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■女子中学生・ひと夏の体験(17)

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(C) Eriko Kawaguchi 2022-08-06
 
16日夜から23日お昼まで、旭川で約1週間の剣道合宿を終えた、千里・玖美子・沙苗・公世・清香・柔良の6人は、7月23日(土)の午後、旭川から稚内へ移動した。
 
旭川13:56(サロベツ)17:50稚内
 
それで、清香・柔良はR中のチームに合流した。ちなみにR中の他のメンバーは、学校でチャーターしたバスでの移動だったので、結構きつかったようである。こちらの6人は出発直前まで練習していたこともあり、特急サロベツ(*15)の快適な座席で、全員熟睡していた。
 
(*15)サロベツは2000.3.11のダイヤ改訂で急行から特急に格上げされた。使用車両はキハ183系気動車の改造版(サロベツ・利尻共通)で、特に指定席はかなり快適な座席に交換されている。
 
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千里たちS中はR中とは別の旅館が割り当てられていた。それで取り敢えず沙苗に待機してもらっておき、予約されているはずの、千里・玖美子・公世の3人で旅館の帳場に行き、学校名を告げる。
 
「はい。留萌のS中学校さんね。今ご案内しますね」
と言って仲居さんが案内してくれるので付いていく。
 
エレベータで3階まで上がり、鴻鵠(こうこく)の間というところに通される。
 
「S中さんはこちらの部屋をお使い下さい」
と言われる。見ると8畳の間である。4人部屋という感じだ。
 
公世が訊いた。
「すみません。ぼくの部屋は?」
 
「S中学さんは3人でこの部屋を使って頂きたいのですが」
「でもぼく男なので」
「あら。“ぼく”とか、ぼく少女さん?でも予約は満杯なので、同じ学校の方は何とか同じ部屋をお使い頂きたいのですよ。すみませんね」
 
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と言って仲居さんは帰ってしまった。
 

「まさか、ぼく、女子と一緒の部屋なの〜〜?」
と公世が情けない顔で言う。
 
玖美子は部屋の電話からフロントに掛けて、料金は別途払うから、もうひとつ部屋を確保できないかと言ってみた。しかし予約で満杯なので、新たな部屋の確保は無理ということだった。
 
「公世ちゃんの名前見て、女子と思っちゃったんだろうね。どうしようか?」
と玖美子も困り顔である。
 
千里は言った。
「沙苗を呼べば解決すると思う」
「ほほぉ!」
 

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それで携帯で沙苗を呼び出す。沙苗が荷物を持ってやってくる。
 
「この部屋の名前の読み方が分からなくて、携帯メールを見せて教えてもらった」
などと沙苗は言っている。
「私も読めなーい」
と千里。
 
「“こうこく”だよ」
と公世が言う。
 
「『燕雀(えんじゃく)いづくんぞ鴻鵠(こうこく)の志(こころざし)を知らんや』の鴻鵠」
と公世は言うが
 
「何だっけ?それ」
と千里と沙苗。
 
「この旅館、鳳凰(ほうおう)とか朱雀(すざく)とか孔雀(くじゃく)、朱鷺(とき)、雲雀(ひばり)、郭公(かっこう)、鸚哥(インコ)、鸚鵡(おうむ)、洋鵡(ようむ)、紅鶴(フラミンゴ)、麒麟(きりん)、馴鹿(トナカイ)、羚羊(かもしか)、駱駝(らくだ)、驢馬(ろば)、騾馬(らば)、海驢(あしか)、海豚(いるか)、海馬(たつのおとしご)、浣熊(あらいぐま)、豪猪(やまあらし)、と、難しい名前が多くて、漢字が読めなくて自分の部屋が分からなくなる子が続出しそうではある」
 
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と玖美子は部屋配置図を見ながら言っている(よく読めるものだ)。
 

「でもここ広いね。2人部屋に見えない」
と沙苗が言う。
 
「4人部屋なんだよね。それで私とくみちゃんと、きみよちゃんがここに割り当てられている」
「なぜ男女ミックスになる?」
「公世ちゃんの名前が女子と誤解されたんだと思う」
「じゃフロントに言ってもう1部屋取ってもらおうよ」
「それが満杯だから取れないということなのよね」
「うーん・・・」
 
