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■女子中学生・ひと夏の体験(7)

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千里たちはだいたい7時過ぎに各々適当な場所に集まって、車に相乗りし苫前町に向かった。この日は雨だったので、気温はあまり上がらず涼しいかもとは思われたが、湿度で床が滑りやすくなってるかも知れないね、などという話をしていた。千里は万一の時のために道着・袴の替えを3セット持って出た。(通常は午前と午後で1着ずつ、2セット持って行く)
 
さて、この日も午前中が団体戦で午後から個人戦ということになっていた。団体戦は男子16校、女子10校であった。
 
※剣道団体戦の出場校数推移
2003春 男12 女8
2003夏 男17 女10
2003新 男10 女6
2004春 男12 女7
2004夏 男16 女10
 
今回夏大会のスケジュール予定はこのように発表されていた。
 
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8:45 開会式
9:00 男子1回戦(ABCD) 女子1回戦(EF)
9:20 男子1回戦(ABCD)
9:40 女子2回戦(ABCD)
10:00 男子2回戦(ABCD)
10:20 女子準決勝(AB)
10:40 男子準決勝(AB)
11:00 女子決勝)A) 三決(B)
11:20 男子決勝)A) 三決(B)
 
ABCD:スポーツセンター、EF:社会体育館
 
女子の組み合わせはこのようになっている。
E中┓
H中┻┓
 K中┻┓
 C中┓┣┓
 S中┻┛┃
 R中┓ ┣
 P中┻┓┃
 M中┓┣┛
D中┳┻┛
T中┛

春の大会でBEST4に入った、S中・R中・K中・M中は1回戦不戦勝である。ほかは抽選により、上記のような組み合わせが決まっている。しかし1回戦から戦うのと、1回戦は不戦勝だが2回戦でいきなりR中・S中とぶつかるのと、どちらがマシかというのは、かなり微妙である。
 
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さて、S中は2回戦でC中と当たったが、先鋒・次鋒・中堅の3人だけで決着が付いて、玖美子も千里も出る幕が無かった。準決勝のK中戦では、次鋒戦は敗れたものの、先鋒戦・中堅戦・副将戦を勝ち、千里は座り大将であった。
 
ということで、あっという間にR中との決勝戦になる。
 
S中とR中での決勝戦は、昨年の春夏・新人戦、今年の春に続いて5回連続である。千里と玖美子がいる間はこれが続くかもねと千里は思った。
 
さて今回の両者のオーダーはこのようになっていた。
 
R中:風間・麻宮・田・前田・木里
S中:武智・月野・羽内・沢田・村山
 
このオーダーが決まるに至った経緯なのだが、S中は春の大会で微妙なオーダーを組み、作戦勝ちという感じでR中に勝った。でも今回は
「小細工無しで真っ向勝負しようよ」
ということになったのである。
「まあお互いに相手のオーダーの読み合いやってたらキリが無いよね」
「読み合いしてる内にぐるぐる回って最初のオーダーに戻ったりして」
 
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一方のR中ではこのような経緯であった。
 
「どうして原田さんを団体戦に使わなかったんだろうね」
「あの人、うちの前田と充分対抗できる実力なのに」
「沢田さんといいライバルみたいですよ」
 
「でも多分今回も原田さんは使いませんよ」
ということで、R中はS中のオーダーをまずはこのように予想したのである。
 
武智・月野・羽内・沢田・村山
 
(実際にS中が提出したオーダーである!大当たり)
 
