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■春花(25)

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(C)Eriko Kawaguchi 2019-12.30/改2020-04-18
 
千里1のお遍路は大詰めにさしかかっていた。10月15日も天気が良かったので朝から宿近くの札所にお参りし、その後高松市からさぬき市の札所を打って回る。
 
宿の近くの83一宮寺(8:00)
13.6km(130分)歩いて84屋島寺(10:45)
5.4km(45分)歩いて85八栗寺(12:10)
6.5km(65分)歩いて86志度寺(13:55)
7.0km(70分)歩いて87長尾寺(15:40)
15.1km(150分)歩いて宿泊(18:45)
 
屋島寺は源平の屋島の戦いが行われた屋島の山上に建つお寺である。源平ゆかりの遺物なども多数残る。
 
「豫州ってキチガイだと思ったよ」
と《こうちゃん》は言った。
 
「あいつらの兵はほんの30-40人だった。こちらは本隊が河野通信と戦いに出て留守にしていたものの、それでも帝(みかど)の守備兵は300人はいた。しかしわずか30-40騎でその300人に挑んできた」
 
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千里は静かに聞いている。
 
「大将の豫州が先頭に立って攻めてきた。教経(のりつね)殿が弓で迎撃して、その先頭に立っている豫州を撃とうとした。でも近くを走っていた部下が豫州をかばうようにして矢に倒れた。後で確認したら腹心の佐藤継信だったようだ。他にも何人か身代わりになって倒れたが、それでも豫州や弁慶は飛んでくる矢を刀で払いながら突撃して、帝のおられる船まであと10mくらいまで来た」
 
「さすがにこれはまずいのではと時忠殿がおっしゃって、檀ノ浦(*8)から脱出することにした。水手(かこ)たちが怖がっていたけど、野蛮人の源氏もさすがにお前たちを撃つことはないと時忠殿がおっしゃって、それで船を漕ぎ始めたけど、確かにやつらも非戦闘員の水手(かこ)は撃たなかったよ」
と《こうちゃん》は懐かしむような顔で語る。
 
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(当時都で貴族化していた平氏から見ると、“未開の地”関東の源氏は何をするか分からない野蛮人というイメージである)
 
「沖合まで脱出した所で遠くに白旗を立てた伊豫水軍の影を見た。時忠殿の決断があと少し遅かったら、全滅していた。姫帝も長門の壇ノ浦ではなく、讃岐の檀ノ浦で龍宮に行かれることになったかも知れん」
 
千里は《こうちゃん》の言葉が気になった。
 
「姫帝(ひめみかど)と言った気がしたけど、安徳天皇ってやはり女の子だったの?」
「あわわ、聞かなかったことにしてくれ」
と《こうちゃん》は慌てて言った。
 
(*8)こうちゃんも語っているように土篇の壇ノ浦は山口県西端、木偏の檀ノ浦は香川県の屋島東岸の地名。紛らわしい名前である。
 
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次の札所・八栗寺に行く途中、その檀ノ浦を通るので、千里は海に向かって般若心経を唱えた。
 
87番長尾寺は静御前が鎌倉で解放された後、この地に来たという伝説がある。なぜわざわざ四国のこんな所まで来たのだろう?と思った時、さっき《こうちゃん》が語ったことを思い出した。
 
「もしかして静御前って屋島の戦いに参加していた?」
「すげー女武者が1人いたよ。こちらの兵があいつ1人に10人くらい斬られた。あるいはそいつかもな」
 
「義経の率いていた30-40人って凄い精鋭だったんだ?」
「だと思うよ。台風の海を渡って四国まで来るような奴らだから。さすがにそのこと自体に俺たちは度肝を抜かれた。まあその女武者が10人分なら弁慶や千光坊は100人分だった」
「凄いね!」
 
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この日は長尾寺から更に“次の札所”の傍まで歩き、近くの旅館に泊まった。
 
10月15日の行程47.6km
 

10月16日(水)も晴れだった。
 
千里は宿の近くにある88番札所・大窪寺にお参りした。納経してここまで87個の御朱印を頂いた掛軸に88番目の御朱印を頂く。これで88ヶ所全ての札所を打ったことになる。それでここで“結願証明書”も頂いた。
 
大窪寺に1時間半ほど滞在した後、38.8kmを歩いて1番札所・霊山寺まで行った。ここで改めて納経し、88個押された御朱印を見せて“四国八十八ヶ所霊場満願之証”を頂いた。これで四国霊場を一周したことになるので、千里はモードを“オフ”にした。
 
