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■春花(3)

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津幡町は(石川県)金沢市と(富山県)高岡市のちょうど中間付近にあり、能登半島の西側の出入り口で、木曽義仲が火牛の計を使用したことで知られる倶利伽羅(くりから)峠などもある町。アルプラザ津幡、PLANT-3などの大型店舗が近い距離に集まり、隣のかほく市にはイオンかほくもあることから、周辺地区のみならず金沢や高岡から、また能登半島方面からも人が集まってくる商業拠点になっている。かつては国道8号・津幡検問所前交差点で慢性的な渋滞が発生していたが、山中を突っ切る津幡北バイパスの開通(2008)で、スムーズに車が流れるようになり、高岡−金沢間は距離的には3-4km長くなったものの時間は5-10分短くなった。
 
その企業はこの“地の利”を生かして大型レジャースポーツセンターの建設を企画し、5年掛けて町の開発承認を取った。
 
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町に提出した計画では、敷地内に、12面のテニスコート、250m(270yd)のゴルフ練習場、25mプール、バッティング練習場、バスケット・バレーなどのできる体育館、ジムとスタジオ、スパ、などを装備し、飲食店とスポーツ用品店、地元の農産品や民芸品の販売所などを設けるということであった。300台駐められる駐車場を用意。開発面積は270m×140mの3.8ha(+取り付け道路)である。
 
それで認可が下りてから、山林の木を伐採し、切り土・盛り土で地面を平らにし、基礎工事を進め、再来月くらいには中核施設となるスポーツセンターの鉄骨を組み立て始めると言っていた。ところがここで経営者が所有していた株式がリーマンショックの余波で暴落。“多階建て”による高額の追証(おいしょう)を払いきれずに、社長はどこかに夜逃げしてしまった。当然会社も倒産した。
 
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(株の信用取引では、所有する株式を担保に資金を借りて、それでまた株を買うということができる。これを“2階建て”という。その株を更に担保にして資金を借りて株を買えば“3階建て”である。しかし2階建ては、担保にしていた株が暴落すると担保価値が下がることにより、差額を現金で納入しなければならなくなる。これを追証(おいしょう)と言うが、多階建てだとこれが数倍必要になる。相場が全体的に下がる状況では追証を払いきれずに結果的に破産に追い込まれる人が続出する)
 
結果的に山林を開墾したものの、建てかけのバッティングセンターを含む、途中で放置された広大な土地と暫定的に舗装した取り付け道路が残された。現在取り付け道路の入口には誰が置いたか不明のバリケードが置かれ、車が入れないようになっている。
 
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これがもう10年くらい前のことである。
 

「それで出るという噂なんですよ」
と津幡町出身の明恵が言った。
 
2019年8月8日(木)、明恵たちは〒〒テレビの一室で打合せをしていた。
 
「なんかうちの集会所で幽霊が出るという話より規模が大きい」
とX町に住む真珠が言っている。
 
「たぶん幽霊が出るような話は、浮遊霊が集まりやすい場所か、あるいは霊道とかが通っているケースだと思う。でもそもそも“空いている入れ物”には雑霊が溜まりやすいんだよ」
と、心霊番組が長いので自らもかなりこの手の現象に詳しくなっている神谷内さんが言う。
 
「空き部屋の法則ですよね」
「そうそう、霊は人間が怖いから、人間が居ない所に集まるんだよ」
 
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「まあそれで本来はバリケードがあって進入できないはずが、なぜか夜中にバリケードが外してあって迷い込んだ車が、駐車場で人魂を見たとか、若い女が立っていたので声を掛けて乗せたらいつの間にか居なくなっていたとか」
 
「ただ乗り幽霊の残存かな」
と何故かこの場に居る吉田君が言う。
 
「それはあるかも知れないけどね。あの落雷の時はこの付近まで遊女の霊が拡散した可能性があるし」
 
「ドイルちゃんの時間が取れたら、続けて見てもらおうかな」
と幸花。
 
 
「ドイルさんの日程は?」
と神谷内さんが吉田君に訊く。
 
「世界選手権、ワールドカップと続いて、今は全国公の準備で毎日練習していますね。僕も練習に行かないといけないんだけど。全国公が終わった後は、福島にツーリングに行くと言ってました。たくさん作曲頼まれていて、そのネタ探しらしいんですよ」
 
