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■女子中学生・ひと夏の体験(16)

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例祭(7/17-18)、呑涛まつり(7/24-25) とイベントが続いて忙しかったので、Q神社では交替で巫女さんたちに休みを取ってもらうことにした。笛担当巫女も、7/26-28日に京子と映子、29-31日に千里と循子が休むことにした。主力笛係の京子と千里が分散して休むのがミソである。
 
7月23日(金)に千里(BのふりをしたV)がC町の村山家でカレーを作っていたら玲羅が来て言った。
 
「ねぇ、お姉ちゃん、ハリー・ポッターの映画が来てるのよ」
「へー」
「『ハリー・ポッターとアズバガンの囚人』(*12)というの」
「なんか難しい名前だね」
 
(*12) 『ハリー・ポッターと“アズカバン”の囚人』(Harry Potter and the Prisoner of Azkaban) は日本では6月26日に公開されているが、玲羅は昨日気付いた。
 
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「私見たい。連れてってくんない?」
「私忙しいからお母ちゃんに頼んでよ」
 
マジで今千里Vは忙しいのである。
 
「だって、お母ちゃん、お金持ってないもん」
「じゃお金は私が出すから、土日にでもお母ちゃんと2人で見に行ってきて」
「そうしようかな」
 
ところが帰港した父を迎えて帰宅した母は不安そうな顔である。
 
「千里、あんたも来てよ。お休みの日とか無いの?」
「うーん。一応来週、29日から31日はお休みが取れるけど」
「じゃ31日・土曜日に行こうよ」
「まあいいか」
 
正直これだけ忙しくしている中で旭川往復とかしたくないのだが、仕方ない。
 
ちなみに行かないとは思ったが、武矢にも念のため行くかどうか訊いたが、「俺は寝てる」と言った。実際父が来ると、千里は服装のこと、トイレのことなどを含めて、あれこれ面倒である。万一武矢が行くと言ったら、千里はドタキャンしてでも行かないつもりだった。
 
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しかし千里が行ったことで、玲羅は命を救われることになる。
 

千里Vは(Bの振りをして)7月26日の午前中もQ神社でご奉仕した。そして12時を過ぎると、あとのことは循子さんにお願いして巫女服から夏服セーラー服に着替え、神社を出る。そして12:20頃、転送移動でW町の自宅に戻った(消滅したように見える)
 
12:30. 夏服セーラー服を着た千里Bが唐突にF町に出現した。そして民宿の前まで来る。出現するかもと思いスタンバイしていたカノ子が、千里Bに着替えなどの入った、青いスポーツバックを渡した。
 
「さんきゅ、さんきゅ」
と言って、千里Bはそれを受け取った。
 
「まだ少し早かったかな」
などと呟いていたら、民宿の女将さんが
「中で待っているといいよ」
と声を掛けてくれたので、一足先に泊まり込む予定の部屋に入った。
 
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みんなが来てからセーラー服は着ればいいやと思い、千里は普段着に着替えた。それで待っているが、みんななかなか来ない。やはり早すぎたかな〜などと思う。
 
そしてトイレに行こうと思って部屋を出たら、途中で黒いサングラスを掛けた40歳くらいの男性と遭遇する。トイレの場所を訊かれたが、彼が目が不自由っぽかったので
 
「トイレの前まで連れて行ってあげますよ」
と言って、男性の手を引いて、トイレの前まで行く。そして
 
「男性トイレはそちらです」
 
と言って手を離した。
 
男性が
「ありがとうございました」
と礼を言い、千里は振り向いて女子トイレに入ろうとした。
 

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その時、千里は後ろから抱きしめられた。
 
「何するんですか!?」
「ね、ね、君、女子高生くらい? ちょっと楽しまない? この時間帯は人が少ないから、邪魔されないよ」
 
そのまま近くの多目的トイレの中に連れ込まれ、押し倒される。スカートをめくられ、パンティーを引きちぎられた。
 
『くっそー。人間じゃ無かったら即殺すんだけど』
などと千里が考えているとは夢にも思わず男は千里をレイプしようとした。
 
その時、誰かが千里に『玉を思いっきり掴め』と言った気がした。
 
(実際には千里Gが呼びかけた。Gは場合によっては自分がそこに行ってBを消滅させて助けるつもりだった)
 
千里Bは考えた。そうか、その手があったか!玉を潰したくらいじゃ死なないよね?
 
