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■春からの生活(3)
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ところが実際には、ゆまは男子部屋に行って!朝まで飲んでいたようである。
千里と青葉は、旅館についてから30分くらい世梨奈や美津穂の入っている麒麟の間でおやつを食べながらおしゃべりしていたのだが、風花さんが
「ごめん。寝るー」
と言って寝てしまうし、他の子たちもあくびが出てきたので
「じゃ話し足りないけど寝ようか」
ということになり、千里と青葉はいったん自分たちの部屋に戻った。
千里と青葉は部屋に戻ってから
「寝る前にお風呂に入ろうか」
と言って、浴室に行くことにした。
それでタオルとシャンプーセットを持って離れにある浴場に行く。すると入口の所にこのような掲示があった。
「本日は男湯と女湯を入れ替えております。女性の方は男湯と書かれた方に、男性の方は女湯と書かれた方にお入り下さい」
「つまり私たちはどちらに入ればいいんだっけ?」
と千里が訊く。
「ちー姉が男の人だったら女湯へ、女の人だったら男湯へ」
と青葉。
「青葉はどっちなのさ?」
「不本意だけど男湯に入ろうかな」
「じゃ私も」
と言って、2人は男湯の暖簾をくぐり、脱衣場で籠(かご)を出して服を脱ぎ、浴室に入った。
「しかし男湯なんてものに入ったのは高校の時以来だ」
などと千里が言うので
「ダウト」
と青葉は言っておいた。
「父親と一緒に男湯に入ったよ」
「それは絶対にあり得ない」
「青葉は男湯って入ったことあった?」
「記憶が無い」
「まあそうだろうね」
と千里も言う。
「ちー姉、そういえば七星さんと話していたら、『靴箱のラブレター』の音源製作で、私が龍笛を吹いたことになっているみたいだったんだけど」
「あの日、青葉は彪志君のお誕生日で冬のマンションには行けないみたいだったから代理を行かせておいた」
と千里は平気で言う。
代理ね〜。まあいいけど!
つまり龍笛のうまい眷属なんだ!
「川島さんとの結婚はどうなりそう?」
「婚姻届けを2月16日午後に提出するつもりでいる。これを阻止したい」
「届けさせないの?」
「2月16日の6:05-11:32にボイドがあるから、その期間に出させる。特に11:26以降だと土星が結婚を司る7室にあるから、11:26-11:32が最悪の時間帯」
「ボイドにぶっつける訳か」
「千里はなまじ占星術の知識があるから、ボイドにぶつからないように提出しようとするはず。だから信次さんに届け出させるようにした上で、色々邪魔してボイド時間帯にぶつける」
「占星術戦争だ!」
「青葉協力してよ」
「まあ、いいけどね」
「ところで、戦争といえば、千里1に呪いを掛けようとしている女が居るね。どうも信次のことを好きみたいだけど」
と千里2は言った。
「ああ、そちらも気付いたね」
と青葉も言った。青葉も気付いてはいたが、千里姉の敵ではないだろうと思い、放置していたのである。このことを青葉は後で悔やむことになる。
「こないだは不妊魔法を掛けようとしたけど、千里の眷属が阻止して本人自身が呪いに掛かって閉経してしまった」
「呪い返し?」
「違う。そもそも呪いの呪具を千里1が触らないまま、本人が触ってしまった」
「ああ、それは気の毒に」
「千里は触ったように見えて触ってなかったんだよね。眷属が瞬間的に1番の指に防護膜を貼ったから」
「なるほどねー」
と言ってから青葉はふと気付いて訊いてみた。
「ひょっとしてちー姉の眷属って、全部1番の所に居るの?」
「そうだよ。眷属たちは千里の分裂に気付いてないから」
うーん。。。
「じゃ、2番・3番には誰もついてないの?」
「青葉はそれを調べようとしているみたいだから、頑張って調べるといいと思うよ」
と千里2は言っている。
どうも、こちらが眷属を使って色々調べようとしているのは全部バレてるみたいだなと青葉は思った。海坊主が笑っているのは黙殺する。
