広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■春からの生活(12)

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3月19日(月).
 
天月西湖は母が作ってくれたお弁当を持って、早朝からJRと東急、更にJRと乗り継いで横浜市内のG高校まで出て行った。このルートは先日2度も受験会場の最寄り駅として利用した用賀駅を通過する。西湖は駅のホームを見ながら、もし今日の試験に落ちてしまったら、ボクはこの駅で降りる女子高生になるんだろうか?と考え込んだ。
 
ちなみに西湖は今日もセーラー服である。少しでも不安要素は取り除いておきたい。
 
行ってみると、受験生は結構多くて教室3つに分けて案内された。どうも男女が分離されているようで、西湖は女子だけの部屋に入った。受験番号も男子が1から始まり、女子が60から始まるようになっていたようだ。西湖の受験番号は67で、やはり女子として処理されている。つまりセーラー服で出てきて正解だったようだ。
 
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実際にはかなり空席が目立つ。願書は出したものの、他の学校で決まって受験していない生徒が多いのだろう。見た感じ来ているのは、男子30名・女子20名くらいのようである。合格枠は「若干名」と発表されているが、その実数がどのくらいなのかは分からない。西湖はひょっとしてここの試験では合格枠が男子と女子で別々に設定されているかもという気もした。
 
試験は朝から 9:00国語 10:00数学 11:00英語 で英語の最後10分間はリスニングの問題であった。西湖は気分を落ち着けるために数学が終わった後、トイレに一度行っておいたが、むろん今日はセーラー服なので女子トイレに入る。
 
そこで落ち着くようにしたお陰か、今日は国語では多分50点くらい、数学は10点くらいではあるものの英語は30点くらい取れた気がした。このくらい書けたら、通してもらえないかなあ。
 
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女子は物理教室、男子は地学教室でお昼ということになった。これまでの試験ではいつもコンビニで買ったおにぎりとかを食べていたのだが今日は母の手作りお弁当である。西湖はそれがまた嬉しくて、よし、午後の面接は頑張るぞ、と思った。
 
再度トイレ(もちろん女子トイレ)に行ってから、面接が行われる教室の前の廊下で待機する。男子は2階、女子は3階と分けて行われる。この学校はわりと男女を分けるのが好きなのかもという気もした。女子の面接は5人単位で4回で行われた。受験番号順なので西湖は2回目に呼ばれた。
 
質問の内容はごく普通である。好きな教科、好きな作家、好きな歌手、などを訊かれた。西湖は好きな教科は音楽、好きな作家は西尾維新、好きな歌手はアクアさん、と答えた。同じ組で面接を受けた子でやはりアクアと答えた子がいて、一瞬その子と視線を交わして微笑んだりもした。
 
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面接は7-8分で終わり、西湖たちは「ありがとうございました。よろしくお願いします」と挨拶して退出した。
 

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その日の帰り、駅の電光掲示板のニュースで
 
《衆議院議員S、東京都議T、作曲家上島雷太、お笑いタレント**、元野球選手**、##大学教授**、国土交通省課長**、JRTT部長**、##建設専務**、##不動産社長**、関東##会組長**らを逮捕》
 
というニュースが流れていたのでびっくりする。
 
上島先生、何したの〜?
 
他に並んでいるお笑いタレントや野球選手、大学教授というのもよくテレビに出ている人たちである。
 
家に帰ってからスマホでニュース検索してみると、鉄道工事に伴う大規模な不正土地取引があり、それに関わっているということのようである。逮捕されたのは電光掲示板で見た人以外にも30人ほどいるようだ。かなり大規模な事件のようである。歌手やタレントの名前も5つある。
 
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でもでも。。。上島先生がこういうことになったら、先生から曲をもらっている歌手はどうすればいいの?多分100人を越すぞ、と西湖は思った。
 
コスモス社長から電話が掛かってきて、最初に入試のことを訊かれた。わりといい感触でしたと答えると、合格しているといいねと言ってくれた。そして、上島先生の事件を聞いたかと訊かれるので、ニュースで見てびっくりしていると言う。その件でもし記者のような人から訊かれたりしても「私は分かりません」と答えて、決して余計なことは言わないようにと言われたので「はい、もちろんです」と答えた。
 
実際何も分からないもん!
 

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翌3月20日(火).
 