するとこれに勝つには、相性の問題でこういうオーダーが良い。
 
麻宮・田・大島・前田・木里
 
田は月野(清乃)には強いが羽内(如月)には弱い。
大島は羽内には強いが、月野には弱い。
 
しかし!R中は考えた。きっとS中はこのようなオーダーを読んで、こういうオーダーに変えるのではないかと。
 
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武智・羽内・月野・沢田・村山
 
つまり月野と羽内を交換する。そこでR中は“別の選択肢”を取ることにしたのである。
 
風間・麻宮・田・前田・木里
 
テクニック勝負の大島を外して、代わりに正統派の3年生・風間を入れるのである。こうすると、田・大島で2敗になるのだけは避けられると読んだ。
 
しかし散々悩んで決めたオーダーで出てみたらS中は単純実力順で来ていたので「しまったぁ」と思ったのであった。
 

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試合が始まる。
 
↓オーダー再掲
R中:風間・麻宮・田・前田・木里
S中:武智・月野・羽内・沢田・村山
 
先鋒戦、風間と武智はかなりいい勝負だった。しかし2分ほど経った所で風間が1本取り、更に終了間際更に1本取って、風間の2本勝ちとなった。次鋒戦、麻宮と月野(清乃)は麻宮が鮮やかに2本取って勝った。R中の2勝でS中は後が無くなる。しかし羽内(如月)が田に2本勝ちして1矢報いる。そして勝負の行方は副将戦・大将戦にもちこされた。
 
前田さんと玖美子の副将戦が始まる。お互い最高のライバルと認め合う2人だけに激しい攻防となる。本割で1本ずつ取り、延長戦に入る。しかし2分間の延長戦でも決着は付かず判定となるが、判定は引き分けであった。
 
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ここまでの勝負
 
  白S中 赤R中
先鋒 ×0−2○
次鋒 ×0−2○
中堅 ○2−0×
副将 △1−1△
大将
 
ここまでS中は1勝2敗1分である。ただ、取った本数が、S中3本に対してR中5本なので、次の大将戦は千里が木里さんに2−0で勝たない限り、R中の優勝となる(千里が2−0で勝ったら代表戦による決定)。このことにR中の安藤監督と麻宮部長、S中の玖美子と如月は気付いていたが、どちらも何も言わずに各々の大将を送り出す。
 

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それで優勝をかけて千里と木里さんの勝負が始まる。
 
どちらも気配の無い所から瞬間的に攻撃を繰り出す。見ているほうは一瞬たりとも目が離せないハイレベルの戦いである。1分ほどしたところで千里の面が決まる。しかし2分ほどしたところで木里さんの小手が決まった。玖美子と如月は「あぁ」と思ったが顔には出さない。試合は続く。そして終了苦際、千里の小手が決まり、勝負は千里の勝ちとなった。
 
千里は自分は勝ったから2勝2敗1分で、代表戦かなと思った。
 
ても玖美子は首を振っていた。
 
審判からR中の勝利が告げられる。千里は「え〜〜!?」と思ったが玖美子から「退場してから説明してあげるから」と言われた。一方木里さんも「なんで〜!?」と思わず言って、前田さんから「退場してから説明してあげるから」と言われていた。
 
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「じゃ私が2−0で勝たないといけなかったんだ?」
と千里はスコアを見せられて言う。
「でも私が前田さんに勝てなかったのが全てだよ」
と玖美子は言うが
「その前に私が負けたし」
と武智さんと清乃が言った。
 
そういう訳で、この夏の大会ではR中が優勝し、北海道大会に2年連続の出場を決めたのであった。
 
一方S中男子は先鋒を務めた1年生の吉原君が物凄く頑張り、4位に入る健闘を見せた。男子も昨年春4位、夏3位、今年の春3位、夏4位と、ほどほどのポジションに食い込んでいる。
 

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お弁当を食べて休憩する。休憩場所はS中の男子と女子は隣り合っているが、男子は11:40頃までなのに対して女子は11:20にはあがってしまうので先に御飯を食べていた。そこに3位決定戦に敗れた男子が戻ってくる。
 
「お疲れ〜」
「惜しかったね」
と女子たちも声を掛ける。
 
「まあ団体は1位にならないと道大会行けないしなあ」
「女子こそ本当に惜しかったね」
「また来年に向けて今の1年生を鍛えるよ」
「きゃー」
 
そんなことを言いながら、数人はお弁当を食べる前にトイレに行くようだった。ところがその数分後。
 
「工藤君、どうしたの?」
と武智部長が声をあげる。
 
「この馬鹿、トイレの前で滑ってしまって」
と一緒にトイレに行っていた佐藤君が言う。
 
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「雨が降ってるのもあって、タイルの床が凄く濡れてて」
と工藤君は言っている。
 
