー」
「ありがとうございましたー」
 
それでこの日は晩御飯(通常の夕食にプラスして、ケイ会長が「サービス」と言って、しゃぶしゃぶを追加してくれていた)を食べてぐっすりと眠った。
 
↓ ↑ Bottom Top


数紀はリハーサル役なのでこの日だけで仕事は終わりだったのだが、山村さんが数紀に言った。
 
「君、どうせなら、本番にも参加しない?バックダンサーに入って踊りなよ」
「でも私、バックダンサーの振付までは覚えてないです」
「なーに、隣の子の動き見て、同じ動きすればいいんだよ」
「それなら何とかなるかな」
 
それで数紀は本番にもバックダンサーとして参加することになった。
 
そして翌日本番前に
「これ本番のダンサーの衣装です」
といって渡されたのは、アクア・マークの入った上着と短いプリーツスカート、それにアクア色のアンダースコートである。ライブ用だからか、信濃町ガールズの通常のユニフォームより可愛い。
 
↓ ↑ Bottom Top

「スカートなんですかぁ?」
「スカート嫌い?足に傷があるとか?」
「嫌いではないですけど」
「じゃ問題無いね。よろしく」
 
ということで、数紀はスカートの衣装をつけて本番に参加した。
 

↓ ↑ Bottom Top

実際のバックダンスはあまり難しいパターンは無く、幾つかの基本パターンの組合せだったので3曲目あたりからは、特に意識しなくても踊れるようになった。
 
(実は地方ガールズのダンスはあまり集団練習ができないので元々単純な組合せになっている。実は全員、両端のリーダー・サブリーダーの動きを見て真似してる!)
 
しかしバックダンサーに加わることで、物凄く間近でアクアの歌唱を見ることになったが、この人凄い!と数紀は思った。
 
人気があるし、売れる訳だと思う。
 
物凄く上手いし、物凄く可愛い。
 
ドレス姿で歌った前半も可愛いかったし、後半の王子様衣装でも、美少女的魅力があふれている。やはりこの人、女の子だよね?だからドレスを着たんだ!
 
↓ ↑ Bottom Top

ライブ終了後、数紀は司会の甲斐姉妹・伴奏者たちと一緒にG450で郷愁飛行場に帰還。SCCのドライバーさんに男子寮まで送ってもらい、ぐっすりと寝た。この夜は夢を見たが、夢の中で数紀はステージのフロントに可愛いドレス姿で立ち、満員の観衆を前にして熱唱していた。
 

↓ ↑ Bottom Top

アクアは5/16のライブの後は、17-18日に『シンデレラ』の撮影に戻り、5/18夜遅くまで掛けてそれが終了する。
 
その後今度は昨年撮った『サーファーの夏』と似たような路線のドラマと言われて、1時間×4回の短期間ドラマ『夏の飛び魚』という作品に出演する。このドラマでアクアは、オリンピックを目指す(男子)水泳選手の役をした。
 
要するにボクの“平らな”胸をテレビに映すことが目的なんだ?とアクアは思った。『シンデレラ』はほとんどをFが演じた(Mはライブの練習をしていた)が、こちらは上半身裸を曝さなければならないのでMが演じた。この撮影が、5/20-27に行われたが、アクアは休む間もなく、5/29-6/02 には、つくばみらい市の“ワープステーション江戸”に行き2時間ドラマ『わらしべ長者』の撮影をした。
 
↓ ↑ Bottom Top

これはわらしべ長者をアクアが演じ、商人の娘を坂出モナが演じた。
 
モナはアクアを女の子だと信じているので、抱擁シーンなども平気で演じる。彼女と抱き合う所はアクアFが演じるが、それで抱き合うと女の子の感触だから、モナは益々アクアが女子であることを確信する。
 

