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■娘たちのエンブリオ(23)

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2014年12月13日(土).
 
東京都クラブバスケットボール選手権大会の1回戦が吉祥寺の武蔵野総合体育館で開かれた。例によって40 minutesは今年が1年目なので1回戦から出たのだが、今日は快勝であった。2回戦は来週である。
 

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12月14日(日).
 
阿倍子の胎内の子供は12週、4ヶ月目に入った。ここからは胎芽ではなく胎児と呼ばれるようになる。この所はわりと順調なようで、つわりも峠を越えたような気もした。
 
家事手伝いのヘルパーさんは安定期になる16週目までは毎日、その後も当面週に2回くらい頼むことにしている。週2回頼み、食材宅配サービスも併用すれば、阿倍子はほぼ外出する必要が無いはずである。
 

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2014年12月14日(日).
 
&&エージェンシーの事務所で悠木朝道氏が社長室の豪華な椅子に座り、パソコンで、どこかお金が借りられそうな所が無いか見ていたら、ぞろぞろと人が入ってくる。
 
「何だね?」
「今から臨時株主総会を開きたいんだけど、いい?」
と言ったのは妻・従妹であり副社長の悠木栄美である。
 
「待て。総会を開くには1週間前に予告して・・・」
「株主が全員揃っているなら、予告は必要無い(*1)」
 
(*1)会社法第300条
 
「全員居るんだっけ?」
「私、あなた、麻生杏華さん、麻生道徳さん、麻生二郎さん。これで全員」
「確かに揃っている!」
「じゃ開いていい?」
「それはいいけど」
 
(と朝道氏が言ったので“株主が全員総会開催に同意”したことになり、会社法300条の要件を満たした。栄美の心理的な罠である。これはもちろん録音している)
 
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「では動議を出します。私は悠木朝道取締役の解任を提案します」
と栄美は言った。
 
「何だと!?」
「朝道氏に関する議案ですので、朝道氏本人は議長ができません。誰か代わって下さい」
 
「私が議長をしよう」
と麻生二郎氏。彼は悠木朝道・悠木栄美に次ぐ3人目の取締役である。
 
「解任を提案する理由を説明して下さい」
と二郎氏が訊く。
 
「悠木朝道氏は社長に就任して以来、わずか4ヶ月足らずの間に会社の収支を極端に悪化させました。斉藤前社長時代の6月末の四半期決算では経常利益が2億円ありました。しかし途中で社長が交代した9月末四半期では経常赤字が1億円。更に先日の無謀なドームツアーで6億円もの赤字が出ています。充分解任に値すると思います」
と栄美は主張する。
 
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「悠木朝道さんの意見は?」
 
「9月末四半期での赤字は、XANFUSの利益上昇を阻害していた桂木織絵を解雇したことによる特別損失に過ぎない。私がXANFUSをちゃんと利益のできる構造に改造しようとしていた。今回のドームツアーは確かに赤字にはなった。しかし6大ドームツアーを実施したアーティストというのは過去に5組しか無い(*2).これはXANFUSにとって大きな箔が付くことになる。これから間違い無くXANFUSは大きな利益をあげるから、長い目で見て頂きたい」
 
(*2)この時点では、Mr.Children, Exile Tribe, BIGBANG, B'z, AKB48のみ。その後、ももクロ、Exile Atsushiが達成している。むろん彼らは6大ドームを満員にした。
 
「毎年5億円の売上を挙げてくれていたユニットの構成メンバーを全員解雇しておいて、利益も何も無いでしょう。あなたがしたことはこの会社を破壊しただけです。当然このあと特別背任で告訴しますので、覚悟して下さい」
 
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「経営のイロハも知らない奴が何をほざく?」
「それはあなたのことでしょう?」
 
