広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■女子中学生・ひと夏の体験(23)

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「ただし実際に呼びだされる精霊は、その役割に任じられているだけだから、結構本来の十二天将の性質とは違うけどね」
「それはひとりずつ会ってみよう」
と千里は楽しそうに言った。
 
「この中で勾陳だけは絶対気を許してはだめだよ。レイプされかねないから」
「襲われたら、ちんちん切り取っちゃうよ」
「あんたならできるかもね」
と、きーちゃんは言っていた。
 
翌朝会った恵雨さんが
「あら昨夜付けてたお供は?」
と訊いた。
 
千里Yはアイコンをシールドしてしまったので、もう見えないのである。
 
「何か付いてました?」
と千里がしらばっくれたので、恵雨さんも一時的に憑いてたものだろうかと思ったようであった。
 
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さて、この7月31日(土)、旭川に出掛けたほうの千里も大変だったのである。
 
7月28-30日の晩に村山家で寝たのは千里Rである。千里Rは「この日旭川に行く」という約束のことは知らない。31日の朝5時に起きて御飯を炊き、みんな寝ているので自分だけカレーを温めて食べてから、
 
「P神社行ってくるね」
と寝ている玲羅に言うと、出掛けた(玲羅は聞いてない)。神社の裏手で素振りなどをするつもりである(それで夕方勾陳を召喚することになる)。
 
村山家を映すカメラで、Rが出掛けてしまったのを見て千里Vは、やはり自分が旭川に行ってこないといけないようだと判断して村山家に転送移動する(Bが出現したように見える)。
 
※実際問題として“精霊セット”を受け取るのは“エイリアス”にはできないことだったので、Vが旭川に行くことになったのは多分A大神の密かな策略。
 
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9時頃起きてきた母、11時頃起きてきた玲羅に朝?御飯を食べさせ、お昼頃、母の運転するヴィヴィオで旭川に向けて出発する。
 
(父は10時頃起きてカレーを食べたがまた寝てしまった。たぶん夕方まで寝てる)
 

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それで千里は玲羅と一緒に『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』を見た。母はその間に買物などをしていた。映画を見終わった後、千里が店内の公衆電話から母の携帯に掛けてみると、母はもう少し買物をしていたいようである。それで18時に待ち合わせることにした。
 
(千里Vは主としてGとの連絡用にすみれ色のピッチを持ち歩いているが、Bを装っている間は使用しない。Bは携帯を持っていない)
 
それで千里と玲羅は本屋さんに行った。玲羅が漫画を欲しがっていたので1000円札を渡して「これで買える範囲で」と言ったら自分のお小遣いも入れて3冊買っていた。
 
「ちょっとトイレ行ってくるねー」
と言って玲羅が出て行く。千里はお店の中でぶらぶらしていたのだが、千里Gから緊急連絡の脳間通信がある。
 
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「玲羅が危ない。助けに行って」
「どこ?」
「ガイドする」
 
それでGの言う通り走っていくと、女子トイレである。千里Vはドアを開けたが、そこには異様な光景があった。
 

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玲羅が個室ドアの前で何かにおびえるようにして、トイレの中の1ヶ所を見詰めている。入口の近くに、小学2−3年生くらいの男の娘が立っていて、何かを睨み付けている。玲羅が見詰めているポイントとその男の娘が睨み付けているポイントは同じ場所だ。
 
千里Yや千里Vはこの手のものに対する“視力”が弱い。4月に増毛に行った時も千里Yの目には家守さんが見えなかった。梨花さんにも見えたのに。それでVには何も見えないのだが、そこに何か居ると確信した。
 
左側に掃除用のモップが立てかけてある。それをさっと手に持つと、その何か居ると思われたポイントめがけて、剣道の竹刀を扱う感じで思いっきり振り下ろした。
 
(“この千里”は剣道からは1年4ヶ月離れてはいたもののRがたくさん練習しているので、その影響で結構な実力がある。そのパワーで打たれたら、弱い精霊なら即死する)
 
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何か動物のようなものに当たった感触があった。
 
『ギャッ』
という悲鳴のようなものを聞いた気がした。何かが脇の窓から飛び出して行った気配がした。くそー。仕留められなかったかと思った。つまり結構強い奴だったことになる。下手すれば玲羅が殺されていたかも知れないと千里Vは思った。
 