西湖は合格発表を見るため、9時半頃家を出るとJR・東急・JRと乗り継いでまたG高校に着いた。結果はホームページでも公開されるものの、合格していたらその日の内に入学手続きをする必要があるし、居ても立ってもいられない気分だったので、現地まで出てきた。
 
G高校には西湖が来た時も受験生10人くらいとそのお母さんらしき人が来ている。西湖は自分がひとりなので寂しい気持ちにちょっとなった。合格発表が行われる12時には30組ほどに増えていた。自分以外はみんな親と一緒だ。
 
11:59くらいに職員らしき人が出てきて、12時ジャストに2枚の紙を貼り出した。青い紙が男子の合格者、赤い紙が女子の合格者のようである。
 
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自分の受験番号67を探す。むろん女子の方のリストだ。
 
60, 61, 62, 64, 65, 66, 68, 69, 70, ... と数字が並んでいる。
 
うっそー!?
 
67が無い。
 
念のため男子の方も見るが、もちろん無い。
 
掲示されている番号は男子が10個、女子は12個だ。受験生は男子が30人、女子が20人だったから、女子の方が競争率が半分くらいである。つまり自分は性別を誤解されたことで有利な戦いになったはずだが、それでも合格できなかった。
 

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血の気が引くのを感じる。少しふらついた気もした。
 
近くに居た受験生のお母さんらしき人が
 
「あなた大丈夫?」
と声を掛けてくれた。
 
「あ、はい・・・」
「もしかして落ちたの?」
「私、どうしよう?」
 
「あんた、定時制とかに行ったら?たしか定時制なら今からでも募集を受け付ける所があったはずだよ」
とそのお母さんは言った。
 
「定時制ですか・・・。分かりました。考えてみます」
 
「あなたひとりで来たの?誰かに迎えにきてもらった方がいいよ」
とそのお母さんは言う。きっと自分が自殺でもしないかと心配してくれているのだろう。
 
母は・・・公演中だ。来られない。
 
「だったら、知り合いのお姉さんに連絡します」
「うん。それがいい」
 
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それで西湖は桜木ワルツの携帯に電話してみた。
 
「和紗さん、どうしよう?私、G高校も落としちゃった」
と西湖は半分泣き顔になりながらワルツに相談した。
 
「今どこにいるの?自宅?」
とワルツは訊く。
 
「G高校に来ています」
「それ**駅の近くだよね?」
「はい」
「**駅の改札前で待ってて。私そちらに行くから」
「はい」
「改札を通らずに駅の前でだよ」
「分かりました」
 
多分車で来てくれるのだろう。それとしつこく中に入るなと言われたのは、自分が鉄道飛び込み自殺でもしないかと心配してくれたのかもという気がした。
 
自殺はしないよぉ。もうこの際、中卒でもいいもん。それとも女子高生になってS学園に行く?それって自分の人生がまるで変わってしまいそう。ボク性転換しちゃうことになるのかなあ、などと思って、こないだ母が自宅に戻ってきた日の朝、見た夢のことを思い出す。
 
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でも、ホントこの後どうしたらいいのか、よく分からないよぉ。さっきのお母さんからは定時制に行ったら?と言われた。定時制のことは全然調べてなかった。ホントに今からまだ募集があるの??
 

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駅前にドトールがあったので、入ってロイヤルミルクティーとミラノサンドを頼んだ。そしてボーっとした状態で紅茶を飲みながらサンドイッチを食べていたら駅前にマツダ・ロードスターが停まるのでびっくりする。あれはコスモス社長の車だ。でも運転していたのはワルツさんで、車を一時停止させたまま自分を探しているようだ。西湖は慌てて食べ残しのミラノサンドをナプキンで包んでトートバッグに入れ、飲み残しの紅茶は捨てて、お店を飛び出した。
 
「すみません」
と声を掛ける。
 
「良かった。居た。乗って」
「はい」
 
それで西湖が助手席に乗るとワルツはすぐに車をスタートさせた。
 
「お昼何か食べた?ハンバーガーとドリンク買ってきたから、良かったら飲んで」
「ありがとうございます」
 
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それで頂く。ワルツはしばらく何も話さなかった。西湖はボーっとしたまま風景を見ていたので、どこを走っているかも分からなかったが、どうも高速に乗ったような感じであった。
 
風が気持ちいいな・・・と西湖は思った。
 
それとあまり寒くないのが意外に思った。西湖はオープンカーって、てっきり夏向きの乗り物と思い込んでいたのである(実際には夏にトップを開けていると暑くてたまらない)。
 

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西湖がハンバーガーとドリンク、それにドトールから持ち出したミラノサンドの残りを全部食べてしまった頃「あきるの」というIC名表示を見た。車は圏央道を走っているようだ。
 
