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■春花(10)

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青葉たちは、X町ZZ集会所の幽霊の件の取材が午前中に終わり、続いて津幡町に移動してアルプラザ津幡でお昼を取った後、町内の山中にある、スポーツセンターを建てかけて放置した所に行ってみた。
 
放送局では、不法侵入にならないように、この物件の権利関係を調べてみた。すると、この土地は融資をした銀行が担保権に基づき差し押さえを行い、競売を申し立て、裁判所の公告を経て、銀行自身が自己競落していた。落札価格は融資額と等しい8億円である。
 
なお自己競落の場合、8億円で落札した銀行は、落札額を競売配当金として受け取ることになるので、実際には“差引納付”により、一切の現金の受け渡し無し(見せ金も不要)、ゼロ円でこの土地を自己の所有物とすることができる!
 
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それなら競売などせずにそのまま自分の物にできないのかというと、それが法律上できないので、わざわざ競売の手続きを取るのである。この場合、誰かが融資額より大きな金額、例えば10億円で落札したら、銀行はその差額2億円の利益を得ることができるので、融資額いっぱいの価格で入札するのが普通である。もし融資額より少ない金額、例えば5億円で入札した時、誰かが例えば6億円の入札をしていたら、銀行は6億円しか受け取れず、差額2億円の損失が発生することになる。だから融資額未満での入札はあり得ない。
 
そういう訳で、この物件は銀行の所有物になっていたので、放送局が銀行に取材を申し入れた所、許可が出た。銀行としてはテレビで放送されて話題になることで、どこかのデベロッパーが興味を持ってくれると、という期待で取材を許可したようである。
 
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当日は取り付け道路の所で、取材陣が銀行の担当者(支店長さんと不動産部長さん)と落ち合い、銀行の人の車に先導されて、中に入った。
 
「これは酷い」
と最初に言ったのは神谷内さんだった!
 
「ドイルさん、応急処置とかできない?これ車を降りたくない」
「ちょっと待って下さい」
 
と言って青葉は千里1に電話をした!
 
千里1はお遍路の最中でその入口にあたる“阿波十里十寺”を回っていた所であったが、話を聞くと
 
「了解、了解」
と言った。そして青葉のスマホを通して“何か”が数体やってくるのを感じる。青葉は思わず腕を伸ばしてスマホを自分の身体から離した。明恵も気配を感じたようで驚いている。真珠はよく分からないようだが緊張している。幸花は何だろう?という顔をしている。神谷内さんは森下カメラマンに「これしっかり撮しといて」と言った。
 
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(一応取り付け道路の入口で銀行の人と落ち合った所からずっと撮影している)
 
やってきた“何か”はそのあたりを飛び回って?雑霊を大掃除してくれているようである。ものの5分で!取り敢えずの“クリーニング”が終わったようで、作業をしてくれた“何か”は、またスマホを通して千里1の元へ戻って行った。
 
青葉の《珠》でも浄化できないことはないが、面積が広いので、こんな所を浄化したら、その後しばらく何もできなくなってしまう!それで多分眷属の数に余裕がある千里1に頼んだのである。
 
土地の雰囲気が急激に変わっていくので、銀行の人たちはキョロキョロしていた。
 
取材陣はその変化が完了してから車を降りた!
 
そして銀行の人たちに取り憑いてしまった霊は青葉が即祓った!!
 
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青葉は言った。
 
「これは地鎮祭も何もしてないですね。いまだに山林のままという感じですよ」
「山林の中にこれだけの空き地があれば、雨水が凹地に溜まるように雑霊が溜まるでしょうね」
と明恵も言う。
 
「これは幽霊が出て当然ですね」
と真珠も言った。
 
「じゃ打つ手は無いですか?」
と不動産部長さんが尋ねる。
 
「誰かがこの土地を買って、ちゃんと地鎮祭をした上で、きちんと開発し、人が来るようになれば、自然と幽霊は出なくなります」
 
「つまり放置されているから良くないんですか!」
「放置されている空屋に虫がわいたり、野良猫が住みつくのと同じようなものですよ」
「なるほどー」
 
「現状では何らかの対策をとっても意味が無いですね」
「ああ」
 
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ともかくも取材陣は放置されている“建てかけ”のスポーツセンターを見て回った。
 