↓ ↑ Bottom Top

柴田数紀はライブの翌日5月17日(月)、学校が終わったら事務所に来て欲しいと言われた。SCCのドライバーさんの車で信濃町の事務所まで行く。
 
川崎ゆりこ副社長が
「数紀君、おはよう」
と笑顔で声を掛ける。
 
「おはようございます」
とこちらも挨拶する。
 
「ライブはお疲れ様」
「いえ、ありがとうございます。楽しかったです」
 
「それは良かった。まあ入って入って」
と言われて、会議室に一緒に入る。事務のスタッフがショートケーキと紅茶を持ってきてくれる。数紀はお腹がすいて来ていたので、ありがたく頂いた。
 

↓ ↑ Bottom Top

「君を指名してCM出演の話が来ているんだけど、やる?」
と川崎ゆりこが言うと
 
「はい、やらせてください。どこのCMですか?」
と数紀は訊いた。
 
何のCMかも訊かずに即OKするのはタレントとして筋がいい。さすが高崎ひろか・松梨詩恩の妹(弟だっけ?)だな、とゆりこは思った。
 
「家電メーカーなんだけどね」
「へー。でも私を指名って、どこで私を見られたんでしょう?」
「今年初めに根室で“氷の家”のCM撮ったでしょ?」
「はい」
「それに出てた黒いコートの子が可愛いかったといってご指名なのよ」
「へー!」
 
「ギャラは100万円で、君はB契約だから、2割が君の取り分になる」
とゆりこが言うと
「すごーい、“2万円も”もらえるんですか!」
と数紀は言った。
 
↓ ↑ Bottom Top

ゆりこは一瞬、この子って、ひょっとして馬鹿?と思ったものの気を取り直す。
「2割というのは20%のこと。だから君の取り分は20万円」
「うっそー!?」
 

↓ ↑ Bottom Top

先方に連絡すると、今日いいですよということだった。それで18時半頃に向こうに行くことにした(現在は16時くらい)。
 
数紀はミドルボイスのトレーニングの件も訊いてみたが、じゃ通うといいよと言い、仕事の無い日の放課後に通うことになった。送迎はSCCのドライバーにさせるし、受講費も事務所で出すと言われた。
 
「でも君、汗掻いてるね」
「ええ」
「じゃシャワー浴びてきてよ。この廊下右手に行ったとこにシャワールームあるから」
「あ、すみません。着替えを持って来てなくて」
「そのくらい用意するよ」
 
それで“着替え”とバスタオルはシャワーを浴びている間に用意させると言われ、数紀はシャワールームに行った。それで服を脱いでシャワーを浴び、身体も髪もきれいに洗った。あがってからバスタオルで拭き、着替えを着ようとしたら、女の子下着だ!
 
↓ ↑ Bottom Top

うっそー!?と思ったが、まあいいかと思ってそのままパンティとブラジャーを身につけた。アウターは可愛い感じの、袖も丈も短いスカイブルーの厚手Tシャツとショートパンツのようである。袖にはフリルも付いてる。でもこのTシャツならブラジャー着けててもブラ線は見えないなと思った。ただ丈が短いから、おへそが出そうだ。ショートパンツをできるだけ上にあげて穿く(結果的にミニ丈になる)。このショートパンツ、裾が広いなと数紀は思った。
 

↓ ↑ Bottom Top

それで事務所に戻る。
 
「おお、可愛い可愛い」
とゆりこ副社長は笑顔である。
 
「この服、なんか可愛すぎて恥ずかしいです」
と数紀。
 
「いや可愛くなるのは問題無い」
とゆりこは言いながら、やはりこの子、スカート穿くのは平気なんだな?と思った。ブラジャーも着けてるし。むろん彼に渡したのはキュロットである!
 
