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■春からの生活(27)

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「私も偽乳付けて撮影したことあるけど、瀬梨香ちゃんが使っていたのは凄く精巧なものだったみたい」
と西湖が言うと
「そうなのよ。80万円くらいしたらしい。壊れやすいから気をつけて気をつけて外したよ」
と瀬梨香は言っている。
 
「凄い。私が使ったのとかは多分8万円くらいのもの」
「いや、8万でも充分良いものだと思う。安いのは2〜3万のもあるみたいだもん」
と瀬梨香。
 
「そういうものがあるならデートする時に付けておこうかな」
などと奈津が言っている。
 
「でもホテルまで行った時やばいよ」
「絶対に取り外さない」
「結婚した後ショックが」
「一生欺し続ける」
「赤ちゃん産んでおっぱいあげる時どうするのさ?」
「うーん。。。授乳している所は絶対に夫には見せない」
 
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「でも私、以前一度外すのに失敗して破いちゃったこともあって」
と瀬梨香。
 
「80万円をやぶくのは辛いね」
「うん。あの時は叱られちゃったよ」
 
瀬梨香がブレストフォームを取り外した状態のバストサイズについてはみんな敢えてコメントしない!
 

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やがてレントゲン車の中に入る。そこで注意があった。
 
「部屋の中に黄色い旗があります。妊娠中の人、あるいは最近セックスしてその後まだ生理が来ていない人など、妊娠している可能性のある人は、黙ってその旗をあげてください。その場合、あたかも撮影しているような声を出しますが、実際には撮影しませんので」
 
「妊娠か・・・」
 
「私たち妊娠する可能性もあるのね」
「そりゃすることをすれば妊娠もありえる」
 
という会話がなされるが、西湖はそのあたりの仕組みがよく分かっていない。ボク妊娠したらどうしよう?などと考えている(どういうことをすれば妊娠するのかも分かっていない)。
 
車の中でやはり下着姿になり、撮影する部屋の中に入ってからブラジャーを外し、機械の所に身体をつけて指示に従い、大きく息を吸って停めて撮影された。
 
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「はい、OKです。ブラジャーを着けて退出して、服を着て帰って下さい」
と言われた。
 
西湖は心電図もだけど、このX線撮影もブレストフォームをつけたままでは無理だったなと思った。
 
そして撮影室を出て車内で服を着ていた時
 
『終わったみたいだね。今夜0時になったら元に戻るから』
という声が脳内に響いた。
 

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西湖はレントゲンが終わって教室に戻った後、「そのこと」がどうにも気になって仕方が無かった。お昼休みにトイレに行った時、それを確認した。
 
おっぱいに触ってみる。
 
『この胸、本物だ』
 
実際指で胸に触ると、ちゃんと触られている感覚があるし、乳首をつまむとちゃんとつままれている感覚がある。
 
そして西湖はパンティを下げて便器に座ってから、おそるおそるあの付近に触ってみた。
 
『このお股も本物だ!』
 
その状態でおしっこをしてみたが、おちんちんが付いている時とは全然違う感覚に驚く。
 
『なんか滝が落ちていくように直接身体からまっすぐ落ちていく感覚』
と西湖は思った。
 
普通ならパニックになりそうな所かもと思ったが、西湖は『0時になったら元に戻る』と言われていたので、結構心に余裕があった。
 
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その日も7時間目まで授業を受けてから事務所の車で仕事のある放送局に行く。迎えに来てくれた桜木ワルツが
 
「今日の西湖は、なんか凄く女っぽい」
と言う。
 
「やはり女子高生生活してると、完全に女の子の気持ちになっちゃうみたい」
「だったら女の子の身体になっても、やっていけたりしてね」
「私、本当に女の子になりたくなったら、どうしよう?」
 
「うーん。その場合は取り敢えず高校3年間は我慢した方がいい。高校卒業してから、1年くらい経ってみて、それでも女の子になりたいと思っていたら、性転換手術すればいいと思うよ」
とワルツは言った。
 
「ああ、やはり冷却期間を置いた方がいいですよね」
「それ絶対必要と思う。後戻りができない手術だからね」
「そうですよね」
 
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その日のお仕事はいつものように22時に終わり、23時前に用賀駅に戻る。
 
普段はここでセブンイレブンに寄ってアパートに戻るのがパターンになりつつあったのだが、今日は少しでも早く帰りたかった。
 
それでどこにも寄らずにアパートに戻った。そしてまず服を全部脱ぐと、鏡に全身を映してみた。
 
「きれーい」
と声をあげる。
 
「女の子の身体ってやはり美しいなあ」
などと鏡の中の自分に見とれている。
 
0時までそんなに時間が無いので、取り敢えずトイレに行っておしっこをした後で、お風呂に入る。シャワーを浴びて、あの付近も石鹸を付けて洗ってみる。なんかこれは不思議な感触という感じだ。お風呂からあがってからその付近をよくよく観察する。
 
