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ところで千里Yは7月19日から三重県の河洛邑で光辞の朗読をしていたのだが、7月31日は「ずっと籠もっていると疲れるだろうし、少し気張らししておいで」と言われて、近隣の遊園地に、真理さんとその娘の紀美(中2)・貞美(小6)と一緒に4人で遊びに行っていた。
でも紀美は同年齢だからかも知れないが、どうもこちらをライバル視しているみたいで、あれこれ議論をふっかけてくるので、正直閉口していた。
まあ河洛邑との付き合いも恵雨さんが生きている間だけだろうけどね。
千里は今回河洛邑に来て、故・遠駒来光(恵雨の夫)の高弟だった湯元さんが居ないことに気付いていた。彼は教団の事実上のNo.2だった。もし怪我したとか病気とか、あるいは亡くなったとかなら、そう聞くはずだ。しかし彼のことに誰も何も言及しない。おそらくあまり円満ではない形で教団を離脱したのだろう。
P神社の宮司さんの話では理数協会も1980年代のオカルトブームの頃はかなり話題になり、“都々の宮”への参拝者も凄かったが、今は恐らく往時より1桁少なくなっているのではないかと。それで幹部の離脱も起きているのかも。
遠駒恵雨さんは、自分の後継者について何も言わない。きっと自分の代で閉じるつもりではと千里は思う。藤子さんや真理さんは後を継ぐ気無さそうだし。
紀美ちゃんが一派立てるかも知れないけどね。
この子、そういうの好きそうだし。
恐らくは、恵雨さんは、自分の死後、教団も解散した後の光辞の散逸を恐れて、留萌に分霊を作ろうとしているのだろう。この分霊のことは、ごく少数の人しか知らない。
なお留萌の光辞の“写し”は、真理さんが書写したもの(A)と、それを更に千里自身が書写したものがあり、更に千里は書写する時にカーボン紙を使用して2部(B)(C)できるようにしている。つまり3セットの“写し”があるし、更に(A)をコピー機でコピーしたもの(D)まであるので、光辞が4セット存在することになる。光辞の写しは、千里が読まなくてもいい部分(多くは発表済みの部分)まで送られてくるので、恐らく来年の春頃までには全部揃う。
光辞は“分散して保管して”という恵雨さんのことばに従い、真理さんの書写したものをP神社の物置!、千里が書写したものの内(B)をP神社境外摂社・鈿女神社の地下倉庫に、(C)は旭川A神社に借りた倉庫に収納している。そしてコピーの(D)はP神社内の資料室の立派な棚に桐の箱に入れて!保管している。
恵海さんの後継者を自称する人物(本当に紀美だったりして?)が返還を要求した時のための備えとして、恵雨さんはこういう体制を依頼したのである。(D)は向こうが暴力で奪いに来た場合の備えである。大事なものがまさか無造作に物置に置かれているとはなかなか思わない。鈿女神社の地下倉庫はそんなものが存在することは、千里と小春以外知らない(翻田宮司も知らない)。またA神社の分霊のことは翻田宮司のみが知っていて千里も知らない、つまり全ての分霊の在処(ありか)を知る人が居ないようにしているのである。全てにアクセスできる人を作らないというのは、セキュリティの基本である。
このような保管体制にあることは、真理さん・藤子さんも知らないし、恵雨さんでさえ具体的なえ保管場所は知らない。
31日は遊園地で夕方までたっぷり遊んで、そろそろ帰ろうかなどと言っていた時のことである。千里は唐突に自分の周囲に何かが飛び回り始めたような気がした。
最初はアブか何かかとも思ったのだが、実体が見えない!ことから、これはもしかして霊的なものかと思い至る。真理さんが気付いて言った。
「千里ちゃん、何か憑いてる」
「やはり、そうですか。これって祓うべきものじゃないですよね」
「うん。私もよく分からないけど、千里ちゃんを守護してる気がする」
「へー」
「詳しいことは、たぶんうちの母(藤子)に聞いたほうがいいかも」
この場に居る人で千里の周囲を飛び回っているものが見えているのは真理さんのみで、2人の娘には、見えるどころか何も感じられない様子だつた。
霊的な能力は隔世遺伝になりやすいので、来光と恵雨の息子の光風さんにも前妻さんとの息子・光林さんや光海さんにも、全く能力が出なかったが、孫の真理さんには能力が出た。そして真理さんの娘2人にはその手の能力が無さそうである。もしかしたら、紀美か貞美の子供に能力が出るかもね?
通路の一角で2人組の芸人さんがトークをしていた。最初男女のペアに見えたが、近くまで来てみると、どうもひとりは女装しているようである。本物の女装者ではなくドラッグっぽい。それを見て紀美が言った。
「私、女装男って大嫌い。男のくせに女を装って女子トイレとかに入る奴は全員痴漢の重罪犯として銃殺刑に処すべき」
まぁ、過激ね!
