広告:生徒会長と体が入れ替わった俺はいろいろ諦めました-ぷちぱら文庫Creative-愛内なの
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■娘たちのエンブリオ(28)

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それで千里は《くうちゃん》にミラを千葉市内に転送してもらい、千里自身もそこに転送してもらってから、桃香のアパートまで運転して行った。
 
「でも千里の会社ってどこ?」
「二子玉川なんだよ」
「じゃどこに住む?」
「まだなーんにも考えてない。桃香の会社はお茶の水だったっけ?」
「新御茶ノ水の方かな。何線に乗るかによる。新宿線なら小川町、丸ノ内線なら淡路町駅、千代田線なら新御茶ノ水」
 
「じゃどっちみちこのアパートは出た方がいいよね?」
「千葉から通えば時間も掛かるしお金も掛かる」
「桃香、お寝坊さんだから遅刻しないようにもっと近くに引っ越した方がいいと思う」
「ただ、東京に住むと遠くなっちゃうんだけど」
「ああ。季里子ちゃんちからか」
「うん」
 
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2人は3時間くらい掛けて、地図にあれこれ記入しながら検討した。
 
「桃香、いっそ季里子ちゃんちに一緒に住んだら?今でも半同棲状態でしょ?朝はきっと季里子ちゃんのお母さんが起こしてくれるよ」
 
「それだと私は浮気して1ヶ月で叩き出される気がする」
「浮気しなきゃいいじゃん」
「それは私には無理というものだ」
「完全にビョーキだね」
 
最初は桃香は東京に引っ越しても千里と一緒に住みたいと言ったのだが、それでは桃香が頻繁に女の子を連れ込んで、自分が寝られないと千里は主張した。それで実際この2年くらいは、千里はあまり千葉のアパートで寝ていないのである。それで出てきた次善の策というのが、桃香と千里が“近く”に住むというものであった。実際桃香は千里がいないと絶対遅刻するし朝晩の御飯に困ると言う。
 
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「モーニングコールサービス契約して家政婦雇えば?」
「そんな金は無い」
 
あれこれ検討して出てきた案が、小田急小田原線・経堂駅の南側に桃香が住み、千里が東急田園都市線・用賀駅の北側に住むというものである。両駅は直線距離で2.7kmしか離れておらず、何かの時はお互いに助け合うことができる。
 
「何かの時って朝御飯のこと?」
「まあいいじゃん」
 
千里としても毎朝貴司の朝御飯を作っているので、桃香の分は“ついで”である。
 
そしてこの場合、千里はJソフトのある二子玉川まで1駅で深夜電車が無くなっても歩いて帰宅出来る。そして東急は半蔵門線と相互乗り入れしているので、錦糸町で乗り換えると総武線で千葉にいくことが出来る。千里は玉依姫神社、千城台の体育館などで、千葉にもしばしば用事が出来る。
 
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一方、桃香は小田急から代々木上原で乗り換えて千代田線・新御茶ノ水駅で降りれば会社は近くである。季里子の家へは、会社から行く時はお茶の水から総武線が使えるし、経堂から直接行く場合はやはり代々木上原で千代田線に乗り換え、大手町から東西線に乗り換えればよい。桃香はたぶん金曜日は会社から直接季里子の家に戻り、週末一緒に過ごすことになるのではと言った。
 
「でもそう都合良く、経堂の南側と用賀の北側に安いアパートが見つかるかなあ」
「たぶん見つかるよ。年明けてから探そうよ」
 
そこまで検討して、その日は別れたのである。
 

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千里はミラを桃香に託してから、《くうちゃん》に頼んで葛西に戻してもらい、ドレスに着換える。それから《きーちゃん》と入れ替わって、新国立劇場で行われるRC大賞の授賞式に出た。《きーちゃん》には葛西で旅支度を調えてもらう。
 

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ローズ+リリーのライブは基本的には19時開演・21時過ぎ終了というパターンが多いのだが、12月30日〜1月1日は年末年始でいそがしい人も多いので時間がずらしてあり、13時開場14時開演16時すぎ終了というパターンになっていた。
 
しかしこの日、会場の東京国際パティオは異様な雰囲気に包まれていた。明らかに定員(5000人)を上回る客が集結していた。主催者では無用なトラブルを防止するため早めに客を入れた方がいいと判断。12時に会場を開けた。そして「入場者以外の方はお帰り下さい」「出演者は全員既に会場入りしています」と呼びかけた。
 
