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■女子中学生・ひと夏の体験(27)

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新幹線を降りてから京浜東北線で上野に移動する。その電車の中での出来事だった。真理さんがしかめ面をするので
「どうかしました?」
と訊く。
「いや、あそこ」
と言って、真理さんが目で指し示した先で、女子大生っぽい女の子のお尻を、40歳くらいのサングラスを掛けた男が触っている。女子大生は泣きそうな顔をしているが、悲鳴もあげきれないようである。周囲の人は気付いてないのだろうか?
 
千里はつかつかと近づいて行くと、男の手首を握った。
「あんた何やってんのさ?」
 
女子大生はやっと声を出せるようになったようで
「この人痴漢です!」
と大きな声で言った。
 
周囲の乗客が男を取り囲む。
 
「次の駅(秋葉原)で駅員に突き出しましょう」
と千里は言ったのだが、その時、男は思いも寄らぬ行動を取ったのである。
 
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千里を怯えるような目で見ると、
「わぁぁぁぁぁ!!!」
と大きな声をあげると、電車の床に土下座して
 
「悪かった。もうこんなことは本当に本当に2度としない。絶対しない。神に誓ってしない。だからお願い、許して」
 
なんか尋常ではない謝り方である。
 
その時“千里”は言った。
「あんた、こないだの奴か!」
「済まない。あの時は、本当に済まなかった」
 
「何かあったの?」
と男を取り囲んでいる乗客のひとりの女性が訊く。
 
「この男、先月私をレイプしようとしたんですよ。何とか未遂でしたけど。こんなことしたのは初めてなんだ。二度とこんなことしないから見逃してとか言うから、念書書かせて“告訴は留保”してあげたのに」
 
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「レイプ犯か!」
「とんでもない奴だ」
「あんた、その時、見逃したらいけなかったよ」
「全くです。今からでも告訴しますよ」
と千里は怒りに満ちた顔で言った。
 

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千里は真理には子供たちを連れて上野で待っててと言い、秋葉原で、被害者の女子大生、男が逃げないように取り押さえてくれる男性乗客2人、証言してくれる女性乗客2人と一緒に電車を降り、男を駅員に引き渡す。
 
(財布の入った片掛けバッグ以外の着替えや宿題・算数ドリル、パソコン、お土産などの荷物は真理に託した。ただし光辞の写しが入ったバッグだけは小春に持たせた)
 
警察が来て取り調べる。千里は民宿の女将に電話した。女将は電話口で警官に先月の事件を伝えるとともに、あの時取った念書をこちらに郵送すると言った。千里は内心『まあ強姦罪じゃなくて強制猥褻罪だけど、それでもいいや』と考えていた。
 
それでこの“女の敵”は厳しく取り調べられることになり、余罪も追及されることになった。千里は結局、駅と警察で合計5時間!事情聴取に応じた。警察を出たのはもう夕方であった。
 
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「疲れたぁ」
と千里は言うと、そのまま消えちゃった!!
 
(カシオペアはとっくに発車し、栃木県のちょうど小山市付近を走行中)
 

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一方、上野駅で子供たちにお昼を食べさせ待っていた真理は千里がなかなか来ないので、どうしたものかと思い、14時頃、千里の携帯にメールしてみた。するとほどなく千里から電話が掛かってくる。
 
「すみませーん。そちら行きますね」
と言って、30分後くらいに千里は上野駅まで来た。
 
「大変だったね。お腹すいたでしょう」
「何かパンでも買って食べようかな」
「遅くなった時のために駅弁買っといたよ」
と言って真理は千里に“牛肉弁当”を渡した。
 
「すみませーん。色々と」
「いや、あんたこそ大変だったよ」
 
結局、上野駅アトレ(*28)内のカフェで紀美たちと一緒に軽食を取り、その後、乗り場まで行く。そしてカシオペア(*29)に乗る所まで見送ってもらった。
 
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「いいなあ、この列車」
と紀美が言う。
 
「紀美ちゃんも、一度これに乗って北海道に来る?」
「一度行ってもいいかな」
と紀美は言っていた。
 
彼女は実際に後にこれで留萌に来ることになる。
 
(*28) アトレ上野は2002年2月22日に開業している。
 

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千里はカシオペアのスイートルームの椅子に身体を任せた。
 
「疲れたぁ」
 
と思う。警察の聴取を途中で出て来たような気もするけど、まあいいやと思った。必要であれば、また留萌か札幌あたりの警察で追加の事情聴取に応じればいいだろう。取り敢えず告訴状は書いて出してきたし。
 