土地は銀行側が所持している図面によると取り付け道路500mの先に270m×270mの土地があり、その内の北側190mほどの部分が開墾され、建物が建つ予定の部分(北側140m)は基礎工事などが行われ、一部は建物も建っているということである。南側80mの部分(↓で駐車場と書かれた部分の下半分&ゴルフ練習場と書かれた部分)は手つかずでまだ森林が残っている(木は立っているが地目は既に公園に変更済み)。
 

 
取り付け道路は幅員が8mで一応センターラインが引かれ街灯も並んでいるが、現在は通電されていない。
 
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青葉はこんなに土地が余っているのに、なぜわざわざ県道から500mも入り込んだ土地を買ったのだろうと疑問を感じたので尋ねてみると、周辺の住民との話し合いで騒音が住宅地に漏れない場所として選んだものらしい。周囲の林が消音器の役割を果たすわけである。
 
「この津幡町の運動公園なんて、県道から1.3km入り込むから、大会とかで初めて訪れた人は、この道合っているのか?と不安を感じるらしいですよ」
「あ、高校の時に応援でそこ行ったことある。随分入り込みますよ」
と幸花が言っている。
 
「ただ金沢さんがおっしゃったように、県道から500mも入り込んでいるので、一度大手スーパーが出店を検討したものの諦めたんですよ」
 
「ああ、商業地としては道路から見えないと圧倒的に不利ですもんね」
 
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車を駐めた少し先に、大きな楕円形(というよりスタジアム(stadium)型−別名ディスコレクタングル(discorectangle))の池がある。
 
「これ夜中に取り付け道路走って来たら、このまま池に飛び込みません?」
と幸花が言うが
 
「敷地全体のだいたい真ん中付近に噴水のある池があるといいね、というので作ったらしいですが、実は工事中にそんな事故があって、幸い死人は出なかったらしいですが、危険だということで、この柵が作られたらしいです」
 
「やはり飛び込んだ人がいたのか」
「池に飛び込んじゃった人は、命は助かったものの性別が変わっちゃったとかいう噂もあったそうですが」
 
「そういうこともあるかもね」
と明恵。
「ああ“一人転校生”ですね」
と真珠。
 
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図面によると幅30m 奥行き70m ほどで、表面積は約2000m2あるらしい。中央に噴水を作り、ボート漕ぎもできるようにする予定だったらしい。
 
「だいたい道路から入って来た線からずらして作ればいいのに」
と幸花が言っている。
 
「設計が悪いですね」
 
「この池は水質が悪化していないようですね」
「どこかの川から取水しているのかな?」
「近くの通称・辺来川(へらいがわ)からの流入路と流出路が作られています。そこにある水深マークを見ると現在3mくらい水深があるようですね」
 
「深い!」
 
「水深マーカーは5mまでありますから、もっと溜められますよ。もっともボート漕ぎをするのなら、もっと低い水位で運用しないと危険ですが。あそこに階段がありますよね」
「あ、ほんとだ」
「階段自体がかなり水没していますが、この階段を降りた所にボートを留められる所を作る予定だったようですが、確認した所、特に構造物は認められませんでした」
 
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「ここ、池の底に人間の死体が沈んでいたりしませんよね?」
などと幸花が言う。
 
「超音波で調べた範囲では特に変なものは沈んでいないように思われましたが、一度水を全部抜いて池干ししたほうがいいかも」
 
「池の水ぜんぶ抜く!ですね」
「そうです、そうです」
 
幸花が変なことをいうので青葉は霊的に探査してみたが、動物の死体っぽいものが数個見つかったが、人間の死体のような大きなものは見当たらない。
 

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「あと、川からの取水以外に、雨水を溜める機能も作る予定だったんですよ」
「ほぉ」
 
「テニスコートや駐車場の地下に排水機能を兼ねた集水パイプが埋め込まれていて、雨が降るとそれをパイプでこの池に導いているんですよ」
「へー」
「更に建物の屋根に降った雨水も樋でここに集める予定だったらしいです」
 
「それ雨が降る度に池があふれません?」
と幸花が尋ねる。
 
「この土地の面積が72900m2で、池の面積が2000m2ですから全体の約36分の1. 仮に20mmの雨が降って、その半分を集めても水位は36cmしか上がらない計算ですね」
と部長さん。
 
