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■娘たちのエンブリオ(27)

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織絵たちは12月中に退去しなければいけない国立市のマンションから錦糸町のマンションへの引越をどうしようかと思っていると言った。それで千里は
 
「私の知り合いの便利屋さんがやってくれるよ。こんなに押し迫ってだから料金少し高いと思うけど」
と言った。それで織絵はそこに頼むと言った。
 
料金は30万円ということにした。
 
それで翌日12月26日に《こうちゃん》《りくちゃん》《げんちゃん》《せいちゃん》《びゃくちゃん》の5人に行ってもらった。《びゃくちゃん》を入れたのは、一応女性の部屋の引越なので、女性を入れておかないとまずいだろうという考えである。
 
彼らは4トントラックを借りて来て、国立市のマンションの荷物を1時間で積み込み、《こうちゃん》が錦糸町まで運転して行き2時間で23階の部屋まで運び込み、テレビの配線などもしてくれた。
 
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「すごーい。手際いい!」
と織絵たちは感激していた。
 
「レンタルボックスに入っている荷物も持ってきますか?」
「だったらあの荷物はこの部屋に」
と言われた部屋に5人で荷物を運んできたが、入りそうにない。それで《びゃくちゃん》は言った。
 
「よろしかったら追加料金10万円でこの荷物の整理をしましょうか?」
「ほんと?助かるかも」
 
ということで、その後、その日の夕方まで掛けて、更には翌日27日も朝から晩まで掛けて、レンタルボックス3つにぎゅうぎゅうに入っていた荷物がきれいに整理された。この作業は《りくちゃん》《げんちゃん》は帰して、代わりに《いんちゃん》《てんちゃん》が入った。
 
「あれ?男女比が変わっている?」
「ああ。性転換しましたから」
「嘘!?」
 
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7割がゴミだったが、《こうちゃん》たちはちゃんと燃やすゴミ・燃やさないゴミ・資源ゴミなどに分別した。ゴミはトラックに積み込み処分場に持って行った。それ以外は洗濯すべき衣類が多く《わっちゃん》が呼び出されてコインランドリーに持って行きひたすら洗濯した。
 
「ほんとに助かりました。ありがとうございます」
と言われて、料金以外にお酒もたくさんもらって彼らは帰ってきたが、そのお酒って、ケイのマンションにあったものでは?と千里は思った。
 

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旭川N高校遠征組は28日の決勝戦(12:00-13:40)、その後の表彰式を見てから帰途に就く。夜行急行《はまなす》を使用する。
 
東京18:20-21:37新青森22:02-22:08青森22:18- 12/29 6:07札幌6:51-8:16旭川
 
彼女たちを見送って迎撃したOG組は夕食を一緒に取ってから解散した。この時暢子が言った。
 
「千里、年末年始は北海道に帰省する?」
「ううん。仕事がたくさんあるから」
「そっか。実は今年は車を何人かで交替して運転して帰ろうかと思ってさ」
「へー。誰の車を使うの?」
「私の」
「暢子、車を買ったんだ?」
「10万円のフリードスパイク」
「10万円って凄いね!」
「今一緒に乗ろうと言っているのは雪子だけ。でもあの子あまり体力が無いから体力のありそうなメンツが欲しい」
「なるほどー」
「でも千里がダメなら誰を誘おうかなあ」
 
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12月29日に放送された『性転の伝説Special』は物凄い反響を呼び、1日にしてアクアはスターになってしまった。
 
ネットでの暴走が止まらない。
 
女の子たちの書き込み
「こんな可愛いアクア様に全てを献げたい」
「アクア様のお嫁さんになりたい。ダメならアクア様をお嫁さんにしたい」
「アクア様の奴隷になりたい」
 
