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■春紅(17)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-06-25
 
アクアは自分の主演で『ロミオとジュリエット』の映画を撮影するからと1月下旬に言われ
「まさかジュリエット役じゃないですよね」
と言ったら
 
「大丈夫だよ。アクアはロミオ役だよ」
と言われて、本当かなあと半信半疑だった。
 
これまで何度も、王子様役だと聞かされていたのに、撮影現場に行くと、お姫様の衣装を着せられるというのを経験している。
 
しかし2月になってから『火の鳥』に企画変更になったと言われ、本当に王子様のイワン王子役を演じた。お姫様役は坂出モナちゃんでバラエティなどでもよく共演しているので、気心もしれていて、やりやすかつた。このドラマの撮影は『少年探偵団』撮影の隙間を埋めるようにして、4時間ずつ4日間おこない、3月上旬に完了した。
 
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2月はまだ葉月が2人いたので、何とかなったかもという気がした。アクアは4時間で済んでも、葉月はその倍くらい拘束されている。
 

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その日§§ミュージック男子寮 204号室に住む末次一葉(中2)は、この手の問題に詳しそうな気がした隣205号室の上田信貴(中3)に相談した。
 
「信さん、おっぱいの外し方知りません?」
「は?」
 
彼は昨年秋にドアノブに掛けてあった“おっぱい”を興味本位で胸に貼り付けてみたものの、長期間つけていると蒸れるし“おっぱい”の内側が洗えないので、どうにかできないか悩んでいるという。
 
「まさか3ヶ月くらい貼りっぱなし?」
「はい」
「それ炎症起こしてるよ。ちょっと見せて」
「はい」
 
それで彼が上半身の服を脱ぎ、ブラジャーも外すと、ブレストフォームは接着が弛んだのか、端のほうが結構はがれて皮膚と離れている。そのおかげで、たぶんお風呂とかに入れば結構内側まで水が入って何とか内側も少し洗浄されるのではと思った。しかしどうも炎症を起こしているところもありそうだ。
 
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信貴は自分の部屋から剥離液を持って来て、できるだけ皮膚を痛めないように、丁寧にブレストフォームを剥がしてあげた。赤くなっている所は
 
「しみるけどごめん」
と言って、エタノールで消毒してあげた。
 
「炎症がおさまるまで、半月くらいはつけないほうがいい」
「そうします」
 
「今使ったのは100円ショップで売ってる瞬間接着剤の剥がし液だけど、これは強いし、これ自身が肌を痛めるから、エナメル・リムーバーのほうが肌に優しい」
 
「マニキュア拭き取るやつですか」
「そうそう。そのくらいは持ってるでしょ?」
「持ってますけど、それで剥がれたんですね」
「剥がし液とエナメル・リムーバーはほとんど同じ成分なんだよ」
「へー!」
「でもエナメル・リムーバーは人体に使用する前提で作られているから」
「なるほどー!」
 
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「でもありがとうございます。ほんとにどうしようかと思った」
「ドアノブにかけてあったの?」
「はい。ゆりこ副社長か誰かからのプレゼントでしょうか」
「ゆりこ副社長なら、直接手渡すし、剥がしかたもちゃんと教えると思うよ」
「あ、そんな気がします」
「たぶん怪人Xのしわざ」
「何です?それ」
 
「セキュリティがかかっていて、部外者は入れないはずのこの寮内を闊歩する謎の人物。単純におやつとかくれる時もあるけど、可愛い服とかお化粧品とか女性ホルモン剤とか入れてあることもあるよ」
 
「服は見たこと無いな」
と言っているので、女性ホルモンやお化粧品は受け取ったことあるな、と信貴は思った。
 
「まあ誰か知らないけど、有害なことはしないよ。少し悪戯好きなだけで。でもこの手の問題で悩んだらボクか木下さんに相談しなよ」
「そうします!」
 
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「それともうひとつ教えてもらえません?」
「うん?」
「ボク、ちんちん取る勇気なくてまだついてるからタックしてるんですけど」
「うん」
と答えながら、ちんちんは無理して取るものでもないけどと思う。
 
「タックってどうしても蒸れるでしょ?それで3日に一度は外して洗うんですけど」
「それは1日に1度は洗った方がいいと思うけど」
「そういうもんですか」
「だってどうせお風呂入ったら弛むじゃん」
「そうなんですよねー。だから毎日お風呂入ったあと補修するんです」
「お風呂で、指を入れて摘まんでちんちんを引っ張り出して皮を剥いて丁寧に洗って、あがってから、また接着すればいいんだよ」
 
