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■春紅(5)
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(C) Eriko Kawaguchi 2021-06-13
千里は、現在妊娠6ヶ月目の丸山アイに電話して言った。
「あのさ、例の“生け贄(いけにえ)”ちゃんなんだけど」
「うん?」
「かなり痛がっているみたいなんだけど」
「まあ痛いだろうね。彼女には半年程度は安静にしてもらって。手術代はタダにしておくから」
「手術代は私が出してもいいけどさ、あの子、§§ミュージックの今年3人目のデビュー歌手にしようかと、コスモスちゃんが色々工作しているんだよ」
「今年は3人も売り出すんだ!」
「ここだけの話、七尾ロマンも恋珠ルビーも初動こそよかったけど、その後が続かなかった。売れてはいるけど、期待したほどではない。同時期にデビューした羽鳥セシルに大きく水を空けられている。それで3人目として、あの子を売り出そうかという作戦が水面下で動いてるんだよ」
「なるほどー」
「それなのに、身体の痛み抱えていたら困るからさ“何とかして”よ」
「分かった。“何とかする”」
「ついでにあの子に何か売れそうな曲、作ってあげてくれない?」
「夢紗蒼依でも良ければ」
2021年1月17日9:50 千里は貴司との婚姻届けをさいたま市の緑区役所に提出した。この日時は例によって占星術と十二直により決定している。
(1)新月〜満月の間 (2)太陽と月の両方が地上に出ている時間帯 (3)ボイドは避ける (4)十二直の中で婚姻に良いとされる日(たつ(建)みつ(満)たいら(平)さだん(定)とる(執)ひらく(開)。“なる(成)”も悪くは無い)
という条件で1月中の適時を調べるとこうなった。
2021.01.13(水.赤口.なる) 14:01-16:20
2021.01.17(日.仏滅.たつ) 9:38-20:57
2021.01.19(火.赤口.みつ) 10:32-22:52
2021.01.20(水.先勝.たいら) 10:57-17:27
2021.01.21(木.友引.さだん) 11:23-24:00
この中で、1/17を選んだのは、適時の中で午前中に提出できるいちばん早い日だからである。やはりこういうのは午前中に出したい。
「仏滅だけどいいの?」
「六曜は全くの迷信。暦の専門家100人に訊いたらまず100人とも六曜は全く無意味だと言うよ」
「そんなものなの?」
この日の浦和地方の月出は9:38だったので、それ以降に提出しようということで朝9時過ぎに家を出て、9:40頃に区役所に入った。少し待ち行列があり、受け付けられたのが9:50だったのである。
最初は貴司の離婚が11月4日だったことから、3-4ヶ月程度待って3月くらいに届けを出そうかという話もしていたのだが、貴司の“前歴”を考えると、さっさと届けだけでも出した方がいい気がしたので、1月に婚姻届けだけでも出してしまうことにしたのである。結婚式はあらためて3月下旬か4月にすることにした。
内輪の結婚式を挙げた2007.1.13から何と14年、結納をした2012.6.6から9年、実に遠回りの婚姻届けだった。その間に2人とも別の人と2度も結婚している(貴司:阿倍子・美映、千里:桃香・信次)。そして子供も2人(京平・緩菜)できちゃったし。
(千里はこの時点で緩菜の父親は貴司だと思い込んでいる)
千里は婚姻届けの受理証明書をもらうと、感無量で涙が出て来た。
「どうしたの?」
「まるで夢見てるみたいで」
「夢じゃ無いよ」
と言って、貴司が千里にキスするので
「こら、人前ではやめろ」
と言ったが、戸籍係の人は笑っていた。こういうカップルはわりといるのかも知れない。
2021年1月17日、桃香は“昨夜の疲れが残って”まだ寝ていた千里に「今日、結婚しないか?」と言った。