質問を変える。
「貴司さんとの仲はどうなってる訳?」
途端に千里は難しい顔をした。
「貴司は11月下旬に、奥さんではない女性とホテルに行って、多分セックスしたんだと思う。相手の女性は妊娠した」
「嘘!?」
「仲良くしている女の子がいるなとは思っていたんだよ。でもいきなりホテルに行ってセックスするとは思わなかった」
「妊娠は確定?」
「確定。予定日は8月くらい」
「どうするの?」
「相手の女性は最初は堕ろすつもりだった。でも気が変わって産むと言っている。それも自分と結婚してくれと言っている」
「うーん。。。」
「彼女は強い性格だから、いったん言い出したら絶対に引かない。貴司は彼女と結婚することになると思う」
「阿倍子さんは?」
「何とか謝って離婚してもらうしかないよね。慰謝料を払いきれないだろうから私に泣きついてくると思う。もちろん阿倍子さんが欲しいという金額出してあげるよ」
「でも急展開だね」
「だから、近い内に貴司と阿倍子さんは離婚して、貴司はその彼女と結婚し、千里も川島信次と結婚する」
「そういう展開になっても、2番さんとしては、貴司さんといつかは結婚できると思っているの?」
「当然。2−3年掛かるだろうけど、どっちみち私たちが1つに戻らないとどうにもならないから、しばらくは貴司にも夢を見させてあげるよ」
「ふーん。嫉妬しないの?」
「しない訳ないじゃん」
と千里は怒ったように言う。こういうちー姉も珍しいと青葉は思った。
「でもちー姉も1番さんが信次さんとセックスしてるんでしょ?」
とわざと言ってみた。
「してない」
「嘘!?」
「婚約前は1度したんだよ。でも、婚約した後は千里1は忙しいとか何とか理由を付けて信次とセックスするようなデートをしていない」
「なんで?」
「さすがに後ろめたいからだと思う。千里1は桃香ともセックスしてないし。まあ何度かレイプされたのは別として」
「ああ。でもそのレイプされたってのは言い訳でしょ?」
「今日の青葉は私を怒らせようとしている」
「ふふふ」
「信次も他の女性と会ってるよ」
「嘘〜!?」
「高岡に恋人が住んでいるんだよ。10月に2人で高岡に来たでしょ?その時、買物に行ってくると言って、その子に会ってたよ」
「今の1番のちー姉だとそういうのに気付かないだろうね。でもそもそも高岡って、凄く浮気がバレにくい場所かも」
などと言いながら青葉は、2番のちー姉はなぜそれを察知したんだ〜?と思う。やはり2番にも何人か眷属が付いているのだろう。ひょっとしたら1番に付いている眷属とは別の眷属かもと思った。
「だからこの結婚はやはり半年くらいで破綻するんだと思う」
「うーん。。。」
「あと貴司は特定の女性との関係を長続きさせることができない。妊娠してしまった女性もこれまで1年程度単位で恋人を変えてきているみたい」
「なんか、性癖の悪い人ばかりだ」
「そうだ。私が3人居ること、冬子にも言っておこうと思う」
「ああ、それは言った方がいいと思うよ。工作が大変だもん」
「うん。言うのは言わないと工作が大変な人と、千里と信次の結婚に賛成してくれない人だけ。前提としてこういう超常現象に驚かない人」
「私やちー姉の周辺では割と超常現象が起きやすいみたいだし慣れている人は多いと思うよ」
「明らかに時空が歪んでいるよね」
「結局何人知っているんだっけ?」
「京平、青葉、姫様、玲羅、貴司のお母さん、貴司の妹2人、今の所この7人だけ」
突然名前を呼ばれて、青葉の後ろで『異世界食堂』を読んでいた《ゆう姫》が驚いている。
千里は言ってないけど、佐藤玲央美、アクアと丸山アイの3人(5人?)は察しているみたいだな、と思っていた。
「美輪叔母ちゃんにも言うことになると思う。叔母ちゃんも千里の結婚に怒ってる」
「私だって怒ったもん。当然だよ。コスモスさんは知らないの?」