これでお遍路ではなくただ1人の普通の女に戻る。
 
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宿の近くの88大窪寺(8:00)
38.8km(6時間)歩いて1.霊山寺(15:30)
 
本日のお遍路としての行程38.8km
9月16日霊山寺を出て以来の行程1156.7km(294.5里)
 

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季里子たちは取り敢えず“友人の家”に転がり込んでから、着換えや最低必要な物資を買いに出ることにした。幸い都内は割とまともに動いている。
 
季里子の母に子供たち2人を見ていてもらい、父・季里子・夏樹の3人で出かける。父のCX-5, 季里子のデミオを出して郊外のホームセンターに行き、布団を2セット買ったが、布団に関しては翌日更にあと2セット買った。元々この友人宅に布団が3セットあったので、初日はプラス2セットあれば何とか寝られたのである(季里子・夏樹・父・母が1つずつ使い、子供2人は1つの布団を共用する)。
 
それから改めてまた出かける。父は食器や雑貨の類いを買いに、季里子と夏樹は着換えの類いを買いに行く。夏樹が男物の服を買おうとしていたので、季里子は唆した。
 
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「男物なんてどうせ使わないじゃん。日常は女物しか着てないんでしょ?」
「そりゃそうだけど会社に行くのに男物も必要だから」
「女物の服で出て行けばいいじゃん。どうせバレてるんでしょ?」
「私の性的な傾向はバレてはいるけど、女物の服で出て行ったら叱られるよぉ」
「そこを強行突破で」
 
しかし季里子がうまく唆したので、結局夏樹は下着類は当然女物ばかりで、通勤服も、女性用ビジネススーツを買ってしまったのである。
 
「首になったらどうしよう?」
などと言っている。
 
「オカマバーに転職するとか」
「実は学生時代面接に行ったことあるんだけど、うちは女性は雇えないからと言って断られた」
「ああ・・・」
 

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夏樹が女性用生理用品まで買っているので
「生理ごっこ?」
と季里子が尋ねると
「うん、見逃して」
と焦ったように夏樹は言った。
 
「別に構わないよ」
と季里子も応じた。
 

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翌10月28日、夏樹は“友人宅”で季里子たちと一緒に朝御飯を食べたあと、女性用スーツを身に付け、お化粧はせずスッピンで、但し眉だけは整えて、会社に出かけた。季里子は勤めているマツダの販売店が大雨の被害でとても営業できない状況なので、最低限の復旧作業が終わるまで自宅待機ということになっている。それで季里子の父と2人で出かけたのだが
 
「古庄さん、女の子になっちゃったの?」
と父から尋ねられた。
「うまく季里子さんから乗せられちゃって。叱られたら男物に着替えるかも」
と夏樹は不安そうに言った。
 
それで会社に出て行くが、会社が入っているビルの玄関の所で同僚の女子社員と偶然遭遇する。
 
「お早う、古庄さん」
と声を掛けられる。ギクッとしながらも
「お早う、川端さん」
と挨拶を返す。
 
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「雨の被害どうだった?」
と訊かれるので
「住んでいたアパートが崩れてた。取り敢えず友だちの所に泊めてもらっているんだよ」
「友だちって、男?女?」
「えっと、女かな」
「ああ、そうだよね」
と川端さんは言った。
 
「川端さんとこはどうだった?」
「うちは高台に家があるから何とか無事だったんだけど、電気もガスも水道も停まったまま」
「千葉は9月の台風15号以来、もう停電が常態化してるね」
「ほんと困ったもんだよね」
 
夏樹の服装のことは何も言われないまま、彼女とおしゃべりしながら会社のあるフロアまで行く。夏樹が男子更衣室に行こうとしたら、川端さんは夏樹の袖をつかんで停めた。
 
「こっちにおいでよ。誰も文句言わないよ」
と言って女子更衣室を指さす。
 
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夏樹は少し考えてから答えた。
「使わせてもらおうかな」
 
それでこの日夏樹は女子更衣室で制服に着替えたのであった。なお靴は通勤にも使用したローファーを使用する。
 
この日、制服自体は男子更衣室に置かれている夏樹のロッカーから取ってきたが、着換えた通勤服は女子更衣室内の段ボール箱に入れた。翌日からはその段ボール箱に入れている制服に着替えるようになった。何人かの同僚女子と一緒になったが誰も文句は言わず、楽しく夏樹とおしゃべりしていた。
 
