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■春花(13)
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(C)Eriko Kawaguchi 2019-12.15/改2020-04-18
9月28日(土)は午後から雨の予報だったので、朝食もパスして朝5時に出発した(おにぎりを作ってもらった)。おかげで昼13時頃、まだ雨が降り出すギリギリ前くらいに土佐清水市内の高園家に到着した。
9月27日の行程37.1km
9月28日の行程36.5km
「よく来たね」
「お遍路姿が格好いい」
などといって歓迎される。この家には咲子と、長男の高園山彦・珠子夫妻が住んでいるのだが、市内の別の家に住んでいる山彦の長男、高園春彦・佑子夫妻、岡山に住んでいる武石満彦・紗希夫妻(満彦は山彦の長女・秋子の長男)も来ていた。
「ずっと歩いてお遍路してるの?凄いね」
とみんな驚いている。
「その金剛杖は、この世の物ではない気がする」
と咲子が指摘する。
「青葉から渡されたんですけど、出所は『聞く必要ない』と言われたんですけどね」
と千里。
「この世の物ではないって、あの世の物?」
と山彦が訊く。
「たぶん神様の持ち物」
「なぜそんなものを青葉が持っていたんだろう?」
「私も分からないけど、お遍路はあの世とこの世の境目だから、その杖が誰かに持ってもらって四国を一周したかったのかもね」
と咲子は言った。
「その五鈷鈴も気になっているんだけど」
と紗希が言う。
「ああ、これは確かにある場所で神様から授かったものなんですよね」
「それもこの世のものではないけど、明らかに千里ちゃんを守護している。おそらくお遍路を結願した時に、千里ちゃんの物になる」
と咲子。
千里が高園咲子の一族と関わっているのは、元々は桃香が咲子の孫だからで、千里(千里1)は川島信次と結婚していて、まだ籍を抜いていなかったので咲子から誘われた時、結構悩んだ。しかし実は千里の祖母の村山天子と咲子が“姉妹のようなもの”という関係があり、千里は京平の力を利用して天子と咲子を毎年会わせてあげている。それで今回はお邪魔することにした経緯もあった。
この天子と咲子の関係については、今回咲子が話してくれて、山彦・春彦や満彦たちも驚いていたようである。桃香と“結婚していた”はずが、川島信次とも結婚したことについて、何か言われるかなとも思ったのだが、その件は何も言われなかったので、ホッとした。咲子さんが何か言っておいてくれたのかなという気もした。
この日は早めにお風呂をもらい、夕食後はすぐに休ませてもらうことにした。でも般若心経書かなきゃなあと思って2枚だけ書いてから寝ようと思い書いていたら、紗希が満彦と一緒に
「お邪魔しまーす」
と言ってやってきた。
「みんながいる所では、聞きにくかったんだけど、桃香ちゃんとの関係はどうなっているのか、よかったら教えてくれないかなと思ってさ」
と紗希が言っている。
千里は脱力したが、まあこの2人ならいいかと思い、千里(千里1)自身が認識している内容を説明した。
「ああ、だったら桃香ちゃんは今は別の子と付き合っているんだ?」
「指輪も交換して半同棲状態になっているみたいだよ。私が茫然自失状態だったからしばらく付いててくれたけど、私もだいぶ元気になったから、もう向こうで彼女と一緒に暮らしてもいいよと言っているんだけどね。どうも半同棲というのが快適みたいで」
「それ浮気しやすいからでしょ?」
「そうそう。浮気はもう桃香の病気のようなものだから」
「そもそも桃香ちゃんと千里ちゃんって、最初から夫婦には見えなかったし」
と紗希は言っている。
「元々私は、桃香の妹になった青葉のもう1人の姉という立場でここに来ていたんで、桃香の奥さんというつもりは無かったんだけどね。桃香が適当にしゃべっていたんで誤解を招いていた感じで」
