広告:放浪息子(12)-ビームコミックス-志村貴子
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■娘たちのエンブリオ(6)

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それで千里は空港の駐車場に向かい、インプレッサに乗った。エンジンを掛けて車を出す。実際に運転しているのは《こうちゃん》で千里は後部座席に行って横になっている。この時点で千里に付いている眷属は、こうちゃんの他は、とうちゃん・りくちゃん・せいちゃん・げんちゃん・たいちゃんの5人である。
 
きーちゃんは龍虎を送って行っている。わっちゃんはバックアップのため、その車の助手席に乗ってもらった。すーちゃんはスペイン、てんちゃんは昨夜はファミレスで勤務していたが今日はお休みで桃香のアパートで寝ている。いんちゃんとびゃくちゃんは羽田で別れて葛西に向かう。いんちゃんは明日朝1番の新幹線で兵庫県市川町に向かう予定である。
 
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《りくちゃん》が最初に気付いた。
 
「おい。後ろの青いインプレッサ、この車を尾行しているみたいだぞ。羽田からずっと付いてくる」
「偶然同じ方向に行くということは?」
「だったらちょっと待て」
 
《こうちゃん》は首都高でわざと遠回りのルートを取ってから東京ICに向かった。青いインプはその後ろをずっと付いてきた。
 
「間違い無い。尾行している」
 
千里は起き上がって後ろの車を見た。
 
「ああ。この子たちなら心配無い」
 
夜間に100mくらい後方の室内灯を点けていない車内の人物の顔が見えてしまうのが千里の視覚の凄さ(異常さ)である。レオパルダの教育チームで一緒だったリディアなどは「千里は10km向こうのライオンを見つけてサバンナで生きていけるタイプだ」などと言っていた。
 
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「千里、知ってるの?」
「冬子の友だちだよ。運転しているのは佐野敏春君といって、冬子の高校時代のお友だち。助手席で仮眠しているのは、その奥さんで、冬子の姉の夫の妹で小山内麻央ちゃん」
 
「え?助手席の子、男じゃないの?」
とわざわざ後方の車のそばまで行ってきた《りくちゃん》が言う。
 
「男のように見えるかも知れないけど女の子だよ」
「へー。類友というやつか」
「それ私もよく言われる。きっと、私の生活に疑問を持った冬子が私を尾行させているんだよ。放置でいい」
 
「じゃ撒かなくてもいいんだな?」
「むしろちゃんと付いてこれるように上品に走って」
「OK」
「じゃ何かあったら起こしてね。おやすみ〜」
 
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それで千里は眠ってしまった。
 

《こうちゃん》が運転する赤いインプレッサは東名から伊勢湾岸道・東名阪・新名神と走る。青いインプレッサは見失うのを恐れて、ピタリと80mほど後ろを付いてくる。草津JCTから名神に戻って桂川PAで休憩する。
 
10月20日(月)6:00頃である。
 
千里がトイレに行くので、佐野君もトイレに行った。千里は佐野君が戻ったのを見計らってトイレから戻り、自ら運転席に座るとお化粧を始めた。千里としてはその間に麻央ちゃんもトイレに行ってくればいいのにと思ったのだが、万一こちらが先に出た場合に備えて我慢しているようである。あまり待っても仕方ないのでお化粧が終わった所で車を出した。麻央が運転する青いインプレッサもその後を追う。
 
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千里は大阪中央環状線に移り、千里(せんり)ICで下道に降り、いつもの月極駐車場に入れる。そして車を降りて歩いて駐車場を出ると佐野君が10mほど離れて千里を追尾してきた。彼が自分を見失わないように気をつけながらHホテルまで歩き、そこのラウンジで貴司と会った。
 
一緒に朝食を食べるが、佐野君と麻央ちゃんも離れた席に座って朝食を頼んだようである。やがて千里たちが朝御飯を食べ終わって出るので、佐野君たちもお店を出る。
 
千里と貴司はHホテル向かいのTimesの駐車場に駐めていたA4 Avant(朝貴司が市川町から運転してきた)に乗り込むと、佐野君と麻央が「しまった」という顔をしているのを置き去りにして、新千里北町方面へ走り去った。
 
