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星原さんの家ではかなり長時間話し込んだ。その後、ポルシェを借りて八王子のホテルに移動する。むろん運転するのは千里である。千里は星原さんや娘の鈴木片子さんに国内A級ライセンスも見せた。「ハートライダー」の関わりで千里はしばしばサーキットも走っている。鈴木片子さんはハートライダーに出ている千里を知っていたが、冬子は知らなかったようで
「そんなのに出てたの!?」
と驚いていた。
この日は早めに各自ホテルで仮眠して、夜中過ぎに3台の車(千里が運転するポルシェ996と、コスモス・夏恋が運転するマジェスタ(途中で田代父・川南に交替)で八王子を出発した。
Porsche 千里・上島・龍虎・冬子
Majesta1 コスモス・アルト・政子・川南・暢子
Majesta2 夏恋・支香・田代夫妻・志水
現場を知っているのは上島と支香だけで、それで先頭をポルシェ、2番目をコスモスが運転するマジェスタ、最後尾を支香が同乗している夏恋運転のマジェスタが続くという並びで走った。
事故現場までは約250kmである。11年前に高岡夫妻はこれをわずか1時間半で走り抜け、そのまま天国まで走って行ってしまったのだが、今回は安全運転で走るので早い時刻の出発となった。深夜なので、運転手とおしゃべり相手係以外は、だいたいみんな寝ていたようである。おしゃべり係は
コスモス:アルト
川南:暢子
夏恋:支香
涼太:幸恵
が務めている。
しかし千里は自分も寝るつもりなので「おしゃべり相手不要」と言い、みんなが眠ってしまった頃合いを見て、千里も《こうちゃん》に運転を任せて意識を眠らせておいた。
事故現場の直前のPAで時間調整する。そして2014.11 06 4:50頃、事故現場近くの非常駐車帯に3台の車はハザードを焚いて停車した。ちょうど天文薄明が始まった所である(*1).
「長時間停められないからみんな急いで」
と言って全員降りる。龍虎が持って来た花束を置く。
「その先にある急カーブの所が現場なんだよ」
と上島が言う。龍虎が手を合わせている。
「4時51分」
という上島の声に全員合掌して黙祷を捧げた。
1分間の黙祷の後、花束も回収し、急いで車に戻り出発する。
3台の車は事故現場からほんの1分も走ると、次のPAに入った。
駐車場に車を駐め、PAの端まで歩いて行く。再度事故現場の方を向き、千里の《般若心経》に合わせて合掌した。
(*1)2014.11.6のこの地点での天文薄明は4:49. 事故当日2003.12.27のこの地点の天文薄明は5:23頃であり、事故当時はまだ暗かった。
サービスエリアで朝御飯を食べ、2時間ほど休憩してから、次のインターで降り、逆向きに乗って東京に戻った。八王子でお昼を一緒に食べてから解散する。大半の人は鉄道で帰るということで、夏恋と川南がマジェスタを返却に行った。
一方ポルシェ組の4人は給油してから星原相談役の家まで行った。
「いい慰霊の旅が出来ました。ありがとうございました」
と上島が代表して言い、それで少し世間話などしてから帰ろうとしたのだが、星原は言った。
「僕ももう先が長くないと思う。それで相続とかになった時に面倒なことが起きないように、このポルシェを買い取ってくれないかな」
最初上島に買い取ってという話かと思ったのだが、そうではなく龍虎に買い取ってもらえないかという話だった。
「済みません。おいくらなのでしょう?」
と龍虎が驚いて訊く。
「君の言い値で売るよ」
「上島先生、これどのくらい値段するものなんですか?」
「オークションに出せば5000万円だと思う」
「僕、そんなお金無いですよぉ」
星原さんは言った。
「一般の人に売るなら5000万円もあり得るけど、元々のオーナーの娘に売るのだから、1000万円という線でどうよ?」
星原さんはわざと“娘”と言っているのか、うっかり“娘”と言ってしまったのか微妙な所である。龍虎は女性用のワンピース型の喪服を着ている。
「むしろそれ未満では申し訳ないですね」
と上島。
「1000万円でもお金無いです」
と龍虎。
そこで上島は
「僕が龍虎にお金を貸して、それで龍虎が買うというのでは?」
と提案した。
「それならいいです。でも1000万円でも返せるかなあ」
「たぶん最初に出すCDの印税で、そのくらい楽に払える」
と千里が言った。
龍虎はその千里の意見には懐疑的ではあったものの、上島の提案に乗って、龍虎が上島から1000万円借りて星原相談役から買い取ることで話はまとまった。
車は実際には龍虎が自分で運転することはない(18歳になって免許を取っても事務所は絶対に運転を禁止するだろう)ので、千里が預かっておくことにした。実際問題として、龍虎が乗る場合も千里がドライバーを務める確率が最も高い。
翌日11月7日(金).