「それでは決を採ります」
と二郎氏は言った。
 
「悠木朝道氏の取締役解任に賛成の方」
 
朝道以外全員挙手する。
 
「反対の方」
 
朝道のみが挙手する。
 
「賛成の方の株式数が65%です。よって悠木朝道氏は取締役を解任されました」
と麻生二郎は宣言した。
 
「あり得ない!こんな無法な総会なんて認められない。だいたいこんな総会は無効だ」
 
「いえ。成立しています。それでは悠木朝道氏に代わる取締役を選任します。提案はありますか?」
 
「麻生杏華さんを推薦します」
「麻生杏華さんの選任に賛成の人?」
 
また朝道以外の株主が全員挙手する。
 
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「賛成の方の株式数が65%です。よって麻生杏華さんは取締役に選任されました」
 
「それではこれで株主総会を終わります。次いで取締役会を開きます。取締役の3名だけが残って、他の方は退出して下さい」
 
それで麻生道徳は退出する。
 
「悠木朝道さん、あなたは取締役ではないので退出して下さい」
と栄美副社長が言う。朝道は栄美を睨み付けて退出した。
 
「代表取締役を選任したいのですが」
と3人だけになった社長室の中で栄美副社長が言う。
 
「悠木栄美さんを推薦します」
と麻生杏華。
 
「賛成します」
と麻生二郎。
 
それで&&エージェンシーの新社長は悠木栄美になったのである。麻生杏華が専務、二郎氏が常務になることになった。
 
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なお、栄美はこの日のため予め引越屋さんを手配しておいて、朝道が朝会社に出かけたあと引越屋さんを入れて自分の荷物を全部運び出し、予め借りておいた都内のマンションに引っ越してしまったのである。その引越が終わってから会社に出てきて、クーデターを実行した。
 

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栄美新社長にはすぐにも実行しなければならないことがあった。それは朝道前社長が無謀なドームツアーで出してしまった6億円の赤字の補填である。緊急にこれをしないと、会社は今月中に倒産する危険もあった。
 
栄美は織絵に電話した。
 
「え!?社長が交代したんですか?」
「悠木朝道を解任した。そして私、悠木栄美が新社長になった。それで最初にあなたたちに酷いことをしたことを謝罪したい」
 
「奥さんが旦那さんを解任したの!?」
「個人的な関係とビジネスは別よ。まあ離婚になるだろうけどね」
「へー!でも謝罪してくださるのなら、私たちはそれを受け入れます」
 
「それで事態は急を要するので。相談したい」
「はい」
「XANFUSに関する全ての権利をあなたたちで買ってくれない?」
「権利?」
「あなたたちはうちをやめても、契約書の条文に従って3年間は自分たちの曲を歌うことができない。だからその権利を買い取ってもらえないだろうか?XANFUS関係の名義と一緒に」
 
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「具体的には?」
「XANFUS、音羽、光帆、神崎美恩、浜名麻梨奈, Purple Cats, mike, kiji, noir, yuki の名前の使用権、過去のXANFUSの楽曲を演奏・収録する権利。それを5億円くらいでどう?」
 
「お言葉ですが、音羽とか光帆とかいう名前の権利は&&エージェンシーには無かったと思います」
 
「まあそのあたりは曖昧だったよね。でもその曖昧な部分を明確にするための解決金という線でどう?」
 
「それ、ちょっと美来とも、それと弁護士とも話し合います」
「うん。それでいい。でもできたら数日中にお返事が欲しいんだけど」
 
「でも私たちがXANFUSの名前を取得したら、震来と離花はどうなりますか?」
「あの子たちには別の名前を考えるよ。あの子たちをXANFUSとして売りだそうとしても、ファンが猛反発するよ」
 
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「そういうことを理解して下さる方となら、私たちは話し合える気がします」
「ありがとう。ぜひ建設的なお話をしたい。それと美来ちゃんを契約違反だと言って解雇した件はあらためて謝罪して取り消したい」
 