「工藤君、替えの道着・袴と着替えてきなさい」
と岩永先生が言うのだが
「すみません。替えとか持って来てないです」
と工藤君。
 
「え〜〜〜!?」
 
「そうか。春の大会の時も、1枚しか無い道着・袴を洗濯されちゃったからお姉さんのを借りて来たんだった」
「春から進化してないな」
 
千里は言った。
「工藤君、私の替えの道着・袴でよければ貸そうか」
「村山さんは?」
「私は今日は雨で何かあったらいけないと思って念のため3セット持ってきていた。しかも午前中は私、準決勝まで座り大将だったから、ほとんど汗を掻いてなくて、だから午前中の試合の後も着替えてないんだよ。だから替えがまだ2セットあるんだ」
 
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「・・・借りようかな」
「それがいい。どっちみちそんな汚れた道着・袴では試合に出るの拒否される」
と岩永先生も言った。
 
それで工藤君は千里の替えの道着・袴を借りると、更衣室(もちろん男子更衣室)に行き、着換えて来た。
 
但し、白の道着を着けたあと、更衣室を出ようとした所で入ってきた他校の生徒に「君、何やってんだ?ここは男子の更衣室だぞ」と叱られ、思わず「済みません」と謝ったらしい!!
 

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そういう騒動があった上で、午後の個人戦が始まる。
 
今回、女子の個人戦は96人の参加である(男子は162人)。札幌などは学校が多いので、個人戦は1校あたり何人までという制限があるらしいが、留萌支庁ではそもそも学校の数が少ないので、この時期は特に制限はなく、S中は全員参加だった。
 
女子個人戦スケジュール予定
12:20 1r (ABCD)
12:52 2r (EF)
13:56 3r (EF)
14:28 4t (EF)
14:44 休憩
14:49 QF (EF)
15:01 休憩
15:11 SF (EF)
15:17 休憩
15:27 3rd (E)
15:33 Final (E)
15:50 女子表彰式・閉会式
 
女子個人戦は、男子の団体戦が終わった後、それに続いて女子の個人戦1回戦32試合が行われ、2回戦以降は隣の社会体育館に移って行われる。千里や玖美子は2回戦からである。今回沙苗や如月も2回戦からであった。
 
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セナは今回も1回戦で負けた。真由奈も1回戦負けである。好花は1回戦は勝ったが2回戦で負けた。宮沢さんは2回戦負け、武智部長と聖乃・真南は3回戦負け(Best32)であった。真南は春の大会では2回戦負けだったから1つグレードアップした。ベスト16には下記が進出した。
 
村山(S中初段2年)
沢田(S中1級2年)
原田(S中初段2年)
羽内(S中1級1年)
前田(R中1級2年)
木里(R中初段2年)
麻宮(R中1級3年)
田(R中1級1年)
吉田(M中1級2年)
木下(M中2級2年)
井上(C中1級2年)
広島(K中1級2年)
富永(K中2級1年)
桜井(F中2級2年)
佐藤(H中2級1年)
松本(D中2級2年)
 
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3年生でここに残ったのはR中の麻宮さんだけである!
 
組み合わせはこのようになっている。
 
村山┓
木下┻┓
田_┓┣┓
佐藤┻┛┃
羽内┓ ┣┓
井上┻┓┃┃
前田┓┣┛┃
富永┻┛ ┃
沢田┓  ┣
広島┻┓ ┃
麻宮┓┣┓┃
桜井┻┛┃┃
原田┓ ┣┛
吉田┻┓┃
木里┓┣┛
松本┻┛
 
4回戦、千里は木下さんに鮮やかに二本勝ちする。前回沙苗といい勝負をした人である。前回沙苗に3回戦で負けた佐藤さんは今回ベスト16に残っていたが、田さんと接戦の末勝利。ベスト8に進出する快挙である。如月は実力者井上さんに辛勝し、春に続いてベスト8に残った。前田さんは鮮やかに富永さんに勝った。
 