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「今の所凄く順調だよ。看護婦さんに来てもらって採血して、阿倍子のホルモンを毎日モニターしてるんだけど、数日前から何とかホルモンってのの値が高まり始めたらしい」
と千里が運転するA4 Avantの助手席で貴司は言った。
 
「HCGホルモンでしょ?」
「あ、なんかそんなの」
 
実は千里自身もHCGが高くなり始めたのである。
 
「今度はうまく行くかも」
「うまく行かせようよ。前の旦那さんとやってた時からすると多分50回目くらいの妊娠成功なんじゃないかな」
「うん。それを願おう。でもごめんね。千里に妊娠してもらいたかったんだけど」
「いいんだよ。誰が妊娠したって、京平は私の子供だから」
 
「・・・ね、卵子提供した人って、やはり千里ということは?」
「まさか」
 
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貴司も今はその件をあまり深くは追及しなくてもいいと考えたようであった。
 

「阿倍子さん、妊娠が安定するまでは入院させておいた方がよくない?」
「それも実は医者も交えて相談したんだけど、入院していたら気が滅入りそうだから、自宅に居たいというんだ」
 
「でも彼女って、スーパーに買物に出ただけで気分が悪くなるような人なんでしょ?」
「そうなんだよ。だからどうしようかと思って」
 
「ハウスヘルパーを雇いなよ。それで買物とか家の中の掃除とか全部してもらう」
「あ、それがいいかも知れない」
「過去の流産の原因は体力を越えて身体を動かしたことかも知れないよ。2年前のなんて、あれお父さんのお葬式で心労が重なってる」
 
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「ひょっとしたら、そうかもという気がしてきた」
 
「貴司が頼む?」
「うーん。そのあたり、どういう所がいいのかよく分からなくて」
「だったら私が手配しておくよ」
「すまん。頼む」
 

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それで千里は葛西に居る《びゃくちゃん》に問い掛けた。
 
『ね、阿倍子さんが安定するまで日中だけでいいから、ハウスヘルパーとして付いててあげてくれない?』
『それは私にしかできないよね?』
『うん。悪いけど』
 
《びゃくちゃん》は医学的な知識が豊富である。実際に医師の資格を取ったことも何度かあるらしい。
 
『阿倍子さんが貴司君の子供を妊娠することに千里が嫌な感情を持っていないのならやるよ』
『私は京平の肉体が作られればそれでいい』
『分かった。やる。でもそしたら葛西の留守番役はどうしよう?』
 
『さすがにファミレスはもう退職できると思うから、その後はてんちゃんが空くと思うんだけど、現時点では火木土の夜が空かないんだよね。。そうだ、わっちゃんにやってもらおうか?』
 
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『それファミレスと留守番のどちらを?』
『あの子にファミレスの夜勤できると思う?』
『あの子、おっとりとしているから厳しいかも』
『じゃ葛西の留守番を頼もう。ついでに楽譜入力係』
『ああ、楽譜入力は若い子がやった方が、品質よくなるかもよ』
と《たいちゃん》が言っている。
 
『それもいいかも』
 
《わっちゃん》はまだ100歳になるかならないかくらいの、とても若い精霊である。
 
『じゃ、たいちゃん、わっちゃんにCubaseの使い方教えてあげてくれない?』
『いいよ。覚えてくれる人が増えると私も楽になるし』
『いつもごめんね〜』
 

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千里と貴司は実は豊中市内の体育館に行き、2時間ほど一緒に汗を流した。この日貴司は有休を取っている。実は午後から阿倍子を連れて産婦人科に行き、状況をチェックしてもらうことにしているのである。
 
11時頃に練習を終え、銭湯に行く。むろん貴司は男湯、千里は女湯である。12時頃にあがってレストランに入り、一緒に昼食を取った。それから千里(せんり)のマンションに一緒に戻り、千里は貴司にキスをして車を降りて歩いてマンションの駐車場を出た。その後貴司は阿倍子を呼びに行き、彼女を乗せて産婦人科に向かうはずである。
 