「摘まめます?」
「ちんちんって結構伸びるから大丈夫」
「指を入れてもどこにあるかよく分からないんですけど」
「探せば見つかるよ」
 
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「じゃ外れるのは構わないんですね」
「接着すればいいからね」
 
「そうだ、もしかしていったん完全に外したい時もリムーバー使えます?」
「もちろん。今までどうしてたの?」
「ひっぱったりハサミで切ったりしてました」
「痛いでしょ」
「痛かったです」
「一回全員集めてタック講座でもした方がいいかも知れん」
 
「それいいと思います。そうだ、タックの時、毛はどうしてます?はさみで切ると、しばしば皮まで切っちゃって血が止まるまで時間掛かるし」
 
「シェーバーを使えばいいと思う」
「一度使ったら刃が毛を巻き込んで激痛が走って。血もたくさん出たし」
 
「回転刃とか使ったら死ぬ思いするよ。女性のデリケートゾーン用の焼き切るタイプのほうがいい」
 
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「そんなのがあるんですか!」
「アマゾンで売ってるよ」
「へー!探してみよう」
 
「あと、どうしても日中蒸れるんですけど、何か対策ないですかね」
 
「一葉ちゃん、ズボン穿いてること多いもん。スカートなら蒸れないよ」
「そうか。スカートかぁ」
 
「学校にもスカートで行けば蒸れなくて済む」
「え〜?学校にスカートで行くんですか?」
「一葉ちゃんがスカートで通学しても誰も変に思わないよ」
と信貴は煽っておいたが、一葉は
「どうしよう?」
とか言って、マジで悩んでいた。
 
「女子制服は持ってるんでしょ?」
「実は作っちゃったんです。お店に行って、転校してきたから制服作りたいと言ったら、女子制服作ってくれました」
「まあ一葉ちゃんがお店に行けば、まさか男子だとは思わないだろうね。持ってるなら、それ着て学校に行けばいい」
「恥ずかしいですー。恵夢(山鹿クロム)ちゃんとかユカリ(三陸セレン)ちゃんとか、よく女子制服着て、寮内歩いているけど、いいなあと思って見てます」
「寮内なら恥ずかしがること無いでしょ。それで自販機とかまで往復してみたら?」
「できるかなあ」
「自販機往復とかゴミ出しは、女装外出の第一歩だよ」
 
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などとこの日、信貴は彼をかなり煽っておいた。
 
「まあ取り敢えず寮内はスカートで出歩くといいよ。どうせみんな似た者同士で恥ずかしがることもないし」
「そうですね」
 
しかし・・・クローゼットといったら、あの子だよなあ。いいかげんカムアウトすればいいのに、と信貴はある寮生のことを考えた。
 

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3月3日(水)ひな祭り。
 
この日は、あけぼのテレビで、ひな祭りの特集番組をした。スタジオに大きな段飾りを作る。
 
東雲はるこ(一応この時点で§§ミュージックの“女子”トップスター)がお雛様、西宮ネオンがお内裏様になり、以下、下記のような配役になった。
 
三人官女:姫路スピカ・白鳥リズム・町田朱美
五人囃子:七尾ロマン・石川ポルカ・花咲ロンド・原町カペラ・恋珠ルビー
左大臣:品川ありさ
右大臣:高崎ひろか
仕丁:常滑真音・甲斐絵代子・水谷雪花
 
アクアについては『当然お雛様でしょ』という意見と『男の子なのでお内裏様で』という意見が対立し、アクア自身が辞退したので、別格ということになり雛壇からは外れた。山下ルンバと桜野レイア、今井葉月は遠慮した。リセエンヌ・ドオと大崎志乃舞は忘れられていた!?
 
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そして“別格”ということになったアクアは結局、五衣唐衣裳(いつつぎぬ・からごろも・も:いわゆる十二単:じゅうにひとえ)を着せられた(犯人は川崎ゆりこ)。
 
平安風のお化粧までされ、桃の実の形の花鈿(かでん)シールまで額に貼られている。
 
アクアがこの格好で、スタジオに置かれた桃の木(作り物だが、まるで本物のように良く出来ている:大道具さんの力作)の下に立っている所が画面に映ると大いに沸き、接続回線数がいきなり倍になる。そして桃の木の下で、アクアは和歌を詠んだ。
 
「春の苑(その)、紅(くれなひ)匂ふ桃の花、下照る道に出立つ嬬(をとめ)」
 
まさに今のアクアの図である。(樹下美人図)
 

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「やはり、アクアは乙女なんだな」
「何を今更」
「アクアを乙女でなくす男がいたら、ぶっ殺す」
 
