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■春紅(3)

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2021年の新年は§§ミュージックのカウントダウン&ニューイヤーライブ(深川アリーナからの無観客ネットライブ)で幕を開けた。
 
カウントダウンを任せられた桜木ワルツはこのライブを持って歌手を引退し、葉月のマネージャー・吉田和紗として再出発する。もっともこれまでも彼女は自分の歌手としての報酬より、よほど高額の葉月マネージャーとしてのお給料をもらっていた。
 
1月1日は、例年博多のシーホークホテルでしていた新年会を今年は午前中にリモートで実施した。そして午後からはローズ+リリーのニューイヤーライフが小浜市のミューズシアターであったので、一部の子たちがそのサポートやゲストで出演した。
 
これに出たのは下記である。
 
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司会 姫路スピカ
ゲスト 七尾ロマン、羽鳥セシル、恋珠ルビー/伴奏:常滑舞音
“愛のデュエット” アクア+今井葉月
雅楽伴奏 ColdFly5+3
 
ケイはYe-Yoを連れて行くつもりだったものの、彼女が“体調不良”ということで常滑舞音を連れて行った。しかしそれが彼女のブレイクのきっかけになるとはケイや千里たちも夢にも思わなかった。
 
・このライブ中継で舞音の踊りを見た若山鶴風が「あの子に名取りをさせよう」と言い出し、その名取り披露をあけぼのテレビで放送した。

・その披露中継を偶然見た常滑市長が「あの子に常滑焼きのキャンペーン曲を歌って欲しい」と言ってきた。

・そのキャンペーンソングが思いがけず大ヒットとなった。
 
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この世界では誰かの代役をしたことが出世のきっかけとなることは多い。
 
松田聖子は本来は数年後にデビューする予定だったのに、エクボ化粧品のCM曲を歌う予定だった歌手が急に歌えなくなり、たまたま空いていた松田が歌ったらその曲(『裸足の季節』1980.4.1発売)が大ヒットしてしまった。それで松田は、なしくずしにデビューしたことになってしまう。直前の2.1に同じ事務所から『パパが私を愛している』という曲でデビューした中山圭子は「君の後は2年間は他の歌手はデビューさせずに君を全力で売るから」と言われていたのに、わずか2ヶ月で裏切られた。
 
中山圭子と松田聖子は色々因縁がある。元々中山圭子は「新田明子」という芸名を提示されていたのだが「私じゃないみたい」と言って拒否し、本名の中山圭似子の“似ヌキ”で中山圭子にした。サンミュージックは中山に断られたこの名前を2年後くらいにデビューさせる予定だった蒲池法子に提示した。しかし蒲池は「その名前はインパクトが無い」と言って断り、新たに提示された松田聖子を使用した。ということで、新田明子の名前は、中山圭子と松田聖子の2人の歌手に断られて、お蔵入りした。
 
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2021年1月4日(月).
 
緒方美鶴(甲斐絵代子 Ye-Yo)は再度中村晃湖さんのヒーリングを受けた。前回のヒーリングで激しい痛みはかなり緩和されていたのだが、今回のヒーリングでずっと継続している痛みも随分緩和された。
 
「だいぶ痛み取れたでしょ?」
「はい。我慢できる範囲になってきた感じがします」
「うんうん。でも調子に乗って、オナニーとかはしないでね。まだ今の段階では快感より痛みの方が大きくなると思うから」
「とてもそこまでする気にはなりません!」
 
「まあオナニーは2〜3ヶ月は我慢した方がいいね」
と中村さんは笑って言っていた。
 
「でも私、自分はもう女の子なんだというのをかなり確信できるようになりました」
「みたいね。それが精神的に混乱している人は痛みがずっと続くし、炎症とかも起きやすいんだよ。これは臓器移植とか受けた人と似ている。移植してもらった臓器を自分のものであると確信できると拒絶反応は小さくなる(*4)」
 
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「へー、そういうものですか」
 
(*4)斎藤栄が「タロット日美子」シリーズの中でそのようなことを書いている。
 

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2021年1月。
 
その日、天月聖子(今井葉月)は3月の卒業式を前に残り少なくなった授業を受けていた。授業は倫理だったのだが、この先生は脱線が多く、話は教科書からかなり離れつつあった。
 