「取り消したら美来はそちらの籍に残るのでしょうか?」
「ううん。それはあなたたちは新しい活躍の場所を確保したのだから、そちらで再出発した方がスッキリすると思う。だから美来ちゃんとの契約は即解除でいいけど、美来ちゃんがアルバム制作に非協力的だったという発表は誤りであると発表して美来ちゃんの名誉を回復したい」
 
「それは歓迎です」
「それと違約金としてもらった1億円は返済するから。振込先を教えてもらったらすぐ振り込む」
 
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「栄美さん、提案ですが、それは私たちが楽曲などの権利を買い取ることにした場合、相殺にしませんか?振込手数料がもったいないですよ」
 
「確かにそうね。じゃその線で。名誉回復に関する作業はすぐ進めるから」
「はい。お願いします」
 
光帆が契約違反をしたというのは前社長の誤認であり、彼女は制作に非協力的であったりはしていない。違約金はすみやかに返却する予定である、というメッセージは1時間後に&&エージェンシーのホームページに掲載され、また各新聞社にもFAXで送られた。
 

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権利買い取りの件に関しては、双方の弁護士、そして★★レコードの法務部も交えて話し合った結果、5億円は高すぎるとして3億円を織絵と美来が払うことでふたりはXANFUSの曲に関して&&エージェンシーが持つ全ての権利を取得することになった(なお版権は★★レコードにある)。そして美来が払った1億円の返却、および、&&エージェンシーが美来に払うことにした退職金2000万円と相殺し、織絵と美来が1億8千万円を払うことで、話がまとまった(資金を提供したのは冬子)。
 
それで織絵と美来は1月1日以降、先日作ったΦωνοτονをXANFUSと改名。震来と離花によるデュオの名前は Hanacle となる。Hanacleの楽曲はカトラーズの進藤歩が担当することになった。
 
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またこれまでのXANFUSのファンクラブ会員は各自の希望により“XANFUSを改名した”Hanacleのファンクラブ会員に残ることも可能だし、“新”XANFUSのファンクラブ会員に無償移行することもでき、あるいは+2000円で両方のファンクラブにも入れることにした。この結果、新生XANFUSのファンクラブ会員は44,000人、Hanacleファンクラブも12,000人で2015年をスタートすることになった。
 

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なお、悠木栄美社長は、朝道前社長が使用していた社長室を廃止。豪華な椅子とデスクもオークション!で売ってしまった。そしてここには柔らかいカーペットを敷き、毛布も置いて、昔の休憩室に戻した。コーヒーサーバーを置き、自由に使ってねと言った。また朝道氏は社用車としてレクサス LS600h を1台買っていたが、これもオークションで売った!机と椅子は5万円にしかならなかったものの、レクサスは800万円で売れて、急ぐ支払いの資金を確保するとともに、社員と契約アーティストに11月分の給料、ボーナス、12月分の給料をまとめて支払うことができた。
 
「みんな、11月のお給料とボーナスの支給が遅れてごめんね」
「いえ。11月分のお給料は美来さんに貸してもらっていたから」
と日野奈美。
「美来さんに御礼言って返さなきゃ!」
と横浜網美。
 
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実は11月分の給料が出なかったので、それではみんな生活に困るでしょうと言って、美来が社員4人に20万ずつ、他の所属アーティストにも各人の毎月の平均的な収入額に応じて5-10万程度ずつ渡してくれていたのである。みんな「助かりました」「子供の保育所代が払える」「性転換手術代が払える」などといって感激していた。
 
(多数のアーティストと話していたので「性転換手術代が払える」と言ったのが誰か、美来は覚えていない。10万円で性転換手術は受けられない気がするが!?あと10万足りなかった??)
 
なお社員4人はすぐにこの分を美来に返したが、所属アーティストには生活が苦しい人も多く、美来は返却は「出世払い」でよいと言ったので中には数年後になった人もあった。美来は適当なので実は誰に貸したか覚えていない!
 
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