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■東風(1)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-08-06
 
アクアはゴールデンウィークに小浜で写真集の撮影をした後、『シンデレラ』の撮影、『夏の飛び魚』『わらしべ長者』の撮影と、5月中はドラマの撮影が続いたが6月はアルバムの制作を中心に仕事をした。その中で6月13日には唐突に『白鳥の湖』のオデットを生放送で踊ることになった。
 
でもそれで1日特別休暇をもらって21日は完全にオフにしてもらい、この日の日中に八王子の新居に少し荷物を運び込んだ。大半は代々木の10階に置いていた荷物である(重たい物はじゅうちゃんさん・まなちゃんさんなどに運んでもらった)。そして2人で協力して色々料理も作ってから、夕方から理史を招き、彼に自分たちのことを話した。
 
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アクアの状態に関する現在の認識
 
アクアは2人居る:千里★・ケイ・コスモス★・聖子・和紗★・和城理紗★・松田理史★
分裂していたが1人に戻った:山村★・緑川★・高村★
マクラはアクアの従妹:河村・美高★・元原マミ★・七浜宇菜★・大林亮平
 
なお↑で★を付けたのは、理史とアクアの関係を知っている人である。
 
ちなみに千里が複数居ることを知っているのは100人を越えるが、多くの人は双子か何かと思っている(一部“二重人格”と思っている人たちもいる)。桃香が2人居ることを知っているのは、千里と朋子だけである。
 
丸山アイ(虚空)は全ての黒幕で分裂問題に関して何か隠しているが、彼も“ある御方”の意向で動いている。人間の分裂はさすがにアイの能力をも遙かに超える事象である。2017年4月16日の事件が実は“落雷ではない”ことを知る唯一の人物である。
 
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7月上旬アクアは“昔話シリーズ”の浦島太郎の撮影をした。これは浦島太郎がアクアで、乙姫様は坂出モナである。この物語はほとんどこの2人だけで進行する。
 
でもモナは
「アクアちゃんが乙姫様でもいいのに」
などと言っていた。
「モナちゃんが浦島太郎やる?」
「やりたいやりたい」
 
でも一応、太郎=アクア、乙姫=モナで撮影した。但し衣装交換した記念写真も撮って番組放送時に公開している。
 
亀を虐めていた子供たちは子役の芸能事務所からの出演(個人名はノンクレジット)。竜宮城の住人たちは○○ミュージックスクールの生徒さんたちを使用している。最後に出てくる通行人は、木取道雄の友情出演である(ノーギャラ!)。実はコスモスのお使いで来ていたのを監督から「木取さん。ちょっと出てよ」と言われて徴用された(報酬はお弁当だけ!)。
 
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昔話シリーズ撮影/放送日程
 
火の鳥(アクア) 2-3月/3.27
シンデレラ(アクア) 5.11-18/6.05
人魚姫(ラピスラズリ) 5.22-28 / 6.19
赤ずきん(ビンゴアキ) 6.5-13 / 7.03
わらしべ長者(アクア) 5.29-6.02 / 7.17
八岐大蛇(七浜宇菜) 6月前半 / 8.14
桃太郎(加藤渡) 6月後半 / 8.21
浦島太郎(アクア) 7月上旬 / 8.28
長靴を履いた猫(新里耕児) 7月下旬 / 9.11
銀河鉄道の夜(UFO) 8月上旬 / 9.25
ヘンゼルとグレーテル(WADO) 8月下旬 / 10.9
青い鳥(未定) 9月上旬 / 10.23
一寸法師(未定) 9月中旬 / 11.06
大工と鬼六(未定) 9月下旬 / 11.20
アルプスの少女(未定)10月下旬 / 12.11
セロ弾きのゴーシュ(未定) 11月下旬 / 12.25
オズの魔法使い(未定)11月上旬 / 1.01
ピーターパン(?) 10月上旬 / 1.15
 
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オリンピック終了後の夏休み中に、八岐大蛇・桃太郎・浦島太郎と予算を掛けた3連発がある。加藤渡君は最近注目株の高校生俳優である。七浜宇菜の須佐之男命(すさのおのみこと)は物凄く格好良い仕上がりになった。実はアクアも天照大神役で1シーンだけ出演している。アルバム制作中で忙しいので断りたかったのだが、七浜宇菜が「ぜひお願い」というので、彼女との友情に基づく、友情出演である。
 
「それに天照大神は男だから」
と宇菜は言う。
 
「ほんとかなぁ」
とアクアは半信半疑だったが。
 
それにソーラーパネルのCMで着ているような、バストの目立つドレス状の服を着せられたし!
 