「戦後の冷戦はアメリカとソ連という二大超大国のパワーバランスで進行したのですが、この2国は赤と白という対照にもなっています。ソ連は赤旗を象徴とし、最高指導者の執務所があるクレムリン宮殿の前にあるのは赤の広場です。一方、アメリカ大統領の執務所はホワイトハウスです」
 
「世の中には結構赤と白が対照になっているものがあります。イギリスの薔薇戦争では、ランカスター家が赤い薔薇、ヨーク家が白い薔薇を各々の象徴としていました」
 
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「日本では平安時代末期の源氏と平家の戦いで、源氏が白旗、平家が赤旗を掲げて戦いました。最終決戦の壇ノ浦では、途中で源氏有利になると、それまで赤旗を掲げていた船がどんどん赤旗を降ろして代わりに白旗を掲げたそうです。それで源氏が雪崩(なだれ)的に勝利した」
 
「それって最初から両方用意していたということですか?」
と質問がある。
 
「みんな敗軍になりたくないから、勝ちそうな方に付こうと思ってたんだろうね」
と先生も笑いながら答える。
 
「ロシア革命でも、赤軍と白軍の戦いがあり、赤軍が勝ってその後のソビエト政権を作ったので、ソビエト連邦では赤が政権の象徴となりました」
 
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「また日本の学校の体育の授業では赤白リバーシブルの紅白帽や、紅白リバーシブルの鉢巻きをつけて組分けして試合をしたりしますね。これは源平の合戦に由来するのではないかと言われます。日本のオセロは黒と白のリバーシブルですが、明治時代にイギリスからリバーシ(*5)が輸入された時は“源平碁”と呼ばれ、赤と白のリバーシブルだったそうです。部活動とかプロのスポーツチームでも、チーム内部で選手を2組に分けて試合をするのを紅白戦と言いますね。ただこういうのは日本独特の習慣で、英語で Red-White Battle とか言っても通じないようです。英語だと内部対抗戦 intrasquad game などと言うようです。その内部チームを色分けする場合も、白と青だったりするようですね」
 
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へー。赤と白って日本だけなのか。そういや外国の小説で「赤と青」とかあったっけ?(*6)
 
(*5)リバーシは1883年(明治16年)にイギリスのルイス・ウォーターマン (Lewis Waterman) が考案した。ただしジョン・W・モレット (John W. Mollett) はウォーターマンのゲームは自分が1870年に考案したアネクゼイション (annexation)というゲームの改変版に過ぎないと主張している。アネクゼイションは十字盤でリバーシは現在と同様の四角形の盤であった(後に八角形盤も出た)。石は元々黒と白だったが、バリエーションとして、黒と赤、赤と白のものもあった。一方アネクゼイションは赤と青だったようである。日本の業者は赤と白のバージョンを輸入したか、あるいは国内生産して“源平碁”の名前で販売したものと思われる(国内生産した方が安く済みそうな気がする)。
 
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(*6)きっとスタンダール(Stendhal 1783-1842)作「赤と黒」(Le Rouge et le Noir) の勘違い。赤は軍人、黒は聖職者を象徴し、庶民が出世するための2つの道を表す。
 

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「日本だと年末恒例の紅白歌合戦で、紅組と白組に分かれてパフォーマンスしますが、こういうのも日本だけの文化のようです」
 
聖子は、今回は忙しくて参加できなかったけど、前回までアクアさんのリハーサル役として参加していた紅白の舞台はリハーサルといえども高揚するよなあ、と思っていた。
 
「他に紅白餅とか、紅白幕とかもありますね。紅白幕はおめでたいものの象徴として親しまれています」
 
そういやイベントとかで紅白餅をもらうことあるよな、などとも考える。
 
「日本の紅白歌合戦では、女性が紅組、男性が白組なのですが、元々赤は女性、白は男性というイメージがありますね。一説によると、赤は女性の経血の色、白は男性の精液の色から来たとも言います」
 
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と先生が言うと、少し騒然とする。
 
女子校だから、ほとんどの生徒が精液の実物など見たことが無い。聖子さえも「精液って白かったんだっけ?覚えてないなあ」と思っていた。聖子が射精などしたのは、精液の保存をしておこうと言われて採取した5年くらい前が最後で遙かな記憶である。
 
どっちみち睾丸無くなっちゃったしなあ・・・などとも思う。むしろ聖子は昨年春以来、毎月生理の処理をしている。経血の方は、リアルな自分の日常である。でも本当にボク、この後、男と女とどちらで生きていくべきなんだろう?
 