「だから今夜はこう寝ようよ」
と千里は提案した。
┏━┓↑枕
┃千┃
┃里┃┏━┓┏━┓
┗━┛┃沙┃┃公┃
┏━┓┃苗┃┃世┃
┃玖┃┗━┛┗━┛
┃美┃
┗━┛

「私がバッファになる訳か」
「そうそう。沙苗は壁になる」
「でもこれなら、全員安眠できる気がする」
と沙苗が言うと、玖美子と公世も同意した。
 
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それてこの宿ではこのように寝ることになったのである。
 
「着替える時は声を掛けて後ろ向きで」
「了解了解」
「あるいは布団に潜り込む」
「見ザル聞かザル言わザル」
 

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大会は2日間に及ぶが、実際には試合が行われるのは2日目のみである。1日目は竹刀や防具の検査、受付、代表者会議、そして練習である。
 
千里たちは朝一番に会場に行き、道具の検査を受け、その検印を見せて受付を済ませる。練習時間は15:00-16:00が指定されていたので、それまではジョギングしたり、公園で素振りや切り返しの練習をしていた(←本当は周辺地域での素振りなどは禁止されていることが多い)。
 
顧問の岩永先生(♂)と鶴野先生(♀)に広沢先生(♀)も入れた3人が、早朝留萌を車で出て稚内まで来てくれ、12時からの監督主将会議に出てくれた。留萌−稚内間は日本海オロロンラインを走って4時間半、休憩を入れて6時間程度である。
 
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岩永先生(♂)と鶴野先生(♀)だけでもいいところだが、それでは男女2人になってしまうので、余計な問題が起きないように広沢先生(♀)が同乗してくれたのである。広沢先生は“コーチ”として登録している。実際、鶴野先生より剣道に詳しそうだった!
 
先生たちとはお昼を食べた後、13時半に合流した。それで会議の内容の伝達を受けてから練習場に行き、練習を見守ってくれた。
 
先生たちとは夕食前に別れて、各々の宿に戻った。先生たちは男性1人、女性2人と少人数なので、生徒が宿泊している旅館ではなく、稚内市内のビジネスホテルに宿泊する。岩永先生がシングル、鶴野・広沢がツインである。
 
ちなみにこちらの宿泊問題は先生たちには言ってない。言っても解決策は無いので、もう言わずにおこうということにした。玖美子が旅行代理店に照会してみたが、稚内市内の旅館・ホテルは完全に満杯らしい。元々土日は宿泊客が多い上に、夏休みに入っているので観光客も多い。
 
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「だけど、きみよちゃんが男の娘さんなら、そもそも問題は生じてないんだけどなあ」
「その冗談はいいかげんやめてよ」
 
でも完全に“きみよ”ちゃんにされてしまっている。
 
(「公世」は本当は「こうせい」と読む)
 
彼も旭川での合宿で1週間沙苗と同じ部屋に泊まっているので、多少は?女の子に対する耐性?ができているようである。昨夜も充分安眠できたと言っていた。彼には「オナニーしたい時は遠慮無くね〜」と言っておいたが疲れているので、何もせずに寝たと言っていた。
 
やはり女の子に対する耐性ができてる?(不感症になりつつあったりして)
 

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2日目(8/3).
 
大会の試合が始まる。スケジュールはこのようになっている。
 
9:00 開会式
9:30 団体戦(決勝を除く)
13:00 個人戦(準決勝まで)
15:00 団体・個人の決勝戦
15:30 表彰式
 
S中は団体戦には出ないので午後の個人戦からである。千里たち4人は昨年千里と玖美子がやったように、宿に戻ってイメージ・トレーニングと精神集中をしていた。会場には鶴野先生たちが居るので、何かあった場合は連絡をもらえるはずである。
 
11時に早めのお昼を食べ、部屋に戻ってから道着に着替える。この時、玖美子が公世に行った。
 
「きみよちゃん、これを穿いて試合に出なよ」
「ん?」
と言って受け取ってから、公世は受け取った“もの”をしげしげと見ていたが
「女のパンツ〜〜!?」
と声を挙げる。
 
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「そうそう。公世ちゃん、ここ数日元気が無い気がしてさ。こういうの身につけたら、元気出るんじゃないかという気がして」
「ぼく、ほんとに女物とか着ないんだよ」
と公世は言う。随分ぼくの性癖は誤解されている気がすると思う。
 