昨夜の『性転の伝説Special』を見てアクアに興味を持った人がこの日のローズ+リリーのライブで彼(多分彼女ではない)が“鈴割り”をすると聞き、その姿が一目見られないかと集まってきたのである。
 
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この日はレコード会社側も、無防備すぎた。
 
集まってきた客をコントロールすることができず、イベンターが用意していた警備員やレコード会社のスタッフではこの人数をどうにもできなかった。一部が暴徒化して、このままではライブを中止せざるを得ないかもという事態になる。
 
ケイは会場から出てきて自らハンドマイクを持って客に呼びかけた。
 
「アクアちゃんを一目見ようと来てくださったのかも知れませんが、彼は既に会場入りしていますし、会場から帰す時は絶対に人目に付かない帰し方をします。ここで騒ぎになれば今日のライブは中止せざるを得なくなります。みなさん、どうか冷静になってください。彼は3月にCDデビューしたら、きっとたくさんライブもして、皆さんが見ることができる機会はたくさん出ると思います。彼の輝かしい出発点が暴動で汚れたりしないように、今日はどうかお帰り下さい。近い内に彼のファンクラブも設立されます。どうかそういった活動を通して彼を応援してあげてください。この通りです。どうか今日は静かにお引き取り下さい」
 
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といってケイは頭を下げた。
 
それで割と冷静な人たちが帰り始め、人数が減り始めると空気も沈静化していく。それで最終的に開演予定の14時頃、全員が撤退してくれた。ライブは予定を少し遅らせて14:20に始めることができた(16:35終了)。
 

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そうやって員外の人たちは帰したものの、ちゃんとチケットを持っていて入場した人の中にも
 
「アクアちゃんにお花を贈りたいんですが」
「アクアちゃんにプレゼントを渡したいんですが」
という人たち(男女はだいたい7:3で女性が多い)が来た。
 
急遽対応を検討した所、秋風コスモスがロビーに出て方針を説明することになった。
 
・プレゼントはありがたいが、稀に盗聴器を仕込んだぬいぐるみ、自分の体液を混ぜたお菓子などを渡そうとする人があり、過去にタレントが救急車で運ばれた事故もあった。それで§§プロではタレントの安全のため、プレゼントには一定の基準を設けさせてもらっている。この方針は§§プロのホームページには掲載されているが、今夜中にローズ+リリーのライブを告知している★★レコードのサイトにも掲載する。
 
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・基本的には直接持参したプレゼントは加工されている疑いを排除できないので安全性の問題があり、受け取れないが、今日だけは特別に受け取ることにする。明日以降は商品券とお花の類い以外は全てお断りさせてもらう。
 
・原則として§§プロではメーカーあるいは大型店などからの直送品や商品券の類い、お花のみを受け付けている。それ以外にファンレターはいつでも歓迎。
 
・手作りの衣類・お菓子などの類いは申し訳ないが破棄させてもらう。
・包装されていない衣類やぬいぐるみの類い、また手包装されているものも申し訳無いが破棄させてもらう。製造元あるいはデパートなどの包装がされているものだけを受け付ける。
・メーカー包装されていても、荷札が個人発送になっているものは注射器などで細工された可能性を排除できないので不可。
・全てのプレゼントに金属探知機での検査、X線検査をさせてもらう。
 
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・受け取って検査を通ったプレゼントはタレント本人に渡すが、量が多い場合は写真を本人に見せた上で、児童福祉施設、障碍者や老人福祉施設などに届ける。
 
・ルールを守ってプレゼントしてくれた人にはタレントの生写真を使用した御礼のハガキを出すので、よかったら住所・氏名を添えて欲しい。なおその個人情報は個人情報保護法の規定に基づき確実に廃棄して漏洩しないようにする。
 

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この日プレゼントを持って来てくれた人の中にはこの手の基準に割と慣れている人も多く、9割ほどのプレゼントを受け取ったし(全品検査OKだった)、受け取れなった分についてもコスモスが「ごめんねー」と声を掛けていたので「次からは基準に沿ってプレゼントします」と言っていた。
 
なおこの日はアクアは早めに帰した方がいいだろうという判断になり、ゲストで歌ってくれたスリファーズ(本来は受験のため休業中なのを特別に出演した)が会場を出る時、春奈のような振りをして一緒に出た。なお春奈本人は少し遅れて、スタッフのユニフォームを着て出た。アクアは車内では彩夏と千秋にはさまれた後部座席中央に乗ったので、おかげで、彩夏と千秋にたくさん「可愛がられた」ようである!
 