「これ男物の服に見えないんだけど」
「古代の服は性別が分かりにくいよね」
 
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だいたい髪も宇菜はかっこいい美豆良(みずら)に結ってるのに、アクアは少女のような垂れ髪である。
 

そして年末年始には放送枠を2時間半に拡大した大作を4本(アルプスの少女・セロ弾きのゴーシュ・オズの魔法使い・ピーターパン)放送する予定である。一応このシリーズはこれで終了ということになっている。
 
青い鳥以降の主演はまだ決まっていない。ピーターパンに関しては鳥山プロデューサーは制作部長から言われている配役があるのだが、それをまだ先方にとても言えずにいる!
 
しかしいつまでも言わない訳にはいかないので、その日鳥山は§§ミュージックを訪問した。
 

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「実は昔話シリーズの件なんですが」
「ああ、はい」
「一応このような撮影・放送日程になっておりまして」
と言ってスケジュール表をコスモスに提示する。
 
「撮影順と放送順が入れ替わる所もあるんですね」
 
「実は例の船を、今シンドルバッドの撮影に使っていますが、その後、8月に前田智士君主演の『宝島』の撮影に使って、10月にピーターパンの撮影に使い、最後は12月に『十五少年漂流記』の撮影に使い、ドラマの中で解体される、という日程になっているんですよ」
 
「ああ。年内一杯で撤去して地主さんに返却しないといけなかったんでしたね」
「そうなんですよ」
 
※オープンセットの船の撮影使用予定
5月 シンデレラ・人魚姫
6-8月 シンドルバッド
8月 宝島
10月 ピーターパン
12月 十五少年漂流記(解体撤去)
 
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「まあそれでシンドルバッドの方は順調で視聴率もよくて、恋珠ルビーさんにも水森ビーナさんにも感謝しています」
 
「ルビーは結構演技力を評価してもらっていますね」
「ええ。中学生で初主演とは思えない演技ですよ。あの子は凄いですね」
 
「それでですね。ルビーさんに9月上旬撮影予定の『青い鳥』にも主演していただないかと思いまして」
 
「主演って、チルチルですか?ミチルですか?」
「チルチルで。ルビーさんの男装は格好良いと視聴者の評価も高いんですよ」
「ああ、あの子は男装が決まりますね」
「それとシンドルバッドでも共演している水森ビーナさんに妹のミチルの方をお願い出来ないかと。年齢は逆転しますけど」
 
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(恋珠ルビーは中3で、水森ビーナは高1。しかしルビーの方が背は高い)
 
コスモスが一瞬考えたので、鳥山はもうビーナの次の予定が決まってたのかなと思った。あの子はどう考えても売れそうだ。引き合いが多数来ている可能性があると思った。
 
しかしコスモスは答えた。
「いいですよ。あの子もそろそろそのくらいの役をやらせていい気がします」
 
「松梨詩恩ちゃんの吹き替えを6年もやってただけあって、演技力ありますよね」
 
「そうなんですよ。あの子は実質6年のキャリアのある俳優なんですよ」
とコスモスは答えた。
 

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それで『青い鳥』に恋珠ルビーと水森ビーナが出るという話はまとまった。それで、鳥山プロデューサーは、いよいよ“勇気を出して”核心に突入する。
 
「それでこのシリーズの最後を飾るピーターパンに実はアクアさんに出て頂けないかと思いまして。アクアさんで始めたシリーズなので、アクアさんで締めくくって頂けないかと」
と鳥山が言うと、コスモスは沈黙する。
 
役柄も聞かないうちに拒否かな〜と思ったらコスモスの答えは意外なものであった。
 
「10月だと、うちの大型時代劇『八犬伝』の撮影とぶつかるんですよ」
「ああ!」
 
「さっきお聞きした日程だと、宝島で船を使うのが8月ということですよね。9月に撮影できませんか?」
 
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「それは撮影日程調整します!」
 
鳥山は、だったら『青い鳥』をできるだけ早めに撮影して、そのあとすぐ『ピーターパン』かなと頭の中でスケジュールを組み替える。シンドルバッドが撮了したら、そのまま『青い鳥』に入ろう。ピーターパンは撮影から放送まで4ヶ月置くことになるが、セットの運用の都合で仕方ない。
 

