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■娘たちのエンブリオ(26)

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第3幕。
 
お城での舞踏会の場面である。最初に小学4年生6人による花嫁候補たちの踊り(パドシス)があり、その後、多様な地域の踊りが披露される。
 
スペインの踊り。山森君と唯花、高原君と詩織が各々ペアで踊る。
 
ナポリの踊り。中野君と妃呂で踊る。
 
ハンガリーの踊り。男女6人で踊るもので、今年は佐川君、中井君、恵南、茜音、遙鹿、睦姫。当初恵南を男装させて男女同数にする案もあったが、この踊りは偶数でさえあれば男女同数でなくてもいいので、最終的に恵南は女装でよいことになった。
 
マズルカ。男女合わせて8人の予定だったが最終的に12人になり、小学3〜4年生の子たちが踊った。この人数になると群舞に近い。
 
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そしてこの後、黒鳥のオディール(龍虎)が登場してジークフリート(佐藤君)との『パドドゥ』となる。
 
この部分だけで本式では10分以上あるのだが、前半を省略して主としてオディールが1人で踊る部分を中心に4分ほどの踊りにまとめている。2幕でもの悲しげに情緒的にオデットを踊った時とは一転して、まるで体操選手でもあるかのように元気いっぱいに龍虎は踊る。黒鳥が踊っている間白鳥のオデット(蓮花)は窓の外で「その人違う!」と主張して窓を叩いているが王子は気付かない。
 
(オディールは踊りが大胆だから「おっぱいが大きいのとお股がスッキリしたフォルムなのがよく分かる」などと蓮花は言っていた。どこ見ていたんだ!?)
 
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そして最後は32回のグランフェッテなのだが・・・・
 
龍虎はカウントを間違えて33回回っちゃった!
 
最後はオデットでないことにジークフリートが気付いて『情景』の音楽で場面転換である。
 

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第4幕。
 
湖のシーン。30人の白鳥たちの群舞から始まる。とにかくこのバレエは群舞が美しい。やがてオデット(蓮花)が到着して悲しむオデットを他の白鳥たちが慰める。ロットバルト(井村君)が来て、オデットに自分の嫁になれと要求するがオデットは拒否する。ジークフリート(佐藤君)が来て、オデットに謝罪する。ふたりは和解し、再度愛を誓う。その愛を白鳥たちが祝福する。
 
ロットバルトはもはやオデットを自分のものにできなくなったことを悟り、オデットとジークフリートの愛の力に敗れて倒れ込んでしまうが、悔し紛れに湖を干上がらせる。オデットを含む白鳥たちが飛び立っていく。そしてジークフリートだけが残った所でロットバルトの命が尽きると、再度湖に変わるのでジークフリートは濁流に呑み込まれてしまう。
 
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ここでこれまでずっとステージの下に敷いていた黒いシートを男子生徒たちで両端を持ちバッタバッタと動かすと、まるで本当に濁流が発生しているかのように見える。この演出に観客席から物凄いざわめきがおきた。そして佐藤君のジークフリートはこの濁流の中で1分間ほどもがいていたものの、その内力尽きて倒れてしまう(見えなくなるようにシートの下に潜り込む)。
 
しかしそこにオデットが来て濁流に飛び込み、王子を抱え上げて岸に上がるのである。この時、飛び込んだオデットは白いクラシック・チュチュを着て王冠を付けた龍虎だが、岸にあがったオデットはロマンティック・チュチュを着て王冠を付けていない蓮花である(王冠は魔法の印でもありオデットの人間としての生命が閉じ込められている)。
 
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ふたりが仲良く階段を歩いて登る所で幕は降りる。
 

「なんか凄く解釈の余地の残るエンディングだよね」
「ロットバルトは死んだよね?」
「死んだと思う」
「最後のオデットとジークフリートが生きているのか死んでいるのかが微妙」
 
「そうそう。オデットがジークフリートを助け出して、魔法も解けてオデットは人間に戻ったとも解釈出来るし、オデットも濁流にのまれて死んで、ふたりは天国への階段を登っていったとも取れる」
 
「微妙だよね」
 
「これウィーン国立歌劇団バレエ(Wiener Staatsopernballett)のバージョンを少し改変したものらしい。濁流の表現もそこの方式。ウィーン国立バレエの物語ではジークフリートだけが死ぬ」
 
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「それは酷い気がする。完全に悪の勝利か」
「いやロットバルトの思いは遂げられないからロットバルトも負けている」
「それが唯一の救いか」
 
「ラストをどうするかは先生たちの間でもかなり議論があったよね」
「最終的にこのパターンと決まったのはもう12月に入ってからだったし」
 

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「でも龍ちゃん、アイドルになっても頑張ってね」
「ありがとう。みんなもドラゴンジュニアバレエフェスティバル頑張ってね」
「私何とか30回くらいは回れるようにならなくちゃ!」
と蓮花が言っている。
 