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「アクアちゃんって身体に触った感じがまるで女の子みたい」
「まだ第2次性徴が始まってないから」
「まるでおっぱいがあるみたい」
と言って触られる!
 
「病気の治療の副作用なんですぅ。あと1年もすれば普通の男の子みたいに平らになるとお医者さんは言ってます」
「それはもったいない。アクアちゃんこんなに可愛いし。折角だから女の子になっちゃわない?ちょっとお股を手術すればいいじゃん」
「それは勘弁して下さい」
「でも別にちんちんとか無くてもいいんでしょ?」
「無いと困りますぅ」
 
「アクアちゃんのファンクラブ会員番号1−3をくれないかなあ」
などと言っていたが
「すみません。その件は事務所の方に言って下さい」
と逃げておいた。
 
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アクアの人気が凄まじすぎるので、結局アクアはこの後、ローズ+リリーの全公演に鈴割り役で登場することになり、鈴割り役で予定していた“新”XANFUSの2人には代わりに幕間で歌を歌ってもらうことにした。
 
また1月1日以降の公演ではアクア登場場面のライブ・ビューイングを実施することにして急遽会場を押さえた。会場ではアクアがハワイで撮ってきたビデオも一部公開された。
 

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今年2014年のRC大賞は冬子の作品が多数ノミネートされた。まるで冬子のためのRC大賞という感じであった。
 
FK名義で大賞を取ったワンティスの『フィドルの妖精』
水沢歌月名義で金賞を取ったKARION『アメノウズメ』
ヨーコージ名義で金賞を取ったしまうらら『ギター・プレイヤー』および松原珠妃『ナノとピコの時間』
そしてマリ&ケイ名義でローズ+リリー『Heart of Orpheus』
 
千里も醍醐春海名義で阪元アミザ『ラストコール』および遠上笑美子『魔法のマーマレード』がいづれも新人賞にノミネートされていた。
 

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22:00に終わってから《きーちゃん》と入れ替わりで葛西に行く。《きーちゃん》には電車で池袋に移動してもらう。千里はドレスを脱ぎ、メイクを落として、荷物を確認。シャワーを浴びてから、トレーナーにジーンズという旅に適した服に着替える。きーちゃんが用意してくれていた着換えや食糧などの荷物を持ち、再度きーちゃんと入れ替わって池袋駅に行った。
 
既に雪子が来ている。この子は約束の1時間前には来ていないと気が済まない。おしゃべりしている内に橘花も来る。そして12/31 0:15 くらいになって暢子が「ごめんごめん。駐車場の入り方が分からなくて10kmくらい遠回りしてしまって」と言ってやってきた。
 
東京の道は交差点よりかなり前の方から適切な車線に入っておかないと、好きな方向に行くことが出来ず、マジで10kmくらいぐるっと回ってくるハメになる。もっともサンシャインの駐車場はわりと入りやすく出やすいのだが。
 
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念のため全員一度トイレに行ってから駐車場に行く。
 
「都内の道は難しいよ。私に任せて」
と言って千里が運転席に座り、暢子のフリードスパイクは出発した。助手席に暢子、後部座席に橘花と雪子である。
 

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「そういえば森下誠美が帰国したの聞いてる?」
と橘花が言った。
 
「いつ?」
「ほんの昨日、もう一昨日か。29日に帰国したんだよ」
「おお。とうとう帰ってきたか」
「あの子男の子になってたりしないよね?」
「実家で久しぶりに日本のお風呂に入った時に見た感じではお股には棒らしきものは無かったと言ってた」
「ふむふむ」
 
「ローキューツに出戻りするのも何だし、うちに入らない?と誘ったら、一度練習を見せてもらってからと言った」
「どの程度のレベルなのか見たいんだろうね」
 
「あの子、向こうではNCAAか何かやってたの?」
「ブルーチップに入っていたらしい」
「あの子なら大歓迎されたろうね!」
「でもそのままWNBAとか目指さないのかな」
「取り敢えず所属していたチームが解散になったから帰国することにしたって」
 
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「あそこはそれがあるんですよ。経営の不安定なチームが多くて。出来ては消えて行くと知り合いが言っていました。よどみに浮かぶ泡沫(うたかた)のように」
と雪子が言うと
 
「それ何の冒頭だっけ?徒然草?」
と橘花が訊くので
 
「方丈記!」
と千里と暢子が答える。
 
「あんたそれで高校教師になるのか?」
などと暢子から言われていた。
 
 
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