「彼女には事故にあってやはり不調で、作品の品質の出来不出来が酷いので、当面良質の作品を琴沢幸穂の名前で出すつもりだと説明した。埋め曲レベルのものは醍醐春海や東郷誠一で出す。実際元々醍醐春海は大半の曲が埋め曲レベル。KARIONに提供しているのだけが例外だったんだよ、歴史的な経緯で。だから調子が戻るまでの一時的な処置ということで納得してもらった」
「いやその説明が正しいのかも知れない」
その後、冬子が浴室に入って来たのでしばらく3人で話した。冬子は青葉たちに追及されて『郷愁協奏曲』が実は冬子自身で書いた作品であることを告白した。また千里はあの作品は直すところがないと言ったが、本当は修正したバージョンが存在することを明かし、冬子もそれを見てみたいと言っていた。千里はお風呂からあがった後、それを冬子に渡したようである。
冬子と千里は、風花・妃美貴と一緒に1月1日の午後、レンタカーで北九州空港まで行き、東京に帰還した。耶馬溪に残留した青葉たちは、一目八景と青洞門(あおのどうもん)を1日の午後に見学した。
その夜はマリが1人になってしまうので本当は最上級の部屋で1人で寝る予定だったのだが、1人では寂しいと言って、青葉・ゆまと同室にしてもらった。夜中「ゆまが」寝ぼけた政子に襲われそうになって
「マリちゃん待って!私はケイじゃない!」
と叫んでいるのを聞きながら、青葉は熟睡していた。
1月2日はチャーターしていたバスで福岡に戻り、青葉は世梨奈・美津穂と一緒に小松空港に帰還した。
この時期、千里1は12月31日の23:59に年内に頼むと言われていた最後の曲を完成させて送信し、そのまま倒れ込むようにして布団に潜り込み、ひたすら寝たので、起きたらもう1月2日の朝だった!
ともかくもそれから近くの神社に初詣に行って来て、その後帰り道に2日から営業再開したスーパーで、おせちの売れ残りとお餅、小豆缶を買う。それでお餅をオーブントースターで焼き、小豆缶の小豆を茹でて、お汁粉にして食べる。お雑煮の代わりである。
それでお茶でも入れておせちを摘まんでいたら電話が掛かってくる。朱音であった。
「千里?産まれる・・・」
「え〜?」
それで千里はミラに乗って朱音のアパートに駆けつけた。夫は正月早々出張で沖縄に行っているらしい。全くお疲れ様だが、よりによってそんな時にというところだ。
ともかくもかかりつけの産婦人科に連絡する。受け入れてもらえることを確認して、朱音をミラの後部座席に乗せ、病院まで運んだ。
ところが先生が診察すると
「これはまだ出てこないよ」
と言う。
「え〜?」
「切迫早産ですか?」
「いや、予定日直前だから、もう早産にはならない。でも何も異常は起きてない。たぶん明後日くらいに出てくるんじゃないかな」
と先生。
「わたし的には、今にも産まれそうな気がするんですけど。凄く辛いし」
と朱音は言う。
「今の痛みはまだ序ノ口だよ。本格的にお産が始まったらこんなものじゃないから」
「きゃー」
普通なら、いったん自宅に戻って、もう少し近くなってから病院においでと言われるような状況だったようだが、夫が出張中で誰も親族がいないという状態なので、入院させることにした。出張中の夫にも連絡は取ったものの、トラブル対応で行っているので、引き上げる訳にはいかないらしい。誰か代わりの人に来てもらえないか、上司に相談すると言っていた。
夫は全然頼りにならなさそうなので、本人はあまり気が進まないようだったが、長野に住むお母さんに連絡した。朱音は実のお母さんと仲が悪いのである。しかし、お母さんは、すぐに出てくると言った。その後、夫のお母さんにも連絡を取ったが、結果的にはこちらの方が先に到着した。義母は偶然にも善光寺まで初詣に来ていたので、すぐに北陸新幹線に飛び乗って東京に出てきてくれた。それで14時半には病院に到着した。実母の方は安曇野から出てくるので、松本からあずさに乗り新宿に出てきた後、都内の交通網の複雑さで迷子になってしまい、病院には19時すぎに到着した。
でもまだまだ産まれる兆候は起きていなかった。朱音は苦しいよぉと言ってはいたのだが!
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