広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)
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■春花(24)

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季里子は全然無事ではなかった。
 
雨が酷いので勤務先では業務を途中で打ち切り、お店は閉めて各自帰宅した。避難勧告が出ていたので身の回りの物と貴重品だけ持ち、2人の娘および母と一緒に近くの体育館に避難する。父とは電話が通じなくて連絡が取れないが、会社に居ればたぶん大丈夫だろう。
 
土曜日になってやっと電話が通じるようになる。父は結局会社に泊まり込んでいるらしい。自宅を見に行きたいがどうしようと思っていた所に夏樹から電話があった。夏樹が住んでいたアパートは崩壊してしまったものの、本人は会社に出ていたので無事ということだった。
 
「そちらも大変そうだね。取り敢えずそちらに行くよ」
と言って、バイクで来てくれた。バイクはアパートから少し離れた駐車場に置いていたので無事だったらしい。
 
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「自宅の様子見に行きたいの?じゃ一緒に行こうよ」
と言って、夏樹は季里子をYZF-R3のリアシートに乗せ、そちらに行ってみる。
 
季里子は夏樹に抱きついてバイクに乗っていて言った。
「なっちゃん、かなり女性化してるみたい。これおっぱいかなり大きい」
「あまり触らないで。運転ミスるから」
「分かった」
 

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ほんの数分で季里子の家の近くまで到達する。
 
「これは酷い」
 
その付近一帯が壊滅していた。
 
バイクを降りて歩いて行ってみるが、季里子の家があったと思われる付近は跡形もない。鉄砲水か何か起きたようで、多数の岩が転がっていた。
 
「早めに避難しておいてよかったね」
 
「でもこれからどうしよう?」
と季里子は困ったように言う。
 
「私もアパート流されちゃったし。どこか居候させてくれそうな親戚か友人の家にでも避難して、少し落ち着いた所で、アパートか何か探すしかないね」
と夏樹。
 
「居候させてくれそうな人か・・・」
と悩んでいた季里子は
「あっ!」
と思いついて言った。
 

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短水路日本選手権が終わった後、長距離陣上位の6人(ジャネ、青葉、金堂、南野、永井、竹下)は東京北区のHPSCに集められた。実は明日から長距離の日本代表候補12名が3週間の合宿に入るのである。長距離陣は代表活動で合宿をしていても、どうしても日本では短距離陣が優先され、少ない割り当てレーンではあまり練習できないのだが、今回は長距離陣のみで、しかも男女合わせて12名という少数精鋭の合宿なので、かなり練習できそうだった。
 
ちなみにHPSC (High Performance Sports Center) というのは従来のNTC(味の素ナショナルトレーニングセンター)、JISS(国立スポーツ科学センター)を拡充する施設として今年 NTC東館(NTC-E) が作られたのでその総称として新たな名前が付いたものである。これには下記の施設が含まれる。
 
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NTC-W 屋内トレーニングセンター・ウェスト(従来のナショナルトレーニングセンター)
NTC-E 屋内トレーニングセンター・イースト
JISS 国立スポーツ科学センター
味の素フィールド西が丘
陸上競技場
屋内テニスコート
アスリートヴィレッジ(つまり選手村)
 
競泳用プールはこれまでJISSのものを使用していたのだが、NTC-Eにも新設されたので、より充実した合宿ができるようになった。
 

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青葉たちは選手村で1泊した後、翌朝バスに乗って長野県東御(とうみ)市に向かった。
 
ここの湯の丸高原1750mの高地に“GMOアスリーツパーク湯の丸屋内プール”という、高地トレーニング用の施設ができた(今月完成したばかり)ので゜それを早速代表候補チームの合宿に使わせてもらうのである。
 
施設はプール棟の他、陸上用400mトラック、800mジョギングコース、テニスコート6面(但しテニスコートは民間管理)などを有している。これまで国内の高地トレーニングの施設としては御岳高原と蔵王坊平にも施設があったが、スキー・陸上・サッカーなどが主で、本格的な競泳プールは無かったのである。
 
青葉たちはお昼頃湯の丸に到着し、施設の説明を受けたが、ジャネも青葉も南野さんも腕を組んで考え込んだ。
 
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「どうして10レーン、水深3mで作らなかったんですかね?」
とジャネは尋ねた。
 
ここは50mプールではあるが、8レーンで水深2mしかないのである。
 
「うーん。予算の関係かなあ」
などと水野コーチは言っていた。
 
ちなみに50m×21m×2m=2100KL, 50m×25m×3m=3750KL だからこの規格ならフル規格で作った場合に比べて約半分の水量で済むことになる。
 

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男女12人で8レーンなので、男子4レーン、女子4レーンを使用することになった。女子は取り敢えず3レーンに2人ずつ入ってひたすら泳ぐ。トップスイマーばかりなので“周回遅れ”は発生せず、結構快適な練習ができた。すれ違う時にお互いぶつからないように気をつけるだけである。
 
(ジャネと青葉、金堂と竹下、南野と永井、というタイムの近い者同士の組み合わせにした)
 
技術的に教えることは何もないので、水野コーチもどちらかというと見ているだけで、時々激励したり、さすがに長時間泳ぎすぎと思った子に休憩するよう声を掛ける程度であった。
 
しかし男子の方のコーチは結構細かいことを指示するタイプのようで、フォームまで注意されている選手もいた。
 
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練習は18時で終わりなので、みんな水から上がって着換えてからアスリート食堂に行き、晩御飯を食べる。その時、この話が出た。
 
