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■春転(23)

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「その問題については、理史にショックを与えるだろうと思う説明をする必要がある」
とマクラは厳しい顔で言った。
 
「まずボクたちの身体を見て欲しい」
とマクラは言う。
 
「ボクはサトシの恋人だから、ボクがここで裸になってもいいよね?アクアは男の子だから、男の子のサトシの前で裸になってもいいよね」
 
と言って、2人ともその場で服を脱いで全裸になってしまった。男の子の方も女物の下着を着けていたのは気にしない!彼はショーツ姿ではそこに何も付いてないように見えたのに脱ぐとちんちんがあったのは少し驚いた。どうやって隠してたんだ?
 
男の子アクアの男性ボディ、女の子アクアの女性ボディが露わになる。2人は本当にそっくりだ。
 
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「体型が完全に同じだ」
「でないと代役ができないからね」
「何なら身体のパーツの寸法を測ってもいいよ。全部同じだから」
 
ふたりは本当に完全に同じ体型である。違いは、女の子アクアにはバストがあるのに男の子アクアには無いこと、男の子アクアには男性器が股間にぶらさがっているが、女の子アクアにはそのようなものがないことだけである。
 
しかし理史は戸惑った。
 
「どうして2人ともお腹に手術跡があるの?」
 
理史はマクラに手術跡があるのは知っていたので、そのことからもマクラの方が実は“アクア”の本体で、男の子の方はその双子の兄弟かと思っていた。しかし、男の子の方にも同じ傷跡があるのである。
 
「ボクたちは2人であり、かつ1人なんだよ」
とマクラは言った。
 
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「どういう意味?」
 
「この件に関しては、村山千里さんが深く関わっている」
とアクアは言う。
 
「千里さんに聞いてもしらばっくれるから確定ではないけど、多分ボクの命は千里さんに依存している」
 
「というと?」
 
2人は各々服を着た。
 
「今逆に服を着た」
「サトシ、観察眼が鋭いよ」
 
そういう訳で、男の子アクア(以下アクアM)が赤い服に赤系統のスカートを着て、女の子アクア(以下アクアF)が青い服に青系統のスカートを着てしまったのである。
 

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「お腹空いたよね」
と言って、赤い服を着たアクアが、冷蔵庫の中からオードブルのようなものが乗った皿をいくつも持ってくる。一部の皿はレンジでチンする。小皿多数とお箸、フォークも持ってくる。
 
「これ輪島塗のお箸だけど、この黒いのを理史のにするから使ってね」
「分かった」
 
赤い服を着たアクアMは緑の箸、青い服を着たアクアFは赤い箸を使っている。
 
「飲み物も自由に飲んでね」
と言って、ワイン、ビール、チューハイ、ほうじ茶(冷)、日本茶(暖)なども並べた。
 
「ビールもらう」
と言って、理史はベックス・ビールの350cc缶を氷で満たした箱の中から1個取り、蓋を開けて少し飲んだ。
 

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アクアたちは説明を続けた。
 
「ボクは本当は2008年8月1日の手術で死ぬ運命だったんだと思う。ところが映画にもなったけど、ボクは手術前夜に、千里さんに連れられて龍に乗って空を飛び、津軽半島の付け根付近にあるウィタエ(浮田江)という潟湖に行った」
 
「実はお祖母ちゃんの生まれ故郷なんだよ。どこか見たい所あるか?と聞かれて、お祖母ちゃんから聞いてた故郷(ふるさと)を見たい気がしたんだよね」
 
「その湖の傍で千里さんは龍笛を吹いた。凄く美しい調べだった。そしたら湧き水が出て来たんだよ。土地神様が千里さんの笛の御礼に湧出させてくれたと龍のおじさんは言ってた。ボクはその湧き水が美味しそうだったから飲んだ。龍のおじさんは、この水をアクア・ウィタエと呼んでいた。ボクの芸名は本当はこの湧き水が由来なんだよ」
 
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「へー!」
 
「アクア・ウィタエは、浮田村の入江(であった潟湖)のそばで湧く水という意味だけど、ラテン語として読むと“命の水”(Aqua Vitae) ということになる」
 
「へー!!」
 
「ボクはここの水をたくさん飲んだ。何杯飲んだか分からないくらいたくさん飲んだ。そしてこの命の水のおかげで、ボクは明日死ぬはずだったのが寿命が延長されたのだと思う」
 
「うーん」
 
「だからボクの生命自体が、千里さんと深く関わっていると思うんだよね。これが前提の話」
 
「うん」
 
(龍虎は霧島大神がした“余計な親切”については認識していない)
 