「買っといたパンでも食べる?」
と小春が言うので、もらって食べる。木村屋のパンである。
 
「あ、美味しい」
 
列車のウェルカムドリンクも飲んだが、疲れているので、小春が買っておいてくれた甘いミルクティーも心地良かった。
 

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小春は千里をいたわりながら困惑していた。
 
東京駅まで一緒に来たのは確かに千里Yだった。痴漢を捕まえた所まではやはり千里Yだったと思う。ところが痴漢男が土下座して謝った瞬間、千里Bに切り替わってしまったのである。こういうのでは過去に、釧路に行った時、それまで千里Bが居たのに、Rに電話が掛かって来たら、瞬間的に千里Rに切り替わって電話を取ったことがあった。
 
千里って、どうも必要がある時は、必要な千里が出現するというルールがあるようだ。しかしいったん消滅したかと思った千里Bがまた活動期に入ったのだろうか。
 
そして今ここに居るのはまた元々居た千里Yだ。
 
警察での聴取ではこのようであった。その時、千里Bが女性警察官と色々お話をしていた。ところがそこに千里Yに真理さんからメールが来る。すると警察から30mほど離れた位置に唐突に千里Yが現れて、真理さんに電話をしたのである。つまりBがいるから、その30m以内ではYは存在できない。それで少し離れた位置に出現したのだろう。事情聴取中のBが消える訳にはいかなかったから。
 
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小春は正直どちらの千里に付いているべきか迷ったが、上野駅に行くYに付いてきた。
 
結局千里の出現規則って、よく分からなーい、と小春は思った。
 

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この件はモニターしていた千里Gも「訳が分からない!」と思った。
 
ちなみに千里Bの本体?は例によって冬眠中で、唐突に東京に出現したのは“第2エイリアス”であった。先日は貴司君の浮気に怒って出て来たし、千里Bのエイリアスは怒りのパワーで起動する?
 
またBが“出現”してから真理のメールが来るまで事情聴取を受けていた千里Bには千里Yが混じっていた。実は千里Bの位置を示すのと同じ場所にYの位置表示も重なっていたのである。2人の千里が重なるというのはやはり千里が統合されていく方向にあることを示しているのだろう。元々Y(C1p+K)はB(C1)のコピーだから親和性あるし。
 
BとYはメール着信で分離したのである。
 
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だからきっと男を“強制猥褻罪”ではなく“強姦未遂罪”で告訴したのは千里Yの意志。元々Bは気の弱い所があるが、YはRと同じくらい意志が強い。
 
(あの状況で強姦は未遂だったが、強制猥褻は既遂である)
 

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(*29) カシオペアは、このように停まっていく(主な停車駅のみ)
 
上野1620 大宮1644 宇都宮1750 郡山1913 福島1952 仙台2058 盛岡2316 418函館430 長万部607 東室蘭711 苫小牧758 南千歳816 854札幌
 
盛岡を出てから函館に着くまでは停車駅は無い(青函トンネル通過のための機関車交換で青森駅に運転停車するのみ)
 
なお、カシオペアの運行日の特定はわりと難しい。
 
トワイライトの車両は3つあったので、通常は札幌行きが月水金土、大阪行きが火木土日に運行され、ゴールデンウィーク・夏休み・年末年始・雪まつりなどの繁忙期には毎日運転されていた。しかしカシオペアの車両は1つしか無かったので毎日運行は不可能であった。
 