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「あの人も本当に忙しいね!」
 

「なんか物凄い風景の場所らしいですよ。とても日本とは思えない、異世界の風景だとか。浄土平というんです」
 
「浄土ですか!」
「たくさん写真撮ってくると言っていたから、後で見せてもらおうと思ってる」
「それ僕たちも見たいね」
と神谷内さん。
 
「ツーリングかぁ。いいなあ」
と真珠が言う。彼女は高校時代に二輪の免許を取ったものの、高校在学中は練習で乗る時以外、母に免許を預けていた。
 
「バイク乗るの?」
と吉田が訊く。
 
「Suzuki GSX250Fなんですよ。実は兄貴のバイクなんだけど、兄貴は最近忙しそうで全然乗ってないから、この春以来、私が毎日通学やバイト行くのに使ってる」
 
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「それはもう取得時効だな」
 
「吉田さんもバイク乗るんですか?」
「俺はKawasakiの Ninja250R に乗っていたんだけど、今はNinja1000に乗り換えたんだよ」
 
「すごーい。リッターバイクだ!」
 
「ドイルたちも大型バイクだよ」
「へー!」
 
「ドイルがYamaha FJR1300, 同行するお姉さんがKawasaki ZZR-1400」
「すごいですね」
 
「お姉さんってこないだ来ていた人?」
「髪の長い人?」
「長くしていたけど切ったと言ってた」
「へー。切ったのか。あの人はあの長い髪がシンボルマークだったのに」
 

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「沢口(明恵)さんはバイク乗らないの?」
「四輪の免許は春休みに取ったんですけど、二輪の免許は持ってないです」
 
すると神谷内さんが思いついたように言った。
「沢口さんも二輪の免許取らない?それで、バイク浄土の旅、という特集で」
「浄土平に行くから、浄土の旅ですか?」
 
「一緒に浄土と名のつく所に、何人かで手分けして行ってみようよ。例えば福井県の浄土寺川ダムとか、射水(いみず)市の浄土寺とか」
と神谷内さんは言ってから、ネットで検索している。
 
「福島県に浄土松公園、岩手に浄土ヶ浜、隠岐に浄土ヶ浦ってあるね。隠岐は予算取れないけど、福島と岩手は浄土平の取材とセットで行って来られるかな」
などと神谷内さんはパソコンの画面を見ながら言う。
 
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「立山に浄土山という山と浄土沢って沢がありますよ」
と登山が趣味の明恵が言う。
 
「おお、それも見てみたいね」
 
「登山の訓練を受けてない人には厳しいと思うので、私が誰か適当な人と組んで取材に行ってきましょうか?」
「それは助かる。あ、吉田君、君、登山とかできない?」
「登山の訓練は受けてないですけど、去年白山には登りましたよ」
「じゃ次は立山ということで」
 
それで明恵と吉田、それに〒〒テレビのカメラマンで登山経験のある浜中さんという人と3人で映像を撮ってくることになった。
 

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「でも浄土平にも沢口さん行ってきて欲しいなあ。バイクの免許取りなよ。資金が無かったら僕が個人的に貸しといてもいいよ」
 
「借りようかな。学費でかなり親に負担を掛けているから」
 
「バイク本体は、ドイルがYZF-R25を買ったまま、全然使ってない筈だから、あれを借りられると思う。練習で乗っていただけで、すぐリッターバイク買っちゃったから。しばらく動かしてないなら整備が必要かも知れないけど」
と吉田君。
 
「だったらそれを借りたらいいね。じゃ今日にも自動車学校に入校しよう」
「今日ですか!?」
「探せば空いている所あると思う」
 
それで神谷内さんがあちこち電話を掛けまくった所、1ヶ所入校OKの所があり、明恵は合宿コースで二輪免許を取ってくることになったのである。費用の約10万円は神谷内さんが本当にポケットマネーから貸してくれた。
 
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明恵が自動車学校に入っている間に、神谷内さんは皆山幸花と真珠を連れて福井県の浄土寺川ダム、射水市浄土寺の取材に行って来た。真珠は明恵の友人で、明恵が自動車学校に行っている間の臨時代理ということにして“霊界サポーター”を称した。実態は荷物持ちである!
 