「30回じゃなくてちゃんと32回回らなきゃ」
「龍ちゃん1回多かった」
「あれ不確かになったから、足りないよりはと思ってもう1回回った」
 
「龍ちゃん、もうデビュー曲の制作とかは終わったの?」
「終わった。発売は3月4日。年末年始は忙しいからプレスにも時間が掛かるらしい」
「ああ。そうかもね」
「これCDのジャケ写。みんなにだけこっそり見せるね」
と言って、龍虎は自分のスマホに入れている写真を見せる。
 
「・・・・・」
「どうしたの?」
 
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「なんでこんな男みたいな服装なのよ?」
「もっと可愛いドレスとか着れば良かったのに」
「だってボク男の子だし」
「それはありえない」
 
「龍ちゃんが女の子であることはみんな知っている」
「だいたい、おっぱいこんなに大きいし」
「お股にはどう見てもおちんちんなんか存在しないし」
「タマタマも既に手術して取ったんでしょ?」
「龍ちゃんはこの可愛い声が財産だから、声変わりしないようにタマタマは取ったと聞いた」
「戸籍も女の子に直したと私聞いたけど」
「3学期からは学校にもセーラー服で通うということらしいし」
 
なんか変な噂が広がってる??
 
「取り敢えず、女の子であるなら、ちゃんとスカート穿いて写真撮り直しなよ」
 
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というみんなの意見に、龍虎はどう返事すべきか悩んだ。
 

12月23日(祝)は貴司は大阪に戻るので朝インプレッサで東京駅まで見送ってから足立区総合スポーツセンターに行く。ここで東京都クラブバスケットボール選手権大会の準決勝と決勝が行われる。
 
40 minutesは午前中の準決勝で多摩ちゃんずを破り、午後からの決勝でまたまた江戸娘と激突した。今回も予断を許さない激しい戦いになったのだが、最後は江戸娘が1点差で勝利した。それで40 minutesはまた準優勝で終わった。
 
この大会は2位までが関東クラブバスケットボール選手権に行ける(3−4位は“裏関”こと関東クラブバスケットボール選抜大会に出場する)。
 

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ところで2014.12.23-28にはウィンターカップが行われた。旭川N高校は北海道予選で札幌P高校と延長戦にもつれる死闘の末、1点差で負けてしまい、今年は出場を逃した。しかし有志が10人と引率で宇田先生・南野コーチがウィンターカップ見学のため東京に出てきた。
 
旭川N高校女子バスケ部東京OG会副会長を自称(会長は誰だ?)する暢子があちこちに声を掛けて千里も含めて12人のOGを掻き集めた。暢子や千里など40 minutes組はクラブ選手権の後、打ち上げをパスさせてもらい、彼女たちが泊まっているホテルに行き、一緒に夕食を取った。
 
「でもあんなにいい試合を見たのに練習出来ないのが辛い」
などと言っている。
「だったら体育館を予約しようよ」
と暢子は言い、あちこち電話を掛けまくったら、横浜市内の体育館が25-26日の午後空いていることが分かり、取り敢えずそこを抑えた。
 
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他にも電話を掛けまくっていたが、年末だけあって、どこも空いてないようである。
 
「じゃ今日明日は練習無しか」
「せっかくOGが12人も集まっているのに」
という声が出ている。
 
「みんな女装する?」
と千里は言った。
「は?」
「常総市まで行けば私が管理している体育館があるんだけど」
「去年行った所ですね!」
と福井英美が言う。
「そうそう」
 
「でもどうやって移動しましょうか?」
「マイクロバスを借りよう」
 

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それで千里はレンタカー屋さんに電話してトヨタ・コースター29人乗りを借りた。みんな着換えなどを持ち、レンタカー屋さんまで歩いて行く。千里が大型がセットされている免許証を見せ、“例のカード”で決済して借り出す。
 
「みんな乗って乗って」
と言って、旭川からの遠征組12人とOG12人が乗り込んだ。
 
そして《こうちゃん》の運転で常総ラボまで行った。
 
「新宿から1時間で来たね」
「うん。明日は9時からの試合を見るなら、まあ余裕持って7時すぎに出れば問題無いね」
 
それでこの日はOGと現役の対戦などで3時間ほど練習をした。
 
「ここ結構暖かいですね」
「床暖房を入れているからね」
「すごーい」
 
練習の後はシャワーを浴びたいのだが、元々多数の人が利用する前提になっていない施設なので、シャワーは1階のシャワールームに2つと宿直室(千里と貴司の居室)に1つの合計3つしか無い。それで23時過ぎから3人ずつ練習から上がってシャワーを浴びて着換えることにした。体力のあまり無い雪子は最初に上がらせて、シャワーの後、ハイゼットで買い出しに行ってもらった。
 
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肉まん、ハンバーガー、チキン、ピザなどをたくさん買ってきてもらったのだが5分で無くなった!
 