阿倍子はエンジェルハートの愛用者でいつもその香りを漂わせている。結果的に他人の香りに鈍感でもある。千里はスポーツをする関係で香水は基本的には使用しない。それで千里が降りた後で阿倍子が乗っても、香りで気付かれることはない。ただ長い髪が落ちてないかだけは気をつけている。
 
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千里は自分が降りた後で阿倍子が乗る時はハンディ掃除機を掛ける。逆に阿倍子が乗った後で自分が乗る場合は窓を開けて香りを抜く!また活性炭の脱臭剤を車内運転席下に置いている。
 

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千里は自分の車を駐めている駐車場まで歩いて戻った。入口近くに佐野君がいるのは気付かないふりをして、インプを駐めている所まで行く。そして麻央ちゃんが戻ってくるのを待ちながら、携帯で国盗りをしていた!
 
麻央ちゃんが青いインプレッサで戻ってきたので千里は自分の赤いインプレッサのエンジンを掛け、駐車場を出た。ガソリンが少ないので近くのGSに入り、満タン給油する。後方で向こうも給油できるように先端の給油ポイントに駐めたのだが、青いインプはGSの少し後方でハザードを焚いて停止していた。燃料、大丈夫なのかな?私がデートしている間に満タンにしてたかな??
 
千里がGSを出ると向こうもハザードを消し、右ウィンカーを点けて動き出す。そして千里の車を付けてくる。
 
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千里が千里ICを登ると向こうは慌てたようである。車を停めて運転席を交替しているようだ。ああ。麻央ちゃんには東京までのノンストップ運転は無理かもね、と思う。こちらは一時的に路側帯に寄せて停車させて待つ。向こうがランプを登り始めた所でこちらも発車した。できるだけゆっくり走っていたら10分ほどで追いついてきたので、その後は通常の速度に戻した。
 
「千里、運転代わるぞ」
「よろしく〜」
と言って、千里は後部座席に行き、毛布をかぶって眠った。その間《こうちゃん》が、佐野君の追尾しやすい速度で走って東京まで行った。
 

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《こうちゃん》の車は名神・東名を走り、やがて首都高を錦糸町で降りた。そして江東区のS体育館の駐車場に駐めた。
 
この日は10月20日(月)である。40 minutesはこの春以降、火曜と木曜の夕方に練習をしていた。しかし今週は大会が迫っているので、ちょうど体育館が空いていたこともあり臨時に毎日練習をしていたのである。それで千里は体育館のトイレに行って来てから、40 minutesのユニフォームに着換え、練習に参加した。2階席から麻央が練習の様子を見ていた。
 
練習が終わった後はインプレッサを千里自身が運転して千葉市内の立体駐車場に入れる。ここで葛西で待機していた《きーちゃん》と入れ替わった。彼女は昨夜2時頃龍虎を熊谷市の田代家に送り届け、そのあと関越道の嵐山PAで朝まで寝てから東京に戻りレンタカーを返却。葛西で待機していた。
 
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21日(火)。きーちゃんは大学に出て行く。それを佐野君と麻央が尾行する。千里本人は午前中葛西で寝ていて午後から作曲や編曲の作業をする。夕方、千里はきーちゃんと交替。S体育館に行ってバスケ練習をする。練習が終わるとスペインのすーちゃんと交替し、すーちゃんがハイゼットを運転してファミレスに行き夜勤する。その間千里本人はスペインで練習している。
 
22日(水)。明け方、千里とすーちゃんが入れ替わり、夜勤明けのすーちゃんはグラナダのアパートで寝る。千里はハイゼットを運転してファミレスを出ると玉依姫神社に行き、早朝掃除の奉仕をする。ゴミ袋と奉納物のお下がりをハイゼットに乗せて持ち替える。桃香のアパートに辿り着いた所で、葛西に居るきーちゃんと交替する。千里は午前中葛西で寝るが、きーちゃんは大学に行く。この日は上島雷太と会う約束をしていたので、お昼過ぎにきーちゃんと千里が交代し、千里がインプレッサを運転して東京の上島雷太の家まで行く。
 
