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■春紅(8)
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アクアは(2020年)12月30日に『少年探偵団IV』の主題歌を含む21枚目のCD『探偵王子/自由に生きよう』を発売し、ほんの1ヶ月後の2月3日には2/5に公開される映画『君はダイヤモンド』の主題歌・挿入歌『ダイヤモンドの意志/誘惑するキャッツアイ』(22枚目のシングル)を発売した。
しかしその間に1月20日には北里ナナ名義で『ロマノフの夢/氷の宮殿』を発売している。前者は『少年探偵団』の挿入歌、後者は家電メーカーのCM曲である。アクアは多忙な日程の中を縫うようにして1月上旬、根室市に行き、このCMを撮影している。
根室市郊外に氷のブロックで家を作っており、そこで太陽光パネルで起こした電気で、エアコン!?、LEDの室内灯、こたつ、テレビ、パソコン、炊飯器、電子レンジ、ホットプレートなどを使っているという図である。
リハーサル役の葉月、それに一緒に出演する信濃町ガールズの、常滑真音(中3), 鹿野カリナ(中2), 水谷姉妹(中2,中1) の4人は、前日にG450で撮影スタッフと一緒に郷愁飛行場から中標津空港まで飛んだ。レンタルしたマイクロバスで1時間半ほど走って現地に入り、リハーサルしながら、構成を調整している。
当日はアクアが緑川志穂マネージャーと一緒にホンダジェットで中標津空港に飛び、レンタカーを緑川が運転して、現地に入った。
「これ凄いね!」
とアクアは感嘆の声をあげた。
「3日くらいしかもたないらしいです。絶対にスケジュールがずらせない撮影ですね」
と前日に現地入りしていた吉田和紗(桜木ワルツ)マネージャーが言う。
渡された防寒コートを着る。
「この防寒コート可愛くない?」
「可愛いですよね!」
と舞音が言う。この子、ローズ+リリーさんのライブの時も思ったけど、結構目立つ子だよな、とアクアはこの時思った。
アクアはアクアのイメージカラーであるアクア(水色)の防寒コートを着ているが、葉月も含めて他の6人は様々な色のコートを着ている。
葉月:バイオレット、舞音:ピンク、カリナ:オレンジ、水谷姉:薄茶色、水谷妹:ライトグリーン、柴田数紀:黒
リハーサルの時は、葉月のポジションは和紗(桜木ワルツ)が演じたらしい。演技のできるスタッフはこういう時に重宝する。
なお、柴田数紀は高崎ひろかの弟である(妹ではない)。帯広市在住なので、呼び出して参加させた(帯広から根室までは北海道の地図で見ると近そうに見えるが車で4時間掛かる。彼は父の車で連れてきてもらった)。
この撮影では(アクアも“北里ナナ”として撮影されているので)柴田君は黒1点だったのだが、CM公開後
「あの黒いコート着てた女の子可愛いね」
「信濃町ガールズの新人かな?」
などとネットで噂されていた。ちなみに川崎ゆりこが
「君、信濃町ガールズに入らない?」
と誘ったものの
「信濃町ガールズに入ると、去勢しないといけないんでしょ?まだ男の子をやめたくないからパスで」
などと言っていた。
どうも世間では色々誤解されているようである。
でも彼は次は5月には小浜市まで呼び出されてアクアの写真集撮影に参加することになる。
それで休憩をはさみながら丸1日かけて様々なシチュエーションの演技をした。
氷の家の中で、こたつを囲んでトランプをしたり(柴田君がひとりで負け続けた)、アクアと葉月でパソコン同士のネット碁をしたり(碁が少し分かるらしい柴田君が「ふたりとも強ーい」と感心してた)、最後は全員ソーシャルディスタンスを取った上でめいめいの前に小型のホットプレートを置いてジンギスカンをしたが、美味しかった。これは舞音とカリナが競うようにたくさん食べていた。
これは実際のCMではシリーズとして5〜6回掛けて放送するらしい。
「でも氷の家の最大の欠点はトイレですね」
「ああ、外から見えるトイレは困るよね」
今回の撮影では、トイレは現場近くにある建設会社のトイレを使用させてもらっている。(カリナがトイレに入り便器に座る所までは撮影したが、むろん彼女はそこで排泄はしていない)
