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■春からの生活(23)

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ホームセンターで買ってきた本棚を父と西湖で組み立て、そこに本を並べた。
 
「お、これは蛍蝶さんの写真集じゃん」
と父。
「静止画でしか、見られないんだよねー」
と西湖。
 
「何度かテレビ中継されたことあるらしいけど、昔のことだからビデオとかも多分無いだろうという話なんだよね」
「昔はビデオ自体物凄く高かったんでしょ?」
「そうそう。だから放送局も放送の時にビデオを使っても、すぐ次の回の放送用に上書きしていたらしい」
 
「逆に今はいつまでも残って困るけどね」
「それは言えるなあ」
 

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「でもここは知り合いの作曲家さんが使っていた部屋ということだったけど、畳も表替えしてあるし、襖もきれいに張り替えてあるし、新築みたいにきれいだね」
と母が言う。
 
「知り合いというか、こないだJ高校の面接に付き合ってくれた人だよ」
「ああ、あの人か!でもお金持ちそうなのに、随分安っぽい所に住んでいたんだな」
「そういえばそうだね。だけど畳や襖はそのままでも良かったと思うんだけど、きれいにしてくれたみたい」
と西湖。
 
「このアパート自体、建ってまだ7-8年って感じだ」
と父。
 
「ここ1階3室、2階3室だけど、他の部屋には住人さんは居ないのかしら?」
「うん。他は空き室らしい」
「駅から割と近いのにね」
 
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「でも前回来た時も思ったけど、ここ凄く気持ちいいんだよね」
「俺もよく崇敬されている神社みたいな気持ちよさだと思った」
「その玄関入ってすぐの所にある梵字みたいなのはその作曲家さんの忘れ物?」
「いや、その梵字とそこの奥にある桐の箱に入った鏡だけ置いておいてくれということだったんだよね。ここは伏見稲荷とつながっているんだって。だから私はここの巫女みたいなものかも」
 
「へー!変な宗教は困るけど、伏見さんなら問題ないだろうね」
「お供えとかはしなくていいの?」
「何もしなくていいって。ただセックスは禁止らしい」
「まああんたはしないだろうね」
「私、そのセックスというのが実は分かってないんだけど」
 
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と西湖が言うと両親は顔を見合わせていた。
 
「何なら実演して見せようか?」
と母は言った。
「ここではダメ!」
と西湖は言いながら、やはりうちの両親って絶対変だと思った。
 

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母と西湖(もちろん女装)で近くのスーパーまで買物に行き、数日分の食材のほか、冷凍食品やレトルト、乾燥食品などを買っておく。
 
「まあ非常食に」
「うん。スーパーが開いている時間に帰ってこられない日が多い気がするし」
「時間の取れた時に買いだめしておいた方がいいよ」
「そうする」
 
「らでぃっしゅぼーやとか頼む?」
「何だっけ?」
「野菜を宅配してくれるのよ。らでぃっしゅぼーやのいい所は詰め合わせのセットで送ってくれることで、こちらがいちいち考えて指定しなくていい」
「あ、それいいかも」
「じゃ手配しとくね。ここ宅配ボックスもあるから受け取れるだろうし」
 
その日は今日買ってきたホットプレートを出して焼肉をして3人で食べて引越祝いとした。
 
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両親は21時頃帰っていった。西湖も疲れが溜まっているので22時には灯りを消して寝た。
 

日付が変わって4月4日。
 
“彼”はそっと102号室に侵入した。
 
西湖の真新しいS学園ロゴ入り通学リュックを開けると、その中から茶色の封筒を取り出す。中に入っている紙を取り出し、取り敢えず1枚は戻す。残った2枚を並べて“彼”は
 
「どちらにしようかな、てんのかみさまのいうとおり」
と言って
「こっち!」
と言って1枚を選び、もう1枚は封筒に戻した。
 
「じゃ女の子に1歩近づこうね」
などと言うと、楽しそうに布団をめくり、ネグリジェの裾をめくり、パンティも下げてお股を露出させる。
 
ここまでの行動はまるで強姦魔だ。
 
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「上手に偽装してるなあ。まるで本物の女の子の股間みたいだ」
などと言って、タックを解除しようとした。
 
が、
 
「へ?」
と声を出してしまった。
 
どうもその股間は偽装ではなく本物のようなのである。
 
「嘘!?西湖ちゃん、いつの間に性転換手術しちゃったの?」
 
と彼が呟いた時、寝ている人物は“彼”の腕を掴むと物凄い力で投げ技を掛けた。
 
“彼”は半回転して畳に叩き付けられる。そして寝ていた人物は“彼”の上に馬乗りになると、片手で首を押さえつけた。そしてもう片方の手で“彼”のズボンのベルトを切ってしまう!と、いったんその付近を強打する。
 
「ぎゃっ」
と思わず声をあげて悶絶する。
 
“彼”はあそこに何か鋭い金属製のものが当てられたのを認識する。
 
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「今のは軽く打った。次は潰れるくらいに打とうか?それともこれを切り落とした方がいいか?」
と“彼”のよく知っている声で言われた。
 

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「千里!?そんな馬鹿な」
 
「私の腕力を知っているだろ?男の睾丸くらい握り潰すぞ」
 
“彼”は姿を変えて逃げようとした。ところが変身が掛からない!?
 