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ここでアクアの営業方針について意見を交わしたが、アクアの写真集を撮ろうという話が浮上した。海外での撮影になりそうなので上島は龍虎に電話して、至急パスポートを作るように言った。夕方上島邸を辞してS体育館に行き、40 minutesのメンバーと練習する。その後インプレッサで千葉市内に戻る。この日はレオパルダの試合があるので、深夜すーちゃんと交替して試合に出た。
 
23日(木)。朝、千葉のアパートのすーちゃん、スペインの千里、葛西で待機していたきーちゃんが三者位置交換し、千里は葛西で仮眠、すーちゃんはスペインに戻り、きーちゃんが千葉のアパートに来て、ここから歩いて大学に行く。
 
◆スペイン千里:葛西きーちゃん → スペインきーちゃん:葛西千里
◆千葉すーちゃん:スペインきーちゃん →スペインすーちゃん:千葉きーちゃん
 
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この日は神社に来てと言われていたので、午後バイクに乗って神社に行くがここで千里本人と交替し、千里は結婚式で龍笛を吹く。その後千里はバイクで神社を出るとS体育館に行き、40 minutesのメンバーと練習する。その後、スペインにいるすーちゃんと交替。レオパルダの練習に出る。すーちゃんはバイクに乗ってファミレスに行き、夜勤をする。
 
24日(金)。明け方千里はスペインでの練習を終えて、ファミレスで勤務を終えバイクで桃香のアパートに戻ったすーちゃん、葛西で休んでいたきーちゃんと三者位置交換する。すーちゃんはスペインで仮眠する。きーちゃんは千葉のアパートから大学に行く。千里は葛西で午前中眠って午後は作曲をする。夕方、きーちゃんはバイクでS体育館まで行き、ここで千里と交代して千里が40 minutesの練習に参加する。そして、すーちゃんと入れ替わってスペインに行き、レオパルダの練習に参加。すーちゃんはバイクで千葉市内に戻り、桃香のアパートで寝る。
 
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25日(土)。明け方、千葉のすーちゃん、スペインの千里、葛西のきーちゃんが三者位置交換する。すーちゃんはスペインで仮眠、千里は葛西で仮眠、そしてきーちゃんはインプレッサを出して、40 minutesのメンバーを数人乗せ武蔵野市に向かう。ここで東京都秋季選手権(関東総合の予選)1回戦が行われるのである。試合直前に千里本人と入れ替わり、千里が試合に出て快勝。試合が終わったら、またきーちゃんと交替。千里はひたすら葛西で寝る。きーちゃんが40 minutesのメンバーを各自宅の近くまで送っていき、千葉市内の立体駐車場に駐めて桃香のアパートに入る。ここで、てんちゃんと交替し、てんちゃんがバイクでファミレスまで行き、夜勤をする。千里は深夜すーちゃんと入れ替わり、レオパルダの試合に出る。
 
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なお、今週いっぱいは、真知が40 minutesの練習に毎日参加するため、夕方以降、玉依姫神社の社務所には《わっちゃん》に交替で入ってもらった。彼女はバイクは運転出来るということで、彼女に市川から《くうちゃん》に転送してもらった Gladius 400 を使ってもらい、すーちゃん・てんちゃんは BW'S を使ってもらった。
 
なお千里は時間が取れる限り朝食と夕食は2人分作って1人分は、市川ラボの留守番をしている《いんちゃん》と入れ替わって貴司用に置いてくる。つまり千里はこの時期、貴司と日々“家族生活”をしていたのである。
 
どうしても千里が市川に行けない日は《いんちゃん》が代理で御飯を作ってあげる日もある。それで料理の得意な《いんちゃん》に市川に居てもらっているのである。
 
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娘たちのエンブリオ(6)

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