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「それでアクアは、ビーターパン役ですか?」
とコスモスが訊いたので、鳥山はもう虎穴に突入して虎児を狙う気持ちで言った。
 
「実はアクアさんには主役のウェンディをお願いできないかと思いまして」
 
怒るかと思ったのだが、コスモスは考えている。
 
「ピーターパンの主役ってウェンディでしたっけ?」
「微妙ですね。この物語って、ピーターパン、ウェンディ、ティンカーベルの3人の誰もが主人公的な動きをしているんですよ」
 
「ティンカーベルを主役にしたスピンオフもたくさん出てますね」
「ティンカーベルはピーターパンより物語がありますから」
 
「ピーターパンもしばしば女優さんが演じているから、この物語は実は女優3人による物語と考えることもできるんですよ」
 
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「なるほどー」
 
「今回のピーターパンはウェンディ目線でのシナリオを考えていまして。そこでアクアさんにそのウェンディを演じて頂けないかと」
 
「本人に訊いてみましょう」
とコスモスは言った。
 
ここでコスモスがいきなりは断らなかったのは、もうアクアは女優ということでいいのではないかと個人的には考え始めていたからである。アクアの風貌が既に女性にしか見えなくなってきて、男役をするのに適さなくなりつつある。まあ本人が男役もしたいというのであれば、させてもいいけど。あくまで女役とセットで!?
 

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この時間帯、実はアクアMは放送局で番組撮影中だったが、コスモスは“どこか”で休憩中と思われたアクアF(実際は八王子に居た)のスマホに電話した。この番号を知っているのは、理史とコスモスだけである。
 
2人の仕事分担は微妙だが、深夜に及ぶ仕事はMが引き受けることが多い。だから夕方からの仕事がFだと思ったので、その前の仕事はMがしているのではとコスモスは想像したのだが、当たったようである。
 
「休憩中悪いけど、ちょっと事務所に出て来られない?」
「私、17時から(実はMと交替して)『おにぎり十八・番茶も出花』に出るんですけど」
 
「たぶんそれまでには終わる」
「分かりました」
 
それでアクア(F)は30分ほどでやってきた。Fは鳥山プロデューサーの顔を見て笑顔で挨拶しつつも、すごーくいやーな予感がした。
 
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「例の昔話シリーズでさ。年末年始スペシャルで2時間半に枠を拡大した作品を4つ制作するらしいのよ」
とコスモスは説明する。
 
「はい」
 
「それで1月15日放送、このシリーズの最終回になる『ピーターパン』で主演してくれないかというオファーなんだけどね」
 
Fは拍子抜けした。ピーターパンを演じるなら、別に自分に聞かなくても社長の判断で受けていいのにと思う。でもボクの主演作で始めたシリーズだから、最後もボクなのかなと思った。それでFは言っちゃった、
 
「ピーターパンならいいですよ」
 
「やる?」
と訊かれて、アクアFは瞬間的に何か変だと思った。
 
「すみません。ピーターパンの主役って具体的には誰の役でしょう?」
 
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するとコスモスは
「勘が良いな」
と言う。
 
あはは。確認して良かったみたい。
 
「主役のウェンディだよ」
 
あ、これ小学校の学習発表会の時と同じパターンじゃんとアクアは思う。
 
「私、小学校の学習発表会の時にも、ピーターパンに主演してと言われたからピーターかと思ったら、ウェンディだったんです」
 
「なるほど1度欺されていた訳か」
と言ってコスモス社長は笑っている。
 
「やはり、ピーターパンの主役ってウェンディだよね」
と鳥山プロデューサーが言っている。
 

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アクアFは個人的にはウェンディ役はやってみたい気がした。でもそのまま受けるとMが怒りそうなので言った。和泉さんも怒りそうだし。
 
「男役とのダブルロールなら引き受けてもいいです」
Mは男役をしたいだろうしね、と思う。
 
「アクア君かコスモス君にそれを要求されるかも知れないと思って、実は男役も確保したんだよ」
 
「えっと、ピーターとウェンディの2役ですか?」
「そんなのはつまらない」
と鳥山プロデューサーは言う。
 
「アクア君、ウェンディとフック船長の2役をしてくれない?」
 
「フックですか〜〜〜!?」
とアクアFはさすがに驚いて声を挙げた。
 

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