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「その問題がクリアできたとして、もうひとつ懸念があるのですが」
と父は言った。
「姉妹でデビューした場合、過去の芸能界の事例を見ていると、どうしてもどちらか一方に力点(りきてん)がおかれてしまうケースが多いように感じています。割とうまく行っているのは、ふたりが別のプロダクションで別々にプロモートされているケースだと思うんですよね」
「なるほど」
「例えば保坂早穂は○○プロで、妹の芹菜リセは∞∞プロ。槇原愛は△△社で篠崎マイは∴∴ミュージック。AYAは$$アーツで遠上笑美子はζζプロ。北野裕子はΘΘプロで、今年デビューした北野天子は@@エージェンシー。どのケースでも両方売れています。AYAは今年は休んでいるようですが写真集があれだけ売れたらじきに復帰するでしょう」
「よくご存知ですね!公開していないケースもあるのに。私もAYAはすぐ復活すると思いますよ」
「ですよね。私も実は娘がデビューということになったので少し勉強しました」
と父は言っている。
「それに対して姉妹で同じプロダクションに属しているケースで、ζζプロの谷崎潤子・谷崎聡子の場合、どうしても妹の聡子に重点が置かれている。姉の潤子は最近全然曲をもらえていないし関東ローカルばかりで全国規模の番組にも出ていない。同じ##プロに所属している高木美優と高木蘭夢も、やはり妹の蘭夢の方に力点が置かれている。どちらも“旬”の問題はあるかも知れませんが」
「確かにおっしゃる通りです」
と言ってから紅川は言った。
「実はこちらからも提案があります。うちのプロダクションではメインどころのタレントの引退が相次いだこともあって、今年の秋から来年の春に掛けて、こちらの邦江さんが初代ロックギャル・高崎ひろかとしてデビューするほか、フレッシュガール2014の品川ありさ、そしてロックギャルコンテストで優勝したアクアと、3人の新人を相次いでデビューさせることになりました。それで実はスタッフが足りないのですよ」
「はい?」
「基本的には、高崎ひろかさんには月原、品川ありさちゃんには沢村、アクアちゃんには現在暫定的に田所を付けておりますが、田所は本来デスクなので、川崎ゆりこや桜野みちるに、B契約のタレントさんたちの世話もしているので、誰かマネージャーをしてくれる人を現在募集を掛けています。やはり新人の時期は営業とか挨拶とかが結構大変なんですよ」
「ああ。確かに最初は手が掛かるでしょうね」
「それで無責任に聞こえるかも知れませんが、妹さんの飛鳥さんの方は、うちの友好プロダクションで♪♪ハウスという所がありまして、そこからのデビューということにさせて頂く訳にはいかないかと」
「同じ∞∞プロ系列ですね!」
「そうなんですよ。社長の白河とはお互いに∞∞プロの社員だった頃からの親友です。当時は紅白コンビと言われたのですが」
「なるほど」
「親友だけにライバル心も強いから、うちと♪♪ハウスなら、お互い競争になると思います。姉妹競争の方がいいんでしょう?」
「ええ。歓迎です。でもそれは契約的にはどうなるんですか?飛鳥は♪♪ハウスと契約することになるんでしょうか?」
「§§プロとマネージメント契約して、♪♪ハウスに預ける、出向という形ではいかがでしょう?先ほどお父さんが例に挙げられました、篠崎マイの場合も契約は△△社で、∴∴ミュージックに出向しているんですよ。ですから給料は△△社から支払われています」
「私は紅川さんや何度か代理で来てくださった伊藤さん(秋風メロディー)を信頼できる方だと思っています。これまで全く知らなかった会社との契約より、そういう形の方が安心できる気がします」
(この時期、実は秋風メロディー・コスモス姉妹、日野ソナタ、更には本来は契約が切れていた春風アルトまで、多忙すぎる紅川を助けてあちこちの営業や新人との契約の件で動いてくれていたのである)
「ではそういう形で契約を結びましょうか」
「はい」
紅川と柴田純一郎は笑顔で握手した。
それで天羽飛鳥は“松梨詩恩”の芸名で♪♪ハウスからデビューすることになったのである。高崎ひろかと姉妹であることは公開しない。そして飛鳥は突然結婚・引退の意向を表明した神田ひとみで予定していた仕事の大半を引き継ぐことになる。但し年齢的な都合で、ひとみの仕事をひろかが代替し、その分ひろかの仕事を詩恩が引き受けるという形の《ドミノ》も行われた。
「そういえば社長、聞きそびれていたのですが」
と邦江(高崎ひろか)は言った。
「何だね?」
「アクアちゃんがロックギャルコンテストで失格した理由は何なんですか?年齢不足かと思ったのですが、あの子、中学1年なんですよね」
「ああ。それはあの子が男の子だからだよ」
と紅川は言った。
「え?男の子になりたい女の子とか?」
「いや、普通の男の子。まるで女の子みたいに見えるけどね」
「え〜〜〜〜〜!?」
と高崎ひろかは大きな声をあげた。
「最初はみんなびっくりするよね」
と紅川は笑っていたが、高崎は困ったような表情で
「どうしよう?」
と言った。
「どうかしたの?」
「私、裸で山手線一周しないといけない」
「は!?」
12月8日(月).