玖美子は広島さんに、木里さんは松本さんに鮮やかに勝つ。麻宮さんと桜井さんは本割で決着が付かず、判定で桜井さんの勝ちとなった。沙苗は吉田さんと際どい勝負だったが、終了間際吉田さんが1本取り勝った。
 
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そういうわけでベスト8に残ったのは下記である。
 
村山(S2)佐藤(H1)羽内(S1)前田(R2)沢田(S2)桜井(F2)吉田(M2)木里(R2)
 
3年生が全員消えた。1年生は春の大会では如月だけだったが、今回は佐藤さんも残った。夏はベスト8まで来るかもという千里の予想が当たった。S中3人R中2人が残っている。春はS中とR中でベスト8の内7人を独占したが組み合わせの運もあると思う。
 

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5分間の休憩を置いて行われた準々決勝では、千里は佐藤さんを圧倒して勝ち、木里さんは吉田さんを圧倒して勝つ。前田さんは如月に1本勝ちだったが、玖美子は桜井さんに1本ずつ取ってから終了間際に玖美子が1本取って勝ちベスト4進出を決めた。ベスト4に残ったのは結局シードされていた4人(=春のベスト4)である。
 
この4人が北海道大会に進出する。
 
村山(S2)前田(R2)沢田(S2)木里(R2)
 
ベスト4推移
2003春 1.田沼 2.曽根 3.村山・木里
2003夏 1.田沼 2.村山 3.木里 4.沢田
2003新 1.村山 2.木里 3.沢田 4.麻宮
2004春 1.村山 2.木里 3.沢田・前田
2004夏 村山・木里・沢田・前田
 

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10分間の休憩を置いて準決勝が始まる。
 
がこれはどちらもあっさり勝負が付く。千里は前田さんに勝ち、木里さんは玖美子に勝つ。ここは実力差があるので、どうにもならない。
 
どちらも短時間で勝負が付いたので休憩は5分間とすることにした。
 
3位決定戦は玖美子と前田さんの激しい闘いになったが、どちらも譲らず延長戦になる。そして延長戦の2分も終了間際、玖美子の際どい小手が決まって、玖美子が3位を獲得した。
 
続いて決勝戦が行われる。
 

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両者礼をして開始線の所まで歩み寄る。竹刀を構えたまま蹲踞の姿勢から立ち上がり、中段の構えになる。審判の「始め」の声で、両者いきなり打ち込みに行くが、決まらない。両者軽快なフットワークで細かく動きながら打ち込む間合いを探る。この両者が軽快なフットワークで動き回り、瞬間的に打ち込んでいくのが見られるのが、この留萌支庁の女子の試合では、千里と木里さんの試合のみで、ふたりのレベルが物凄く高いことを示している。どちらも常に動き回っているから、攻撃のタイミングが読みにくいのである。
 
目の離せない攻防が続く。
 
1分半ほどの所で、木里さんの小手が決まる。しかし終了間際に千里も小手を取って、試合は延長戦にもつれ込む。
 
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延長戦に入っても、緊迫した攻防が続く。どちらも瞬間的に打ち込みに行くが、なかなか決まらない。このまま判定かと思われた延長戦終了間際、木里さんの面打ちが来る。が、それをかわして返し胴をねらう。が、それをかわして向こうは小手を狙ってくる。が、それを交わして千里は面を打つ。物凄い高速の打ち合いで、竹刀の動きを目で捉えるのが困難なほどの高速攻防のやりとりである。
 
ひたすら激しい攻防が続く中でブザー。
 
両者分かれて開始線に戻る。両者中段の構えのまま判定を聞く。
 
主審の「判定」の声に3人の審判が旗を揚げる。
 
赤1白2!
 
旗が割れた!!
 
が2−1で白の木里さんの勝ちである。主審は赤(千里)を挙げたのだが、副審はふたりとも白(木里さん)を挙げた。物凄く微妙な勝負だったようである。
 
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(剣道では1本の判定でも勝敗の判定でも、主審・副審の判定に重みは無く、等しく1票である)
 
両者礼をして下がった。
 
それでこの夏の個人戦では優勝は木里さんとなった。
 
1.木里 2.村山 3.沢田 4.前田
 

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