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■東風(8)
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スリーヒーマイスが初期の頃“覆面バンド”であったことも話題になる。初期の頃、彼女たちは、ライブにはアイスホッケーのマスクのようなものを付けて出てきて、決して顔を見せてなかったのである。
「あれは実際は『スリーピーマイスは顔を見せない主義らしい』という噂が広まっちゃったから、それに悪乗りして、アイスホッケー・マスクとか仮面ライダーのお面とか付けてみただけなんだけどね」
「特に顔を隠す理由もないからデビュー7年目の記念ライブで初めて素顔を見せたね」
この日の取材では3人の間にある微妙な壁のようなものの扱いでわりと苦労したのだが、前日・前々日に比べると、かなりやりやすい取材で、町田朱美もリデルの自宅を出た後
「今日の取材は楽でしたぁ」
と言っていた。
「3人バラバラと言ってましたけど、エルシーさんとティリーさんは距離が近くて、レイシーさんとは距離がある気がしました」
と東雲はるこが言う。
「君はなかなか鋭いよ」
とケイが言った。
「元々はエルシーとティリーのデュオだったんだよ。このユニットは」
「そうだったんですか!」
「そこに語呂合わせのためだけにレイシーを入れたから、レイシーと他の2人の間には少し壁があるんだよね。だからお互い電話番号も知らないと言ってたけど、実際にはエルシーとティリーはお互いの電話番号は知ってると思う」
「へー」
(スリーピーマイスの3人のステージネームは『不思議の国のアリス』に出てくるヤマネの三姉妹の名前から採られている。スリーピーマイスという名前もヤマネの英語名 dor-mouse “眠りネズミ”から来ている。エルシーとティリーはそれでレイシーという名前にできる女子を探し出してメンバーに加えたのである。レイシーの本名は麗子さん。ちなみにエルシーは苗字の長丸からLong Circle→LC, ティリーはやはり苗字の寺入から)
「ただ、初期の頃は、レイシーの絶妙なアレンジのお陰でスリーピーマイスは売れた。レイシーは売れるようにアレンジするのがうまい。天才アレンジャーなんだよ」
「そのあたりの“売れる”という問題っていつもバンドの方向性で揉めますよね」
と町田朱美。
「うん。やりたい音楽と売れる音楽はなかなか一致しないから難しい」
とケイは言っていた。
8月6日(金)は上野美由貴(別名義:阿木結紀)さんに取材した。
§§ミュージックの秋風コスモス社長の実姉で、歌手名は秋風メロディーである。
彼女はこの芸名を付けられたものの、1枚のCDもメジャーからは出さないまま引退してしまった(§§ミュージックが所有していたインディーズ・レーベル"Pisagar Records"からは3枚CDが出ているが売上は100枚未満である。現在このCDを所有しているのは多分妹の秋風コスモス(売上に貢献しようとわざわざあちこちのお店で各CD 20枚くらい買ったらしい)と謹呈してもらったケイだけ。メロディー本人も所有していない)。
§§ミュージック退所後は、自主制作で“上野美由貴”名義で自分で作曲して自分で歌って録音し、CDのディストリビューターに流していたが、それも全く売れなかった(これもコスモスとケイは所有している)。なお、秋風メロディーの名前を使わなかったのは権利問題のためである。
しかし2013年、彼女が自主制作で出していたCDをたまたま、小野寺イルザのマネージャーが見かけて聴いた所、凄くいい曲だと思った。そしてこれをイルザに歌わせたいと思った。イルザは年齢的な問題で、アイドル歌手から脱皮する必要があったが、本格的な歌を歌わせてもそれまで売れていなかった。
イルザのマネージャーは、このCDの制作者の連絡先を見つけ出して交渉した結果カバーはOKということになり、小野寺イルザがこの曲『あなたのことが好きだから』を吹き込んだ。すると3万枚も売れたし、明らかにこれまでのファン層より上の年齢層に受けたので、それ以降、上野美由貴作詞作曲・小野寺イルザ歌、というパターンの作品が発表され、じわじわと販売数を伸ばして行く。そしてついに2014年に出した『夜紀行』がRC大賞の金賞にノミネートされ、“大人の歌手・小野寺イルザ”が音楽市場に認められることとなったのである。
それとともに、上野美由貴への楽曲提供依頼も来るようになり、上野美由貴は作曲家として開花することとなった。
自分たちの事務所社長のお姉さんなので、ラピスラズリの2人はかなり緊張していたが、彼女の出生作となった『夜紀行』を2人が歌うと、上野美由貴さんは笑顔でたくさん拍手する。