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聖子はお正月に、ローズ+リリーのニューイヤー・ライブに出るため、小浜まで行ったのだが、その時、Honda-Jetに5人で搭乗して往復した。
 
アクアM・アクアF・葉月M・葉月F・千里
 
この時、千里さんから言われたのである。
 
「高校を卒業する時に、自分の性別を決めると言っていた。凄く大変な決断とは思うけど、西湖ちゃん、卒業式の日までに、これから男として生きていくか、女として生きていくか、決めなさい。そちらの性別で確定させるし、必要なら戸籍もちゃんと変更できるようにするから」
 
西湖たちは戸惑った。
 
「あのぉ、性別を決めるといっても、私たち男と女に別れているんですが」
「それはバーチャル分裂に過ぎない」
「バーチャル!?」
 
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「龍虎の場合は本当に男女に分かれていて、2つの人格が並立している。でも西湖の場合は、2人に別れているように見えるけど、実は1人しか居ないんだよ」
 
「どういう意味です?」
と龍虎が尋ねた。
 
「龍虎も西湖も11月から頻繁に2人に別れたり、1人になったりしてるよね」
「はい」
 
「龍虎は1人になった時、残ったのがMかFかというのが分かるよね」
「それは当然です。自分が誰か分からないわけがありません」
 
「西湖は分からないでしょ?」
「・・・確かに。だから、お股に触って『あ、今回はFが残った』とか『Mが残った』とか思ってます」
 
「それがおかしい。自分が誰か分からないというのは、つまりそもそも西湖が1人しかいないからなんだよ」
 
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「え〜〜!?」
「自分が男の子だったら、自分が女の子だったらという意識があるから、それぞれの行動パターンは少し変わる。でも実は西湖Mと西湖Fの根本的な性格は変わらない。それは元々同一人物だから」
 
「言われて見ると、そうかも知れない気がして来ました」
 
「どうして1人になった時、男だったり女だったりするんですか?」
と龍虎が質問した。
 
「それは私が掛けた**の法が破れつつあるからだよ」
「ああ」
 
「元々、西湖を女の子に変えてしまいたい人が西湖の周囲に何人もいたから(犯人:丸山アイ・こうちゃん・西湖の母!)、西湖の男性器を守るためにそれを隠して一時的に女の子に変えておいた。**の法は1度かけると1年間はロックされる。でも1年経てばロックは終わって、また性別を変更できるようになる。普通は、**の法が使える人物(千里・羽衣・虚空)にしか、性別変更はできないんだけど、分裂のせいで不安定になっているんだと思う」
 
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「ああ、やはり分裂が引き金なんですね」
と龍虎。
 
「元々西湖が2人に分裂したのは、アクアが高校卒業して仕事量が増えたから、西湖が1人のままだと、学校に行く時間も無くなって退学になり、へたすると過労死すると憂慮した、西湖の守護霊さんが、神様にお願いして高校卒業までの期間限定で助けてくれたんだよ」
 
「そうだったのか」
 
「ただ、思わぬトラブルで、3月まで2人でいられるはずだったのが11月に1人に戻ってしまったから、指輪を渡して助けてくれたんだね」
 
「じゃ、卒業までの期間限定なんですか」
「卒業式が終わったら、指輪の効力は消える。もう分裂しない」
 
「すみません。少し考えさせて下さい」
「うん。今から2ヶ月間、卒業式までに自分が男で生きて行くのか、女で生きていくのかを決めて。本当に大変な決断だとは思うけど」
 
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「はい、凄く悩んでしまいます」
「うん」
 

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