「突然だね!」
「思い立ったが吉日だよ」
と桃香は言って、10時頃千里に振袖を着せて、自分はブラック・フォーマルのドレスを着て、一緒にお出かけした。
「正式な式はあらためて春頃にあげよう」
「うん。一応越谷F神社さんにも、春頃になるかもと言っておいたし」
2人は近所の氏神様にお参りした、昇殿はせずに拝殿の前でお参りしただけだが、ケチで貧乏な桃香が、お賽銭を千円も入れるので、千里は天変地異でも起きなきゃいいけどと思った。
その後、写真館で記念写真を撮り、レストランでテイクアウトのランチを買い車(アテンザ:むろん千里が運転してきた)の中で食べたが、写真館もレストランも、ちゃんと予約してあったので、思い立ったが吉日なんて言ってたけど、計画的だったんだなと千里は思った。(貴司たちはプラドで出かけている)
「今夜は初夜だよ。たっぷりセックスしよう」
「昨夜もたっぷりしたじゃん!」
その日、浦和の千里の家では子供たち4人に千里がお昼を食べさせていた。
この日のお昼はオープンサンドで、薄切りのサンドイッチ用パンを置き、ハム、ポテトサラダ、スライスチーズ、スライスしたウィンナー、トマトなど自由に乗せて食べるよう言った。京平や早月に緩菜はまだいいが、由美はかなり無茶苦茶なことになっていて、これは後で服を洗うのが大変だ、などと千里は思った。
4人の現在の年齢はこのようになっている。
2015.06.28 篠田京平 5歳6月
2017.05.10 高園早月 3歳8月
2018.08.23 細川緩菜 2歳4月
2019.01.04 川島由美 2歳0月
緩菜は実年齢は2歳でも“中身”は27-28歳の女性(実は精神的には4人の中で最年長!)なので、一応実年齢に合わせた行動はしているものの、しっかりしている。由美は普通の2歳である。
「彪志お兄さんは朝7時頃出かけたね」
と京平が言う。
「彪志お兄さんは多分コロナが落ち着くまではほとんど休み無しだよ」
「大変そう!」
「パパは9時半頃出かけた」
と緩菜。
「貴司パパは千里2番と結婚するんだよ」
「おかあちゃんもでかけたよ」
と早月。
「桃香おかあちゃんは、千里1番と結婚するんだよ」
京平と緩菜は頷いているが、早月はどうも混乱しているようである。由美はさっぱり分かっていない!
ちなみにこの子たちの、大人たちの呼び方:
●京平・緩菜
千里:お母ちゃん(1番・2番・3番)
桃香:お父ちゃん
貴司:パパ
彪志:彪志お兄ちゃん
青葉:青葉お姉ちゃん
阿倍子(京平のみ):ママ
美映(緩菜のみ):ママ
ちなみに千里2と千里3の区別は、京平・緩菜にもよく分からない。2人がお互いに、よく相手のふりをしているので、京平たちでさえきれいに欺される。初期の頃は“女の人か男の娘さんか”で京平には区別できていたものの、3番が1番の力を利用して本当の女性になってしまった後は、全く区別できなくなってしまった。
●早月
千里:ちーかあちゃん
桃香:おかあちゃん
貴司:たかしおじさん
彪志:たけしおにいちゃん
青葉:あおばおねえちゃん
季里子:ママ(最近“キーママ”から“キー”が取れた)
●由美
千里:おかあちゃん
桃香:ももかあちゃん
貴司:(たかし)おじさん
彪志:(たけし)おにいちゃん
青葉:(あおば)おねえちゃん
季里子:ママ
●来紗・伊鈴
季里子:ママ
桃香:パパ
夏樹:おとうちゃん
子供たちの会話を聞いていると、だいたいおとなは訳が分からなくなるが、子供たち同士で会話が本当に通じているのかは、よく分からない。
2021年1月17日の朝一番、千葉市緑区役所に季里子と桃香が赴き、必要書類を提出または提示して、パートナーシップ宣言をした。
この制度は千葉市では2019年1月29日に始まった。つまり前回2人が結婚した時はまだこの制度は無かった。
必要な書類は、パートナーシップ宣誓書、運転免許証(住所確認+本人確認)、戸籍謄本(独身であることを確認するため)である。