アクアがハワイで撮ってきたビデオクリップの編集が完了した。紅川社長はこのビデオのDVDを5万枚、ブルーレイも5万枚プレス指示を出した。普通ならこの手のビデオクリップは売れてもせいぜいDVD,BD合わせて5万枚だが、紅川はこれも絶対行けると思っていた。
12月11日(木).
アクアは羽田空港に向かった。明日のローズ+リリー沖縄公演で《鈴割り》役をするためである。マネージャー役で同行するコスモスと落ち合うが、他の人が来るのはもう少し遅くなりそうというので、空港内のカフェに入った。航空券を渡される。
「コスモスさん、航空券がFになってますけど」
「その方がトラブル起きないでしょ?トイレも女子トイレ使いなよ」
「そうですね」
「だけどさあ。あんた、こないだの検査どうやって誤魔化したの?」
と言われるのでドキッとする。
「精液は実は友人のを用意していたんです」
「なるほどねぇ。どう考えてもまだあんたは精通なんか来てない」
「みんなからその内、生理が始まるよと言われているんですけど、生理が来ちゃったらどうしましょう?」
「別に構わないと思うけど。言わなきゃバレないよ」
アクアは少し考えた。
「そうですね!」
「ナプキンは持っているよね?」
「母が持っていなさいと言うので、いつも生理用品入れに入れて持っています」
「それでいい。ちんちんとタマタマはやはり偽物で誤魔化したの?」
「はい。バレないかなとヒヤヒヤしましたけど、お医者さんは気付かなかったみたいです」
「醍醐先生が、一度見せてたけど、凄い精巧にできてた。多分同じようなものかな」
「ボクのも醍醐先生からもらったんです。実際のボクのちんちんはまだ皮膚に埋もれていて外に出ている部分は0cmなんです」
と言いながら龍虎は“あれ”は本当におちんちんなのか疑問を感じていた。“あれ”には尿道が付いていない。おしっこは11月30日に唐突におちんちんが消滅して以降出ている場所から出ている。まさか“あれ”四十久里浜なんてことは?
「まあAV男優にでもならない限りは、ちんちんを人に見せることはないから別にちんちんなんか無くても問題ないんじゃない?」
「それで開き直ろうかなあ」
「それでいいと思うよ。おっぱいはさ、あんたドラマで女の子役することになったじゃん」
「はい」
「だから女の子役するために、パッド入れてますと言っておけば、おっぱいがあってもバレない」
「あ!その手があったか」
「だから、ほぼ女の子の身体であることは、まずバレないから安心して男の子アイドルの振りをするといいよ」
「振りをするというか、ボク男の子なんですけどー」
「内面はね」
「・・・そうですね!」
「実際問題として男の子機能は死んでいるんじゃないの?」
とコスモスが訊くのでアクアは答えた。
「実は古くから知り合いのお医者さんが、治療して下さっているんです」
「へー!」
「でも治療に20歳くらいまで掛かると言われました。だから多分ボク20歳まで声変わりもしないと思います」
「ふーん。でもそれあまり人に言えないよね?」
「できたら秘密に」
「じゃ私とアクアの秘密」
と言ってコスモスは右手の小指を出した。アクアはちょっと恥ずかしそうにして、そこに自分の小指を絡め、指切りをした。
そろそろかなと言ってお店を出て待っている内にAYAのゆみが来た。コスモスが航空券を渡す。コスモスがアクアを紹介する。
「おはようございます。アクアと申します。よろしくお願いします」
「おはようございます。AYAのゆみです。よろしくね」
と言ってから、ゆみは言う。
「この子、凄く可愛いね!300年に1度の美少女って感じだよ」
「300年に1度か。ランクが上がったな。★★レコードの町添部長は100年に1度の美少年と言っていたんだけどね」
とコスモス。