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それで千里は男の睾丸を左手で掴むと思いっきり握りしめた。
 
(千里は右手より左手のほうが握力が強い)
 

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「ぎゃー」
 
という凄い声を男があげた。男がひるんだので千里は男の顔面を思いっきり蹴る。そしてトイレから逃げ出し、廊下に出る。ちょうど女将さんが来て
 
「どうかした?」
と訊く。
 
「襲われました」
 
女将さんが千里をハグして保護した所に、男が向こうからふらふらと、下半身丸出しで出てくる。
 
「あんた何やってんの?」
と女将は厳しい声を掛けた。
 
すぐに旅館の主人も来た。
 

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旅館の主人はすぐ警察を呼ぼうとしたが、男が土下座して謝る。
 
女将さんは千里を別室に招き入れた。
 
「あのさ。強姦未遂って親告罪なんだよ(*14)。だからあいつを捕まえるためには、あんたの告訴が必要なんだけど、どうする?」
 
千里はやばいなと思った。それをしようとすると、自分の性別が確認される。自分は戸籍上は男だから、強姦罪は成立しない(*13)(*14)。強制猥褻罪にはなるけど、それも親告罪だ。
 
(*13)千里Bは自分が戸籍上は男であると思い込んでいる。
 
(*14)強姦罪の男女不平等が問題になり、2017年6月16日に、被害者を女性には限定しない「強制性交等罪」(膣・肛門・口への陰茎の強制挿入)に置換され、あわせて非親告罪に変更された(7月13日施行)。また、昔は強姦罪の告訴は事件が起きてから6ヶ月以内であったが、これは2000年の刑訴法改定で期限が廃止されている。
 
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物語の時点ではまだ強姦罪の時代だが、告訴期限は廃止されているので、千里はこの犯人を公訴時効が切れる15年後までは、いつでも告訴することが可能である。女将が証言するのは確実なので、間違い無く有罪にできる。
 

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結局千里が「本当に反省しているなら許してやってもいい」と言うので、女将は「この子が告訴は“留保する”と言っている」と男に告げ、男の運転免許証のコピーを取り、念書も書かせた上で、同行者を呼び戻し、すぐに留萌から出て行き、2度と北海道に来るなと通告した。
 
戻って来た同行者も驚いて一緒に土下座して謝った。民宿の主人は男のスタッフ2人に、加害者と同行者を車で留萌駅まで送らせ、確実に汽車に乗るのを見届けてから帰ってこさせた。
 

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千里はスタッフ用のお風呂でシャワーを浴びさせてもらった。服も女将さんが洗濯してくれることになった。そして女将は
 
「恐い思いさせたお詫び」
と言って5000円もくれた。更に今回の合宿中、いろいろサービスしてくれた。
 
千里が後から来た、蓮菜や恵香たちに
「これおやつ代」
と言って5000円札を出すので
「なんで?」
と訊かれる。
 
それで千里がさっきの事件を話すと、みんな
「それ許してはいけなかった。警察に突き出すべきだった」
「そいつ、こんなことしたの初めてなんて絶対嘘だよ。常習犯だよ」
「そんな奴、野放しにしたら、また被害者が出る」
と言われた。
 
「でもよくそれ無事に逃げきったと思うよ。私ならきっとやられちゃってる」
と恵香が言い、蓮菜も頷いて
「千里とかるみちゃんでないと逃げ切れなかったろうね」
と言った。
 
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「つまり千里が早く来たことで深刻な被害の発生を防いだんだな」
「うーん・・・」
 
留実子は
「でも、ぼくが襲われたら、その男の金玉握りつぶしてやったのに」
と言うと、
「るみちゃんはスティール缶を握りつぶすからなあ。金玉くらい潰せるかもね」
という意見。
 
「いや、千里の握力も相当なものだと思う。その男、金玉潰れてたりしてね」
「潰れてたら、有害な男か1人地上から消えたことになるから良いことだ」
などと意見が出た。
 
千里もあの時は潰すつもりで握ったけど、本当に潰れたかどうかは分からないなあ、と思っていた。
 

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15時まで集中して勉強し、お着替えして!普段着でおやつを食べながら息抜きする。そしてまた制服に着替えて!17時半くらいまで勉強する。
 
「お着替えめんどくさい」
「でもオンとオフがはっきりするでしょ?」
「それはするねー」
 
「今日の千里は数学も理科も冴えてる」
「うん。私、理屈で考えればいいの得意。社会みたいに記憶しないといけないの苦手」
などと“青い腕時計を着けた”千里は言っていた。
 
夕方、勉強を中断し、普段着に着替えてからお風呂に行くが、狭いお風呂場を占領してしまわないように、2人ずつ行った。千里が女であることは、今回の参会者全員の認識なので、千里も普通に他の子一緒に入浴する。実際には、恵香と一緒に入ってきた。留実子は蓮菜と一緒に入った:留実子が女であることを保証してちゃんと弁明できる人物が一緒に入ったほうがいいからである。千里や恵香は火に油をそそぐようなことを言いかねない!
 
