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■春紅(24)

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17:15くらいに、細川家と村山家の関係者が越谷F神社の拝殿に並ぶ。
 
やがて紋付き袴姿の貴司が、白無垢を着て綿帽子をかぶった千里の手を引いて拝殿にあがってくる。
 
そして17:20すぎ、祭主(辛島広幸宮司)と巫女長で宮司夫人の栄子さん、千里の友人でもある巫女の泉堂深耶さんが入ってくる。
 
大幣で新郎新婦のお祓いをする。そして雅楽の録音が再生される中、祭主が祝詞を奏上する。これが17:24ジャストであった。
 
17:29 三三九度が行われる。例によってお酒は飲むふりだけである。
17:34 親族堅めの儀式
17:36 結婚指輪の交換
17:40 玉串奉奠
17:41 終了!
 
という慌ただしい結婚式であった。
 
いったん双方の親族が退場する。座席が消毒される。
 
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村山家と高園家の親族が上がる。高園家の親族が朋子・典子と青葉の3人だけなので浜田あきらと妻の小夜子も頼まれて一緒に並んだ(このふたりは夫婦だが、普通姉妹か何かに見える:二人とも色留袖であった/朋子と典子は黒留袖で青葉は成人式で着た藍色の振袖)。
 
桃香が千里の手を引いて入場してくる。
 
ここで何人か「え?」という声を挙げた。千里の衣装が黒の大振袖だったのである。貴司との結婚式が終わって白無垢の千里が退場したのは17:41くらいで、今桃香に手を引かれて大振袖の千里が入って来たのは17:45くらいである。僅か4分で白無垢を大振袖に着替えられるわけがない。
 
つまり・・・
 
さっきの結婚式の千里とこの結婚式の千里は別人である!
 
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それをどうも、細川家の人の大半(貴司を除く!)、村山家の人の大半(武矢を覗く!)、高園家の人たち(朋子と青葉)が認識したようである。典子は首をひねっていたが、まさか千里が複数いるとは思わないだろう。
 

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しかし辛島宮司夫妻は「そういうことか」と納得したような顔をしていた。夫妻は元々千里は複数いるのではと疑っていたようだ。夫妻は千葉L神社時代も、日によって千里の龍笛の調子が違うのを不思議に思っていた。
 
結婚式が行われる。少し遅れているが、千里は「無理しないで普通に進めて下さい」と宮司に言った。それでこのように進行した。
 
17:46 お祓い
17:51 三三九度
17:55 親族堅めの儀式
17:57 結婚指輪の交換
18:01 玉串奉奠
18:02 終了!
 
千里と桃香が三三九度を少し急ぎ気味にしたことから、結局太陽が沈む前にギリギリで玉串の儀までは終了した。祭主が退場したのが18:03, 新郎新婦が退場したのが18:05くらいだった。
 
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「つまり単純に2つの結婚式が行われただけよね」
と保志絵が言い
「そういうことだったようですね」
と津気子も言って
「ごく普通の結婚式でした」
と朋子も笑顔で言った。
 
若干分かってない人たちもいるようだったが、それは放置した!
 
ケイや和実などはこの2つの結婚式を両方リモートで見ていたが、
 
「要するに貴司さんと結婚したのが2番で、桃香と結婚したのが1番なのね」
と納得した。
 

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この後、祝賀会が2つ続けて行われた。
 
18:10-19:30 細川貴司・千里の祝賀会
19:40-21:00 高園桃香・千里の祝賀会
 
貴司・千里の祝賀会が始まったのは、桃香・千里の結婚式が終わってわずか5分後である。それなのに、千里はこの祝賀会に白いウェディングドレス姿で登場した。大振袖を7分でウェディングドレスに着替えられる訳が無い。ということで、桃香・千里の結婚式に出た千里と貴司・千里の祝賀会に出た千里は別人であることが分かる。
 
2つの祝賀会の参加客は異なっている。たとえばレッドインパルスの関係者や佐藤玲央美など、また音楽関係者などは貴司との祝賀会だけに参加している。クロスロードのメンツの多くは桃香との祝賀会だけに参加している。両方に参加したのは村山家のメンツ以外では、青葉・ケイ・和実などごく少数であった。
 
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19:30に貴司との祝賀会が終わるとその祝賀会に出ていた千里(たぶん2番)が青葉の所に来て言った。
 
「じゃ私ちょっとフランス行ってくるからよろしく」
「はいはい」
 
しかし“この千里”が居なくても、別の千里がすぐ次の桃香との祝賀会に出ているので、不在を意識する人はあまり多くないだろう。
 
と思っていたら、青葉の所に“巫女衣装”の千里が寄ってきて
「私、社務所に居るから何かあったら呼んでね」
などと言って向こうへ行った!
 