「我が息子の領域で勝手な真似はさせん」
と千里が言う。
 
ハッとして“彼”は横を見た。そこには京平が立って厳しい顔でこちらを見ている。そうか。これは京平の力か!?なんてパワーだ!
 
「誰の指示で動いている?言え、浮羽小碓(うきは・こうす)よ」
 
“彼”はギョッとした。そんな馬鹿な、それは誰も知らないはずの“彼”の《真名(まことのな)》である。
 
「申し訳ありませんでした。これは誰かの指示ではありません。私の勝手な趣味です」
「虚空の指示でもないのか?」
 
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またギョッとする。虚空さんとつながっているのもバレてた!?
 
「本当に違います。私ただひとりの行動です」
 
「喉仏を取ったのはお前か?」
「すみません。それについては言えません」
「ふーん。あの人がやったのか?」
「勘弁して下さい。言えないんです」
 
まあ守秘義務を守るのは感心なので、それ以上は追及しない。
 
「J高校を辞退させたのはお前か?」
「はい、私がやりました」
「私がせっかくJ高校に入れるようにしてやったのに。あれで私もカチンと来たぞ」
「あれ千里がしてあげたの?知らなかった!ごめんなさい」
 
と言いつつ、そんな馬鹿な。あの時期、千里はハワイに行っていたはずなのに、と思う。
 
「S学園に受け入れてもらえるよう、女の子に興味が無いかのように性格検査を改竄したのもお前か?」
「はい。私がやりました」
「まあよい。そうしないと、あの子は行き先が無くなっていたからな」
「そうなんですよ」
 
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「しかしお前、同じ手法で去年は竹西佐織も女に変えただろ?」
「申し訳ありません」
「ずっと前には鹿島信子を女に変えて、あれは大混乱になったし」
「ごめんなさい。あれは少し反省してます」
 
“少し”反省してると言う所がいかにも“彼”らしい。千里は“彼”がもう抵抗する意思が無いのを認識すると、立ち上がって“彼”を解放した。“彼”は起き上がると、千里の前に土下座した。
 
「数々の勝手な行動、大変申し訳ありませんでした。どんな処分にも甘んじます」
と勾陳は言った。
 
「では以後、私に従え、紹嵐光龍よ」
「はい、従います」
 
「じゃ、美鳳さんの眷属で勾陳として千里に貸し出し中というのと、私の直接の眷属の兼任ということで」
 
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と千里はシーリングライトを点けた上で、普段の口調に変えて言った。
 
「京平もお疲れ様、これお駄賃ね」
と言って、千里は京平にシュークリームをあげる。
「わーい、これ大好き」
 
「京平。ついでにこれ、ママが読む雑誌のページの間に隠しといて」
と言って1万円札を渡した。
 
「うん。ママ、わりと何でもその付近にあるもの本に挟む癖あるんだよねー」
と京平も言っていた。
 
それで京平は帰っていった。
 

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「でもでも、千里、今夜は仙台に行ってたんじゃなかったの〜?もしかして、貴人か誰かに転送してもらった?」
と《こうちゃん》は戸惑うように言う。そしてハッとした表情になる。
 
「これは・・・千里ではない?今の千里がこんな凄まじいオーラを出せる訳が無い」
 
「君が美鳳さんの指示で守護している千里は仙台だよ。そもそもあの子は霊感を失っている」
 
「じゃ、あなたは誰?」
「私も千里だよ。千里は100人いるんだよ。知らなかった?」
 
「うっそー!?」
「まあ嘘だけどね」
 
「うっ・・・」
 
「実際には3人だよ。仙台に行ってる千里が1番、私が2番、川崎のマンションに住んでいる千里が3番。これ3番の住所。津田山駅の近くだから。何かあった時は助けてやって。3番にはちゃんと君が見える。但し3番は自分があと2人いることを知らないから言動には気をつけて」
 
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と言って、千里2は川崎のマンションの住所を書いた紙を渡す。
 
「最初から3人いたの〜〜!?」
「去年の春に落雷に遭った時に3つに別れてしまったんだよ。でも別れていなかったら、私はもう死んでいたね。1番が死んだのを私と3番で協力して蘇生させたからね」
 