「でも本当におちんちん付いてるの?」
「こんな可愛いアクア様にちんちんなんかある訳無い」
「アクア様のお股はきっと天使のように何も無いのよ」
 
男の子たちの書き込み
「可愛い!これだけ可愛ければもう男でも構わん。俺の嫁にしたい」
「これ絶対男の子だっての嘘だろ?だって俺立ったぞ」
「ドラマでは院長の娘役ということでいいじゃん」
「アクアちゃんに童貞を捧げたい」
 
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「アクアちゃんのズボンを脱がせて**を**してあげたい」
「アクアちゃんを拉致して女の子に改造したい。ダメなら俺が女に性転換してアクアちゃんに抱いてもらいたい」
 
あっという間にアクアの個人情報が流出する。それで本名が田代龍虎という13歳の“間違い無く”男子中学生であることが知れ、学生服を着た写真が流出する。
 
「本名が格好いい!」
「本当に龍虎なの?龍子の間違いで実は女の子ということは?」
「学生服の写真凜々しい。でも脳内でセーラー服姿に変換するよ」
「これ実は学生服コスプレの写真じゃないの?」
「アクア様は学生服なんか着ちゃダメ。可愛いセーラー服を着るべきよ」
「アクア様にはせめてスカートを穿いて欲しい」
「アクア様には毎日可愛い服を着ていて欲しい」
 
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§§プロにはアクアが王子様のような衣装を着けている写真ほかハワイで撮ったスナップが多数掲載され、写真集とビデオの発売予定も掲載された。それで予約が殺到する。
 
誕生日が2001年8月20日であることと、身長155cm 体重35kg B82-W55-H84というボディサイズも掲載された。
 
「35kg? W55? 小柄な女の子アイドルって感じだ」
「ウェスト無茶苦茶くびれてない?」
「やはり女の子なのでは?」
 
なお「手作り」の衣服やお菓子・料理などを贈られても申し訳無いが安全のため全部廃棄させてもらうことが、大きな字で書かれていた。それでお店からの直送で多数のお菓子などと共に、女性用の服も大量に送られてくることになる。
 

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12月29日。高岡の青葉の家で小さな“事件”が発生した。
 
玄関によれた巫女服を着て、髪の長い、70歳くらいに見える巫女さんが来て、よく分からないことを言っていると朋子が言う。それで青葉が出て行くと巫女さんは言った。
 
「あんた凄いね。***様をきれいに引っ越しさせた」
 
「あの神社の方ですか? すみません。連絡先が分からなかったので、勝手にお邪魔して移転させてしまいました」
と青葉。
 
「***様は安寧に納まっておられる」
「そうですか。それは良かった」
「なんか望みがあったらかなえてやるぞ」
「えーっと、特に何もないけどなあ・・・」
 
と青葉が言っていたら、横から朋子がこんなことを言った。
 
「祈願とかしてくださるのなら、この子の姉がまだ就職先が決まらないのをいい就職先が見付かりましたら」
 
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「分かった。それは何とかしよう」
 
それで巫女さんの姿はすっと消えてしまった。
 
朋子が目をぱちくりさせた。
 
「あの巫女さん、どこ行ったんだっけ?」
「うーん。まああるべき場所に帰ったんじゃないかなあ」
と青葉は答えた。
 

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その翌日12月30日の午前中、千里は“やっと”ファミレスを退職することができた。ぜひどこかの店の店長にという副社長直々の話を何とか断って退職したが、物凄い金額の退職金を頂いた。
 
正社員でもないのに!
 