「西湖ちゃんにかなり仕事をしてもらってたけど、それでお勉強の方がお留守になってしまっていたのは、こちらも配慮不足だったと思うってコスモス社長が謝っておいて欲しいと言っていた」
とワルツは話し始めた。
 
「そんなことないです。私が好きでお仕事しているんです。アクアさんのサポートの仕事は凄く楽しいし」
と西湖は言う。
 
「アクアちゃんも中学時代はほとんど勉強してなかったみたいだけど、高校に入ってから、英語とか中学1年の所から自分で勉強しなおしているみたいで、この1年でだいぶ英語が分かるようになったみたい」
 
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「凄いですね。あの忙しさなのに」
 
「だから、西湖ちゃんも、高校に入ってから中学1年から勉強をやり直しなよ。アクアちゃんは進研ゼミの中学講座受けているみたいだから、西湖ちゃんもそれやるといい」
 
「それもいいですね!」
 

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「それでさ、どうするかだけど、何か考えた?」
とワルツは訊いた。
 
「どうしよう?と思っていた所です。さっき合格発表の所で、私がショックで立ちすくんでいた時に、私に声を掛けてくれた他の受験生のお母さんは、私に定時制に行ったら?と言っていたんですが、どうなんでしょう?」
 
「定時制は、昼間にお仕事をしている人にはいいんだよ。授業は夕方から始まるから」
「へー」
 
「だけど、タレントさんのお仕事はむしろ夕方からの方が多い」
「そうですよね!」
「だから定時制は無理だと思うよ」
「そっかー」
 
「タレントさんで全日制に行けなくなった人で、通信制高校を受けている人は多い」
「通信制ですか!」
 
「普段はテキストとテレビ放送とで勉強すればいい。だから1日のどこかで時間を取ることができたら何とかなる。放送は録画しておけばいいし。ただ、通信制のネックはスクーリングなんだ」
 
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「何ですか?それ」
 
「通信制といっても全てが通信教育で完了する訳ではない。1年の内の何日間かスクーリングといって、提携している学校で開かれる授業を受けにいかなければならない。ところがこれがだいたい土日に開かれる」
 
「うっ・・・」
 
「お仕事の量がそこそこのタレントさんなら、何とか日程調整して受けに行くことができるんだよ。事務所もそのくらいの配慮はしてくれるし」
 
「でもアクアさんの仕事は無理です」
「うん。アクアが土日空いているわけない。だから西湖ちゃんのお仕事も土日は空かない」
「そうなんですよ。この3年間、土日を休んだ記憶が無いです」
 
「ということで通信制も厳しいと思う」
 
「中学の先生からはどうしてもどこにも入れなかったら、フリースクールという手もあると言われたのですが」
「フリースクールは、法的にはふつうの塾と変わらない。いったん社会に出ていた人とか、普通の高校を退学させられた子とかが、よく通っている。名前の通り、自由度はあるんだけどさ」
 
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「はい」
「自由が利くから結果的に忙しすぎる人は、全く出席できなくなってしまうと思う」
 
「ううううう」
 

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「だったらどうしましょう?」
 
「私、コスモス社長や紅川会長とも話し合ったんだけど、S学園が受け入れてくれるというのなら、もうそこに入っちゃったら?」
 
「え〜〜〜!?」
「別に性転換しろとか言われている訳ではないんでしょ?」
「はい。ただ女子生徒として通ってくれるならと言われたんです」
 
「それだけどさ、西湖ちゃん、自然体(しぜんたい)にしていても、女の子に見えるから、特別何かする必要は無い。普通にしていれば、それが女子生徒らしい行動になると思うよ」
 
「あ・・・」
 
それは今まで気付いていなかったことであった。確かに女子らしい行動を取ればというのは、つまり普段の自分のままでいればそれで良いのかも知れない。
 
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「でも3年間、女子制服で通うんですよね?」
「西湖ちゃん、いつも女の子の服着てるし」
「トイレも女子トイレですよね?」
「西湖ちゃん、いつも女子トイレ入っているし」
「体育の時の着替えとかは」
「西湖ちゃん、いつも女子の控室に居て、女の子たちと一緒に着換えてるし」
「ボクはいいとして、他の子が気にしないでしょうか?」
「西湖ちゃんが女子控室に居ても誰も気にしてないし、みんな平気で下着姿を曝したりしているし。西湖ちゃん、女の子の下着姿を見て興奮する?」
「それ、実は何も感じないんです!」
 
「だったら普通に女子高生生活を送れるという気がするよ」
「そうかも!」
 
 
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春からの生活(12)

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