貞美ちゃんの方は寛容っぽい。
「殺す必要無いと思うなあ。全員性転換させてあげればいいじゃん」
などと言っている。
この芸人さんはきっと性転換はしたくないだろうけどね!
真理さんは
「単にトイレを排泄のために利用するだけならいいんじゃない?」
などと言っていた。
それでとにかくも帰ろうとした時のことだった。
突然真理が倒れたのである。
「真理さん!」
「お母ちゃん!」
紀美が真理の身体を揺すろうとしたが
「揺すったらダメ!」
と言い、
「真理さん、私の声が分かりますか」
と呼びかける。
「分かる。ごめん。少しのぼせたのかも」
と真理は答えるが声が弱々しい。
身体に触ると熱い。
熱中症だ!と思った。すぐ日影に移したいが、中学生と小学生の女子3人で推定60kgくらいの真理さんの身体を動かすのは無理だ。
「紀美ちゃん。誰か遊園地のスタッフさんを呼んできて」
「うん」
と言って駆けていく。
「貞美ちゃん、こっちの方角に100mくらい行った所に自販機があるから、アクエリアスかお茶か買ってきて」
と言って100円玉を5枚渡す。
「うん」
と言って、駆けていく。
しかし困ったなあ。誰かおとなの人が来るまで動かせない。
通行人が何人か立ち止まる。が誰も手伝ってくれようとしない。きっと関わって何かあった場合に責任を問われたりするのを怖がっているのだろう。
その時ふと千里の脳裏に4年前に自分が羽田空港で“うっかり死んじゃった”時に、きーちゃんが介抱してくれたことを思い出した。
そういえば、きーちゃんとは1年半くらい会ってないけど、病気でもしてるのかなあなどと思った。私が死んだ時、きーちゃんはどんな治療をしようとしてたっけ?などと考えていたら、当のきーちゃんが姿を現した。
「きーちゃん!?」
「呼ばれたような気がしたから来た」
「きーちゃん、久しぶり!この人、熱中症みたいなの、何とか日影に移せないかな」
「久しぶり??それより私と千里で持とう。きっと2人でなら持てる」
「うん」
(“この千里”はきーちゃんと会ったのは小学生の時以来。でもきーちゃんとしては毎月“千里”には会ってる)
それで、きーちゃんが真理の頭と肩を抱え、千里が足を持ち。木陰へ移動する。
2人がその作業をし始めたら
「手伝いますよ」
と言って、さっきの2人組の芸人さんが手伝ってくれた。異変に気付いて駆け寄ってくれたようだ。この2人がさすが男性だけあって物凄く戦力になった。
それで4人がかりで、何とか真理の身体を木陰に移すことができた。
「熱中症だね」
「ですよね」
「経口補水液を飲ませたいな」
「ある?」
「持ってくる」
と言って、きーちゃんはほんの1分ほどで経口補水液を持って来てくれたので飲ませる。それを飲ませていたら、貞美がアクエリアスを2本買ってきたのでそれも飲ませる。
これで真理はかなり体のバランスを回復したようである。
「千里、塩持ってるみたいね。それ出して」
と、きーちゃんが言う。
「あ、そうか。塩分も大事なんだ」
それで千里は、お清め用にいつも持っている塩の容器を出すと掌に少し振り掛け
「これ舐めて」
と言って、真理に舐めさせた。
そんなことをしている内に10分ほどで真理はだいぶ体力を回復したようである。そこに遊園地の男性スタッフさんが4人、担架を持って走って来た。
「熱中症ですか」
「そうなんです」
「病院に運びましょう」
と言って、真理を担架に乗せる。そして静かに運んでいく。濡れタオルを額に載せてくれた。
千里と貞美、それにきーちゃんが心配そうに付いていく。
「あれ?紀美ちゃんは?」
と言って周囲を見回す。
スタッフさんに訊く。
「すみません。スタッフさんを呼びに来た女子中学生を知りませんか?」
「え?女子中学生?」
「私たちはウーマン&シーマンさんの電話連絡で来たんですが」
どうもあの芸人さん2人が(業務用の連絡網で?)連絡してくれたようだ。結局紀美が死刑だなんて言ってた人に助けられたことになる。
で、その紀美は?
「迷子になっちゃったんじゃないかなあ。お姉ちゃん、極度の方向音痴だもん」
と貞美が言っている。
え〜〜〜!?こんな時に余計な手間を。
「きーちゃん、申し訳ないけど、この子と一緒に真理さんに付いてて。私、紀美ちゃんを探してくる」
「分かった」
それで千里は目を瞑って紀美の波動を探す。
遊園地は人が多いので、人を探すのは難しい。似たような波動の人もいるのでその度に精査する。それで5分くらい探していた所で、やっと見付けた!
