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■春転(26)

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6月29日、花園亜津子は成田からロサンゼルス行きの飛行機に乗った。
 
千里と玲央美からメールが来ていたが“読まずに捨てた”!
 
強化部長さんと秋川代表は亜津子を特別に呼んで本人に直接落選を通告した。そして強化部長さんは彼女に言ったのである。
 
「君は明らかに実戦経験が不足している。WNBAにこだわらずに、もっと出場機会を得られるリーグに行くべきだ」
と。
 
亜津子は「少し考えたい」と言い、取り敢えずアメリカに戻ることにしたのである。
 
なお彼女は日本国内にいる内にワクチンの接種は受けていたので、アメリカでは短期間の自己隔離で解放されるはずである。
 

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千里は青葉と連絡を取った。
「こちらにはいつ出てくるの?」
「まだはっきりしないんだよ」
「そちら合宿とかないの?」
「今の所聞いてない。4月には水球代表の合宿でクラスターが発生したからさあ」
「ああ」
「水連もかなり慎重になってる。7月3-4日は相模原でサマーチャレンジがあるけど津幡組は代表もそうでない人も出ない。万一誰か感染して代表選手にまで移すとやばいから」
 
「ほんと大変だよね」
「ちー姉たちは合宿するんだっけ?」
「7月5日から25日まで、第7次合宿がある」
「それもうオリンピックの日程に突入してるじゃん」
「女子バスケットは26日から始まるんだよ。日本は27日フランス、30日アメリカ、8月2日ナイジェリア」
 
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「フランス戦が鍵だね」
「うん。日本の生きる道はそこしかない」
「頑張ってね」
「青葉もね」
 

7月1日(木).
 
日本バスケット協会は、東京オリンピックに出場する女子バスケット日本代表12名のメンバーを発表した。記者会見には主将となった千里も同席し、短いスピーチをした。各選手のメッセージはその後、数日以内に日本バスケット協会のサイトに登録された。
 

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7月2日(金).
 
数紀の学校では今月の身体測定があった。クラス単位で保健室に行き、身長と体重を測定される。この時、男女を一緒には測定できないので、朝一番に1年女子から始めて、3年女子まで行ってから、男子の方も1年から3年まで呼び出すという仕組みになっている。
 
1時間目の初め、1年1組から始まる。1組は女子クラスである。それが半分くらい進んだ所で、1年2組の女子が呼ばれた。
 
数紀は女子たちが教室を出て行くのを眺めていたのだが、数紀がまだ座っていることに気付いたクラス委員の和代が
「かずちゃん、行くよ」
と声を掛けた。
 
「え?ボクも行くの?」
「だって、かずちゃん女子だし」
「ボク男子だよー」
 
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とは言ったものの、結局由美や公佳に
「またそんなこと言ってる。君が女子であることはもう明らかになっている」
 
と言われて“連行”されてしまう。
 

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廊下を歩きながら公佳が言った。
 
「だいたい、かずちゃんは最初から女子として登録されていたんだよ」
「そうなの?」
 
「かずちゃん、授業で出席取られる時に『柴田さん』と呼ばれるでしょ?」
「そういえばそうかな」
「男子は“君”付け、女子は“さん”付けなのよねー、この学校」
「学校によっては男女とも“さん”付けの所もあるらしいけどね」
「つまり、かずちゃんは学校に女子として登録されていたということなのよね」
「嘘!?」
 
だって、ボク最初書類が女子になってたから、それ直してもらったと思ったのに。
 
「だから、かずちゃんの書類は身体測定ではたぶん女子の所に入れられている筈」
 
実際保健室に行ってみると、確かに数紀の書類が来ていることを保健委員の充恵が確認して丸のサインをする。
 
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そういう訳で、数紀はこの月から女子と一緒に身体測定を受けることになった。
 
この学校では、身体測定では服を脱いだりはせず、制服のまま測定する方式である。それで数紀もブラウス・スカートを着たまま体重計に載った(服の重さとして1kg引く)。
 
しかしそれで数紀も他の女子たちの下着姿とかを見ずに済んでホッとした。また元々そういうシステムだから、数紀の性別にまだ疑問を持っている子たちも数紀が一緒に身体測定されるのを容認したのだろう。もっとも数紀は女性に対して不感症なので、女子の下着姿を見たとしても特に何とも思わない!
 