などとネットの反応。
 
やはり理史の命は風前の灯火(ふうぜんのともしび)である。
 

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アクアはこの歌を詠んでから、意味を解説する。
 
「この歌の直接的な意味は、着の園に紅色に咲く桃の花、その木の下が明るく照っている道に家から出て来て立っている娘よ、という意味です。万葉集巻19-4139番の歌。この歌には“天平勝宝2年朔日の日暮れに庭の桃李の花を眺めて作った歌”というコメントが付いています。天平勝宝2年というのは西暦では750年にあたります。またこれは、この歌を詠んだ大伴家持(おおとものやかもち)の帰宅を迎え出た奥さんの姿を詠んだものとも言われています」
 
そしてアクアは
「大伴家持(おおとものやかもち)は越中国(えっちゅうのくに)、現在の富山県の国司、現在でいえば県知事をしていたのですが、令和の元号に絡んで随分話題になりましたね」
 
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と付け加えた。
 
“令和”の語源は万葉集巻五 815 の前に置かれた文章からである。
 
↓は折口信夫(おりぐちしのぶ)訳「万葉集」(河出書房新社)より
 
天平二年正月十三日(*15)、師老の宅に萃(あつま)りて、宴会を申べつ。時に初春の“令月”にして、気淑く風“和やか”に、梅は鏡前の粉ひ(よそほひ)を披き、蘭は珮後(はいご)の香を薫しぬ。
 
これを書いたのは大伴旅人(おおとものたびと)で、桃の歌を詠んだ大伴家持(おおとものやかもち)の父である。この梅の宴は、太宰府政庁の近くにあった大伴旅人の自宅において開かれたものとされる。この序文の後、この宴で様々な人が詠んだ梅の花の歌が32首続くが、その後に旅人自身の歌も4首入る。
 
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この天平2年は730年(*15)で、大伴家持の歌のちょうど20年前になる。
 
なお、菅原道真が太宰府に左遷されたのは昌泰4(901)年で、旅人の宴より170年後である(東風吹かば匂ひ起こせよ梅の花、主無しとて春な忘れそ)。
 
(*15)天平二年正月十三日はグレゴリウス暦では730.2.8(土)になる。
 
アクアはあらためて“令和”の語源についても解説し、その万葉集巻5の該当箇所に書かれた大伴旅人の歌4首も詠んだ。
 
849 残りたる雪に雑(まじ)れる梅の花、早くな散りそ雪は消(け)ぬとも
850 雪の色を奪ひて咲ける梅の花、今盛りなり、見む人もがも
851 わが宿に盛りに咲ける梅の花、散るべくなりぬ、見む人もがも
852 梅の花、夢に語らく、みやびたる花と吾思ふ、酒に浮かべこそ
 
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梅は旅人の宴の所の32+4首をはじめ多数詠まれているが、実は桃を詠んだ歌は少ない。万葉集には家持の歌を含めてわずか6首しかないし、古今集には1首も入っていない。桃はしばしば女性のことを示唆する。
 
1356 向峰に立てる桃の木なりぬやと人ぞ耳語きし汝が心ゆめ
1358 はしきやし我家の毛桃本茂く花のみ咲きてならざらめやも
1889 我が宿の毛桃の下に月夜さし、下心ぐし、うたて此頃
2834 大和の室生の毛桃、本繁く言ひてしものをならずはやまじ
4139 春の苑、紅匂ふ桃の花、下照る道に出立つ嬬(をとめ)
 
4192 桃の花、紅色に匂ひたる面わの内に、青柳の細き眉根を笑みまがり朝かげ見つつ処女等が手に取り持たる、まそ鏡二上山に、木の陰の茂き谷辺を、呼びとよめ朝飛び渡り、夕月夜かそけき野辺に、はろばろに鳴く雀公鳥、立ちくくと、羽触りに散す藤波の花懐しみ、引き攀ぢて、袖に扱き入つ、染まば染むとも
 
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アクアが五衣唐衣裳姿で、これらの歌を解説していたら、同じく五衣唐衣裳姿の花咲ロンドが雛壇から降りて近寄ってくる。
 
「やはり桃が女性を表すというのは、あそこの形が桃をイメージさせるからかな」
「ロンドちゃん、白酒を飲み過ぎてない?」
とアクアは呆れて言う。
 
「男の子だと、桃じゃなくてバナナとチェリーだよね。アクアはバナナもチェリーも無くなって既に桃だけど」
 
「番組審査委員会から呼び出されて注意されるから、やめなさい」
 

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