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割れ目ちゃんのいちばん手前に少しコリコリしたものがある。これがクリトリスというやつかと思う。触ると結構気持ちいい。
 
おしっこの出てくる所はその少し下の方にある。女の子はクリトリスからおしっこが出る訳ではないというのは何となく聞いていたのだが、実際の様子を見てそれを再認識する。そして・・・・
 
割れ目ちゃんのいちばん奥の所に穴がある。これがヴァギナか。こんな所にあったのかと西湖はやっと「ヴァギナの位置」を理解した。見えにくいので手鏡で見てみる。ドキドキしながら少しだけ指を入れてみると少し入れた所に感じやすい所があるのに気付く。ここは何だろう?と思った。
 
西湖が初めて「実際に触ってみることのできる女体」に陶酔している内に時間はどんどん過ぎていく。もう残り10分なので、もう一度トイレに行って来た。
 
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その後、また色々触っている内にもう残り3分である。なんか名残惜しいなあ。この身体また体験してみたいなあ、などと思う。
 
残り30秒、10秒、5秒となる。ああん、これでもう終わり?
 
と思ったら0時の時報が鳴ったのに、西湖の身体はそのままである。
 

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え?え!?
 
なんで元に戻らないの〜〜〜!?
 
と焦る。
 
まさかずっとこのまま?と思うと血の気が引くのを感じた。
 
やだよぉ、ボク女の子になりたい訳ではないよぉと思っていたら、60秒経過して0:01 になった所で突然男の子の身体に戻った。
 
「わっ」
と声をあげる。
 
ただし男の子の身体といっても、ブレストフォームは貼り付けたままであるし、お股はタックして女の子の股間に偽装したままである。
 
西湖はドッと疲れて座り込んだ。
 
「よかったぁ。男の子に戻れた」
と思わず声をあげた。
 
ボクを助けてくれた人の時計が1分ずれていたのかな?と西湖は思った。
 

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西湖のそんな様子をリモートで眺めていた人物は
 
「ククク。男に戻らなくて焦った時の顔が良かった。また女の子に変えてあげよう。一時的に変えるのはOKと許可ももらったし」
 
などと楽しそうに呟いた。
 
「今回はついでに女性ホルモンも大量に入れてあげたし。何度も女の子に変えてあげていれば、その内きっと自分で、女の子の身体になりたいから睾丸取ってとか、おっぱい大きくしてとか言い出すよ」
 
などと独り言のように言いながら、その人物は自分の仕事に戻った。
 

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2018年4月11日(水).
 
都内のホテルに多数の作詞作曲家が集まった。
 
上島雷太が不祥事を起こして謹慎になってしまったため、彼が書いていた楽曲を歌っていた歌手たちが大いに困っているので、彼ら・彼女らを助けて欲しい、というのが趣旨で◇◇テレビの響原部長が呼びかけたものである。
 
集団アイドルに多数の楽曲を提供している作詞家の月村山斗、上島雷太を除けば多作さでは群を抜いている東郷誠一、ネットでの評価が高い後藤正俊・田中晶星、比較的多作な作曲家として知られる、ローズ+リリーのケイ、スイート・ヴァニラズのElise、山本大左、蔵田孝治、松居夜詩子、吉原揚巻、香住零子、などなど。
 
なかなか高岡に帰れずにいる青葉もここに出席したのだが、千里姉と雨宮派の管理人・新島鈴世さんも来ていたし、あまり公の場に出てくることのない、秋風メロディーや夏風ロビンまで来ていた。
 
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青葉は新島さんの隣に座っている千里をじっと観察して、オーラが弱々しいので1番だなと判断した。
 
響原部長は昨年上島雷太が書いた楽曲は950曲と言い、その内200曲くらいは何とか代替のメドがついており、この機会に引退させる歌手があるので、ここに来てくれたメンバーで何とか500曲ほど書いてもらえないかと頼んだ。
 
950という信じがたい数字にかなりのざわめきが起きた。
 

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∂∂レコードの大倉社長、〒〒レコードの永森社長、%%レコードの吉田社長、★★レコードの佐田副社長、なども窮状を訴えるスピーチをした。
 
