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■春からの生活(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-01-01
 
全日本が終わって1軍・2軍ともに練習が再開された1月9日。
 
午前中に横浜市郊外の練習場にやってきた千里(千里1:登録名66.村山十里)は、新年のささやかな祝いの会の後、2軍コーチの山笠真美に言った。
 
「実は不本意ながら3月17日に結婚することになりまして」
「え?そうなの」
「それで大変申し訳無いのですが、3月いっぱいで退団させて頂けないかと思いまして」
「それは世間が許さん」
 
それで少し話し合った結果、籍は置いたままにして休部ということにしないかということと、休部中でも時間の取れる時はいつでも出てきて「体慣らし」でもするといいといった線でまとまった。
 
千里1(十里)はいつものように午前中2軍のみんなと一緒に練習して帰っていったが、その練習の間に山笠コーチは1軍のスタッフに連絡して、千里の「結婚問題」について協議した。
 
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13時頃、川崎の1軍練習場に千里(千里3:登録名33.村山千里)がやってくる。コーチが千里を別室に呼んで尋ねた。
 
「村山君、君、結婚するんだっけ?」
と松山ヘッドコーチが訊く。
 
「え?結婚ですか?特に予定は無いですが」
 
松山ヘッドコーチと黒江アシスタントコーチは顔を見合わせる。
 
「ここだけの話さ、千里ちゃん、細川さんとの関係はどうなってるの?」
と黒江コーチが訊く。
 
2人の関係はマスコミなどには漏れていないものの、球団関係者にはかなりバレている。
 
千里はため息をついて答えた。
 
「何も変わっていません。不倫状態になっているのは不本意なんですが、個人的には私こそが細川貴司の正妻だと思っています。一応セックスは控えていますが、細川とはだいたい2ヶ月に1回くらいは会ってます。実は12月23日にもデートしました」
 
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(美映が妊娠に気付き貴司に連絡を取ったのはその翌日24日である)
 

「クリスマスデート?」
 
「本来私と彼は2012年12月22日に結婚式を挙げる予定だったんです。ですから毎年その前後には必ず会って、結婚できなかった記念日デートするんですよ」
 
「面白いことしてるね」
 
「今年は5年目木婚式だったので、木製品を贈り合いました。シャンパンで乾杯して、豪華なディナーを食べます。ホテルのお部屋も取ってそこで一緒に過ごしますけど、セックスはしません」
 
「ホテルで会うのにセックスしない訳?」
 
「はい。現在の法的な奥さんときちんと別れるまではセックスやキスは拒否と言っています」
「微妙なことしてるね」
 
「食事の後はだいたい予約していた体育館に行ってバスケの手合わせをします。それからホテルの部屋に戻ってシャワーで汗を流した後、同じベッドに入って一眠りしますが5cm以上身体を離して、タッチは禁止です」
 
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「高校生カップルみたいだ!」
「彼が勝手にひとりで逝くのは黙殺しますけど」
「あははは」
 

「じゃ彼との結婚の予定は無いのね?」
「何とか奥さんと別れてもらって私と結婚して欲しいんですけどね。でも無理矢理破壊することはしません。私、結構奥さんとも仲良くなっちゃったし」
「へー!」
 
「だからあくまでドロップキャッチ待ちです。どっちみち奥さんはそのうち浮気者の彼に愛想が尽きると思うので。とにかく年に5回は浮気してますからね」
 
「村山君はそういう彼に愛想を尽かさないの?」
「まあ腐れ縁ですしね。それでもう15年やってきてるし」
 
と言って、千里は自分のアクオスに取り付けている金色のストラップを見せる。
 
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「これは私たちが2007年1月13日に内輪の結婚式を挙げた時以来の記念ストラップなんです。傷んできて1度代替わりしてますけどね。彼はたくさん浮気して、現在は別の女性と法的な婚姻状態にはありますけど、このストラップを自分の携帯にずっと付けたままでいてくれるんです。それが彼の私への愛の証だと思っています」
 
「それでも彼は他の女性との結婚生活を続けているんだ?」
 
「これ、彼のお母さんと話したことあるんですけど、法的な奥さんは大阪の妻、私は東京の妻、という感覚なのかも知れません」
 
「ああ、そういう人はたまにいる」
と黒江ACは言う。
 
「じゃ村山君は4月以降もうちのチームに居てくれるね?」
と松山HC。
 
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「もちろんです!ちょっと今シーズンは少し不本意な成績だったのですが、この後もプレイオフ頑張りますので」
「うん、よろしく」
 
と言ってコーチたちは千里と握手した。
 
そういう訳で、レッドインパルスの首脳陣は“村山十里”が言い出した結婚というのは、十里の脳内妄想なのだろうと判断した。
 

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2月20日、船橋市のE学院二次募集が発表されたので、西湖はすぐに願書を提出した。試験日は3月10日(土)である。更に22日には浦和のB学園も二次募集が発表された。こちらもすぐに願書を出した。試験日は3月17日(土)である。
 
更に26日になって、ワルツから横浜のG高校も二次募集を発表したよという情報を教えてもらった。ここも芸能人の生徒が3学年で15人くらい居るらしい。確認するとこちらは試験日は3月19日(月)である。
 
今回、高校入試の件については、ワルツに随分支援してもらっている。コスモス社長からも心配して、3月いっぱいはアクアの代理は白鳥リズムや姫路スピカにやらせるから、あんたは入試に集中しなさいとも言ってもらった。
 
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3月10日、西湖は船橋に行き、E学院の試験を受けた。ここにはセーラー服こそ着なかったものの、セミロングのウィッグを付けて行った。2月に少し髪を切っているので今の髪は女子と誤解された場合、短すぎると思われてしまうのである。男子と思われた場合は長すぎると思われる危険があるが、今の時期は受験勉強が忙しくて切りに行けなかったと言い訳できると考えた。このあたりもワルツの助言に基づくものである。
 