「君たち本当に上手いよね」
と言っていた。
ラピスの2人も褒めてもらったので、この後はかなりリラックスして取材していた。
(上野美由貴はラピスラズリにも何曲か曲を提供しているが、この番組では自分たちの歌は歌わないポリシーてある)
上野美由貴はローズ+リリーのマリなどに似て“ぽえむの世界”で生きている傾向があり、発想がユニークというか、不可思議な反応をすることもあるので、夫の田船智史(*3)(バインディング・スクリューのリーダー)が取材の席には付いていて、ラピスたちが困るような発言をうまくフォローしてくれていた。
お陰で、ラピスたちも気持ち良く取材することができて、この日の取材を楽しく終えることができた。
(*3)人間関係の"chain"
槇村博司(同級生)近藤嶺児(夫妻)宝珠七星(妹兄)宝珠北斗(夫妻)田船美玲(姉弟)田船智史(夫妻)秋風メロディー(姉妹)秋風コスモス(妻夫)木取道雄
他に、鮎川ゆまは七星の同級生で、ケイとはドリームボーイズのバックダンサー仲間。ゆまのデビューには千里が深く関わっている。
ドリームボーイズのバックダンサー仲間には諏訪ハルカもおり、彼女の従妹が夢路カエルでふたりはプリヴェーラというデュオを組む。カエルは雨宮先生の妻である(三宅先生は雨宮先生の夫!)。カエルは現在三宅先生の家に住んでいる。この家は東翼・西翼から成るが、三宅先生が西翼に、カエルが東翼に住んでいる。カエルがここに住み着いてから雨宮先生の“帰宅頻度”がぐっと上昇したらしいが、雨宮先生は帰宅すると、妻と夫の両方に奉仕する“義務”があるらしい(雨宮先生は早死にする気がする)。
ゆま・ケイ・千里は雨宮先生の弟子である。
雨宮先生の弟子には、三つ葉のプロデューサー・毛利五郎、雨宮派の統括者・新島鈴世(にいじま・りんぜ)などもいる。新島鈴世の本名は本名大谷一洋で“おおたに・かずよ”と読む。でもいつも“かずひろ”と読まれ、男(男の娘?)と間違われて苦労したらしい。「性転換なさったんですか?」と言われるのは慣れていると言っていた。実は雨宮先生も男の娘と思い込んで弟子にしたので「あんたなんで妊娠するのよ?」と言われたらしい!しかし彼女のペンネーム“鈴世”だって、『ときめきトゥナイト』の江藤鈴世を知っていると男名前と思われるかも!?
雨宮先生のわりと最近の弟子には真城聖美・歌美という双子の姉妹(元双子兄弟)がいて、羽鳥セシルの事実上のマネージャー兼ディレクターをしている。彼女たちの母は、しまうららである。
(“真城”はしまうらら(里村加奈子)の旧姓。ふたりは“父の性から母の性に変えたので、姓も父の姓から母の姓に変えました”と言って、母方の姓で活動している)
しまうららは、友人のゆきみすずから「かなちゃんの所、双子の息子さんだけじゃなくて、双子の娘さんもいたのね」と言われて「へ?」と思い、いつの間にか、双子の息子が双子の娘に華麗なる変身を遂げているのを知りショックを受けたらしい。
木取道雄のwooden fourの仲間・大林亮平はマリの息子・大輝の父親。亮平の妻は原野妃登美で、マリはデビュー前に原野妃登美のバックダンサーをしていた。
また近藤嶺児とスカイヤーズのChou-yaは昔同じバンドに居て、このバンドにはしばしば七星がゲスト参加していた。
七星は松原珠妃のバックバンドに居たことがあるが、ケイも珠妃のバックバンドに居たことがあり(時期は重ならない)、ケイに七星を紹介したのは珠妃である。
松原珠妃はしまうららが見い出した。しまうららが見いだしたアーティストには他にチェリーツインなどもいる。チェリーツインの“コーラス”(という建前の実質的なメインボーカル)少女Xと少女Yは、メテオーナの元メンバーである。
メテオーナからこの2人(+1)が抜けた後、“千代紙”の和泉とケイが加わって、KARIONが生まれた。
「でもメロディーさんって、ほんとに凄い美人ですね」
と秋風メロディー(上野美由貴)の御自宅を出た後で、東雲はるこが言っていた。
「それ取材中に言えば良かったのに」
とディレクターさんは言うが
「でも美人さん本人に向かって美人と言うのは失礼だと思って」
と、はるこ。
「私もそう思って、容姿については触れませんでした」
と町田朱美も言う。
「彼女は自分が美人なのは当然と思っているので、容姿で褒められるのは、何を今更と思うようですよ。ウサイン・ボルトに向かって、あなた走るの速いですねと言うのは失礼でしょう?」
とケイが言うと
「なるほどー」
とディレクターさんも納得していた。
「コスモスちゃんによると、メロディーさんは“立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花”で、コスモスちゃんは“立てば韮崎観音、座れば鎌倉大仏、歩く姿は大魔神”らしい」