なんか遊園地の反対側にいるじゃん!なんでそんな所まで。
千里はきーちゃんの携帯に電話した。
「紀美を見付けたけど、かなり遠くに居る。これから連れていくけど時間がかかりそうだから、申し訳無いけど、病院まで付いていってくれない?」
「OKOK。気をつけてね。千里も水分取ったほうがいいよ」
「ありがとう」
確かに自分が倒れたらどうにもならんと思い、千里は近くの自販機の所まで行き、アクエリアスを1本買って飲み干す。それから紀美の居る方向へ歩いて行った。
20分ほど掛けて紀美をキャッチする。
「千里ちゃーん」
「紀美ちゃん大丈夫?」
「心細かったよぉ。スタッフっぽい人に全然会わないし」
「乗り場の所に立ってる人でも捕まえれば良かったのに」
「そうか!その手があったか!」
どうも入場ゲートまで行って、その傍にあった救護室に行くつもりだったのかも。でもきっと母親が倒れてパニックになってたのかも?
それで彼女にも水分補給させて(桃の天然水を飲んでいた)、一緒に遊園地を出る。そしてタクシーに乗り、きーちゃんから連絡のあった病院に向かった。
一方きーちゃんは千里に電話連絡した後、首を傾げていた。
「いつもの携帯番号と違うけど、あの子2台持ってるのかな」
真理は大したことないようだったが一応一晩入院させることにする。
真理さんの夫・高木東治さんと、母の藤子さんが駆けつけて来てくれたので、病院の手続きをしてもらう。子供たちは帰した方がいいということになり、千里・紀美・貞美の3人で電車で帰ることにした。
21時頃、何とか河洛邑に帰着した。紀美・貞美を恵雨さんに託す。
恵雨さんにしても、向こうで会った藤子さんにしても、千里の周囲を飛び回っているものに興味津々だったようだが、真理の病状、子供の世話とかが優先で、今日は何も訊かなかったようである。
自分の部屋に下がると、千里はベッドに横になり
「疲れたぁ!」
と呟く。
「きーちゃんありがとね」
と言うと、彼女が姿を現す。
「藤子さんや恵雨さんに見られたらさすがに正体がばれそうだったから隠れてた」
「そういえば、きーちゃんの名前、恵雨さんと同じだね」
「そうそう。あの人も貴子なんだよねー。本名は」
「でもきーちゃんって遠くからワープしてくる能力も持ってたのね」
「千里が召喚したから、そのチャンネルで来ただけだけど」
「召喚した?」
「だって、“アイコン”を使って私に呼びかけたじゃん」
千里は少しだけ考えたが、すぐ分かった。
「私の周りを飛び回っているのは、召喚アイテムか」
「まさか知らずに使った?」
「そうだったのか!いや、今分かった。だったらこれ使ったら遠くからでも呼び出せるの?」
「遠くからだと時間かかるけどね。通常の移動よりはずっと速い」
「便利だねー。じゃもしかしてこれひとつひとつが別の精霊の召喚アイテム?」
「そうそう」
「そうだったのか」
と言うと、千里は自分の周囲を飛び回っているアイコンを“シールド”して霊的にも遮蔽した上で、
「騰蛇、朱雀、六合、勾陳、青竜、天乙貴人、天后、大陰、玄武、大裳、白虎、天空」
と“アイコン”の名称を唱えた。
「合ってる?」
「合ってる。さすがだね」
「今のは頭に浮かんだ名前を唱えただけだけど、これって何か意味あるの?」
などと千里が訊くので、きーちゃんは微笑んで
「十二天将というんだよ」
と言って、各々の“アイコン”が持つ性質を教えてあげた。
騰蛇♂ 羽根を持つ火の龍。十二天将のリーダー。
朱雀♀ 南の守護神で火行に属す。若く赤い鳳凰。ルフ鳥やフェニックスと同族。
六合♂ 幸せの龍。性質は温厚。人を和解させ協力させる力を持つ。
勾陳♂ 別名黄龍。中央の守護神。金色の大きな龍。乱暴で争いを好む。
青竜♂ 東の守護神で木行に属す。若い水の龍。頭脳派で財運をもたらす。
天乙貴人♀ 天を守る。天女属で、十二天将の事務局長。
天后♀ 海神の若い娘。交通安全の守護神。
大陰♀ 女性の守護神。知恵のある老婆。
玄武♂ 北の守護神で水行に属す。若い亀属。
大裳♀ 衣服や持ち物の管理者。未来予測ができる。
白虎♀ 西の守護神で金行に属す。若い虎族で看護婦さん。荒っぽいが悪気は無い。
天空♂ “姿”は無く遍在する。霧の神で物事を隠す力がある。
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女子中学生・ひと夏の体験(22)