「でも(竹下)リルちゃんが凄く力をつけてきた。怖いね」
とジャネが言うと、リルは嬉しそうにしている。
 
「牛肉食べてる?」
「食べてます。牛乳も毎日1L飲んでます。そのおかげで春から3cm伸びて178cmになりました」
「成長期だね!」
「春までに180cm越えたいなあ」
「私はそろそろ伸び止まりかも。春から1cm伸びただけの184cm」
と金堂さんが言っている。
 
現在竹下リルは高校1年、金堂多江が高校2年である。
 
「多江ちゃんもまだ伸びると思うよ。牛肉食べて頑張ろう」
と南野さん。
 
「お母ちゃんが悲鳴あげそうだ」
「うちは近くに牛肉100g98円とかのセールをよくやっているお店があって、そこでまとめ買いしているんだよ」
「安いね!」
「仙台もきっと探せばあるよ」
とリルは言った。
 
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「南野さん、永井さんは卒業した後はどうするの?」
と青葉は尋ねた。2人は青葉と同学年である。
 
「私はNN社の本社に内定している」
と南野さん。
「おお、STスイミングクラブだ!」
 
STスイミングクラブを運営しているのがNN社なのである。
 
「じゃ、私と同じ所属になるのか」
と金堂さん。彼女はSTスイミングクラブの仙台校に所属している。
 
「私はZZ社の東京本社」
と永井さん。
 
「ZZ社の水着とかランニングシューズにはお世話になってるな」
 
「じゃ2人とも春からは東京?」
「そうなるね。やはり東京は環境がいいし」
と南野さんと永井さんは顔を見合わせながら言っている。
 
「川上さんは?」
「私は3月22日まではK大所属のまま活動して卒業式とともに引退かな」
と青葉が言うと
 
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「え〜〜〜!?」
という声があがる。
 
「いや、それは世間が許さん」
と水野コーチが言う。
 
「どこか就職するの?」
「金沢のテレビ局に就職が決まっている」
「そこは水泳部無いの?」
「特に運動部とかは無いなあ」
「金沢でもどこかのスイミングクラブに所属するとか」
 
するとジャネが言う。
「うちのスイミングクラブに入らない?会費も要らないよ」
 
ジャネにしては随分親切な言葉だが、ライバルが消えるのは不満なのだろう。
 
彼女は金沢市内大手のスイミングクラブに所属している。もっとも今年は金沢にいないことが多く、熊谷市の郷愁アクアリゾートでひたすら泳いでいた。
 
「いや、来年はオリンピックの取材とかで忙しくなると思うし」
「それは取材する側ではなく、取材される側になるべきだな」
 
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「でも青葉、さすがに3月での引退はコーチも言うように世間が許さないよ。どこも行くあてが無いのなら、名前だけでもうちのスイミングクラブに入りなよ。今度ちょっとうちの社長に会わない?」
 
「そうですねぇ」
と青葉は返事をためらった。
 

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「でもみんな合宿が終わった後は、春までどこで練習するの?」
と南野さんが訊いた。
 
「大学のプールも閉鎖されてるし市民プールで泳ぐつもり。所属しているスイミングクラブでも泳ぐけど、あまり長時間は占有できないんだよね」
と永井さん。
 
「ああ、概してスイミングクラブより大学のプールの方がコースを独占できる」
 
「私は出身中学のプールで練習させてもらえることになった」
と金堂さんが言う。
 
「屋内プール持っているんだ?」
「新設校だったから、当時の市長さんが張り切って屋内温水プールで造ってくれたんだよね。東北は屋外にプールを造ると使える期間も短いし」
「むしろ夏はプール、冬はスケートって所もあるんじゃない?」
「そうそう。そういう学校もある」
 
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「でもそのおかげで、多江ちゃんみたいな子が出てきて、市長さんも嬉しいだろうね」
「うん。建設費は屋外プールの3倍掛かったらしいけどね」
 

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「リルちゃんは?」
と金堂さんが訊く。
 
「私はジャネさんと青葉さんが造るプールに招待されたから、そこでひたすら泳ぐつもり」
と竹下リルは言った。
 
「プールを造る!?」
と南野さん・永井さん・金堂さんが驚いたように言う
 
「いやあ、ジャネさんから造ってと言われて」
と青葉。
 
「青葉がスポーツセンター用の土地を買ったと聞いたからプール造ってと言った」
とジャネ。
 
「スポーツセンターを作るんですか?」
「それが何と言うか・・・」
 
「その経緯を見せてあげるよ」
と言ってジャネはパソコンを取り出すと、そこに録画していた『霊界探訪』の該当部分を見せる。
 
みんな唖然としていた。
 
「川上さんって霊能者だったんだ?」
「最近は忙しいからほとんどの依頼を断っているけどね」
 
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「それでこの土地買っちゃったんですか?7億で」
「うん。まあ」
「青葉さん、そんなお金持ちだったんだ?」
「この子は、歌手のアクアのメイン作曲家だから印税収入が凄いんだよ」
「え!?作曲家?」
「知らなかった!」
「うーん。毎年払っている税金は凄いかな」
 
「プールは何コースあるんですか?」
「2.5m幅10コースの50mプールで水深3m」
「公式規格じゃないですか!」
「幾らしたんですか?」
「えっと、プール本体は3億円かなあ」
「すごーい!」
 

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「それいつできるの?」
と南野さんが訊く。
 
「来月頭にできると聞いた」
「取り敢えず見学させて!」
「まあいいけど」
 
それで結局、湯の丸での合宿が終わったら、水野コーチも含めて、みんなで津幡に行ってみることにしたのである。
 
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