シャワーは5分単位で3人ずつあがっていき、40分で全員シャワーを浴びることができた。宇田先生は最後にあがったが、宿直室のシャワーを使ってもらい、そのままそこで寝てもらう。他の23人の女子は10畳の休憩室2つに入って寝た。完璧な定員オーバーなので、かなり混沌とした状態になった。毛布と布団は全部で30組あったので15組ずつ入れたのだが、夜中はかなり奪い合いになったようである(エアコンと床暖房は入っている)。
 
結局ホテルも横浜の体育館もキャンセルすることにして、ウィンターカップが終わるまで常総ラボでみっちり鍛えることになった。
 
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24日は朝7時半近くにこちらを出発して9時前に東京体育館に入り、15時頃試合が終わると常総に移動して夜遅くまで練習をした。この日はクリスマスイブなので、全員にショートケーキを配り、シャンメリーで乾杯した。川南・夏恋・雪子の3人で大量のチキンを揚げてくれたのだが、これもあっという間に消費された。
 

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12月25日は送迎を千里に擬態した《こうちゃん》に任せ、千里本人は朝から★★レコードに行って、打ち合わせをした。帰ろうとしていたら氷川さんから呼び止められ、一緒に冬子のマンションに行くことになる。氷川さんは特に冬子たちに用事があった訳ではない感じだったが、お昼を食べながら色々なアーティストのことで意見を交換した。AYAのゆみの歌唱力が今年休養していた間に上昇しているという話も出て、マリの歌唱力もデビュー以来本当に上がったという話も出た。
 
その内冬子は政子に「おやつ買っておいでよ」と言って外出させてから、おもむろに千里と氷川さんに訊いた。
 
「私、こないだから正直に答えてくれそうな人に訊きたいと思ってたことがあるんだ」
 
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「何?」
 
「マリはデビューした当初から物凄く歌がうまくなった。私はそれをずっと一緒にいて、しっかりと感じていたんだけど、私自身はどうなんだろうと思って」
と冬子は言う。
 
「冬は歌、うまいよ」
 
「でも私は本当に上手くなっているんだろうか。それとも劣化していたりしないだろうかって、突然不安になったんだ。みんな私は歌がうまい、うまいと褒めてくれるけどさ」
 

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千里も氷川さんも考え込んだ。氷川さんは言った。
 
「ケイさん、松原珠妃が目標だって言っておられましたね」
「ええ」
 
「2008年にデビューなさった時、松原珠妃とケイちゃんの距離が1万kmあったとしたら、今は5000kmくらいだと思います」
と氷川さんは言う。
 
「まだ、半分かぁ」
 
千里は目を開けてから冬子に言った。
 
「レオナルド・ダ・ビンチと、パブロ・ピカソのどちらが優秀な画家かって議論できると思う?」
 
「それはどちらも凄すぎて比較できるものではないと思う」
 
「優秀な芸術家はね。優劣で言えるものではないんだよ。そこには個性があるだけなんだ」
と千里は言った。
 
「つまり自分の道を究めろということか」
「松原珠妃の後を追っていたら、冬、単に彼女のフォロワーにしかなれないよ」
 
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冬子は目を瞑って深く考えているようだった。
 

午後にはこれまではほぼペーパーカンパニーだったがΦωνοτον(XANFUSに改名予定)を迎えることでオフィスを持つことになった@@エンタテーメントの事務所開きに行った。結局冬子のフィールダーに氷川さんと千里・政子が乗ってそちらに向かう。
 
@@エンタテーメントの社長にはやっと日本に戻ってきた、元&&エージェンシー社長の斉藤邦明氏。デスク(現時点では唯一の社員)には結婚から出戻りしてきた白浜藍子が就任した。
 
男性が少ないので1斗ではなく1升サイズのミニ樽で鏡開きをした後「餅撒き」と称して実際には手渡しで“お餅”を配った。政子が「1個だけ?」などというので、みんな「餅だけならあげる」と言って、“現金”を抜いて餅を渡していた。
 
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「お金が入っていたの!?」
と言って政子は驚いていたが、たくさん餅をもらって「豊作豊作」と喜んでいた。
 
事務所開きが終わった後は、氷川さんは直接会社に帰るので、フィールダーに冬子・政子・千里・美来・織絵が乗って冬子のマンションに戻った。
 
「千里さん、バイクありがとう。すっごく気持ち良かったよ」
「どこか行ってきた?」
「青森まで往復してこようかと思ったんだけど、雪が降るという話だったから、高松まで往復して讃岐うどん食べて来た」
「よく1日で高松まで往復出来たね!」
「あの子、すっごいパワーなんだもん。坂道も楽々だったし。年末近くで結構渋滞している所もスイスイ進むから面白かった」
「まあそれがバイクの良さだよね」
 
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「でも池袋のマンションはびっくりした」
「早めに出ていて良かったねぇ!」
「あれ美来たちも補償金もらえるの?」
 
「朝道社長が買い取っていたから、&&エージェンシーがお見舞い金をもらったらしい。年末の資金繰りの苦しい時に助かったと言っていた。あと代替のマンションとして十条にマンションを1つもらったけど、そこを∞∞プロの歌手さんがキャッシュで買ってくれることになって、おかげで3000万ほど資金が確保できたらしい」
 
「それは良かった。でも3000万キャッシュで払うって、結構売れている人?」
「そのあたり詳しいことは聞いてない」
 
千里はこの日、美来たちから返却されたKawasaki ZZR-1400で冬子のマンションから帰った。
 
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娘たちのエンブリオ(26)

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