このようにして夏樹の“新しい生活”は始まった。
 

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10月16日、霊山寺を出た千里は、板東駅まで0.7kmほどを歩き、電車に乗って徳島駅まで行き、市内の温泉宿に泊まった。そして温泉にゆっくり浸かって旅の疲れを癒やした。ちなみにこの温泉の脱衣場でも、千里は数人の入浴者と握手をした。お風呂に入った後は、お遍路衣装の洗濯を《たいちゃん》に頼み、普段着に着替えた。
 

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翌日は昼近くまで寝ていて、その後起きだして徳島駅から電車に乗った。
 
徳島10/17 13:25-14:33高松14:40-15:32岡山15:56-16:35姫路
 
姫路駅からは《こうちゃん》に持って来てもらったハイゼットの助手席に乗って彼の運転で貴司の家に行く。この時間帯は貴司はまだ会社で仕事をしているし、美映はMM化学のバスケチームの練習指導!に出て行っている。
 
そして緩菜は放置されている!
 
この家の鍵は千里1も持っている。この家の建築を千里が播磨工務店の子たちに頼んだのが2016年12月で完成したのは2017年10月である。分裂した後だったのだが、話が混乱したりしないように《きーちゃん》は3人の千里に家の完成を報せ、ちゃんと全員に鍵を配っていた。
 
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それで千里1もここの鍵を持っているのである。
 

千里が1階奥の“貴司の部屋”に入って行くと、緩菜(1歳2ヶ月)は自分で起き上がって“心の声”で千里に語りかけてきた。
 
『お母ちゃん、満願おめでとう』
『ありがとう。なかなか来れなくてごめんね』
と言って千里は緩菜を抱き上げるとしっかりと抱きしめてキスした。
 
『お母ちゃん、汗臭い』
『まあたくさん歩いているから仕方ない』
 
『お母ちゃん、瞬嶽さんから預かった“倉庫”の鍵が開いてるよ』
『え?ほんと?』
『私が閉めてあげるね』
と言って、緩菜は千里の心の奥にある“ドア”を閉め閂(かんぬき)を降ろしてしまった。
 
『これだとお母ちゃんが見つめただけで妖怪とかは粉砕されちゃうよ』
『へー。それも悪くないんじゃない?』
 
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緩菜が『おっぱいもらってもいい?』などというので、千里は胸を出して緩菜に飲ませてあげた。緩菜は嬉しそうだった。緩菜がお腹空いたというのでオムライスを作ってあげたら美味しそうに食べていた。
 
千里は緩菜と3時間くらいおしゃべりしていたが、
『そろそろママ(美映)が戻ってくるから』
と言うので
『またね』
と言って、ずっと持って歩いた鈴をお遍路満願の記念に緩菜にプレゼントしてから退出した。
 

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千里が姫路の細川邸を出た後で、《きーちゃん》《こうちゃん》《くうちゃん》の3人はこそこそと話し合った。
 
『封印掛かったよな?』
『掛かった。もう千里と握手しても性転換したりはしない』
『結局何だった訳?』
『緩菜はさっきの抱擁で性転換した。完全な女の子になった』
 
『ひょっとして緩菜を性転換させるのが目的だったのかも』
『用が済んだから封印された?』
『じゃ今まで性転換された人たちは?』
『巻き添えかもね』
『何て迷惑な!』
 
『でもほぼ全員喜んでいるよ』
『千里2と3が頑張ってフォローに回っていたけど、50人くらい性転換された中で元に戻りたいと言ったのは5人だけ』
 
『死ぬほど悩んでいた人たちが随分救済されたと思う』
『まあ歳末助け合い運動かな』
『それまだちょっと早いのでは?』
 
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『だけど千里1が緩菜を抱いたのはこれが初めてじゃないのに』
『お誕生日の時はまだ緩菜自身が覚醒していなかった。だから自分は女の子になりたいという意志も不明確だった』
『そうか。性転換の意志の無い人に***の法は効かない』
『だから前回は作動しなかったのか』
 
『元々緩菜は10月に生まれる予定だった。だけど細川君が浮気して8月に生まれてしまった。だから本来の誕生日が来た所で覚醒したのかも』
 

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彼らの報告を聞いて、ここまで散々振り回された千里2と千里3は言った。
 
「1番を一発ぶん殴りたい!」
「自分で自分を殴っても痛いだけだと思うぞ」
と《こうちゃん》は言った。
 

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