浄土寺川ダムは2008年にできた新しいダムで、堤高72mの重力式ダムである。場所は福井県勝山市で、永平寺町から更に25kmほど東へ入って行った所にある。九頭竜川水系の浄土寺川に作られたダムだ。勝山市の市街地からは国道157を少し北上した後、5kmほど山道を入った場所。幸花も真珠も、しっかりダムカードをもらって笑顔でカメラに映っていた。
 
射水市の浄土寺というのは、そういう地名である!浄土寺というお寺があるわけではない。取り敢えず浄土寺の公民館を映して、基本的には取材終了である。場所は小杉ICの近くである。せっかく来たので、隣の上野地区にある親鸞会館も取材した。ここは2000畳敷の広大な講堂があり、これが地元では時々取材の対象になっている。
 
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その日、★★レコードの氷川課長はローズ+リリーの鱒渕マネージャーと電話で長時間話した後、深夜0時すぎ、八雲礼江の車で送ってもらい、ゴールデンシックスの花野子が住んでいるマンションを訪れた。深夜の来訪に驚くも、その日は梨乃とふたりで次期ツアーについて打ち合わせている所だったので快くマンションのエントランスを開け、氷川を部屋にあげた。
 
「さて、ゴールデンシックスの諸君、悪い相談をしようではないか」
と氷川は言った。
 
「あのぉ、何するんですか?」
「君たち、ローズ+リリーに挑戦してみないかい?」
「何かそれ面白そうですね」
と梨乃はワクワクした顔で氷川に言った。
 

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明恵は順調に教習をこなし、見極めも1発合格、8月16日(金)に卒業試験を受けてこれも1発合格。8月19日(月)に金沢の運転免許試験場で学科試験に合格し、自動二輪免許を取得した。3月に普通免許を取っていたので、これで明恵の免許はグリーンからブルーに変わった。
 
8月20日には、明恵・吉田君・〒〒テレビの浜中カメラマンの3人で浄土沢まで行き、浄土山の映像も撮ってきた(山自体へは登らなかった)。
 
青葉と千里(千里2)は8月13-15日に裏磐梯を走って来たのだが、2人は8月15日に(東北道と磐越道の)郡山JCTで別れる予定であった。その直前の安達太良(あだたら)SAで休憩するが、その時、青葉は思い出して言った。
 
「そういえば、神谷内さんからYZF-R25を使ってないなら貸してと言われたんだけど、ちー姉、あのバイクは今使ってる?」
 
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「あ、ごめん!忘れてた。あれはローズ+リリーの『郷愁』の制作に参加していた時に、郷愁村に通うのに使っていたんだよ。高岡の自宅に持って行けばいい?」
 
「金沢で使うから、金沢の〒〒テレビに持って来てもらうと助かる」
「OKOK。じゃ、東京に戻ったら、そちらに持って行くね」
「ありがとう。しばらく使ってないなら、使う前に整備が必要かな?」
 
「ずっと使っているから大丈夫だと思うよ。こないだも1番が秩父霊場の巡礼に使っていたし。でも念のため1度整備させるね」
「ああ、秩父34ヶ所か!あそこは小型バイクか変速機付き自転車って感じかもね」
 
それで青葉は千里と別れて高岡に帰還したのだが、途中の有磯海SAで、神谷内さんから《バイクはお姉さんが持って来てくれた。一応こちらでもお姉さんに御礼言っておいたけど、ドイルさんありがとうね》というメールが入っていたので仰天した。
 
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私が1300ccのバイクで移動している最中に、どうやって250ccのバイクを金沢まで持って行ったのさ!?
 