「大魔神は恐いです」
「あはは」
8月7日(土)はマリ&ケイの取材である。これは先日のサウザンズの取材をしたのと同じ、恵比寿のケイのマンションで取材をおこなった。
普段取材する側のケイがこの日は取材される側である。
先日はマリさんは実家の方に退避していたのだが、今日は、あやめ・大輝の2人の子供と一緒に恵比寿のマンションに出て来ている(お母さんも付いてきているが、カメラには映らない)。町田朱美が2人を見て「可愛いぃ!」と言って喜んでいた。
サウザンズの取材の時は騒然としていたので、このマンションの部屋をあまり紹介できなかったのだが、今日はリビングの壁一面に並んだ数千枚のCD、リビングのヤマハ製“音楽室”内に設置されたエレクトーンSTAGEAとクラビノーバCLP-545 も映される。なお取材班は、ふたりの“安らぎの場”である、マリの実家にも昨日お邪魔して、大型のグランドピアノ S6B が置かれた部屋なども撮影している。放送時には両者の様子がミックスして画面に流れていた。
S6Bはせっかく高いお金を出して買ったのに、マリ自身が実家にめったに行かないので、まさに宝の持ち腐れになっていたのだが、最近、おやめがよく触っていて、ほぼあやめのおもちゃと化している(マリの母が弾き方の基礎を教えてあげたら楽しそうに弾いているようだ)。
今回の取材で、ラピスラズリはローズ+リリーの初期の作品『ギリギリ学園生活』を歌った。マリはラピスの歌唱が物凄く気に入ったようで、たくさん拍手をし、
「ぜひ君たちのアルバムにでも」
と言うので、またまた『懐メロ』用の楽曲が溜まっていく。
「これ以前他の方もカバーしてますよね」
「そうそう。坂井真紅(まこ)ちゃんがカバーしている。でも彼女も20代だし」
坂井真紅は1997年2月生で、青葉のひとつ上の学年である。
「さかいまこ?」
と博識の町田朱美が悩む。それで青葉が
「あの人、たいてい“さかい・しんく”と誤読されるよね。紅白に出た時も間違えられた」
と言うと
「あのお名前、“しんく”じゃなくて“まこ”だったんですか!」
と町田朱美はマジで驚いていた。
社長の秋風コスモスのお姉さんの前では緊張したラピスラズリが、会長のケイの前では最初からリラックスしていた。この1年半ずっと一緒に取材で同行していたので、身内感覚が働くようである。
しかしローズ+リリーには色々“謎”があるので、そこを町田朱美がわざと質問して、ケイが答えに窮するような場面も多々あった。
「ケイさんが2008年11月15日にわずか1時間で名古屋から金沢に移動したのはいまだに方法が謎だと言われているのですが」
「それは勘弁して。でも方法はあるんだよ」
とこれに関してはひたすら逃げていた。
「ケイさんは2011年に性別を変更したと主張なさっていますが、小さい頃から女の子だったという証言が多数あるのですが」
と町田朱美が“追及”すると、マリが
「これが証拠だよ」
と言って、ケイが女の子の格好をして写っている小さい頃の写真をたくさん広げる(生まれた直後の写真を含む)ので、その手の写真が多数カメラに写って、ケイが困ったような顔をしていた。
「やはり生まれた時から女の子だったみたいですね。この生まれた直後の写真に男の子ならあるはずのものが見当たりません」
と朱美。
「出生証明書もあるよー」
と言って、マリが
《唐本冬子・女》
と書かれた出生証明書を出してくるので
「おお!これは決定的な証拠だ」
と朱美が喜んでいた。
「最後にひとつ。ケイさんは何人いるんですか?」
「私はひとりだよー」
「ケイさんのお友だちに聞くとケイさんが5人以上居るのは確実と皆さん、おっしゃるんですが」
「そんなこと言われても困るなあ」
「だってケイさんの仕事量を考えると、どう考えても最低5-6人以上居ないと、不可能だと思うのですが。ケイさんが複数いるなら、名古屋から金沢まで1時間で移動した問題も解決しますし。他に30分でやはり名古屋から長野に移動したのも確認されてるんですよ」
と朱美が笑顔で言うと
「私の推測では100人だな」
とマリが言うので
「マリさんの証言によると、ケイさんは100人居るそうです」
と朱美は言って、一連の質問を終えた。
取材終了後、朱美は笑いながら言っていた。
「ケイさんが100人はさすがにジョークですけど、アクアって絶対3-4人いると思いません?1人であの仕事量はどう考えても不可能ですよ」
ケイは
「マジであの子は5-6人いるかも知れないよね」
と内心冷や汗を掻きながら答えた。
「だけど私もケイさんは最低3人はいる気がしているんですけど」
と青葉まで言っていた。
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東風(8)