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「2017年4月16日23時頃、千里さんはバスケットボールの代表合宿をしていたんだけど、親友でルームシェアしている高園桃香さんから、子供が産まれそうという連絡が入って、様子を見に行こうとした。そこに雨宮先生から電話が入り、タイで財布を無くしたから助けにきてくれと言われた。更に別のお友達からも風邪で熱が出て動けないから助けてと連絡が入った」
 
「身体が3つ欲しいね」
 
「でしょ?それで千里さんも『身体が3つ欲しい』と叫びながら、合宿所を飛び出して駐車場に向かおうとしていた。そこに落雷があったんだよ」
 
「えっ!?」
 
「そしてこの雷に打たれたショックで千里さんは3つに分裂してしまった。1人は子供が産まれそうな桃香さんを助けに行き、1人は雨宮先生を助けに深夜の飛行機でタイに飛び、1人は風邪で倒れているお友達を助けに行った」
 
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「待った。なんで人間が3つに分裂するのさ?」
 
「千里さんに訊いたら、よく分からないけど、バナナ・タルタルソースとかって難しい説明された(*14)」
 
(*14)バナッハ=タルスキー(Banach-Tarski)の定理。球を3次元空間内で有限個の部分に分割し、それらを回転・平行移動操作すると、元の球と同じ大きさの球を2つ作ることができる。これは無理数は分数で表せないという性質をうまく使っている。基本的には「賢いホテルの支配人」問題と同じ仕組みである。まるでパラドックスのように見えて実はどこにも矛盾は無い。もっとも千里の説明には誤魔化しがあり、人間は球のように回転合同ではないし、無限個の点ではなく有限個の粒子で構成されているので、バナッハ=タルスキーの方法にそって同じ人間を2人作ることは不可能である。
 
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「バナナのタルタルソースでどうして人間が分裂する?」
「でもケイさんとか、どう考えても5人は居るよ」
「あの人、そのくらい居るよね!?」
と理史も納得する!?
 
「たぶんローズ+リリーのケイが1番さん、KARIONの蘭子=水沢歌月が2番さん、この2人が別人なのは確実だと、美空さんも言ってる。蘭子さんに話したことをケイさんが知らなかったりするんだって」
「なるほどー。ふたつのユニットを兼任できる訳無いと思ったよ」
 
「あと、紅石恵子が3番さん」
「紅石恵子ってケイさんなの?」
「そうそう。あまり知られてないよね」
「あんなにたくさん曲を書いてるのに。だったらローズ+リリーやってる人と同じ人の訳が無い」
 
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「そして§§ミュージックの会長してるのが4番さん」
「あれ会長の仕事だけで他は何もできなくなるよね?」
「でしょ?コスモス社長もほとんど音楽活動できてないもん」
 
「それ以外に弁護士さんと婚約してるのは別人だと思う。どのケイさんも忙しくて男性と交際する時間なんて無いもん」
「ケイさんは実質マリさんとビアンの夫婦でしょ?他に婚約者がいるのは変だと思ってた。二股までする余裕なんて無いはずなのに」
 
「だからケイさんは最低でも5人はいる。千里さんの予想では8人、丸山アイさんの予想では10人というんだけどね」
 
「10人いても不思議ではない気がする」
と理史は言った。(なんか誤魔化されたような気もした)
 
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「それで千里さんが2017.4.16に3分裂しちゃったらボクも3分裂しちゃった」
 
「はあ?」
 
「恐らく、ボクの存在が千里さんに依存してるから、千里さんの分裂の巻き添えでボクも3分裂しちゃったんだと思う。正確には“巻き添え”というより“共鳴”だと言われた。ビルでガス爆発とかあった時に、少し離れた場所にある同じ高さのビルが共鳴で揺れるのと似たような現象だと」
 
「ボクは当時死ぬほど忙しかったから3人になったのを幸いに3人で分担して仕事をするようになった」
 
「それでツアーを3人で分担して日替わりで歌ったし、写真集の撮影も3人で分担して撮影された」
 
「うーん・・・」
 

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「だからボクは元々1人なんだよ。試してみるね。サトシ、ボクにだけ見えるように紙に数字を書いて見せて」
と青い服を着たアクアFが言う。
 
「うん」
 
それで理史はアクアFから渡された紙に「23」と書いて、彼女にだけ見せた。
 
「Mちゃん、サトシが書いた数字は何?」
とFが訊くと赤い服を着たアクアMは
「23」
と答える。
 
「じゃ次は男の子アクアにだけ見せて」
「うん」
 
それで理史は今度はアクアMにだけ「3.1417」と書いたものを見せた。Fの方が
「3.1417」
と答える。
 

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「ボクたちは元々1人だから記憶を共有する。だからドラマの台本とかは2人で手分けして読んで、倍の速度で覚えちゃう」
 
