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■春花(4)

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新社長(むしろ暫定社長)に就任した平本氏は社員・株主に向けて
 
「和解しよう」
 
と呼びかけた。
 
まず6月末の前社長就任の直後に行われた管理職人事を全て白紙に戻すことを宣言。その後退職した人で、会社に戻って来てくれる人は、そのままの給与と勤務地の条件で受け入れると宣言(退職金をもらった人は皆無なので退職金返還問題は発生しない)。また下請け企業への代金支払いが遅れていた所にはできるだけ速やかに支払いを行うとした。更には取り敢えず7月分の給与を一週間以内には支払いたいと述べた。
 
これらの支払いのためには最低でも6億円の資金が必要と見られたが、その原資として、まず役員全員が個人的に1000万〜5000万程度を拠出し、これが合計で1億円になるのを使用する。また8月23日の段階で工場生産のため新たな材料購入費や輸入代金支払い費として用意されていた1億円を転用。会社が所有する有価証券の売却で2億円調達。更には東大阪市の第1工場、大津市のW町工場の土地を担保に銀行に融資を申し入れたいと述べた。
 
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平本新社長はこれらの方針を発表してすぐにメインバンクの本店に赴き、土下座して前社長の行動について謝罪。協力を申し入れた。メインバンクは緊急会議を開き、現在の経営陣が、9月22日に予定されている株主総会で、全員退任すること、退職金はゼロとすることを条件に、取り敢えず社員の7-8月分の給与や、下請けへの支払いの資金については考慮すると述べた。
 
この新社長の呼びかけに応じて、労組はストライキを解除。9月4日(水)から業務は再開された。但し材料購入費を転用してしまったので新たな資金が得られるまで工場では仕入れの無いままストックによる生産を可能な範囲で続ける。
 
実際、9月6日(金)までに取り敢えず下請けへの代金支払いが実行されるとともに、社員に7-8月分の給料が支給され、しかもストライキ中の給与も基本給の分だけは払ったので、多くの社員がギリギリ救われた。もっともローンを抱えていて、期限の利益喪失で残債の一括支払いを求められ苦境に陥っていた社員も少なからず存在した。平本新社長はそのような状況に陥った社員について、メインバンクから借り換えローンが組めるように斡旋することにして、個別の対応を進めてもらった。また下請けで支払い延期により倒産してしまった所が1社あった。そこは9月22日の株主総会で新社長に就任する予定の丸正義月氏とも連絡を取りながら交渉した結果、MM化学の子会社として再建する方向で進めることになった。
 
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9月6日に7-8月分の給与が支給されると、バスケ部員たちに貴司が貸した分は280万の内、半分がすぐに返済してもらえた。残りは本当に“出世払い”ということにして「ゆっくりでいいよ」と言ってあげたのだが、最終的には後述の事情により9月末までに全額返還された。
 
貴司自身に貸した分は・・・
 
「済まない。阿倍子への送金原資としてもうしばらく貸しておいて」
などと言うので、
 
「利子はトイチね」
と言っておいた。
 

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インカレの水泳が終わった後、他の部員は高速バスで金沢に戻ったのだが、青葉は東京に1泊し翌朝の飛行機で北海道に飛んだ。
 
羽田 9/9 6:50 (HD11 767-300) 8:20 新千歳8:45-9:22札幌
 
青葉は札幌エクセルホテル東急で丸山アイと落ち合い、取り敢えずモーニングを一緒に食べた。アイは北海道で新曲のキャンペーンをしていて、明日からは九州!に移動するらしいが、今日は1日オフだったらしい。
 
「金メダル4つおめでとう」
「ありがとうございます。まあ最後のインカレでしたし」
「青葉ちゃんって、中高時代から水泳やってたんだっけ?」
 
「水泳部に入ったのは高3の時なんですけどね。中3の時に卓球部で女子選手として参加したことがあったので、水泳でもスムーズに受け入れてくれた感じはありました。過去にかなり徹底的な性別検査をされましたけど」
 
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「私もされたことあるけど、あれってほぼ人権無視だよね」
「まあ巧妙に誤魔化そうとする人もあるから仕方無いですね」
 
と言いながら、アイは“確かに女子なのか”を検査されたのだろうか?それとも“確かに男子なのか”を検査されたのだろうか?あるいは“確かにふたなり”なのを検査されたのだろうか??と疑問を感じた。
 
11時頃、五島節也(せいちゃん)が迎えに来てくれたので
「松本花子プロジェクト・小樽ラボ所長の五島節子です」
とアイに紹介した。
 
「節子さん、以前見かけた時より女装が様になっている」
とアイは面白そうに言う。
「千鶴子さんも、以前見かけた時より女装が様になっている」
と《せいちゃん》は逆襲する。
 
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「おふたり、どこかで会ったことありました?」
と戸惑うような顔で青葉が訊くと
「まあ、万葉ちゃんも随分女装が様になってきたよね」
とアイは言った。
 
「私、男装したことないよぉ」
と青葉は困ったような顔で答えた。
 
ちなみに青葉は、五島が実は千里の眷属であること、つまり人間ではないことに全く気付いていない!
 