「ああ、そんな気はしていたよ」
「まあ桃香と何度かセックスしたことは否定しないけど、恋愛関係がある訳ではない。私の見解では」
「桃香の見解はまた違う気もするが」
と言って紗希は苦笑している。
「まあいいけどね」
と千里も苦笑しながら言った。
「そちらの2人は紗希ちゃんが旦那さんで、満彦さんが奥さんだよね?」
と千里は尋ねる。
「そうだよ。うちの中ではみっちゃんは完全女装で、スカート穿いてる。セックスでも私が男役、みっちゃんは女役だし」
と紗希。
「ボクは主婦みたいなのするのに憧れていたし。強い女の子が好きだったんだよね」
と満彦。
「満彦さんはMTF?」
「そのつもりは無かったんだけど」
と言って満彦は頭を掻いている。
「いや、実は色々ご奉仕させたご褒美に女性ホルモン打ってたら、すっかり女性化してしまって」
と紗希も頭を掻きながら言っている。
「実は男性機能が消失しちゃって。おっぱいが今Bカップくらいあってブラジャーつけてないと胸が揺れて痛いし。あれはもう立たないし、射精もできないんだよ。そもそも短くなっている気がするし、タマも少し小さくなってきた気がする」
と満彦は言っている。
「足の毛も顔の毛も全部脱毛しちゃったし」
「顔や足のむだ毛を剃らなくてよくなったのは便利」
「喉仏も無いよね?」
「うん。削っちゃった」
「だったら女として生きて行くの?」
「その覚悟ができなくて」
と満彦。
「覚悟決めたらいいのに。満代(みつよ)って名前も付けてあげたのに」
「会社とかどうしてるんですか?」
「グレーとかのシャツをワイシャツの下に着て誤魔化している」
「健康診断は?」
「サボッてる」
「トイレは?」
「実はもう立ってできなくなっちゃったから、いつも個室」
「まあ立ってはできないような下着をつけてるのもあるよね」
「うん。ガードルしてたら立って出来ない」
「それ他の社員にはバレているのでは?」
「うん。バレてる。女子社員たちがボクを“仲間”とみなしてる感じで」
「ああ」
「おやつとか食べに行くのに誘われるんだよねー。男子社員から飲みに誘われることは無くなったし。最近お茶入れのローテーションに組み込まれちゃったし」
「既に女子社員になっている気がする」
「スカート穿いて出勤したらと唆しているんだけど」
「それは恥ずかしいよぉ」
「でも定期券は作っちゃったね」
「うん」
と言って満彦は“武石満代・性別:女”と記載された定期券を見せてくれた。
「おお、頑張ってるじゃん」
と言って千里は満彦、いや満代と握手した。
「元々女の子になりたかったんだよね?」
と千里が尋ねると
「なってもいいかなあという気はしてたけど、積極的になりたい訳ではない」
と満代(満彦)は言っているが
「もう男には戻れないし、ちょっとタイに行って、ちょっと手術してくればいいじゃん、と言っているんだけどね」
と紗希。
「その勇気は無い」
「ちんちん要らないんでしょ?」
「無ければ無いで何とかなるかも知れないけど、要らないとか邪魔とかは思わない」
「使ってないくせに」
「でも精子の冷凍保存とかしとけばよかったかなあという気はしてる」
「ああ、現状では子供作れないよね」
「そうそう。双方の親から、孫はまだできないのかって言われるけど、ボクはもう父親になる能力が無いんですよ」
と満代(満彦)。
「だったら満代ちゃんが母親になればいいね」
と千里が言うと、満代(満彦)は
「え〜〜!?」
と言うものの、紗希は
「賛成、賛成」
と言って、千里と握手した。