「でも氷の家でエアコンの暖房掛けていいのだろうかと不安になるね」
「実際は融けてもすぐ再凍結するから問題無いみたいですね」
「外気温が(氷点下)12度ですからねー」
青葉(主人公である)は、2月4-7日に東京アクアティクス・センターで開かれたジャパンオープンに参加した。今回“津幡組”は2月2日の節分に、Do228で能登空港から郷愁飛行場に移動してきて、マイクロバスで東京に移動し、深川アリーナの宿舎に入っている。
ただし青葉だけは、千里姉の専任ドライバー矢鳴さんに郷愁飛行場まで迎えに来てもらい、浦和の家に入った。ここに泊まって毎日、辰巳のアクアティクス・センターに出かける。彪志と同じ部屋には泊まるが、こういう時は大会が終わるまでセックスはお預けである。なお他の選手たちは深川から、§§ミュージック・コールセンターのマイクロバスで辰巳に移動する。
浦和の家に着くと
「青葉、プールできたよ」
と千里姉が嬉しそうに言った。
早速見せてもらう。
1階から“滑り台”を滑り降りて、地下のシュート練習場に行く。壁の隠しドアを開けて、秘密の空間に入る。
ここでお正月に来た時は、左側壁の隠しドアを開けて、地下ラウンジに入ったのだが、今回は右側の壁の隠しドアを開けて、別の空間に入る。
「ここにバスルームがあるから、泳いだ後はここで身体を洗って」
「分かった。だったら着替えとかはこの付近に置いとけばいいのかな」
「そういう考え方もある」
それで青葉はここで練習用の水着に着替えてしまった。千里姉も競泳用の水着に着替える。
「青葉って、男子用水着を着たことはないよね?」
「内緒。ちー姉こそ、男水着は着たことないでしょ?」
「秘密」
ふたりは意味ありげな視線を交わす。
ともかく2人で正面のエレベータを降りる。
「すごーい」
そこには2コースの25mプールがあった。自動計時装置付きだし、背泳用のスタート器具(バックストロークレッジ)も取り付けられるようになっている。しかもこれはスタートした後、自動で引き上げられると千里姉は説明した。つまり一人で練習している時もこれを使ったスタート練習ができることになる。(大会などではスタッフが引き上げる)
「今浄水装置動かすね」
と言って、千里姉は機械室のような所に入り機械を作動させた。機械の駆動音がする。
「ここって出入りはこのエレベータだけ?」
「そそ。一応非常口はある」
と言って案内してくれる。
「この梯子(はしご)を昇るのか」
「私や青葉にとっては何ともないよね」
「これ地上まで何メートル?」
「ほんの10mくらいだよ」
「私やちー姉でないと無理だね」
「まあここに入れるのは、私と青葉の他は、冬子とアクアくらいだから」
「アクアちゃんには無理な気がする」
「まあその時は誰か助けてくれるさ」
「そうね。誰かね」
それで早速このプールで泳いだが、専用のプールはなかなか気持ちいい。千里姉は1時間ほど泳いだところであがったが
「用事がある時は私が2番を呼んでね。お腹空いたら、ラウンジまで行けば何か食べ物あるし」
などと言っていた。
つまりここに入れるのは千里姉の2番さんと3番さんだけのようである。やはり1番さんは霊的な力が少ないから“霊的認証”を通れないのだろう。
あれ?でも冬子さんやアクアも通れるんだっけ?と疑問を感じたが、まあいいことにして、青葉は練習に集中した。
このプールでたっぷり泳いだお陰もあり、青葉は出場した3種目、800m, 1500m, 400mIM の全てで金メダルを取った。
他の子は大会が終わるとDo228で石川県に戻ったが、青葉はこの後、『作曲家アルバム』の取材で、ラピスラズリ、ケイと一緒に作曲家さんたちを訪問した。今回訪問したのは、ラララグーンのソウ∽(“そうじ”と読む)さん、元ロングノーズの堂崎隼人・前川優作・松崎連鹿(3人まとめて)、元モンシングの堂本正登さんの3組であった。
初日に訪問したソウ∽さんのお宅には相棒のキセ∫(“きせき”と読む)さんも来ていて、事実上セット取材になった。
↓ラララグーンのメンバーの名前と読み方
ソウ∽(そうじ)
キセ∫(きせき)
ルイ≒(るいじ)
ハル√(はると)
ショ÷(しょう)
「大宮万葉さん、久しぶりだね。その節は本当にお世話になった」
とソウ∽さんは笑顔で青葉を迎えてくれた。