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割と年季の入ったジムニーの後部座席をアイに勧め、青葉がその隣に乗る。五島の運転で小樽市まで行き、その町外れの山道を進み、更に私道っぽい細い道を数十メートル入った所に、そのボロ家はあった。ボロ家だが太陽光発電ユニットが屋根に並んでいるのを見てアイが
 
「ああ、自家発電しているのね」
と言う。
「あれは日常の電気を供給するためのものですが、非常用にプロパンガスによる発電機も持っていますよ」
と説明する。
 
「なるほど。うちにはその手の非常用の発電体制が無いな」
とアイは言うが
「ミューズの場合は、非常用発電設備を作るとしたら、内燃力発電所が1個必要でしょ?」
と青葉は言う。
「そのくらい必要かもね〜」
 
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それで中を案内する。
「いらっしゃいませー」
と言って間枝星恵が出てきて挨拶する。奥の方で作業していた矢島彰子も座ったまま
「いらっしゃいませ」
と声を掛けた。
 
青葉がその2人をアイに紹介する。
 
「こちらが松本花子のプログラム・リーダーの矢島さん、こちらは松本葉子の朗読係の間枝さん」
 
「マエダさんって見たことある。林檎座の『ハムレット』でオフィーリアとかしなかった?」
 
「すみません。オフィーリアの侍女役で3回だけ舞台に立ちました」
「侍女だったか!」
「でも凄いですね。私が舞台に立ったの、その3回だけなのに」
「偶然それを見たんだね」
 

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「間枝さんは、松本葉子のシステムの一部なんですよ。彼女に詩を朗読してもらって、その抑揚・強弱をそのままメロディーのベースにしちゃう」
 
「なるほどー。むしろ松本花子のコアかな」
「そうかも」
 
夢紗蒼依だと人工知能が詩を解析して、単語識別構文解析をした上で、どこが強調ポイントかを自動認識して、それと日本語のイントネーションデータベースを引いて抑揚を付ける(これは自動読み上げソフトのエンジン部分のロジック)という物凄く複雑なことをしているのだが、松本花子では、その部分を朗読の訓練を受けた生身の俳優さんがしているのである。
 
「矢島さんは、二子玉川のJソフトって会社でシステム課長をしていた人で、ソフトハウス勤務だから、様々なシステムを経験しているんですよ。多人数のプロジェクトもたくさん経験しているので、プログラマの管理が上手いんです」
 
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「千里ちゃんが勤めていることにしていた会社だ」
「本当に勤めていたのは、女装の五島さんですけどね」
 
「ああ、千里ちゃんは長い髪で識別されるから、顔が多少違っていても誰も代役に気付かない」
とアイは言っている。
 
多分、アイさんも千里姉の振りしてあちこちで“いたづら”してるよね?と青葉は内心思った。
 
「まあそれで私たちもすっかり騙されていたんだけど」
と矢島さん。
 
「実際には千里が書いたプログラムがまともに動いたことはない。1から10までを DOループで回して足し算するプログラムで、54という答えを出せるのは千里くらい」
と五島は言っている。
 
「45にしちゃう人はたまに居るんですけどね」
と矢島。
 
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(1+2+3+4+5+6+7+8+9+10=55 だが、45は最後の10の足し忘れで多分 i<=10 と書くべき所を誤って i<10 と書いたもの。54は先頭の1の足し忘れ!)
 