「そうだったのか・・・・」
 

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「あまり勝手な性転換はしないように」
「でもこれ私の趣味なんですよ〜」
 
「女の子になりたがっている子はたくさんいるんだから、その意志の無い子まで勝手に変えちゃダメだよ。鹿島信子はうまく女の子として適応したけど、適応できない子もいるよ」
 
「そうですか?でも男にしてしまうにはもったいないような可愛い男の娘を女の子に変えてあげたいんですけどね」
 
「本人の意志を確認してからにしなさい。取り敢えず西湖の身体を勝手にいじるのは許さん。本人が変更を望んだ場合は私がその時に考えてから指示を出す」
 
「分かりました」
「その手術同意書は私が回収する」
 
「はい」
と言って《こうちゃん》は湖衣が書いた3枚の手術同意書と封筒を千里に渡した。千里は同意書を封筒に入れると、自分のバッグにしまった。
 
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「竹西佐織も元に戻しますか?」
「あれはそのままでいい。あの子は女の子になりたがっていたし、そもそも彼女の男性器は他で使ってしまっているだろ?」
 
「実はそうなんですけどね。でも男性器くらい、いくらでも調達してきますけど」
 
それって誰かから取っちゃうんだろうな、と千里は思う。
 
「黙認していたけど、長野龍虎にも色々干渉しているだろ?」
「あの子は私が関わってないと過労で倒れていたので」
「うん。それについては私があらためて指示する。あの子を守ってやれ」
「はい。指示を承ります」
 
「あの子の男性器って実はそろそろ治療が終わってないの?」
「すみません。実は終わってますけど、あの子は中性のままで居たいようなので」
「でももうあの子たちも高校2年生だからね。睾丸は保留してペニスだけでも返してやったら?」
 
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「ああ、それでもいいかな。あれ?『あの子たち』って、龍虎の分裂にも気付いてました?」
「当然」
 
「あれれ?もしかして千里が分裂したから龍虎も分裂したとか?」
「関連はあるだろうけど偶然の要素もあると思う。あの子は3つの性別を生きたいと思っていたんだよ。分裂できたのは命の水の持つパワーだろうね」
「その件は私と千里しか知らないことですね」
 

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「だけどさあ、マジで西湖に3年間女子高生生活をさせるの?」
と千里は行った。
 
「あの子は、充分女の子で通せると思いますよ〜」
と《こうちゃん》は言う。
 
「まああの子は女の子と話すのに緊張しないし、女の子の裸や下着姿程度では興奮しないしね」
「だから女の子になれる素質あると思うんですけどね〜」
 
「あの子ってオナニーするんだっけ?」
「最近はほぼ常時タックしてるから、普通の男の子みたいなオナニーができないんですよ。しかもタックでちんちんは肌に固定されているから、そもそも勃起ができない。勃起させようとすると激痛が来ますよ」
 
「それって辛くないの?」
「龍虎の影武者を始めた頃はかなり辛かったみたいですけど、今はもう平気になってしまったみたいですね」
「それって将来、EDになったりしない?」
「別にEDでもいいんじゃないですか?精子は保存してあるんだし」
 
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千里も少し考えたが
「まあ、いいかもね」
と言った。
 
「だったら、睾丸取ってもいいですよね?」
「ダメ」
「はーい」
と《こうちゃん》は気の無い返事をした。
 

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「でも睾丸が働いていると辛いと思いますよ。睾丸取らないのなら、女性ホルモン投与してホルモンニュートラルにしておきません?」
 
「胸が膨らんで来ない程度にコントロールできる? 胸が大きくなってしまうと、龍虎Mの影武者ができなくなっちゃうから。龍虎のホルモン状態は青葉が精密にコントロールしてるけど、あんた青葉みたいにマメに制御できないでしょ。いいかげんな性格だもん」
 
と千里が指摘すると《こうちゃん》は頭を掻いている。
 
「だったら、いっそ龍虎もおっぱい大きくしましょう。あの子は間違い無くおっぱい欲しいと思ってますよ」
 
「それはダメ」
「はーい」
 
「でも西湖の男性ホルモン量を減らす程度はいいよ」
「そうしましょう、そうしましょう。男っぽい体つきになったら、将来女形をやる時も障害になりますよ」
 
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その夜の話し合いは明け方近くまで続いた。
 
「じゃそういう時はしてもいいですね」
「まあいいよ。逮捕されるのはまずいから」
「了解しましたぁ」
と《こうちゃん》は楽しそうである。
 
5時頃
「そろそろ西湖が目覚めるかも知れないから、ここに戻そう」
と言って、千里は《こうちゃん》と一緒に部屋を出る。その後に《きーちゃん》が葛西のマンションで寝ていた西湖を転送した。
 

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