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■春転(9)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-07-16
 
柴田数紀は寮内放送で起こされた。
 
「2〜3階に住んでいる男子寮生は全員1階のレインボウルームに集まってください」
というのは、川崎ゆりこ副社長の声だ。
 
何事だろうと思い、数紀は部屋を出ると階段を降りて1階まで行く。廊下の突き当たりの、ドアが虹色にペイントされた部屋に行った。ここは何の部屋だろうと思っていた。
 
ゆりこ副社長が点呼を取り、全員いることが確認される。
 
「ではこれから皆さんのちんちんとたまたまを取ります」
とゆりこ副社長は宣言した。
 
「え〜〜!?」
という声があがる。
 
嘘!?お姉ちゃんは、睾丸取る必要は無いって言ってたのにやはり取られちゃうの?しかもちんちんまで?
 
ソーシャル・ディスタンスで1mくらいずつ空けて1列に並ぶ。
 
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菫色の服の看護婦さんが立ってる。
 
「ズボンを回収します。脱いでください」
と言われるので数紀はズボンを脱いで看護婦さんに渡した。
 
火の中に投じられる! なんで〜?
 
1歩進んだ所に青い服の看護婦さんが立ってる。
 
「パンツを回収します。脱いでください」
と言われるので数紀はボクサーを脱いで看護婦さんに渡した。
 
火の中に投じられる! うそ〜?
 
数紀は下半身に何も身につけてない状態で1歩先に進んだ。
 
緑の服の、ゆりこ副社長が立っている。
「じゃちんちん切るね」
と言うと、大きなはさみを当てられて、
 
チョキン!と切られちゃった!
 
うっそー!?
 
お股には何もなくなっちゃった。
 
先に進むと黄色い服を着たお医者さんがいて
「このベッドに寝て」
と言われる。
 
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それで数紀がベッドに横になると
「ちゃんとおしっこできるようにしてあげるね」
と言われ、何かされてた。
 
「もう大丈夫だよ」
と言われるので見ると、女の子みたいな割れ目ちゃんができている。
「おしっこはこの中から出てくるからね」
と言われた。
 
ベッドから降りて先に進む。オレンジ色の服の看護婦さんがいて
「今日からはパンティーを穿いてね」
と言われて女の子が穿くような前開きの無いパンティを渡されるので、ドキドキしながらそれを穿いた。ちんちんが無いからこういうの穿いてもパンティに盛り上がりができないの、いいなと思った。
 
先に進むと、赤い服を着た看護婦さんがいて
「今日からはスカートを穿いてね」
と言われて可愛いタータンチェックのスカートを渡されるので、ドキドキしながらそれを穿いた。こんな可愛いスカート穿けるのはいいなと思う。
 
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それで先に進むと男子寮の住人達がいる。
 
「女の子になれた。嬉しい!」
と喜んでいるのが菱田ユカリと須舞恵夢である。
 
「女の子になっちゃった。どうしよう?」
と戸惑うような顔をしているのが末次一葉だが、篠原倉光は
「こんなの嫌だよう。僕女の子になんかなりたくなかったのに」
と言って泣いている。
 
ユカリと恵夢が数紀の所に来て言う。
「女の子になれたね。おめでとう」
「これって、女の子になっちゃったの?」
「ちんちんが無くなって、割れ目ちゃんができたら、もう完全な女の子だよ」
「そうなのか」
「学校にも女子制服で通わなくちゃね。数紀ちゃん、女子制服持ってる?」
「一応」
「だったら問題無いね。一葉ちゃんは女子制服持ってる?」
「持ってる」
「じゃ、みんなで女子制服で通学しようね」
と言って、ユカリと恵夢は、はしゃいでいる。
 
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でも一葉はまだ
「女子制服で通学しないといけないの?恥ずかしいよぉ」
などと言っている。別に女子制服が嫌なわけではないようだ。
 
しかし、ボク結局女子制服で通学することになったのか。まあいいか、と数紀は思う。
 
篠原君はまだ泣いている。
「くらちゃんも明日から女子制服で通学しよう。持ってるんでしょ?」
「女子制服は持ってはいるけど、女子制服着て通学するとか嫌だよう」
 
へー。篠原さん女装なんかしなさそうに見えたのに、ちゃんと女子制服は持っていたのか、と数紀は少し驚いた。
 
「女の子になっちゃったんだから、もう諦めなよ」
とユカリたちは彼に言っていた。
 
そこで目が覚めた。
 

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数紀はおそるおそるお股に手を伸ばしてみた。
 
そして少しがっかりして溜息をついた。
 
トイレに行き、いつものように座っておしっこする。終わったらいつものようにペーパーで拭く。
 
別にボク、女の子になりたい訳じゃないけどね、と数紀は思った。
 
ツキさんが朝御飯をデリバーしてくれたのでそれを食べて準備する。
 
数紀はヒゲを剃る必要は無い。実は飛鳥姉(松梨詩恩)に乗せられて、ヒゲは全部脱毛してしまったので、取り敢えず毎日ヒゲを剃る面倒からは解放された。これは楽なので、脱毛して良かったなあと思っている。
 