「便利だね!」
 
「不便な時もあるんだけどね。ひとりが電車を降りようとすると、もうひとりもつられてうっかり降りちゃったりする」
 
「それは大変だ」
 
「ここにアルコールチェッカーがあります」
と言ってアクアFはテーブルの引き出しから小さな機械を取り出す。
 
「呼気チェックします」
と言ってFは自分の呼気をアルコールチェッカーに吹きかけた。
 
「ゼロです」
と言って、Fは表示を理史に見せる。
 
「Mもやって」
「うん」
 
それでMも呼気を吹きかける。
 
ゼロである。
 
「こちらにワインがあります。未成年飲酒します」
と言って、Fはテーブルに乗っていた赤ワインをグラスに注ぎ、それを飲む。
 
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「呼気チェックします」
アクアFが呼気を吹きかけると 0.03 mg/L と表示された。
 
「Mやってみて」
「うん」
と言ってMが呼気を機械に吹きかける。
 
0.04mg/L と表示される。
 
「嘘!?」
 
「0.01は測定誤差かな」
とFは言っている。
 
「ボクたちは体液も共通なんだよ。だから片方がお酒を飲むと相手も一緒に酔う」
 
「便利なんだか不便なんだか」
 
「2人がグラス1杯ずつ飲むと、2人とも2杯飲んだ状態になるから気をつけないといけない」
 
「大変だね!」
 
「ボクが生理中の時はMも生理痛を味わう」
「ほんとに大変そう」
 
「ボクが出産したらMも出産の苦しみを味わうだろうね」
とFが言うと、理史は無言になり、ドキドキしたような顔をしている。
 
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「片方が怪我すると、他方も同じ場所に傷ができる。試してみようか」
「それはやめて!」
 
「ボクが赤ちゃん産む時に会陰切開されたら、きっとMも切られてる」
 
「それ覚悟はしてるけど、どこか切れてるか、ちょっと恐い」
 
「きっとちんちんが切断されてるよ」
とFが言うので、理史は思わず自分のお股に手をやった。
 

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「ただ何でもかんでも筒抜けになるのは不便だから、自分で相手には流したくない情報はブロックできる」
「ああ。なるほど」
「だからセックスする時は全部ブロックする」
とFが言うと、理史は赤くなってる。
 
「Mが彩佳とセックスしてる時の状況をボクも体験してみたいけど、Mったら全部ブロックするし」
「当たり前だろ!」
 
「もしかして週刊誌が報道した女の子?」
 
「3人の中の1人が彩佳。その子がMの恋人。他の2人はその親友だよ。でも彩佳とMの関係を認めたら、彩佳がファンに殺されかねないから、全員恋愛関係は無いって否定しておいた。まあ視聴者は女の子であるアクアが女の子と恋愛はしないだろうと信じてくれたみたいだけどね」
 
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その時理史は初めて気付いた。
 
「もしかして僕やばくない?」
「サトシがファンに殺されたら盛大なお葬式してあげるから安心してね」
「安心できないよ!」
「生命保険入ってたほうがいいかもね」
 

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「あれ?でもさっき3人に分裂したとか言わなかった?」
 
「2017年4月にM,F,Nの3人に分裂したんだけど、去年2020年1月5日に、Nがボクの中に吸収されて2人になっちゃった」
とFは厳しい顔で言った。
 
「え!?」
「その後も時々Nは実体化するんだけど、大抵はボクの中に入ったまま」
「ちなみにMはMale, FはFemale, NはNeutral」
「ボクは女の子だし、Mは男の子だけど、Nは中性なんだよ」
 
「うーん」
「千里さんによれば、元々のアクアの、女の子になりたい部分がボクになって男の子になりたい部分がMになって、どっちにしようと迷っていた部分がNになったのではないかと」
 
「でももう性別で迷って、男でも女でもない性別未分化の状態を続けるのはやめようと決断できたからNは消えたのかもって」
 
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「待って、そしたら」
「ボクが男になるか女になるか決めたら、その時点で片方は消える」
「え〜〜〜!?」
 
「ボクが2人いることを公表できないのは2人いたはずなのに1人になったら、まさか殺人事件?とか思われるからだよ」
 
「普通人間が分裂したり統合されたりはしないから、そんな話誰も信じてくれない」
 
「僕も信じられないんだけど」
 

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