「あれはソウ∽さんはもうスランプの出口まで来ていたんですよ。私はちょっとその背中を押しただけです」
「その一押しが難しいからね」
とキセ∫さんは言う。
あの時は、ある事件の処理をしている最中に偶然立ち寄った富山県の水仲温泉でスランプに陥っていた、ソウ∽と、(ステラジオの)ホシの2人をまとめてスランプ脱出させたのである。でも青葉は今も発言したように、2人とも既にスランプの出口まで自力で来ていたのだと思っている。
ラピスラズリには、例によってラララグーンのヒット曲を歌わせたが
「ぜひ君たちのアルバムにでもいいからこの曲を」
と言われてしまう。かくして、ラピスラズリの『ナツメロ』シリーズ用の楽曲は溜まっていく。
ソウ∽が作曲する時の“謎の記譜”という話が出てくる。ソウ∽さんは作曲する時に独自の略記法で楽譜を書き、その略記した記述は、キセ∫さんにしか読めないと言う。だからキセ∫さんはソウ∽さんの清書係である。
「どんな記号なんですか?」
と町田朱美が尋ねるので
「これ今度出す予定の曲の元原稿」
と言って、キセ∫さんが出してくる。一応カメラはこれを映すのは控えた。
ラピスラズリの2人は首をひねっている。
しかし青葉はケイと顔を見合わせた。
「これ読めますよね?」
「私も読めると思った」
「嘘!?じゃちょっと五線紙に書いてみてよ」
とキセ∫さんが言うので、青葉がバッグから五線紙を出し、2枚ケイにも渡して、各々、ソウ∽さんの書いた“記号の列”を楽譜に直して行った。
青葉が書いたものと、ケイの書いたものを合わせてみる。
ほぼ一致している。1ヶ所だけ、青葉が下のドを使った所で、ケイは上のドを使った所があっただけである。
「どうでしょう?」
「パーフェクトだよ。どうして君たちこれが読めるの?」
とキセ∫さん。
「自分で作曲する人なら、わりと読めると思います」
「基本はABC譜ですもんね」
「それの物凄い変形ルール」
「でもだいたい見当が付く」
「伴奏は代表的なパターンに数字が入ってますね」
「そうそう。C1ならミソドミソド、C2ならミソドミレドと判断した」
と青葉とケイは言い合った。
「なぜ分かる〜!?」
「私、高校生の頃は蔵田孝治さんの清書係してましたけど、蔵田さんの記号はこんなもんじゃなかったです」
とケイが言う。
「小節数が足りなかったりしてたと言ってましたね」
「足りないのはさすがに書けないでしょ?」
「それでも書いてましたよ。そういうのはだいたい4小節前の繰り返しで、最後だけ終止形に変えるんです」
「俺も面倒くさくなったら小節飛ばそうかな」
「やめてくれ。俺にはとても補充できん」
もっともこの付近は“楽屋ネタ”になるので、放送ではカットした。
(ラピスが首をひねったあたり付近までで停めた)
その夜、アクアFと松田理史は羽生PAで落ち合った。
「じゃ一緒にドライブしようよ」
「うん。ボクたちの初デートだね」
「そうだね」
「ドライブしてから、食事してホテルだよね?」
とアクアが言うと
「ホテルはもし気分が盛り上がったらということで」
と理史は言っている。自分がマクラを好きになってしまったのは確かだ。でも実はまだ彼女を抱く勇気が出ないのである。今夜してしまうのだろうか?とドキドキしている。
彼はこれまで女の子とデート自体したことがない。一応避妊具は用意したが、買う時に物凄くドキドキした。一度付けて練習もしてみたが、凄く変な気分だった。付着したゼリーはお風呂に1度入っただけでは完全には取れず、しばらく変な感触だった。
「こないだも、ボクを抱いて良かったのに。コンちゃんはボクが持ってたし」
何でも念のためと言われてマネージャーから渡されているらしい。
「何もしないって最初に誓ったからそれを守った」
「サトシも堅物だね〜。取り敢えずドライブしよう」
「うん」
「どちらが運転する?」
「龍ちゃんに任せた。僕はとてもこんな凄い車運転する自信無い」
「普通のMTが運転できれば何も変わらないのに」
と言いながら、アクアは理史に助手席を勧め、自分が運転席に座って、ポルシェをスタートさせた。
「ボクの身体に触ったり、悪戯してもいいからね」
「事故を誘発したら恐いからやめとく」
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