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「でもかずちゃん、舞音ちゃんのエアコンのCMで女神の格好してたね」
「なんかボク女性タレント扱いされることが多いみたい」
「それは本人が女性だからだと思うけど」
 
「アクアちゃんのソーラーパネルのCMにも巫女さんの役で出てた」
「あれ巫女だったの?」
 
「ドライヤーのCMでも女子高生の格好でしてるし」
「なんかこれ着てと言われて着せられちゃったんだよぉ」
「あのCMすっごく可愛い。こんな可愛い子が男子の訳無いと思ったよ」
「同感同感」
 
「エーヨちゃんのお菓子のCMにも女子高生制服で出てた」
「あれはその他大勢のひとりで」
「『青空高校の午後』では明確に女子高生の役だし」
「あれ役名もなくて“女子生徒5”なんだよ」
「やはり女子生徒じゃん」
 
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「まあかずちゃんが出演しているCM見てもドラマ見ても、かずちゃんが女の子であることは確実」
 

「デビューの話とか無いの?」
「それはないと思うなあ。今年は既に4人もデビューしてるもん」
 
「元々は夏頃にエーヨがデビューして年末に舞音ちゃんがデビューする予定だったのが、ただのキャンペーン曲のはずだった招き猫の歌がミリオンになって、なしくずしにデビューしたことになっちゃったらしいね」
 
「でも夏と年末にデビューするはずだった2人が春にデビューしちゃったんだからその後の予定も前倒しされるんじゃないの?」
 
「ああ。水谷姉妹はもしかしたらこの夏にデビューするかもね」
「あの2人、美人だもんねー」
「顔が似てるから双子みたいに見えるよね」
 
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「かずちゃんも、詩恩ちゃんと双子みたいに似てる」
「詩恩姉とは年が4つ離れてるけどね。だから身長も3cmボクの方が低いんだよ」
「詩恩ちゃんは成長期はもう終わりだろうからこれからかずちゃんが追いつくよ、きっと」
 

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その日、数紀は学校を休んで、邦江姉(高崎ひろか)に付き添ってもらい、世田谷区役所を訪れた。
 
実は数紀の収入が“年間130万円”の枠を越えてしまったので、父親の健康保険の被扶養者から外れることになった。それで国民健康保険に加入するため、手続きに訪れたのである。
 
「ああ。バイト収入が年間130万枠を超過したんですね」
と言って、係の人が帯広の父から送ってもらった扶養削除証明書を見ながら言う。
 
「御本人の収入を証明するものは何かありますか?」
「これは契約している芸能事務所の6月の支払い明細ですが」
と言って、邦江が書類を提示すると、係の人は金額を見て尋ねた。
 
「この金額は昨年1年間の支払額ですか?」
「いえ、今年5月21日から6月20日までの仕事に対する報酬です」
と邦江が言うと、係の人は一瞬驚いたような顔をした。
 
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「芸能人さん?」
「はい、そうです」
「分かりました!」
 
と言って、係の人はすくに手続きをしてくれた。本人確認で数紀は運転免許証を提示した。また引き落とし口座はキャッシュカードを提示して登録してもらった。
 
「健康保険証は数日中に郵送しますので」
「よろしくお願いします」
「もしその間に病院にかかられることがありましたら、こちらの書類を窓口で提示して下さい」
「分かりました」
 

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「だけどあんた既に飛鳥(松梨詩恩)より忙しくなってるみたいね」
と邦江は帰り際、数紀に言った。
 