「そのくらいなら大丈夫かな」
と幸花は言ったが、20mm程度の雨で設計するのはどう考えても危ないぞと青葉は思った。
 
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「でも別の仕掛けもあるんですよ」
と部長さんは言うと、池のそばに立つ小屋のような建物の鍵を開け、取材陣をその小屋から下に降りる階段に案内した。灯りを点ける。
 
「これは・・・」
 
そこには唐突に大きな体育館サイズの、壁・床・天井をコンクリートで囲まれた空間があったのである。
 
「もしかして遊水池ですか?」
 
「そうです。正式には調整池というらしいんですが、実は池があふれたら自動的にここにオーバーフローした水が流れ込むようになっているんですよ。ここはちょうど駐車場の地下に作られているんです。設計書によれば、この空間は50m×250m×6mの大きさがあり、大雨の時には75000m3の水を蓄えることができるそうです。2500世帯の1ヶ月の水道使用量相当ですね。大雨が終わったらあそこに見える流水口のふたを開けると数日掛けて全ての水を流すことができます。実はここが放置されてしまった後も、大雨の度に町の職員がここに入って遊水池の水を流す作業だけ、させてもらっていたんですよ。そのため、ここだけ電気が来ているんですが、現在は作業は銀行のスタッフで引き継いでいます」
 
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「つまりここは辺来川の洪水調整機能を持っているんですね」
「それを兼ねるということで取水の許可を取ったようです」
「なるほどー」
 
「しかし何気に金を掛けてませんか?」
と幸花が訊いた。
 
「開発者の社長さんは、バブル崩壊後に株を始めて、屑株が高騰したら売る手法で500億円ほどの資産を作ったらしいです。お金が余っているから、いくら掛かるかとか全く考えずに工事をさせていたらしいですね」
 
青葉はギクッとした。
 
でもこの話、ちー姉にも聞かせたいぞ!
 
「工事代金も一週間単位に、明細もチェックせず業者の請求書通りの金額を現金で払っていたから、どこの工務店も熱心に仕事していたとか」
 
「すると夜逃げで工務店はあまり被害は出てないんですね?」
「最後の付近の工事分をもらいそこねた所もあったようですが、あまり大きな金額ではなかったようです」
「だったらよかった」
 
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池のそばには、バッティングセンターにする予定だった建物が建っているが、かなり傷んでいるようである。壁のコンクリートにかなりヒビが入っているし、壁に穴が空いている所もある。のぞいてみると、中も傷んでいるっぽい。
 
「誰か焚き火してますね」
「室内で焚き火とか危ないなあ」
「ひょっとして床板を剥がして燃やしたのでは?」
「燃えるんですか!?」
「まともな施設なら不燃処理しているはずですが、灯油とか掛ければ燃えるかも」
「不燃処理してなかったりして」
「もしそうなら、ここは巨大な薪(たきぎ)ですね」
 
「多分浮浪者とか暴走族とか入り込んでいたのかも」
「夜中にバリケードが外してあることがあったというのは、暴走族かも知れませんね」
「あそこ屋根にも穴が空いてますよ」
「そもそも鉄骨が曲がっている気がするんですけど」
「能登半島地震のせいかな?」
「あるいは適当な建て方していたのか」
「いやそもそも建物のサイズに比べて鉄骨の数が少なすぎる気がします」
 
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「この建物は補修するよりいったん崩して建て直した方がいいかも」
 

地面が低くなっている、かなり広い領域がある。どうもメインの体育館の建設予定地だったようだ。
 
「実はこの土の下に、コンクリートの基礎が作られているんですよ。悪戯されないように土を被せてありますが、うちが競落する時点で調査した時は基礎には問題無いと判断しています」
と部長さんは説明する。
 
「これはつまり地階を作るんですね」
「地下にスパとプールを作る予定だったようです」
 
「だったら後は、かぶせている土を取り除いて、鉄骨を組み立てて屋根と壁を作るだけで済んだりして?」
と幸花。
 
「広さを変更しない場合はそれで行けますね。それに多分40億かかりますが」
「私の給料では払えないな」
と幸花が言うと、神谷内さんが笑っている。
 
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