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■春からの生活(28)

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4月下旬。★★レコードの村上社長は面白くない顔をしていた。
 
腹心の滝口が主催する戦略的新人開発室からの初の売り出し成功となったフローズンヨーグルツはデビュー曲こそゴールドディスクとなったものの、2枚目のCDは売上198枚というあまりにも悲惨な状況であった。
 
「なんでこんなに酷い売上げなの?」
と滝口を呼んで訊く。
 
「すみません。やはり曲が悪かったと思います」
「1枚目と違う作曲家だったんだっけ?」
 
「はい。1枚目はマリ&ケイの曲と、東郷誠一先生の曲だったのですが、今回、どちらも時間が取れないと断られて、コンペで募集して、凄く良い曲でこれならマリ&ケイにも負けないと思ったんですが、ダメだったようです」
 
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「ケイちゃんも東郷さんも忙しいの?」
「今、上島雷太先生の不祥事で、上島先生が謹慎になって、先生が書いていた曲が使えなくなったため、多数の作曲家がその補填に動員されているんですよ」
 
「上島って有名な作家?」
 
滝口は上島雷太を知らないのか〜!?今の騒動を知らないのか〜〜!?と叫びたくなったものの、ぐっとこらえて、
 
「それでケイちゃんも上島先生のカバーをするため、頑張ってたくさん曲を書いているようなんですよ」
と滝口は言う。
 
「へー。そんなにたくさん書いていたら、同じような作品が出来たりしないの?」
と村上は何気なく言った。
 
「どうしても似た作品はできると思いますよ。音の組合せは有限ですから、似たものができるのはやむを得ないです」
 
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滝口が帰ってから、村上社長はしばらく考えていたが、ポンと左手の掌を右手の拳で打つと、秘書を呼んで宇都宮プロジェクトの電話番号を調べさせた。
 
1時間後、須藤美智子とマキが神妙な顔をしてやってきた。
 
「ちょっと僕は心配しててね」
と言って村上は話を切り出した。
 

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その日の夕方、須藤とマキはケイのマンションを訪れて言った。
 
「冬、大量に曲を書いているんだって?」
と須藤が言う。
 
「ええ。上島先生の代理なんですよ」
とケイが言うと
 
「あれ?上島先生だったの?上原とか聞いたんだけど」
 
誰それ?とケイは思う。
 
「★★レコードの社長からその話を聞いてさ、それで社長は心配していたのよ」
「はい?」
 
「そんなハイペースで曲を書いていたら、うっかり過去に発表した曲とか、誰か他の作曲者が書いたのと似た曲ができたりしないかって」
 
「はあ」
「だから、私とマキでチェックしてあげるよ」
 
それ、迷惑なんですけど〜!?とケイは思った。
 
しかしふたりは勝手にチェック作業を始めてしまった。ローズクォーツの他のメンバーや今年の代理ボーカルの透明姉妹にも「過去に似た曲が無かったか、見てほしい」といって、ケイが書く曲を見せる。更にはFM局の元DJ島原コズエまで雇って、彼女にもチェックさせた。
 
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それまで3日に2曲くらい書いていたケイの生産がピタリと止まる。
 
書いた曲がほとんどこのチェックによってはねられてしまうのである。
 
この事態を最初にキャッチしたのは★★レコードの佐田副社長であった。佐田は村上社長の秘書の中に潜り込ませているスパイから、村上が須藤たちに変なことを吹き込んだことを知り、これはまずいことになるのではと思った。
 
そして「上島代替作戦(Ueshima Divert Mission)」の管理をしている◇◇テレビの“UDM”本部に照会すると、実際ケイの作品がここしばらく全くあがってきていないことを知る。
 
佐田は雨宮三森と連絡を取り、都内のSMクラブ!?で密会した。そこを雨宮が指定したのである。嬢には充分な報酬を渡して席を外させ、2人で密談する。
 
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「私はあんたが嫌いだし、あんたと話すことなど無いんだけどね」
と雨宮は不快そうな顔で言う。
 
「嫌われているかも知れないが、それより事は重大なんだよ」
と佐田は言った。
 
「ところで、こういう所、雨宮さんは好きなの?」
「よく利用してるよ。何なら、ふたりでプレイしてみる?私はSもMも行けるよ。某所で噂になっていたけど、佐田さん女装が好きで入れられるのも好きだとか」
 