「だから穿いたら興奮するでしょ?」
と玖美子は言う。
「・・・・・興奮はするかも」
「Hな気分になるよね?そういうエネルギーは心理学ではリビドー(libido)といって、人間の根源的なエネルギーになるんだよ」
「うーん・・・」
 
「だって人間って性のためなら命懸けになるじゃん」
「確かに」
「だからそういう性的なエネルギーを呼び起こして、そのパワーで個人戦を快進撃・全国大会に行こうよ」
「全国〜〜〜!?」
「公世ちゃんなら、きっと行ける」
 
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「全国なんて考えもしてなかったけど、頑張る」
「うん」
 
それで公世はそれまで穿いていたボクサーパンツを脱ぎ、ショーツを穿いてみた。物凄くドキドキする。このドキドキ感は凄いパワーかもと思った。
 
ただ・・・・
 
「ごめん。これちんちんが入らないんだけど、どうしよう」
 
すると沙苗が
「それやり方があるんだよ」
と言って、“後ろ向きに収納する”というワザを教えてあげた。
 
「凄い!こういうやり方があったのか」
「横向き収納という手もある。自転車に乗る時とかは横向き収納」
「後ろ向き収納して自転車に乗ったら痛いよね?」
 

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そういう訳で、公世は女子用ショーツを穿いた上に(紺色の)道着と袴を着け、他の女子たちと一緒に会場に入った。なお、沙苗は見学者として入場する。
 
個人戦の参加者は、64名である。これは札幌市+14支庁から4名ずつに加え、開催地から更に4名追加されている。つまり、開催地からは8名が出場できるのである。
 
まずは1回戦だが、千里は地区2位(昨年も2位だった)で出て来ているので、1回戦は他地区の3位の人と当たったが、まずはこれに軽く2本勝ちした。玖美子は地区3位だったので、他地区の2位の人とだった。かなりの接戦だったが、終了間際に面が決まり、1本勝ちした。
 
木里さんは地区1位だったので、他地区の4位の人とで、軽く2本勝ちした。前田さんは地区4位だったので他地区の1位の人とだった。かなりくらいついて1本は取ったものの、終了間際に2本目を取られて敗退である。R中は団体戦では先鋒・次鋒・中堅が敗れて前田さん・木里さんに回る前に敗退している。それで前田さんにとって今年はこれが唯一の試合となった。それで彼女は
 
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「また鍛え直さなきゃ」
と言っていた。千里はやはり3位通過と4位通過はかなりの差になるなと思った。玖美子も昨年は4位通過だったので、1回戦で地区1位の人とぶつかり完敗している。
 

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公世は最初相手から「その人、女子じゃないの?」と言われて、剣道連盟の登録証を提示して納得してもらう。しかし相手はこちらが実は女なのでは?という疑いを完全にはぬぐうことができなかったようにも見えた。
 
公世は地区4位通過だったので、相手は他地区1位の人である。凄く強いのだが、最初の段階ではやや手加減しているようにも見えた。そもそも1位の人は初戦で4位の人と当たるから、(札幌4位以外は)結構実力差がある場合が多く、軽く流すつもりで対戦することが多い。
 
実際結婚な実力差があったと思う。1分で相手の面が決まり1本。しかしこれで相手は「やはり女か、男だったとしても大したことない奴だ」と思ってしまったのかも知れない。
 
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一方、公世はこの1週間徹底的に足腰を鍛えたのがあり、フットワークが良い。それで相手の2本目がきちんと決まらない。それどころか終了間際に公世が小手で1本取り返し、延長戦に突入する。
 
そして延長戦に入っても相手のやや雑な攻撃が目立ち、公世はたくみに動き回るので相手から打たれはするものの、1本にならない、やや焦ったような面が来たところで、きれいに返し胴を決め、公世は1回戦で強敵に勝つことができた。
 
勢いでも技術でも向こうが完全に上回っていた(判定になっていたら確実に負け)が、公世は「剣技に負けて、勝負に勝った」。この1回戦を勝ったのが物凄く大きかったし、結果的にその後の奇蹟ともいえる快進撃の発端になったのである。
 
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