龍虎は学校をこの日午前中だけで学校を早引きし、成田空港に向かった。
熊谷13:38-14:43上野/京成上野15:00-15:44成田空港
上野駅の翼の像の所で、§§プロの田所さんと落ち合う予定だったのだが、実際行ってみると、来ていたのは秋風コスモスであった。
「田所が急な腹痛でダウンしたのよ。それで私がマネージャー代わりで出てきた」
とコスモスは言う。
「わっ!今日はマネージャーさんなんですか!」
「沢村さんはパスポート持ってないというし。私は去年の春にやはりハワイで写真集を撮ったから、その時のパスポートもESTAもまだ有効だったんだよね」
「わぁ。どんな感じの写真集撮ったんですか?」
「やはり水着の写真が多かったよ。一部ムームーの写真も撮った」
「へー。凄い」
話している内にローズ+リリーの2人も来る。今回はケイがプロデューサー役らしい(マリはおまけらしい)。そして★★レコードの富永純子が来るが、★★レコードが予約していたチケットが性別Fになっていたということが発覚する。慌ててカウンターに行き、性別を変更してもらった。
「ごめーん。私、どこかで勘違いしていたみたい。てっきり町添から100年に1度の美少女と聞いた気がしたんだけどなあ」
と富永。
「100年に1度の美少年なのではないかと」
「でも私、女の子アイドルと思っていたから、可愛い女の子の衣裳をたくさん調達して、ハワイに送っておいたんだよ」
と富永は言っている。
「アクアの方を100年に1度の美少女に改造してしまいましょう。ちょっと病院に連れて行って」
などとマリは言っている。
「時間があったらそれでもいいけど、明日・明後日で撮影しないといけないし」
などと富永は言っている。
「少女に改造するのは勘弁して下さい」
と龍虎は言っておく。
それで富永は現地スタッフに電話して、龍虎の身体に合う男の子の格好いい衣裳をできるだけたくさん調達して欲しいと連絡していた。
ハワイに着いたのは同じ11月7日の朝6:55である。
NRT 11/7 18:55 (UA880:B777) 11/7 6:55 HNL (7h00m)
ここで先行してハワイ入りしていた写真家の桜井さん、映像作家の美原さんと落ち合う。ふたりは龍虎を見て「凄い美少女だね」と言っていたのだが、富永が急遽用意させた衣裳を見て顔をしかめる。
「なぜこんなに男っぽい服ばかりなの? もっと可愛い服は無かった?」
「すみません、この子、男の子なので」
「何ですと〜!?」
と桜井さん・美原さんが同時に声をあげた。
龍虎は困ったような顔、コスモスは例によってポーカーフェイスだが、政子は笑いをこらえきれない様子だ。
「美少女アイドルの写真集を作ると聞いたんだけど?」
「私も100年に1度の美少女と町添さんから聞いた気がする」
「済みません。町添は何か勘違いしていたみたいで」
と富永が謝る。
ふたりとも可愛い女の子を撮るつもりでいたので、構想が全部崩れてしまう。
「ちょっと待ってよ。私、女の子の写真撮るつもりでイメージワークしてたのに」
「済みません。性別を変更してください」
「面倒だから、本人の性別を変更してよ」
「今病院に連れて行って手術してたら、撮影が間に合わないので」
「仕方ないな。じゃ30分待って。考え直す」
「はい」
ということで龍虎は病院に連れて行かれて強制的に性別変更されることもなく、30分後に撮影は開始されたのであった。
龍虎は「男性用の服」が全くサイズが合わないので「女性のコスプレ用」のアロハシャツやホワイトスラックスを着せられていた。