たぶん今のが3番さん(か4番さん?)だなと青葉は思った。しかしなんで社務所とか目立つ所にと思ったが、すぐ分かった。
 
わざと多くの人に千里姉が2人いることを認識させるためだ。つまりこの日の婚姻が重婚では無かったことを認識してもらうためなのだろう。だから2番さんがフランスに行っている間、その代役を務めるために3番さんが出て来たんだ。
 
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細川家の人は貴司・千里の祝賀会が終わったものの、桃香・千里の祝賀会の終了を待っている。その時ふらりと社務所に行くとそこにも千里がいるので、こちらがさっき貴司と結婚した方の千里かと思うだろう。
 
千里姉も全く用意周到だよ!
 
なお、桃香・千里の祝賀会では、桃香がペールブルーのウェディングドレス、千里がペールピンクのウェディングドレスを着た。ここで千里の髪型が、貴司との祝賀会の千里は長い髪を単純なストレートのポニーテール(千里の海外でのニックネーム“ロングテール”のまま)にしていたのに、桃香との祝賀会の千里はウェイブを掛けた髪をシニョンにまとめ、更に多数のお花やレースなどで飾っていた。10分間でウェディングドレスの着替えは可能だけど、あの長い髪にウェイブを掛けて更にこんな面倒くさい髪型に変更するのは10分ては不可能。だいたいウェイブ掛けるだけで1時間かかる。ということで、やはり2つの祝賀会の千里は別人であるとしか考えられない。
 
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桃香・千里の(リモート)祝賀会は21:00には終了し、結婚式に出席してくれた人たちの内、貴司の親族・千里の親族は大型バスで1時間ほど掛けて郷愁村に移動。ホテル昭和に取られた部屋に入った。桃香の親族は浦和の家に入る。
 
101:青葉・彪志
201:(空)
202:早月・由美・緩菜
2SR:京平
203:朋子・典子
 

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結婚式の後、貴司は熊谷に移動して、22:30頃にホテル昭和のスイートルームに入った。この日千里が初夜をどう掛け持ちするのかは全く聞いていない。何時頃から自分の番かなあと思っていたから、22:50頃に千里が入って来て
 
「お待たせ」
と言う。
「どのくらいこちらに居れるの?」
と訊くが
「気にしない気にしない」
と言われてキスされる。
 
「まあゆっくりと初夜を楽しもうよ」
と千里が言うので、いいのかなあと思いながらも、貴司は千里にキスをした。
 

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桃香も22:30頃にホテル昭和の別のスイートルームに入ったのだが
 
「何かバスケットの試合があるから夜中すぎまで待ってもらうかもと言ってたけど、千里のやつ、なんで試合のある日に結婚式の日程を組むんだよ」
と文句を言っている。
 
(全くである!)
 
しかし22:40頃に千里が入って来て
 
「遅く待ってごめんねー」
と言うので
 
「試合はいいの?」
と尋ねた。
 
「うん。桃香との初夜を済ませてから行く」
などと言っている。
 
「私との初夜は朝まで続くぞ」
「だったら遅刻しちゃう」
などと言って千里が桃香にキスしたので、桃香は千里をそのまま押し倒した。
 

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フランスのノール県の体育館にやってきた千里3はぶつぶつ言っていた。
 
「全くもう2番が暦を読み間違えるから、こういう面倒なことをするハメになる。更に自分の試合日程を忘れているとか、何やってんだか。結婚式あげた日に試合に出るなんて、私以外にはそんな人居ないだろうな」
 
などと言いながら、チームメイトに「サリュ!」と手を挙げて挨拶し、その輪の中に入った。
 
ということで、この日は千里2が貴司との初夜、千里1が桃香との初夜をして、千里3は2番の代理でフランスの試合に出たのであった。ただし事前練習には2番本人が(祝賀会の後)参加し、試合直前に3番と交替した。2番が貴司の所に姿を現すのが少し遅れたのは2番と3番で、監督の指示などについて申し送りをしていたからである。
 
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千里たちはお互いの記憶が独立しているので、アクアたちのように同じ記憶を共有するなどという便利なことができない。
 

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1日前。
 
3月27日の午後、青葉と一緒にHonda-Jet で熊谷の郷愁飛行場に飛んできた朋子と典子はいったん浦和の千里の家で休んでから、早月・由美・緩菜の女の子3人を連れて出かけた。行き先を知っていたのは千里3と桃香だけである。
 