「そうだっけ?」
 
「飛鳥のリハーサル役・吹き替えとかの仕事に加えて、あんた自身の仕事もこなしているし」
「それはあるかも。振込額見てびっくりしたし」
 
「あんたまだ単価が安いから飛鳥よりは少ないみたいだけど、きっと今年中には金額でも飛鳥を追い抜くよ」
「そんなに?」
 
「だって今のペースでいっても年間6000万円だけど、単価が上昇していくと1億突破する可能性もある」
 
「1億〜〜!?ちょっと待って。月50万円を12ヶ月なら、600万円じゃない?」
 
(正しく掛け算“は”できたようである)
 
「何言ってんの?この支払い明細では6月20日には520万円支払われた筈だけど」
「嘘。銀行の残高見て、52万円だと思ったけど」
「あんたそれ桁を読み間違ってる」
「うっそー!?」
 
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なお、邦江は飛鳥が昨年やらかした「所得税が払えない!」などというのと“同じ轍を踏まない”ように、別の銀行にも口座を作り、毎月半額はそちらに移動するよう数紀に教えた。でも数紀は自信が無いと言ったので、結局口座のid/pqssを邦江が預かり、毎月邦江がネットで移動してあげるようにした。
 
結局、数紀の常用口座には毎月30万円だけ残し、他は全額別口座3つに移動させるようにした(納税用・予備費・貯蓄用に3分割)。
 
高校の校費も数紀は自分の口座からの支払いにしたいと言ったが、邦江は「それは私が出すという約束だったから」と言って、そのまま邦江の口座からの引き落としを続けることにした。
 
「もし性転換手術受けるなら、その費用も約束通り出してあげるけど」
「性転換手術は勘弁して下さい」
 
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「でもあんた女子高生になっちゃったんでしょ?毎日女子制服で通学してるって飛鳥が言ってたけど」
 
「ちゃんとズボン穿いてる日もあるよー」
「今日もスカート穿いてるくせに全く説得力がない」
 
(学校でもあくまで男子を主張しているのが、葉月などとの違い。でもほぼ女子とみなされているのはアクアに近い)
 

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男子寮の専任看護婦・海老原さんはその日数紀に言った。
 
「数紀ちゃん、社長から言われたんだけど、あなたの精子の冷凍保存を取りたいんだけど。毎年の保存費用は事務所で出すから」
 
「えっと・・・帯広の病院で一応冷凍保存してもらったんですが」
「何本取った?」
「1回ですが」
「だったらあと2回取ろう。最低3本は保存しておいた方がいいというのが会長の意見なのよ。いざ人工授精しようとした時に1本しかないと1度では妊娠成功しない場合もあるからね」
 
「はあ」
「精子の採取をする場合、濃度を上げるために、採取の1週間前から禁欲して欲しいんだけど」
「禁欲って?」
「つまりオナニーを我慢して欲しいの。できる?」
「すみません。ボク、オナニーはしないので」
 
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「ああ、ここの寮生にはそういう子がわりと多いのよね。夢精は起きる?」
「それも経験ありません」
「女性ホルモンは飲んでるんだっけ?もし飲んでるなら教えて。誰にも、門脇さんや社長にも言わないから。女性ホルモン飲んでるなら、採取前に一週間くらい、それを休んで欲しいのよ」
「飲んでません」
 
「分かった。でも射精はできるんだね?」
「帯広の病院ではドーターとか何とかいう振動する機械をあそこに当てて射精させました」
 
「ああ。何となく分かった。こちらで昨年採取した時もその方式をとった寮生がいたのよ(木下宏紀である)」
 
「へー」
 

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「だったら、しばらく射精してないよね?」
「はい。その帯広の病院で取って以来してないです」
「じゃ1回目、良かったら今から採取に行っていい?」
「あ、ボク今健康保険証の切り換え中で、保険証は数日中に届くということなんですが」
「ああ、これは保険の適用じゃないから健康保険は関係無いよ」
 
「分かりました。あ、ボク今日はスカート穿いてるけど、ズボンに穿き替えてきたほういいですかね?」
「ううん。スカートのままで問題無いよ。君の普通の格好じゃん」
 
「なんかみんなに乗せられてすっかりスカート穿いてることが多くなって」
「スカートでもズボンでも好きな服を着ればいいと思うよ」
と海老原さんは言った。
 
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