「好きな訳ではないが宴会の席で女装したことは否定しない。それより本題なんだけど」
 
と言って、佐田副社長は雨宮に村上社長が須藤たちに指示した内容を説明。実際に須藤たちのチェックでケイの作品が全部はねられているようだ言った。
 

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「村上さんは日本の音楽業界を潰したい訳?」
と雨宮は呆れて言う。
 
「村上はお金の計算しか分からない男なんだよ」
と佐田は言う。
 
「これお金の計算にも影響が出ると思うけどね」
と雨宮は言って腕を組んだ。
 
「分かった。これは何とかする。でも佐田さんも、動いてよ」
「何をすればいい?」
 
「村上さんには自分のおもちゃで遊んでいてもらおう。考えたんだけど、1970年代くらいのアイドルが歌った歌でさ、フローズンヨーグルツに歌わせることができそうな曲をみつくろって、韓国か台湾あたりのミュージシャンに依頼して焼き直しさせてさ、あてがってよ。滝口はセンスが悪すぎるんだよ。こないだの曲はコンペまでやって、なぜこんな曲を選ぶ?と思ったよ。佐田さんが介入すれば何とかなると思う。今国内のミュージシャンは全員上島代替作戦で忙しいから、外国のミュージシャン使うしかない」
 
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「分かった」
 
「滝口が邪魔だから、極秘司令か何か出して1年くらい外国に飛ばそうよ。滝口が飛ばされると、多分明智が戦略的新人開発室の責任者になる。彼女の方がまだセンスがいい」
 
「よし。そのあたりも何とか工作する」
 
「マキたちの方は私に任せて」
「頼む」
 

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それで結局滝口は佐田からうまく乗せられた村上の司令で、しばらくアメリカのアイドルシーンを研究してくるという仕事を渡され、アメリカに旅立っていった。予想通り、明智が戦略的新人開発室の室長代理として、フローズンヨーグルツを管理することになった。彼女は昨年滝口が癌で入院した時も、短期間ではあるが戦略的音楽開発室の室長代理を務めたのである。
 
一方、雨宮はローズクォーツのタカを呼び出した。
 
「どういうご用件ですか?」
「喜べ。タカ子ちゃんの性転換手術を予約してやったぞ。料金も払い込んだから」
「それは雨宮先生が受けて来てください」
 
「まあ本題を言うと、今マキたちがやっていることをやめさせるかあるいは無効にさせようということなんだよ」
 
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と言って雨宮は趣旨を説明した。
 
「私もこれはただケイの邪魔をするだけのプロジェクトではないかと思っていました」
 
とタカは言う。
 

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それでタカはまずサトとヤスに話をし、更に透明姉妹、そして島原コズエにも話をして、取り敢えず『過去のケイ自身の作品』はチェック対象外にすることを決めた。
 
「私もこれは不要なチェックでは思っていました」
と島原さんも言った。
 
「他の作曲家の作品との類似だけをチェックすればいいよ」
とサトが言う。
 
「須藤さんとマキには内緒で」
 
「須藤さんもマキも物わかりが悪い。過去の作品と似てないか確認するのは必要だと言って、絶対譲りませんよ。だからチェックの作業自体を無効化するしかないと思う」
とヤスが言う。
 
「須藤さんたちは過去のケイの作品をデータベース化して、それで類似チェックしてるようなんですが、どうします?」
 
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「その件、醍醐先生に頼めませんか?あの人ソフトハウスに勤めているんでしょう?」
とサトが言った。
 

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それで5月中旬、雨宮・タカ・千里の三者会談が開かれたのである。
 
この会談に実際に出て行ったのは千里Bつまり千里に扮した《きーちゃん》である。話を聞いた“千里”は、そのパソコンにウィルスを仕込むと同時にデータベースを破壊して、チェックがほぼ無効になるようにすると言った。
 
タカが持って来たディスクのデータを見て“千里”は1日でウィルスを作成し、また破壊したデータベースをタカに渡した。タカはそのウィルスをチェック用のPCに感染させるとともに、破壊したデータベースをPC本体のデータベースに上書きした。これが5月14日(月)のことであった。
 
それで須藤とマキによるチェックは無効になり、それ以降ケイが書く作品は一切チェックに引っかからなくなったのである。須藤は
 
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「最近はちゃんと自己チェックできているみたいね。過去の作品と似たものは全然発生してないよ」
などとケイに話して、ご機嫌な様子であった。
 