9月27日(金)の深夜(28日の0:10-1:10)に石川県ローカルで『霊界探訪・浄土編』が放送され、“霊界探偵団”ツーリングの様子と、福島県の浄土平と浄土松公園の風景が放送されるとともに、X町のZZ集会所と、津幡町の建設放置跡の幽霊対策も放送された。金沢ドイルの超自爆営業の様子も放送されたのだが、石川県ローカルだったはずが、この自爆営業の話がネットで拡散すると、それを見たいという声もあちこちで置き、28日の日中にyoutubeに(無断)転載された。このビデオは夕方には著作権侵害で削除されたものの、結構な人がこれを見たようである。
最初に青葉に電話して来たのは、最近ずっと東京の尾久のマンションに住んでいる感じの幡山ジャネ(彼女の住民票は金沢市)である。お昼頃であった。
「青葉、大きな買物したね」
「まだ契約はしてないですけど、放送した以上買わざるを得ないというか」
「あそこに何建てるの?」
「まだ、なーんにも考えてません」
「プールは作るよね?」
「まあ検討してもいいですけど」
「プールだけでも今年中に作ってくんない?」
「今年中にですか!?」
「そしたら私も青葉も練習できるじゃん」
「ジャネさんは郷愁プールでも練習できるのでは?」
「それだとずっと東京か埼玉にいないといけないしさ。金沢の近くに自由に使える50mプールがあれば、私実家からそこに練習に通えるもん」
「うーん、確かにそれはそうですが。ジャネさんがずっとこちらにいたら筒石さんが寂しがりません?」
「私は別に君康に恋愛感情は無いよ」
「そうなんですか!?」
「でも青葉だって、高岡プールでは、思いっきり練習できないでしょ?」
「確かに共用だから全力では泳げないんですよ」
と言いながら、私、3月で引退するつもりなのに、と思っている。
「だったら私たち専用のプールを作ろうよ」
「まだ設計も何もしてないので。検討はしますが」
「うん。全体設計は後回しにして、とりあえずプール置いちゃおうよ」
「そうですね・・・」
次に電話して来たのは、冬子である。16時頃のことである。
「青葉、霊界探偵見たよ。7億、ポンと買っちゃうなんて、気前がいいね」
「いや、うまく乗せられちゃって」
「そこに体育館建てるよね?」
「まだ設計も何もしてないので、これから考えるんですが」
「体育館建ててさ1万人クラスのライブができるようにしようよ」
「1万人ですか?」
「金沢も富山も大きな箱がなくて、全国ツアーやる時にいつもネックになっていたんだよね。3万人クラスでもいいよ」
「さすがにそれを埋められるほどの商圏は無いと思います」
「だったら1万人でもいいよ。ライブに使えるように音響・遮音ができるなら建設費半分、私が出していいからさ」
「半分ですか・・・」
「深川アリーナは都心に建てたから色々制約もあって58億円掛かったけど、たぶん金沢で建てたら40億円くらいで済むんじゃないかなあ。どっちみち半額は私が出すよ」
「済みません。少し検討してからまたお返事します」
そして最後に電話してきたのが千里2である(千里3はインドでアジアカップをやっている)。21時頃のことであった。
「ハロー青葉、面白い買物をしたねー」
「なんかジャネさんからはプール作ってねと言われて、冬子さんからは1万人入る体育館作ってねと言われたんだけど」
「それでバスケットと1万人ライブができて、50mプールもある体育館の構造設計ができたから、資料そちらにメールさせるね」
「構造設計?」
「ミューズ3を半日借りて動かしてさっきできあがった所」
「もうできたの!?」
「そりゃ700Tflopsのマシンだからね。音響の極大点を見付けるのに苦労したよ。一応残響可変システムで、ロックにもクラシックにも対応できるようにする」
「私、まだ売買契約してないんだけど?」
「あ、そうそう。建設費は播磨工務店に見積もり取ったらたぶん20億とか言ってたから、私が半額出すよ」
「冬子さんも半額出すと言ってたけど」
「じゃ、私と冬で半分ずつ出せばいいかな」
「私は?」
「地主さんということで」
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