「まあ千里姉は大学大学院の6年間、Jソフトに勤めていたことにしていた3年間、実はバスケットしかしていない」
と青葉も言っている。
 

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「まあそれでこのラックBに積んであるのが、Yamada21から30までで松本花子の本体、こちらのラックAに積んでいるのが、Yamada11からYamada20までで、こちらは多数の編曲者の本体ですね。ラックCはストレッジです」
と五島は説明した。
 
「ブレードコンピュータか!」
「まあ筐体が無いほうが扱いやすいから」
「そうだろうね!」
 
「Yamada-11から20はインテルCore-i7 8086K, Yamada21-30は Core-i7 9700Kを使用している。メモリは編曲用の11から20は64GB, 作曲用の21-30は128GB」
 
「ストレッジは?」
 
「ラックCに置いた4台の1TB-SSDを全てのノードから10GBのLAN経由で共用している。データはラックCに置いた専用のバックアップ用PC Yamada-10で、2台の1TB-HDに日々バックアップしている。ちなみに各々のノードにはOS格納用に100GBのハードディスクを付けている」
 
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「ハードディスクなんだ!?」
「速度を必要としないから」
「確かに」
「どうせデータベースは全部メモリにロードしちゃうし」
「メモリにロードできるの!?」
「データベースはせいぜい20GB程度しかない」
「コンパクトだね!」
 

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「でもここは開発室?松本花子を運用しているコンピュータ群はまた別の場所?」
とアイが尋ねると、五島も矢島も一瞬きょとんとした。
 
「いや、これが松本花子の全てですよ」
と青葉は答えた。
 
アイはしばらく青葉の言葉が理解できないようだった。
 
「もしかして、この20個くらいのパソコンであの膨大な松本花子の作品を製作してるの!?」
 
「そうそう。この20台のパソコンではひとつひとつが独立に松本花子システムを実行している。需要が増えたらパソコンを買い増す。需要が減ったら適当に停止させる」
と五島。
 
「パソコン1台で動くんだ!?」
 
「従来型のプログラムだから。といっても1970年代までのフローチャート・プログラミングや、1980年代の構造化プログラミングではなく、1990年代以降のオブジェクト指向プログラミングだけどね。プログラム言語は Perl だよ。一部どうしても速度が必要な所だけ C で書いた」
と五島は説明する。
 
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「よくそんなので作曲できるね!」
 
「松本花子がやっているのは、あくまで“埋め曲”レベルの製作なんだよ。夢紗蒼依みたいな創造的な作曲はできないし、最初からするつもりも無い。でもこの業界の楽曲の需要のほぼ95%くらいは実は埋め曲レベルの曲なんだよね。それを代替するのが松本花子の目的」
と青葉が説明すると
 
「うーん・・・」
と言って、アイは悩んでいる。
 
「歌詞は人間が書いている。これは実は30人くらいの作詞家集団を抱えているんだよ」
 
「けっこう人間を使っているね!」
「人間が得意な所は人間がやる。人間では大変な部分を機械にさせている」
 
「それは凄く正しいやり方だという気がする」
 
「まあそれで松本花子と夢紗蒼依は手法もターゲットも違うということになる」
 
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「確かにそうだ!」
とアイは感心していた。
 

「そういえば、元東京スター銀行社長のタッド・バッヂさんがさ」
と矢島さんが言った。
 
「あの人は若い頃から何度も日本に来ていたんだけど、初めて奥さんを連れて東京に赴任してきた時に、日本で住む家に連れてったら、見せられた部屋を奥さんは玄関ホールだと思い込んで『部屋に行く通路はどこ?』と訊いたんだって」
 
「ああ」
 
「さっきのアイさんの反応は、そのエピソードを思い出した」
と矢島が言うと、アイは照れ笑いをしている。
 
「まあ、日本の家は狭いからね」
 
「日本人はウサギ小屋に住んでいると言われたゆえんだよね(*1)」
 
(*1)1979年にEC(ヨーロッパ共同体:欧州連合(EU)の前身のひとつ)が出した文書の中で使われて日本でも大いに共感!された表現。
 
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「もっともペレストロイカ前のソ連とかは日本よりもっと酷かったんだけどね。日本だと4畳半1K程度に相当する狭いアパートに1家8人とか住んでたらしいから」
 
「庶民の生活を犠牲にして、兵器開発・宇宙開発をしていたんだな」
「帝政ロシア時代よりは改善されたんだろうけど、ロシア革命以降60年間、時が停まっていたのかもね」
 

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「ここ2階は何かあるの?」
と丸山アイは尋ねた。
 
「2階は女子社員のプライベートスペースだな」
「女子とは言っても所長(せいちゃん)は立入禁止」
「会長(青葉)は入ってもいいよ」
 
「ボクは?」
とアイが訊くと
「アイちゃんは女の子みたいだから入ってもいいよ。竜さんは男の子らしいから立入禁止」
と間枝さんが言っている。
 
丸山アイと高倉竜が同一人物というのは、ネットで検索したりしてもその話はヒットしないのに、どうも実際は結構知られているようだなと青葉は思った。(間枝が雨宮先生の関係者であることを青葉は知らない)
 
「今日はアイだから、後でお邪魔するね」
 
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