基本的には、札幌行きが火金日、上野行きが月水土なのだが、繁忙期には曜日を無視して1日おきに運行するという、時代考証泣かせの運行がされていた。2004年8月9,11,13日に札幌行きカシオペアが運行されたというのは、乗換案内2004年7月版の情報である。このソフトは2004.6.1-9.30の間の時刻を保証している。またwikipediaには盛岡は運転停車であったと記載されているが、この乗換案内では盛岡は通常の停車になっているので、乗換案内側を信用した。
 
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車両編成はこのようになっている(一部推測)。喫:喫煙 ×:禁煙
 
1(×) SU1 SM3
2(喫) SM3 DX1
3 Dining Car
4(×) CV, A1, X8
5(喫) Lobby, A1, X8
6(喫) Shower, A1, X8
7(×) A2, X8
8(×) A2, X8
9(×) Lobby, A1, X8
10(×) Shower, A1, X8
11(喫) A2, X8
12 Lobby Car
 
SU:スイート展望型 SM:スイート・メゾネット DX:デラックス CV:車椅子専用 A:ツイン平屋型 X:ツイン二層型
 
千里が取ってもらった部屋は、1号車(禁煙車)のメゾネット型(二層型)のスイートである。1階が寝室、2階がリビングになっており、この2階にトイレ・洗面台、シャワールームが装備されている。
 
カシオペアは全てがツイン個室という仕様(3人で乗ってもよい部屋もある)であり、開放型の座席やB寝台は無い。これに乗車するには1人で乗る場合も2人分のチケットが必要である(時期によっては1人分の運賃で乗れるチケットが発売されたこともあった)、
 
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全ての個室に、トイレ・洗面台・電源コンセント・タオル・コップ・浴衣・スリッパ・アラーム付き時計・液晶ディスプレイ・BGM放送装置・個別空調が付いており、特にスイートとデラックスには、クローゼット・ミニバーセット・シャワーブース・バスタオル・シャンプーセット・歯磨きセットなども用意されていた。高級ホテルに泊まる感覚に近いが、料金もスイートは当時28380円だった(これに加えて運賃・特急料金が合計16080円かかる)。しかし高級ホテルに泊まることを考えたら充分リーズナブルな価格である。
 
このスイートがカシオペアには禁煙車に4つ、喫煙車に3つあったが、特に1号車・禁煙車の先端にある展望型スイート(平屋タイプ)は1室だけということもあり、競争が激しく、このチケットを確保できたら奇蹟と言われた。
 
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競争率が少しだけ低くなるメゾネット型のスイートでも6室しかないから競争は厳しい。
 
真理は旅行代理店の人に頼んで1ヶ月前の朝10:00ジャストに予約を打ち込んでもらったが、9日の予約は取得失敗。11日で確保できた。11日でも失敗したら13日にも再挑戦するつもりだった。要するに今回の千里の帰還日程はカシオペアの予約確保により決まったのである。
 

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千里はパンを食べちゃった後は、事情聴取の疲れもあり、ぼんやりと窓の外の風景を見ていたが、やがて算数ドリル!を取りだして解き始めた。
 
「千里もだいぶ計算ができるようになってきたね」
と小春が言う。
 
「やはり花絵さんにも言われたけど、小学1〜2年生の頃に何かで引っかかって、その後はずーっと分からないまま授業受けてたんだろうね」
と千里。
 
「迷い道に入った時に、最悪なのはそこから直接正しい道に直行しようとすること。大抵更に迷ってしまう。道に迷った時の正しいやり方は間違った所まで道を戻って、正しい道に向かうことなんだよ。時間がかかりそうで実は最も速い。それを花絵さんが導いてくれた」
と小春。
 
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「それは多くの人がおかしやすい誤りかもね」
と千里も答えた。
 
「でもどこで間違ったかとか、どうしたら分かるの?」
「人にもよるけど、千里みたいに霊感の発達してる子の場合は、たいてい2つ前の分かれ道まで戻ると、正しい道に行ける」
「へー!」
 
「ねぇ」
「うん?」
「男として育った人が大人になってから女に目覚めたら女子小学生、女子中学生とかからやり直すべきなのかなあ」
「40歳くらいになってから女子中学生のセーラー服を着たがる人はいるけど、この話とは別という気がするよ」
 

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女子中学生・ひと夏の体験(27)

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