「お姉ちゃん」
と玲羅がやっと声を出した。かなり恐かったようだ。
 

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「大丈夫?」
「うん」
 
その返事を聞いて千里はホッとした。
 
その時、千里は入口の所に立っていた男の娘のことを思い出した。
 
「あ、君も大丈夫だった?」
 
「はい、ありがとうございます。あの、今の見えたんですか?」
「見えてないけど、何か居るなとは思った。だから、その居そうな所めがけて打ってみた」
「凄い勘ですね」
「君、イントネーションがこの辺の子じゃないね?」
「あ、はい。岩手から来ました」
「そう。気をつけてね」
「はい」
 
千里はVは「可愛い男の娘だったなあ」と思った。でも女装の技術が少し低いかな。指導してくれる人が居ないのだろう(*19)。きっとGちゃんが見たら「性転換して本当の女の子にしてあげたい」と言い出しそうと思った。
 
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これが千里と青葉の初対面だったのだが、ふたりはその後、どちらもこの時の対面のことを忘れてしまった。
 
(*19) 実際青葉は今回の記念式典で多数の人から
「君どうして男の子なのにスカート穿いてるの?」
「最近は男の子でもスカート穿くんだね」
などと言われまくっている。
 
女装男子嫌いの女の子から、女子トイレに居る所を通報されたりもしている。
 
それにそもそも青葉は小さい頃からファッション・センスが酷すぎる。(母からネグレクトされ、青葉も姉も適当な服を着て育ったせいもあると思う)
 

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千里はさっきの奴が仕返しに来た場合も考え、玲羅にはずっと付いていた方がいいと思った。それで、まだ約束時間には早かったが、一緒に待ち合わせ場所に向かった。途中ミスドを買ってあげた。
 
その時のことである。
 
「すみません」
と呼び掛ける声があった。
 
「はい?なんですか?」
と千里は振り向いて答える。フライトアテンダントか何かのような服を着た女性が立っていた。
 
「これ差し上げます」
と言って何かを差し出すので、千里は反射的に受け取る。
 
「お姉ちゃん、どうかしたの?」
と玲羅が言った。
 
「え?今ティッシュか何かをもらったから」
と言ったが、手の中には何も無かった。そして目の前にはフライトアテンダントのような人も居なかった。
 
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千里と玲羅は結局18時半に母と落ち合った。それまでの間に玲羅はミスドのドーナツを3個(オールドファッション、ストロベリーリング、ココナッツチョコレート:合計791Kcal)食べていたが
 
「お腹空いたー」(!?)
と言い、3人でおそば屋さんに入って食事をした(玲羅は天丼の大盛りを食べていた。よく入るものだ)。
 
そしてオートバックスで傷んでいた車のバッテリー、更にエアコンのフィルターを交換してもらった上で、20時頃に旭川を出て22時頃に留萌の村山家に到着した。
 
到着する少し前、家まで30mほどまで来たところで、千里VはW町の自宅に転送帰宅した(カノ子の目には30mルールでBが消滅したように見える)。
 
玲羅は、お姉ちゃん消えたな、と思ったが、珍しいことではないので気にしなかった!
 
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「あれ?千里は?」
と母がエンジンを止めてから言うが
「先に降りたよ」
と玲羅は答えた。
 
実際、家に帰ると千里は居て、もうパジャマを着ているので、随分素早く着替えたなと母は思った。
 
「おかあちゃん、玲羅お帰りー。これ友だちのお父さんが仕留めたヒグマの肉。火は通ってるけど、冷めちゃったからチンして食べるといいよ」
と言って、母と玲羅に取っておいた熊肉を出す。
 
玲羅は
「わー!ヒグマ食べる食べる」
と言って、レンジでチンし、エバラ黄金の味を付けて美味しそうに食べていた。
 
母は「お腹壊しそうだからパス」と言ったので(母は牛肉でもお腹を壊す)、母の分は結局、翌日の朝、父と玲羅が半分ずつ食べることになる。
 
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「へー。旭川に行って来たんだ?お疲れー」
と千里が言う。
 
「お疲れってあんたも一緒に往復したじゃん」
「うっそー!?」
 
玲羅がおかしそうにしていた。
 

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この日、美鳳はH大神から“十二天将を呼び出すアイコン・セット”を渡され、旭川のショッピングセンターで「渡して」と言われ、旭川までやってきた。H大神に
「誰に渡すんですか?」
と訊いたら
「行けば分かる」
と言われた。
 