「結局、西湖ちゃんは女顔で雰囲気も優しいから、男装していても女子の男装と思われてしまう。しかも名前がセイコだし。願書の性別で男に丸を付けていても虚偽申告と思われる危険さえある。だからむしろ女の子っぽい服の方が無難。それで性別で男に丸が付いている場合は単純ミスと思ってもらえる」
 
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などとワルツは言っていたが、それって自分の人生を考え直した方がいいのだろうかと悩んでしまう問題である。しかし取り敢えず自分は何とか高校入試を乗り越える必要がある。性別問題は合格してから考えればいい、と開き直ることにした。もっとも西湖は自分の性別問題に悩んでいるアクアとは違って、女の子になりたいような気持ちは全く無い。
 
ここの2次募集の入試は午前中小論文で午後から面接である。小論文のテーマは「日本の景気を良くするには」という壮大なものであるが、西湖は日頃感じていることを織り交ぜてけっこう大胆な提案を書いてみた。
 
午後から面接になる。これはグループ面接である。受験生がそもそも20人しかおらず4人ずつ5回で実施された。
 
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小論文と面接での試験というのは、ほとんど人物を見るんだろうなと思った。その場合、おそらく試験官の好みの影響が大きい。ほとんど抽選に近い入試ではという気もした。
 
結果は落ちていた。
 
ここは仕方ないなと思った。
 

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3月15日(木)は中学の卒業式であった。それで卒業証書はもらったものの、この時点で行き先の決まっていないのは西湖だけである。先生が心配して
 
「どこかの2次募集の話があったらすぐ報せるから」
と言ってくれた。
 
ただ西湖の場合、どこでもいいから入ればよいというものではなく、芸能活動を容認してくれる高校でないとまずいので、そこが問題なのである。西湖はこの時期、いっそ高校進学を断念しようかというのも悩んでいた。そのことを先生に言うと
 
「その場合、フリースクールに通って、高校卒業程度認定試験を受けることを考えなさい」
と言われた。フリースクールの資料も探して渡してくれるということだった。
 
もっとも芸能活動で無茶苦茶多忙な3年間を送ることになるであろう西湖には高校卒業程度認定試験なんて、まず通る訳が無いと思われた。
 
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17日には浦和に行きB学園の試験を受けた。この試験には西湖は開き直って、セーラー服で出かけた。
 
ここは音楽科の二次募集で、試験は英語・国語・音楽であった。
 
西湖は英語と国語はかなり悲惨な状況、特に英語は白紙に近い状態だったものの音楽の試験に賭けた。聴音・楽典問題などを解いてから、実技がある。ピアノまたはキーボード演奏は予め呈示されていた5つの曲の中のひとつをその場で指定されて弾くというものである。西湖はピアノの方が好きだなと思い、ピアノを選択。ちゃんと5つとも練習していたので問題無く弾けた。西湖は学校の勉強はしていなくても音楽のレッスンは欠かしていないので歌もピアノ・ギターもうまいし、楽典にも強い。その後、初見歌唱になる。渡された楽譜をその場で歌う課題である。西湖は最初の音だけもらい、ソプラノでしっかりと歌った。試験官が頷いているので「あ、これはいい感触」と思った。
 
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午後からは面接だが個別面接であった。セーラー服を着ているのでトイレも女子トイレを使用した。受験生は8人で、西湖以外全員女子(に見える)だが、西湖も女子に見えるから、全員女子と思われているだろう。
 
西湖は最後に名前を呼ばれて面接を受けた。
 
この面接がひじょうに時間が掛かった。それ以前の子たちはみんな5-6分程度でひとりだけ15分掛かった子がいただけなのに、西湖の面接は30分近く掛かった。
 
今している芸能活動の内容も詳しく訊かれたし、その場でアクアの曲の一節を歌ってみせたりもした。また住所が桶川市なので通学についても訊かれたが、自宅から電車で通えると思うと答えた。他に年収まで聞かれた!
 
面接の最後は笑顔で終わった。
 
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この学校は西湖としても割といい感触があったので結構期待していた。
 
しかし翌日の合格発表を見ると落ちていた。
 
結構ショックだった。
 
ワルツは
「募集定員が少なくて枠に入りきれなかったのかもね」
と言っていた。
 
「若干名と書かれていたんですよ。受験生も8人しかいなかったのに」
 
「凄く曖昧な表現だけど1人か2人だったのかも。西湖ちゃんの他にも面接の長い子がいたのなら、その子と西湖ちゃんがボーダーラインだったのかもね」
 
「そうか。ボーダーラインだと面接が長くなるのか」
「そうだよ。だから合格寸前だったと思うよ。惜しかったんだよ」
「惜しい所までは行ったのか」
「うん。だからこの調子で残りの入試に賭けよう」
 
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「英語は白紙に近かったけど、音楽の実技はけっこう自信があったんですけどね」
「音楽科受けるような子たちだから、音楽自体の点数は高い子ばかりだろうし、結局英語で差が付いたのかもね」
 
「あぁぁぁ」
 
残る入試はもう横浜のG高校のみである。ここを落とすとマジで行き先が無くなる。
 
中学の先生からはいくつか関東周辺で二次募集のある所の情報を送ってもらったが、芸能活動には困難な所ばかりだった。1ヶ所集団アイドルに所属している子が何人か在籍しているという学校があったものの、高崎なので断念した。さすがに高崎からでは東京での仕事に差し支える。集団アイドルの場合は土日の活動が多いだろうから、高崎でも何とかなるのだろう。
 
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