「じゃ水着撮影行ってみようか」
ということでトランクス型の水着が用意されるが、コスモスが中止を要請した。
「アイドルの生バストを曝すわけにはいかないので」
「えっと、この子、男の子じゃないんだっけ?」
「うーん。そのあたりはひょっとすると女の子かも知れないということで」
「だったら、女の子水着を着けさせよう」
「それは公開できないので」
「公開しなきゃいいんでしょ?私が頭の中でストーリーを練るのに、この被写体には水着を着せたい」
ということで結局、龍虎は女の子水着を着せられてしまう。すると
「可愛い!」
という声があがる。
「あんた、やはり女の子なの?」
「男です〜」
「女の子水着を着てこんなに可愛くなる男の子なんてあり得ない」
「だいたい、男の子が女の子水着を着たら、お股に膨らみができるはずなのになぜできない?ちんちんもう取っちゃった?」
「付いてますけど小さいんです」
「胸もあるし」
「この子、大きな病気をしていて、その治療の副作用で少し胸が膨らんでいるんです」
「まあいいや。だったら、実は女の子の身体なのでは?というのは内緒にしておいてあげるよ」
などと言いながらも桜井はたくさん写真を撮っていたが、どう見ても男装の写真より女装の写真に熱が入っていた、結局、ムームー、キャビンアテンダントの服、それに日本の女学生用セーラー服まで着せられていた。
翌日は、ビデオを撮影したが、女の子がモンスターに襲われている所にアクアが駆けつけて来て助け出すというストーリーで撮影することになる。ところが急にそんな話を決めたので、出演者が必要である。これを現地スタッフの人が何とかかき集めてくれたのだが、襲われる女の子役を誰にするかで議論する。
身長154cmの龍虎とバランスが取れる女の子が今回来ているメンツの中に居ないのである。ケイが167cm, マリが164cm, コスモスが157cmなので、コスモスにやってもらおうかという話になりかかった所でマリが言った。
「その女の子役もアクアがすればいい」
「なるほど!」
そういう訳で、アクアは襲われている女の子、駆けつけて助ける王子様?の両方を演じることになったのである。撮影時はコスモスがボディダブルを務める。
この撮影は途中で構想が膨らみ、アクアが馬に乗って駆けつけるシーンまで撮ったので、結局11月9日昼頃まで掛かった。帰国を1日伸ばすことにして、様々な楽器を演奏しているアクア、ハワイのあちこちの観光地を歩くアクア、更にはマノア滝まで往復するアクアまで撮影した。最後はカハナモクビーチで夕日の中のアクアを撮影した。
11月10日(月)朝のアクアの寝起きまで撮影して、一行は帰途に就いた。
HNL 11/10(Mon) 9:35 (JL785:B787-8) 11/11(Tue) 13:30 NRT
その日はもう龍虎の学校には間に合わないので、間に合わないのならついでにと言われて、都内のスタジオで、★★レコードの氷川が用意していた衣裳をつけてたくさん追加撮影をした。
「町添も加藤も女の子と信じていたみたいだけど、私はあれ?と思っていたのよね」
などと氷川さんは言っていた。
しかしこの追加撮影でも、龍虎はノリ?で、ビキニの水着まで着けさせられた。
「普通に女の子アイドルの水着写真にしか見えない」
「これを写真集の表紙にしない?」
「それは紅川さんから叱られます」
一応中学生タレントを使用してもよい時間制限の夕方8時には撮影を終え、氷川が付き添って熊谷市の田代家まで送っていった。