そういう訳で半月ほど生産が止まっていたケイの作品もどんどん提供されるようになった。ケイ自身もどうやらチェックがソフトのバグか何かで無効になってしまったようだと気付き、自分の過去の作品をどんどん再利用し、歌詞だけ新たな歌詞に置換したりして、提供するようにした。これでケイの負担は飛躍的に軽くなった。
 

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信次の名古屋支店への異動辞令は本当は4月2日付けで出ていたのだが、腫瘍の手術があったので延期され、ゴールデンウィーク明けの5月14日(月)から名古屋支店の勤務となった。
 
Jソフトで千里を演じ続けていた《せいちゃん》はその14日に何とか仕事のケリをつけて退職した。14日にみんなに送別会をしてもらった。その後《せいちゃん》は《きーちゃん》が確保してくれたホテルに入り、丸2日眠り続けた!
 
《きーちゃん》からは1ヶ月くらいのんびりと過ごすといいよと言われ、結局、宮崎の青島海岸のホテルに移り、ここで6月頭まで休んで体力の回復をはかった。
 
一方千里1は5月14日までは千葉のマンスリーマンションでひたすら曲を書き続け、5月15日(火)に名古屋に移動して、やっと信次の新妻となった。それでやっと信次との《新婚生活》が始まることになった。
 
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「ごめんねー。これまで全然奥さんできなくて」
「うん。これからのんびりと末永く一緒にやっていこうよ」
 
もっとも千里は作曲依頼が大量に来るので、毎日信次を朝会社に送り出したら、日中は名古屋市内に青葉が確保してくれた作曲作業用のマンションに移り、夕方まで作曲作業を続けた。
 
そして夕方からは、毎日、同じ区内の体育館で活動しているクラブバスケットチームの練習に参加させてもらった。旧知のバスケット選手がいて誘ってくれたのである。
 
「惜しいなあ。レッドインパルスの籍から抜けているなら正式加入して欲しい」
「いや、これだけの実力があったら、レッドインパルスが手放す訳が無い」
とチームメイトたちは言っていた。
 
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この時期はまだWリーグのレギュラーシーズンが始まっていないので、彼女たちはレッドインパルスに居るはずの千里がここにも居ることには気付かなかった。
 
練習が終わるのが20時くらいで、千里はそれから買物をして帰宅し信次が帰るのを待った。
 
信次は忙しいようで、帰宅はだいたい23時過ぎであり、それから一緒に食事をしていた。また、土日はだいたい土曜日の朝8時に出勤していき、その日は会社に1泊して日曜日の夜23時に戻ってくるパターンだったので千里はその土日を利用して東京に出て行き、作曲関係や、40 minutesの運営関係などで打合せその他をしていた(結局新幹線は定期券ではなく回数券を使うことにした)。
 

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信次は5月25日(金)、6月25日(月)の給料日には、千里に
 
「お給料出たからこれ生活費」
と言って、現金で20万円を渡した。
 
千里は「お疲れ様〜」と言って、そのお金は名古屋に来てから作った尾張銀行の口座に入金したものの、全く手をつけなかった!
 
お金に余裕のある千里は、別に信次の給料に頼る必要は無かったのである。
 

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信次と千里は平日の夜は一緒に寝て、することはしていたが、基本的に千里が男役で、信次が女役なので、千里はこれはこれなりに面白い気がしていた。
 
「千里ちゃん、まだ男の子だった頃、女の子とセックスしたことあるの?」
「ないない。私はセックスでは女役しかしたことないよ」
「へー、徹底しているんだね。でも男役もわりとうまいよ」
「そうかな」
 
桃香からは「下手くそすぎるから男は首。女になれ」って言われていたけどなあ、と千里は思った。
 

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「そうだ。生まれてくる赤ちゃんの名前、どうしようか?」
と千里は何気なく訊いた。
 
代理母さんからは毎日「今日の胎児ちゃん」というレポートメールが入っている。この時期、千里も信次もその子の成長を楽しみにしていた。
 
「そうだなあ、男の子なら幸祐、女の子なら由美だな」
と信次は言った。
 
「どんな字?」
と言うので信次は紙に書いてみせる。
 
「何か由来があるの?」
「昔かなりハマりこんだゲームの主人公の標準名が、男の子を選ぶとコースケ、女の子を選ぶとユミだったんだよ」
 
「へー!ゲーム由来か」
「いけないかな?」
「ううん。いいと思うよ」
 
と言って、千里は信次が書いた紙を自分の財布の中にしまった。
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