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夕食の後、また19時頃から制服に着替えて勉強を再開する。充分休んでいたので、わりと集中して勉強は進む。そして22時頃
「今日はここまで」
と言ってパジャマや体操服に着替えて寝た。
 
そして千里Bは寝ている最中に消えてしまった!!
 
「なんで消えちゃうの〜〜!?」
とカノ子が困惑していた。
 

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翌日、朝6時に起きてから、制服に着替え、早朝にやった方が頭に入る英語をやる。今回の参加者はP神社で外人の子たちとよく話しているので、みんな英語だけは得意である。みんな読み書き、会話はできるので、文法問題を中心にやった。
 
普段着に着替えてから朝御飯を食べる。それからまた制服に着替えて、午前中は数学をやる。
 
が、千里が苦しんでいる。
 
「どうしたの?千里。こんな簡単な問題が分からないなんて」
「私、数学とか理科とか、考えないといけない科目苦手〜。社会みたいに覚えれば何とかなるのは、どうにでもするんだけど」
と千里は言っている。
 
「昨日言っていたのと全く逆のこと言ってる」
とみんなから指摘されるも、“赤い腕時計を着けた”千里が、数式の展開が全然出来ずに悩んでいるのを、蓮菜はおかしそうに見ていた。
 
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2004年7月25日(日・友引・ひらく).
 
その日は日曜日なのに珍しく志水英世の仕事がお休みであった。実は新人女子高生歌手の音源制作をしていて今日までの予定だったたのだが、この新人さんが思ったより歌が上手く、昨日までに音源が完成してしまった。それで今日はギャラがもらえるのにお休み(“お笑い”と称する)なのである。
 
それで照絵・龍虎の3人で町に出て、ショッピングモールを歩いていた。
「龍ちゃんも来月には3歳か」
と英世が言う。
 
「なんか早いもんだよね〜」
「きっとあっという間に小学生になって、あっという間に中学生になって、高校生になって、あっという間にお嫁に行ってしまうかもしれん」
「・・・この子、やはりお嫁さんに行くと思う?」
「この子はもう娘ということでいい気がする」
「そんな気がするよね〜」
などと言っていたら、龍虎は少し不快そうだった。
 
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こういう話をした時に、龍虎は喜ぶ時と嫌な顔をする時があるのが面白ーいと照絵は思っていた。まるで男の子の龍虎と女の子の龍虎が居て、交替で私たちの前に出て来てるみたい、と思う。
 

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適当に歩いていたら、楽器店があった。表に88鍵の電子キーボードがある。龍虎は興味深そうにそこに寄っていき、小さな指で勝手に弾き始める。
 
聴いていると保坂早穂 with ワンティスの『空っぽのバレンタイン』である。龍虎が自宅で勝手にキーボードを弾いているのはいつものことなので、英世も照絵も特に何も考えずに「ああ、楽しそうに弾いてる」と思っていた。
 
お店の人が出てくる。
「お嬢さん、ピアノを習っておられます?」
 
龍虎が“お嬢さん”と言われるのは今更なので気にしない。
 
「いいえ。うちは夫婦とも音楽家で、家に楽器が転がってるんで、よく勝手に弾いているんですよ」
「ああ、音楽家さんですか!この曲は、お母さんが教えられたんですか?」
「いえ。勝手に耳コピーして色々な曲を弾いているみたいですね」
 
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するとお店の人はびっくりする。
 

「そんなことができるって、お嬢さんモーツァルト並みの凄い天才ですよ。それにさっきは16分音符も弾きこなしてたし。何歳ですか?」
 
さすがにモーツァルトは褒めすぎだろう。
 
「・・・・来月3歳なんですが」
 
「だったら幼児教室に通われません?これほどの天才なら、しっかりした教育をなさったほうがいいですよ」
 
照絵と英世は顔を見合わせた。
 
「そうだ。うちの松戸駅前教室でキャンペーンやってるんですよ。無料で3回までレッスンが受けられますから、ぜひ参加されませんか?」
 
照絵と英世は頷き合った。
 
「まあ取り敢えず無料レッスンに出るのはいいかな」
 
それでここから龍虎の音楽キャリアが始まるのである。
 
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なお龍虎の会員証は、ちゃんと漢字を説明したのに「志水龍子」になっていた!
 
 
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