こういうシチュエーションで篠原君とかは「すみません。男物の服を下さい」と言うが、木下君などはそのまま着ちゃう。それでゆりこはこの子は木下系だなと判断した(セレンやクロムなら女の子の服を喜ぶ)。それにこの子、木下君同様、睾丸の働きが弱い(多分機能停止してる)みたいで、喉仏も目立たない。声変わりは済んでいると聞いたけど今でも女子並みの声だ。ライブのリハーサルではアクアのソプラノボイスと変わらないピッチで歌ったというし。更にこの子、話し方が女の子だから、会話の相手は女の子だと思う。お父さんが仕事で不在がちで母・姉と女家族で育ったせい?きっと友だちも女の子ばかりだったんだ。
 
↓ ↑ Bottom Top

「そうそう。君の芸名はアクアのイベントの時に“ビーナ”と命名されたようだけど、コスモス社長が苗字を考えてくれたよ」
 
「わあ、苗字ですか」
「“水森ビーナ”というのでいい?」
「はい、なんかかっこいいです」
「ビーナスというのは水の女神だからね。それで水森」
「へー。でも雰囲気いいですね」
 
気に入っているようである。“女神”の名前というのも気にしてない。
 
などと思いながらも、ゆりこは彼(彼女?)に“水森ビーナ”名の名刺を1箱渡した。
 
「名刺なんてすごーい」
とまた喜んでいた。
 

↓ ↑ Bottom Top

付き添いに、ベテランの佐藤ゆかを付けて行かせた。佐藤ゆかは、数紀をまず美容室(実は先週の内に予約済み)に連れて行き、少しカットして可愛い感じの髪型にしてあげた。それから、CMを撮影するスタジオに行く。これが18:20くらいであった。
 
「おはようございます」
「おはようございます」
と先方と挨拶を交わす。
 
「こちら新人の信濃町ガール、水森ビーナです」
と佐藤ゆかが紹介してくれる。
 
「水森ビーナと申します。まだ信濃町ガールズに入団したばかりで右も左も分かりませんが、よろしくお願いします」
と言って、数紀は名刺を渡した。
 
「可愛いね!」
と名刺を受け取った、メーカーのお偉いさんっぽい50代の男性が言った。
 
↓ ↑ Bottom Top

「氷の家のビデオで見た時も可愛いと思ったけど、間近で見るとほんとに可愛い」
 
別の30代の男性が言った。
「君、松梨詩恩ちゃんに似てるね」
 
それで数紀は答える。
「松梨詩恩は私の姉なんです」
 
「なるほどー!詩恩ちゃんの妹さんか。可愛い訳だ」
「いえ、私、弟なんですけど」
「またお茶目なこと言うし」
と言って笑われてしまう。どうもジョークだと思われたようである。
 

↓ ↑ Bottom Top

それで性別問題はスルーされてCM制作に入る。
 
ブラウスとタータンチェックのスカートの衣装を渡された。スカート〜?とは思ったものの、スカートを穿かされるのは慣れているのて、言われた通りの服装に着替える。リボンも結ぶ。
 
撮影するのは、新製品のヘアドライヤーのCMということであった。既にシナリオができているので、渡して説明される。
 
数紀は撮影のために髪を濡らされ、それでセリフを言ってからヘアドライヤーを当てる所を撮影された。事務所でシャワーして、美容室でもシャワーして、ここで3度目だ!
 
しかし数紀がニコニコ笑顔で撮影されるので、ディレクターさんも
 
「いいよ。いいよ」
と言ってくれた。
 
衣装は何種類か着替えながら撮影する。女子高制服を数種類に女子用パジャマ、ネグリジェみたいなのもあったが、まあいいかと思ってそれを着て撮影された。
 
↓ ↑ Bottom Top

CM撮影は3時間ちょっとかかった。
 
その間に髪を20回以上濡らしては乾かしというのをしている。髪が乱れていると絵にならないので、しばしば美容師さんにきれいに髪をまとめてもらった。
 

↓ ↑ Bottom Top

撮影終了後、佐藤ゆかの運転する車で男子寮に送ってもらった。
 
翌日は数紀が昨日カットしてもらった髪のまま登校したら、女子の友人たちが
 
「かずちゃん、髪が可愛いよ」
「もっと可愛い髪にすればいいのにと思ってた」
 
などと言って、褒めてくれたので、数紀は気分が良かった。
 
 
↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁目次

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 
春転(12)

広告:椿姫彩菜フォトブック C'est ma vie