宣誓書は左側に桃香、右側に季里子が名前を書いた。
この日に届けたのは、桃香が「思い立ったが吉日」と言ったからである。一週間前に電話してこの日に提出を予約しておいた(本当は頭の中が混乱しないように“もうひとりの桃香”と日付を合わせたのである:もうひとりの桃香が貴司たちと同じ日になったのは実は千里3の要請:やはり混乱しないように!)。
「この日仏滅だけど」
「私は唯物論者だ。そんなものは科学的根拠が無い」
「桃香らしいね。じゃ17日に届けよう」
と言ってふたりは17日に予約を入れたのである。
桃香はこの宣言のため12月中に自分(と早月)の住所を浦和のマンションから千葉市の季里子の家に移動していた。つまり実は桃香は住民票の上では浦和の新しい家には移動していない。そして年内に運転免許証の住所記載も変更しておいた(裏書き対応)。つまり桃香は法的には埼玉県民から千葉県民になった。
一方、季里子は夏樹と結婚していたので親とは別の住民票になっていたのだが、その住民票に桃香と早月が同居人として掲載されることになった。この住民票には、来紗・伊鈴も記載されているので、桃香はまさにこの2人のパパになったし、早月は来紗たちの妹になった感じである。
2013.06.03 来紗(小1)
2014.08.10 伊鈴(年長)
2017.05.10 早月(3歳)
なお、桃香は夫婦別姓主義者なので、苗字の統一はしない。でも子供たちについては、将来、早月を季里子の養子にして3人の苗字を統一しようと言っている(朋子・千里3!の承認済み)。早月が幼稚園に入るまでにする予定だが、今すぐ実行しないのは季里子が桃香の浮気に警戒しているためである。
「あら、今日は早月ちゃん、連れてこなかったの?」
と季里子の母から言われる。
「すみませーん。早月はまだ当面浦和に置いておきますが、こちらにも頻繁に連れてきますので。早月は由美を妹として可愛がっているから」
「由美ちゃんも一緒にこちらに住んでもいいけど、2人とも連れてくると、千里ちゃんが寂しいだろうしね」
とお母さん。
「みんな一緒に暮らす訳にもいかないですし」
などと桃香が言うと、ギロリと季里子が睨んだ。
そういう訳で、この後、早月と由美は土日には季里子の家に行き、そちらに泊まるようになる(やっと4分割した子供部屋が本来の形で使用されるようになる)。
↑の図で○は西四命で吉となる方位、×は東四命で吉となる方位である。
季里子の家の住人の本命星↓
真栗 1960.11.21 巽(西)
呼子 1961.10.13 震(西)
季里子 1988.07.10 震(西)
桃香 1990.04.17 坎(西)←男命で見た場合
来紗 2013.06.03 坎(西)
伊鈴 2014.08.10 艮(東)
早月 2017.05.10 艮(東)
由美 2019.01.04 兌(東)
緩菜 2018.08.23 乾(東)
(参考)
京平 2015.06.28 震(西)
夏樹 1982.06.22 離(西)←男命で見た場合
おとなたちは偶然にも全員西四命で、子供たちは来紗以外が東四命である。
部屋を4分割(真栗と桃香の共同作業)した時、来紗は「私この部屋がいい」と言って、南の部屋を取ったが、実は子供たちの中でこの部屋が吉となるのは、来紗のみであった。なお京平もここが吉だが、京平はこの家に泊まることはまず無い。京平は2階の空き部屋(事実上物置と化している)に置かれている“鏡”を通っていつでもここに来ることができる。しばしば来紗がこの部屋で「京平ちゃーん」と呼んで、京平を召喚!?している。来紗・伊鈴の方が京平より年上だが、2人はしっかりした京平を頼っている。来紗は「やはり男の子は頼り甲斐があるなあ」などと思っている。
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