しかし何とか退職出来たので、ホッとして久しぶりに大学に出てきて院生室に行きお茶を飲んでいたら髪は乱れ服も超適当な格好で性別も曖昧な感じの先輩、田代さんが入って来た。
 
「明けましておめでとう」
と彼女(性転換手術でも受けたというのでなければ多分女性だろう)は言う。
 
「まだ年は明けてないですけど」
「そうだっけ? 最近暦が全然分からなくて」
「博士論文のプレゼン計画はできました?」
「その論文をまだ書いている最中」
「嘘!?」
 
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「村山さんは博士課程に行くんだっけ?」
「いえ。どこかに就職しようと」
「どこかにって、まだ就職先決まってないの?」
「ええ。今の所40連敗で」
と適当に言っておく。実際は何もしてない。
 
「あり得ない!」
と言ってから、彼女は唐突に何か思いついたようで
 
「だったらさ、ここ行ってみない?誰かいい人いません?って頼まれていたんだよ」
と、都内のソフトハウスを紹介してくれたのである。
 

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就職する気など毛頭無いのだが、紹介された以上顔を出さない訳にはいかない。それで不本意ながら二子玉川駅近くのJソフトウェアという会社に行ってみた。面接で断られるようにわざわざ履歴書に「2012年10月性別の取扱い変更認可」というのを書いている。これで普通は、まず落とされるはず、と千里は思った。
 
ところが専務さんは千里が全然元男には見えないので驚いたようである。
 
「あんた、そんな風には見えないのに」
「そうですね。女みたいな男だと20年言われ続けて、何とか女になりましたけど、今度は男だった女と言われるようになったので、なかなか大変です」
 
「あんた苦労してるね」
と専務さんは言った。そして更に専務は言う。
 
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「あなたの場合、女にしか見えないから、その問題は気にしなくていいと思う」
 
嘘!?
 
「あなた資格も色々持ってるね」
「そうですね。取れる機会のあるものを取っていたから」
 
「じゃ君、取り敢えず仮採用」
 
え〜〜〜〜!?
 
「試用期間3ヶ月で問題なければ本採用ね」
「ありがとうございます」
と千里は返事をしつつ焦っていた。
 
だって、私プログラムなんか組めないのに!?
 
それが2014年12月30日の13時頃のことである。この日は朝9:45から夕方19:55までボイドの真っ最中であった。
 

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千里はJソフトを出た後、自分の母(津気子)と桃香の母(朋子)に就職先が決まったのを連絡した。津気子は「良かったねぇ」と言い、保証人の判子がもらえないかというと自分が押すし、もう1人は美輪子に頼めると思うということだったので、北海道まで行ってくることにする。しかし当然飛行機も新幹線も予約はいっぱいである。
 
千里は少し考えてから暢子に電話した。
「例の車をあいのりして北海道まで行くというやつ、定員埋まった?」
「もしかして千里も行く?」
「まだ空いてたら」
「歓迎!というか助かる。橘花を引き込んだんだけど、雪子はやはり体力無いからあまり運転させたくないんだよ。千里が入ってくれたら、私と橘花と千里の3人で回せるから凄く楽になる」
「じゃ私も混ぜて」
「OKOK」
 
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それで千里は暢子たちと一緒に北海道まで往復することにしたのである。
 

暢子たちは今晩0時に池袋のサンシャインで待ち合わせるということだった。サンシャインの駐車場に車は駐めておいて、全員集合してから出るのである。
 
それで北海道への交通手段が確保出来たので、千里は《きーちゃん》を分離して彼女には新国立劇場に行ってもらい、自分は葛西に戻って少し仮眠した。
 
14時頃、桃香から電話がある。
 
「千里今年は年末年始どうするの?」
「北海道に行ってくる。実は就職先が決まったから、保証人の判子もらいに行ってくるんだよ」
「おお、それはおめでとう!よかったね。北海道には飛行機?」
「急に決まったから飛行機も新幹線も満杯。だから友だちの車に同乗して帰る」
「なるほどー。実は私も高岡に帰ろうと思ったら高速バスが満席でさ」
 
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新幹線とか飛行機という発想が無いのが桃香だよなと思った。もっともどちらも満席のはずである。
 
「もしよかったら千里のミラを貸してくんない?」
「いいよ」
「いつもの駐車場にある?」
 
あれは今常総にあるなと思う。
 
「今ミラに乗って外に出てるんだよ。そちらに持って行く」
「すまん」
 

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