現在上島が関わった曲を使用して音源製作を進めていたアーティストがみな代替曲の確保に奔走しており、また既に発売されていたものは全て回収になり大混乱が起きていること、作曲料が高騰していて、何とか発売できても赤字になる見込みのアーティストが続出していること、管理の甘いセミプロ作曲家を動員したことから、盗作問題も出て更に混乱が起きていること、ライブまで中止に追い込まれたアーティストもあること、何も活動ができずに悲鳴をあげている歌手も多いことが述べられる。
 
青葉は現時点でこの事件の被害額は軽く20-30億円を越えているなと思った。
 
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結局今日出席した作詞作曲家が代替できると思われる曲数を提出して、今日の会合は終了した。青葉も10という数字を提出した。
 
あとで聞くと響原部長が言ったメドのついた200曲というのは、過去にリリースされた曲を手直しして出すということである。
 
本来1回リリースした曲は、数年間は他の歌手には歌わせないということが多くの歌手とレコード会社の間で取り決められている。しかし今回はそんなことが言ってられないので、各アーティストと交渉して、今年度に限り再リリースを認めて欲しいと協力を求めた所、現時点で200曲の再利用が決まったらしい。売れた新たな音源の出荷額の0.9%(歌った歌手の取り分と同額)を元の曲の歌手にも払うという異例の処理で何とか納得してもらっているという。
 
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会合の後、青葉は恵比寿のケイのマンションを訪れた。
 
「冬子さんは何曲って出したんですか?」
と青葉は尋ねた。
「200」
「嘘!?」
 
「いやこないだ町添さんと極秘に会ったんだよ。それでうまく乗せられて200曲書きますと言ってしまった」
 
「だって冬子さん、普段でも年間100曲近く書いているでしょ?それに加えて200曲なんて無茶ですよ」
 
「それはそうなんだけど、やはり上島先生には大きな恩があるから、私が頑張らなきゃと思ってね。やれるだけやるよ」
とケイは悲壮な顔で言っていた。
 

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青葉は千里2と連絡を取ってその日の深夜3時 (4/11 19:00 CET = 4/12 3:00 JST) に葛西のマンションで会った。
 
「ちー姉は何曲書くの?」
「千里は20曲と書いたよ」
「1番さんなら、そのくらい書けるかもね」
「うん。あの子は良質の作品が書けなくなっている代わりに、駄作なら量産できる。昨年7月から今年3月までの9ヶ月であの子はひたすら駄作を40個も書いている。だから普段書いている作品に加えて20曲くらいは充分いけるよ」
と千里2は言う。
 
「冬子さんが何曲と回答したか知ってる?」
「200曲」
「無茶だと思わない?」
「ケイなら書ける。でも多分来年以降全く書けなくなると思う」
「何とか回避させようよ」
 
「ひとつハッキリしていることはさ」
と千里は言う。
「そんなに大量に書いていたら、自分が何曲書いたかなんて分からなくなる」
「うん」
「だから実際には100曲くらい書いたのに200曲と誤認させればいいんだよ」
「なるほどー」
「だから残り100を何人かで手分けして書く」
「それなら何とか冬子さんが壊れなくて済むね」
 
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青葉と千里の計画は雨宮先生も巻き込み(千里2は表に出られないので青葉から雨宮先生に接触して提案した)、何人かの作家にケイの名前で書いてもらうことを了承してもらった。この際もう「ケイ風の作品を書く」というのは考えないことにした。明らかに他の人の作品と分かるものであっても、とにかく「ケイの名前」で発表することによって、ネームバリューからある程度のセールスを見込めるし、プロモーション効果があるのである。
 
それで実際に書いてくれたのが、AYA, 百瀬みゆき、大西典香、松浦紗雪、篠田その歌、鈴懸くれあといった、上島ファミリーの面々でこの6人で70曲ほど書いてくれた。また元々、唯一上島さんのゴーストライターをしていた福井新一は頑張ってこの1年間に1人で50曲ほど書いてくれた。これが全てケイの名前で発表される。
 
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また雨宮は地方にある音楽大学の学生さんを動員して、ケイが過去に他の歌手に提供したものの売れなかった曲を、各々の歌手の同意を得て焼き直しの作業をした。これで作成された曲が250曲にも及ぶ。更に“琴沢幸穂”の内、千里3は今年はケイのゴーストライターに専念させることにした。千里3はこの1年間で1人で70曲書いた。それで結局ゴーストライターと再生曲でケイ名義の曲を500曲も調達したのであった。
 
(ケイ名義でこれだけの曲が調達されたお陰で、引退宣告されていた歌手の首がたくさんつながり、その中には長く低迷していた所から復活した歌手もある)
 
ところがケイ本人に物凄い邪魔が入った。
 

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