「いや、100年に一度よりレベル高いと思う」
とゆみは言ってから、考えた。
「待って。今美少年と言った?」
「うん。この子は男の子」
「うっそー!?」
「まあ少女と見紛うほどの美少年だよ」
とコスモスは言った。
AYAは幕間のゲストかと思ったのだが、そうではなく、ローズ+リリーがAYAの『スーパースター』を歌うので、その途中から“本人登場”をする趣向ということ。幕間ゲストは小野寺イルザだが、彼女は明日沖縄に入るらしい。
3人で立ち話をしている内に、約束の時間から少し遅れてケイとマリがやってきた。
「遅くなってごめーん」
「問題無いです。これチケットです」
と言ってコスモスが2人に航空券を渡した。
セキュリティを通るが、アクアは航空券の性別がFなので、何も言われることなく、通ることが出来た。マリはおやつの入った袋をうっかり逆さにしてしまい、拾い集めるのに苦労していた。
那覇空港から、2台のタクシーに分乗(マリ・ケイ/ゆみ・コスモス・アクア)して、宜野湾市のLホテルに入る。マリとケイは豪華なスイートに泊まるようであるが、ゆみ・コスモス・アクアは各々セミダブルルームのシングルユースである。コスモスが宿泊カードを書いていたが、
伊藤宏美 1991.10.04 女 ★★レコード 03-****-****
水森優美香 1991.08.09 女 同上
田代龍虎 2001.08.20 女 同上
とすらすら書くので、ゆみが
「よく誕生日覚えてるね!」
と感心していた。
「アクアちゃん、これ獅子座?乙女座?」
「獅子座です。獅子座の27度くらいなんですよ。ゆみさんも獅子座なんですね」
「うん。でも同じ獅子座でもかなりタイプが違う気がするなあ」
そんなことを言っていたので、ゆみはアクアの性別が女と書かれたことに気付かなかった。ちなみに3人とも部屋はレディスフロア!の並びの部屋となった。ビーチが見えるお部屋で、ゆみ・コスモス・アクアの順である。
龍虎はお部屋が広いので、すごーいと思った。
エレベータの中でコスモスが「私たちレディスフロアになったみたい」と言っていたのだが、龍虎はそのことに全く気付いていない。そもそも龍虎は女性扱いされることに慣れているし、小学校の5年生の宿泊体験でも修学旅行でも女子部屋に泊まっている。
しばらく景色を眺めていたら、コスモスから
「アクアちゃん、エステ行かない?ケイちゃんたちが手配していてチケットの中に含まれているみたい」
と言うので、アクアはコスモスと一緒に地下のエステルームに行った。ゆみは部屋でボーっとしてる、という話だった。
「先ほど電話した伊藤ですが」
とコスモスが言って中に入る。
「はい。2名様ですね」
それでアクアはエステなるものを初体験する。まずはフットバスで足を揉みほぐされる。とても気持ちいい!その後、カーテンで区切られたベッドに寝て服を脱ぎ、ブラジャーも外してパンティ1枚になる。それで顔のマッサージ、肩のマッサージ、バストマッサージ!、足のマッサージとされていくと至福の気分だった。
「中学生さん?」
「はい。そうです」
「だったら、おっぱいがよく育つようにマッサージしてあげるね」
「はい」
と答えているアクアの声を聞いて、隣のベッドで施術されていたコスモスは楽しそうに微笑んだ。
この子、ひょっとしたらマザコンでおっぱいフェチなのかもね〜。私も結構そうだし、などと思うと、コスモスは意識が遠い時空の彼方に飛んで行く気分だった。
今回のアクアのサポートが一段落したら、私も結婚しちゃおうかなぁ、などと思うが、彼氏ってどうやって見つけるんだろう?などと考える。もしかしたら自分も恋愛がよく分かっていないのかも知れない気もしてきた。
でもお姉ちゃん、なぜ結婚しないのかな?彼氏と仲良さそうなのに。
ちなみにこのエステは女性専科!である。