千里3が手配していた外人女性のドライバーさんの運転するセレナで移動し、千葉市郊外の花丘玉依姫神社にやってくる。
 
「ご無沙汰しておりました」
と車を降りた朋子は季里子の母・呼子(ここ)に挨拶した。
 
「いえ。こちらこそ遠くからわざわさざお疲れ様でした」
と呼子も言う。
 

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既に花嫁・花婿の支度はできている。
 
季里子はウェディングドレスを着ている。季里子のお母さんは(夏樹との結婚では式を挙げなかったので)今度こそ白無垢を着せたかったようだが、季里子は「私洋装の方が好き」と言って、純白のウェディングドレスを着た。桃香もウェディングドレスだが、こちらはライトグリーンのウェディングドレスにした。
 
桃香は自粛してタキシードを着てもいいと思ったのだが、この花丘玉依姫神社のオーナー代行さん(?)に照会したら、女性同士の結婚式は特に問題ありませんと言ってくれたので、ウェディングドレス同士の結婚式になった。
 
この結婚式の参列者は、季里子の両親、桃香の母(朋子)と叔母(典子)、館山に住んでいる高園洋彦(桃香の父の兄)夫妻、季里子の姉夫妻と兄夫妻である。典子の目には、姉夫妻も兄夫妻も全員男性に見えた!が気にしないことにした。洋彦も、桃香のレスビアン生活は見慣れているのて、その程度は気にしなかった。
 
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16:30頃にL神社から神職さんとヘルプの巫女さんがやってきて、結婚式が始まる。
 
お祓いをしてから、祝詞を奏上するが、神職さんはちゃんと
「高園朋子の長女・桃香と紫尾真栗の長女・季里子の婚礼(とつぎのいやわざ)を執り行わん」
 
と女同士の結婚であることを明確に宣言した。祝詞奏上の際には、L神社から来た巫女さんが太鼓を叩き、巫女長の後藤真知が篳篥(ひちりき)、もうひとりの巫女・林田瑞紀(実は林田風希の妹)が龍笛を吹いた。季里子は『凄い龍笛演奏だ』と思った。瑞紀は千里の直弟子である。
 
なお、季里子は姉になってしまった元兄がいるため“次女”とみなされることが多いが、法的には長女なので祝詞では堂々と長女を主張した。
 
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その後三三九度を略式の六度ではなく正しい九度で行う。但しお酒は実際には注がないので飲む振りだけをする。
 
そして親族堅めの盃をしてから、巫女舞をする。神職さんが太鼓を叩いて、後藤真知の篳篥・林田瑞紀の龍笛にあわせてL神社の巫女さんが舞を奉納した。その後、指輪の交換、誓詞朗読、玉串奉奠、と進んで神職さんのお話が5分ほどあり、結婚式は40分ほどで終了した。
 

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この結婚式を実はテレビ局が取材していた。
 
どこでキャッチしたのか、女性同士の結婚式があるという情報を聞きつけた『関東不思議探訪』の谷崎潤子かオーナー代行(?)の千里に接触してきた。千里は後藤真知に頼んで、桃香・季里子の意向を聞いてもらった。その結果、顔にはモザイクを掛けること、名前は出さないことを条件に撮影を許可したのである。
 
それで桃香と季里子の結婚式は関東中に放送されることになったのである。2人を知っている大学時代の友人たちはモザイクが掛かっても桃香と季里子と分かったので「まあどちらもレスビアン婚しかあり得ないよな」と言った。
 
ちなみにこの放送を見た人の中にかなりこんな感想を持った人がいた。
 
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「へー。ここの神社には男の巫女さんがいるのか。元々開放的な神社なんだ」
 
後藤真知は身長こそ167cmしかないものの(それでも普通の女性にしては長身)、雰囲気が男性的なので、伊勢の神宮に研修に行った時に
「男性は困るんですけど」
と言われたクチである。
 
しかしこの放送をきっかけにここで挙式をする同性カップルが増えることになる。
 

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結婚式が終わった後、隣接する日本料理店(ここは青葉や千里とは無関係だが、玉依姫神社の参拝客が多いのでわりと潤っている)で簡単な祝賀会もした。
 
充分な間隔を取った席で、透明アクリルで座席を区切っている。更には窓も開放しているが、寒いのでストーヴが焚かれていた。なお子供たちは別室で千里から頼まれていた真田雪枝(40 minutesのメンバーで後藤の親友)がお世話して、お子様ランチを食べさせてあげたが、女の子が5人もいると、雪枝は目が回る思いだった。(雪枝は結婚式が行われている間は巫女服を着て社務所のお留守番をしてくれていた)
 
 
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