御飯を食べた後は、歯を磨き、下着を交換して洗濯済みのボクサーパンツとシャツを着る。ライトブルーのワイシャツを着る。ネクタイを締めながら
「女の子になったらネクタイじゃなくてリボンだよなあ」
と思って、そばに掛かった女子制服のハンガーに一緒に掛けているリボンを見る。
 
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数紀はその女子制服を見てドキドキしながら、姉の依頼で木下さんが調達して補正(かなり大胆なタックを入れた)までしてくれた男子制服のズボンを穿き、ブレザーを着た。
 
メールしてもらっていた時間割を見ながら、教科書とノート・筆記具、電子辞書を通学用バッグに入れる。内履きも内履き入れに入れて持つ。今日は体育があるので、体操服と運動用シューズの屋内用・屋外用をスポーツバッグに入れる。靴下を履き、ローファーを履いて、数紀は部屋を出た。
 
ちなみに数紀は足のサイズは22cmなので女子用のローファーを母に買ってもらっていた。女子用なので内側が花柄になっていて少し恥ずかしい←きっと母の確信犯(誤用)。
 

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今日は5月12日(水).
 
東京に出て来てから最初の登校をする。
 
というより帯広に居た4月の間はずっと学校がコロナで閉鎖されていたので今日が高校生としての初登校である。
 
朝から姉の邦江(高崎ひろか)が来てくれて、一緒に登校することになる。部屋を出て階段で1階に降りると、エントランスで姉が待っていた。
 
「お待たせ」
「じゃ行こう」
 
庭に駐まっている日産ノート(高崎ひろか専用車)の後部座席に一緒に乗り込む。
「じゃお願い」
と姉が運転席に座る青野さんに声を掛けるので車は発車する。歩くと15分だが
車なら5分で到達する。玄関を入って事務の人に声を掛ける。
 
担任になる雪山先生が出て来てくれる。
「お早うございます」
と邦江と数紀が挨拶すると、先生は
「あら?」
と声を挙げる。
 
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「どうかしました?」
「柴田さんって、女子じゃなかったんでしたっけ?」
「済みません、男子です」
「で、でも、あなたの北海道の高校の書類では女子となってたけど」
 
「女子になってました?向こうの高校の書類が間違ってたんですよ。訂正をお願いしていたのですが、コロナで学校閉鎖になっていて、転校手続きは僅かに出て来ていた職員の方がしてくださったみたいですが、性別の訂正はちゃんと反映されてなかったのかも」
 
「ごめーん。柴田さん、女子クラスに入れちゃった」
と雪山先生。
 

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邦江は訊いた。
「あんた、やはり女子制服着て、女子高生として通学する?」
「どうしよう?」
 
やはり悩むのか。
 
取り敢えず応接室に通され、教頭先生も出て来て、邦江があらためて状況を説明してくれたので、数紀は(もしかしたら本人は女子のままでもよかったかも知れないが)男子生徒として受け入れてもらえることになった。
 
「でも君、女子制服で通学したくなったら言ってね。異装許可証書いてあげるから」
 
と教頭から言われたので、何か誤解されている気がする。
 
結局、女子クラスである1年1組の予定だったのを共学クラスの2組に変更するということだった。芸術の選択が、1〜2組は音楽、3組が美術、4組が工芸、5組が書道なのである。
 
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「生徒手帳は1組で作ってしまったので2組に変更しますね。来週くらいにはできると思うけど、新しいのができるまで暫定的にこれを使ってください」
と言われて生徒手帳をもらう。
 
「1年1組柴田数紀・女」
と記載されているのを見て、ドキッとした。
 
2組担任の青山先生が紹介される。それで青山先生と一緒に1年2組の教室に行った。
 

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「北海道の帯広(おびひろ)から転校してきました、柴田数紀です。よろしくお願いします」
と挨拶する。机と椅子の余っているのが無かったので、結局1組教室に数紀のために用意されていて机と椅子を本人とクラス委員の和代ちゃんの2人で運んで来て(1組教室は男子禁制:数紀はいいのか?)、こちらに置き、やっと数紀は椅子に座ることができた。
 