「行けば分かる」ということは、そこに霊的な能力の高い人が居て、見れば分かるということかなと思った。またH大神のここ数ヶ月の言葉から、渡す相手はたぶん若い女性のようだという気はしていた。
 
ところが現地に来てみると
「何これ〜〜〜?霊能者の集会でもあったの?」
と思った。
 
結構なパワーの霊能者が10人くらい、ショッピングセンターの中を歩き回っていたのである。
 
実はここに来ている霊能者の多くは、旭川近郊の**町で、行われた**教神殿落成20周年記念行事に招待され、全国から集まってきた人たちの一部がなだれ込んできたものである。それで関西や九州からまで実力者が多く集っていた。まさに霊能者の集会があったのである。(千里だけ別口)
 
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美鳳は考えた。H大神は天野貴子さんに命じて、旭川周辺に十二天将の家を用意させた。ということは、渡す相手は北海道の人だ。それも旭川の近くに住む人だろう。それでまずは道外に住んでいる人は除外していく。また男性は取り敢えず除外することにした。
 
美鳳が3ヶ月ほど前に鶴岡で出会った川上青葉までいる。美鳳は
「この子に十二天将を渡したい!」
と思った。青葉は、若死にしなければ、絶対物凄い大霊能者になる。
 
(強い霊的能力を持つ人には若死にする人がひじょうに多い。佐藤小登愛もある意味、その例である)
 
この子は男の娘ではあるけど、女性に分類していいよね?ね?ね?
 

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しかし冷静に考えると、青葉は十二天将を使うようなタイプではないことに気付く。青葉は眷属を使うのではなく、自ら動き回って、霊的なものに対処していくタイプ。駆逐艦型だ。眷属を使うのはむしろ空母型。自身はそれ程大きな霊的な能力がある訳ではなく、多数の眷属の止まり木になるタイプだ。
 
そういう人間は物凄く見付けにくい!!
 
だってそういう人間は、ごく普通の人に見えるから。青葉みたいに物凄いオーラを漂わせていたりはしないだろう。攻撃に弱い分、ステルス性能が高いはずだ。まさに空母である。
 
H大神様の意地悪〜。せめて相手の特徴とかでも教えてよ。例えば髪が長いとか手が8本あるとか(四面八臂?無茶なこと言ってる)、顔が馬だとか(ウマ娘か?)。
 
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などと思っていたら、髪の長い美少女が凄い勢いで走って行くのを見る。
 
しかも美鳳の目には、その美少女には手が8本あるように一瞬だが見えた。顔は馬じゃないけど!
 
何?この子?と思って付いていくと、女子トイレの中に凄い状況を見る。
 
個室ドアの前に、少し霊感のある小学6年生くらいの少女が立っていて、おびえたようにして、トイレ内に居る大きな虎を見ている。その虎は美鳳お気に入りの青葉と睨み合っている。青葉の霊的なパワーではこの虎にはまだ勝てないと思った。しかし青葉がハッタリで凄い気合で睨んでいるので、虎は攻撃のタイミングが掴めないようだ。
 
恐らく、あの霊感少女が襲われそうになった所に青葉が助けに入ったのだろう。
 
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(GはVを女子トイレに転送しようかとも思ったのだが、そこに青葉が助けに入ったので、Vが走って到達しても間に合うと判断し、転送しなかった。むろん万一の場合は自分がそこに行くつもりで真剣!を取り出して用意していた)
 

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髪の長い少女は女子トイレに飛び込むと、その状況を見た途端、壁際のモップをつかんだ。そして物凄いスピードでそれを虎の上に振り下ろした。
 
そのパワーが少女の力とは思えないほど凄かったので、美鳳は仰天した。
 
この子は・・・・実は凄いのに、大したことないようなふりをしている。
 
つまりステルス型じゃん!
 
しかも美鳳がさっき考えた“髪が長い”“手が8本”というのにも該当する。(美鳳が勝手に考えた条件だが)
 
ただし、さっきは一瞬手が8本あるように見えたが、今は2本しか見えない。
 
物凄いパワーで打たれた虎は「ぎゃっ」という悲鳴をあげて逃げ出した。今のは即死してもおかしくないパワーだと思ったが、虎が丈夫だったのか、あるいは髪の長い少女は、まだ相手を殺すということに慣れておらず手加減したのか。
 
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