そういう訳で、千里が借りっぱなしにしていたYZF-R25は、この後、明恵が借りっぱなしにすることになるのである!
 

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MM化学の株主による総会招集の申し立てについて、裁判所は8月23日(金)に社長を呼んで審問を開こうとしたのだが、社長は出席しなかった。それで裁判所は株主側に株主総会の招集許可を出し、9月22日(日)に株主側が招集する株主総会が開かれることになった。
 
そして8月23日、会社は給与を支払わなかった。ストをしている組合員についてはストを開始した8月5日以降の分の給与を支払わないのは当然だが、7月21日から8月4日までの給与は支払う義務がある。また組合員以外は普段以上の負荷で働いているので、当然給与を支払わなければならないが、彼らにも支給しなかった。それでとうとう、全ての社員が出社拒否をして、8月26日(月)以降、会社には、社長の側近以外、誰も出て来なかった。これでMM化学の業務は完全に停止した。
 
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貴司も美映から「会社に行く必要無いよ」と言われ、バスケ部員たちを誘って(千里の許可も出たので)美映と緩菜も連れて、市川ラボに行き、そこで1日バスケの練習をして過ごした。
 
「ここ自由に使っていいの?」
「うん。友人が所有している私設体育館なんだよ」
「ふーん。友人ねぇ」
美映も敢えて突っ込まない。
 
「深夜でも使えるっていいですね!」
と部員たちからは声があがる。
 
「ここはむしろ深夜練習のために建てたんだよ。だから日中は地元の小中学校が来て使う場合もある」
 
実際その日は午後に近くの小学校のミニバスチームが来て練習したので、こちらの部員たちが、ドリブルやパスの指導をしてあげた。
 
千里はあらためて貴司に180万貸し付けたので、貴司から部員たちに20万円ずつ“出世払い”で貸し付けたし、10万円を阿倍子に送金して、残り30万円を自身の生活費(バスケ部の活動費を含む)とさせてもらった。もちろん千里は180万円の借用書を貴司から取った。
 
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8月27日(火)、社長は唐突に株主側の総会と同じ9月22日にそちらとは別の場所で株主総会を開催すると宣言。いまだに会社に出てきている側近の手により株主に通知が送られた。それで2つの株主総会が同日開催されることになった。
 
これに対して株主側は「裁判所によって開催が決定された以上、会社側が招集する総会は無効である」とネットを通して広報した。会社側も対抗して「会社が総会を開くと言っているのだから、こちらが有効であり、勝手に一部の“頭のおかしな株主”(原文ママ)が開く株主総会は無効であると全株主に文書を送った。株主たちは大いに混乱したが、この事件を取材した報道各社は株主側の主張が正しいことを法律の専門家のコメントとして報道した。
 
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MM化学はこのまま倒産するのでは?(あるいは既に倒産したのでは?)という見方が広がる中、思わぬ事態が起きた。
 
9月2日(月)の取締役会で、高縄社長が他の取締役の全員一致により解任されてしまったのである。
 
解任に賛成した取締役の中には、6月の取締役会で新任になった、社長自身の長男も含まれており、社長は思わず「息子よ、お前もか!」と叫んだらしい。
 
本人は
「息子と言われるのも面倒だから娘になろうかな」
と言ったとか言わなかったとか。
 
高縄社長の失敗は、何よりもメインバンクを怒らせたことである。それで資金が調達できなくなってしまった。また同時に“報復人事”によって大量の退職者を出し、業務が麻痺した。銀行が協力してくれないので、工場生産に必要な材料の仕入れ費を確保するため7月上旬支給予定のボーナスを凍結したが、これが更に離職を促し業務が停滞する。納期遅れによって納入先から違約金を請求され、ますますお金が無くなり、ついに給料まで払えなくなってしまった。怪しげな金融業者からお金を借りて何とか材料費の購入や、輸入代金に充てるが、利子が高すぎて、更に自分の首を絞めることになってしまった。
 
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春花(3)

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