「帯広ってどの辺りだっけ?」
「北海道の東の端が根室で、札幌と根室を結ぶ線を3等分したくらいの場所に帯広と釧路があるんだよ」
と数紀は説明する。
 
「襟裳岬の近くかな」
「帯広からまっすぐ南に降りて行くと襟裳岬。距離的には150kmくらいあるけど」
 
「150kmってどのくらいだろう」
という疑問に対しては和代ちゃんが
「東京から静岡県の焼津までが150km」
と言った。
 
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「かなりあるね」
 
この朝はしばらく北海道の地理の話になったが、数紀の周囲に集まってきているのが全員女子であることに、数紀は気付かなかった。
 

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やがて1時間目・数学の先生が入ってきて授業が始まる。最初に出欠を取る。1人ずつ名前を読み上げられ「はい」と返事をする。先生は男子は「○○君」と呼び、女子は「○○さん」と呼んでいた。数紀は転校生なので最後に入れられている。それで最後に「柴田さん」と呼ばれ数紀は「はい」と返事をした。
 
この学校は混合名簿だが、出席簿で女子には●のマークが付いているので、先生はそれで「君」「さん」を呼び分けている。この問題について、何人かの生徒が気付いたが、スルーした!数紀は全く気付かなかった!
 
4時間目は体育なので体操服に着替えるが、コロナの折、更衣室が閉鎖されているらしい。いったん男子は教室の外に出て女子が着替え、女子が終わったら男子が教室に入って着替えるという方法が採られていた。
 
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最初に女子が着替えるというので男子は廊下に出る。数紀も外に出たが、数紀が外に出て行く時に数人の女子が首を傾げて、数紀に声を掛けようとしたものの思いとどまった。また、廊下に出た数紀に男子の視線が集まっていたが、数紀は全く気付かなかった!
 
やがて体操服に着替えた女子が出て来て、男子が入る。数紀が着替えようとしているとやはり他の男子の視線が集まっているのだが、数紀は全く気付いていない。中にはヒソヒソと話している子たちもいる。
 
その内、2人の男子が意を決したようにして数紀の所に来た。
 
「柴田さん、ちょっと」
「はい?」
 
「こちらに来て」
と言って、数紀を教室の隅に連れて行く。そしてそこに移動ホワイトボードを持ってきた。
 
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「君はこのホワイトボードの陰で着替えて」
「何か?」
「取り敢えず今日のところは緊急避難で」
と2人の男子は言った。
 
数紀は何だろう?と思いながら、そこの陰で着替えた。
 
この日の授業で柔軟体操は、数紀は先生と組んだ。
 
翌日、数紀は“別室”を用意され、「体育の時はこの部屋で着替えて」と担任の先生から言われた。数紀は何でだろう?と思ったものの指示に従った。
 

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その日J高校の“特別更衣室”で、3年の弘田光理(弘田ルキア)と、2年の弘原如月がちょうど遭遇した。
 
如月が言った。
 
「ルキアちゃんって、ほんとに女らしい体型だよね。女性ホルモンはもう5年くらい?」
「ボクは確かに一時期女性ホルモンやってたけど、もうやめてから2年くらい経つよ。男性機能もほぼ復活した。立たないけどちゃんと射精できるし」
とルキアは答える。
 
「嘘。だって腰が凄いくびれてるのに」
「腰のくびれは女性ホルモン使わなくても、カロリーコントロールとウェストを徹底的にいじめることで形成できるんだよ。ボクは24時間ベルトで締め付けてるし、体育とか身体検査のある日以外はずっとボディスーツつけてるし」
 
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「すごーい」
「でもウェストのくびれは男女の体型を見分けるのに一番大きな要素だよね。だから、ウェストのくびれを維持すれば女の子らしいボディラインが維持できる。如月ちゃんもボディスーツとか使うといい。ガードルじゃダメだよ。お肉が逃げちゃうから」
 
「取り敢えず買ってみようかなあ。でもルキアちゃん、おっぱいもあるし。ホルモンじゃなかったらシリコン入れてるの?」
 
「これはフェイクだよ〜。接着剤で貼り付けてるから、剥がしてみせることはできないけど」
「信じられない。本物にしか見えない」
 
「このあたりの偽装テクはそちらの事務所に詳しい子がたくさん居そうだから聞いてみなよ。木下宏紀ちゃんとか、すっごい上手い」
「え?木下は本物バストだと思いますけど」
 
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「誰もが本物と思うほどうまく偽装してる。あそこまで偽装できたら性転換手術を受ける必要が無い。あの子はアクアに次ぐ偽装名人」
 
「アクアは元々女の子なのでは」
 
「それが実は偽装なんだなあ。でもそのテクを絶対バラさないよね。彼の偽装テクはボクも4割くらいしか分からない。同じ事務所の人にも性別を誤認させるというのは、もう人間国宝級の性別偽装名人だね」
 
「うっそー!?」
 

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