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■春からの生活(18)
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「じゃ何?みんなで手分けして950曲書こうという話?」
「それ1人5曲書いたとしても作曲家が190人必要じゃん」
この日の話し合いではみんなが上島雷太が書いていた楽曲の量に呆れたものの、何とかしなければならないということで、当面の処置として次のような分担で4月上旬までに100曲用意することにした
雨宮系(醍醐・ケイを含む)50曲、東郷系(醍醐以外)20曲、蔵田系(ケイ以外)20曲、後藤系10曲。
「過去の楽曲を手直しして出そうよ」
「うん。それで200-300曲は何とかなる気がする」
「でもこれもっと多くの作曲家を集めて会議した方がいい」
「誰か適当な人を音頭取りにして集めるよ」
と丸花さんも言った。
3月17日の会議を受けて、雨宮派の管理人・新島鈴世はまず、18日朝、天野貴子に連絡し、分担数は任せるが、醍醐春海と琴沢幸穂の2人で4月10日くらいまでに20曲ほど書いてほしいと依頼した。タイトルも悪いがそちらで考えてくれないかという話をする。
「やはりそういう展開になりましたか。ではメロディーとギターコードの手書き譜面のレベルでいいんですね?」
と天野は言った。天野はこの情報を既に知っていたようであった。
「はい、それでお願いします。現在醍醐先生と琴沢先生にお願いしている4月27日までのお仕事は全部約1ヶ月延ばして6月1日(金)までとしますので」
「分かりました。新島さんも大変でしようしタイトルはこちらで考えます」
新島は次にケイ(唐本冬子)に連絡したが、ケイも
「やはりそうなりましたか」
と言っていた。ケイもこの情報を得ていたらしいのに驚く。ただケイは様々な方面に幅広い人脈を持っている。それでおそらく察知していたのだろうと新島は思った。彼女もタイトルまで考えてくれるということだった。
次に大宮万葉(青葉)に連絡したら
「その話、今朝、醍醐春海から聞いた所でした」
と言われる。
ケイと話している内に醍醐経由で連絡が行ったのかなと思ったのだが、どうも醍醐春海自身は別ルートで2-3日前に既にこの情報を得ていたらしい。
全くこの業界にはほんとに耳の早い人たちがいる!
更に寺内雛子にも連絡したら
「既に4曲書いた」
と言われた。
新島はさすがに「うっそー!?」と思った。寺内は既に1週間ほど前に情報をキャッチして、多分何曲か代わりに書いてくれと言われるだろうと思い、動き出していたらしいのである。
だって、警察の極秘内部情報を元警察高級官僚の丸花さんがキャッチしたのが16日なのに〜〜!!
生き馬の目を抜くってのは、まさにこの人たちのことだと、あらためて新島は思った。
天野貴子こと《きーちゃん》は、頼まれた20曲は、千里1に10曲、千里2,3に5曲ずつ頼もうと考え、まずはとにかく頑張ってタイトルを20個考えた。
実は《きーちゃん》は、いち早く14日に情報をキャッチした紅川会長から、コスモスを通じて、§§プロ系絡みで上島先生に書いてもらっていた曲が10曲あり使えなくなると思うので、緊急に代替してもらえないかという依頼を受けていた。紅川さんは丸花さんより2日前にこの情報を得ていた。
それですぐにその10曲を結婚式で忙しい1番を避けて千里2・3に5曲ずつ書いてもらっていたのである。(雨宮から千里1に直接15日に依頼があったのは計算外。実は雨宮も逮捕情報を14日に得ていた)
それでその内先行して完成した5曲(千里2が3曲と千里3が2曲)を千里2が22日に直接§§ミュージックに持ち込み、その時西湖と遭遇してJ高校に入学できるように一肌脱いであげたのである。
2,3がそちらの作業をしていたので、新島さんの方から来ていた仕事は新婚早々気の毒ではあるが、1に多く振り分けることにした。
千里2は「OKOK」と言っていた。
千里1は太一の結婚式を前に、控室で休憩している時にその連絡を受け
「うっそー!?」
と思った。千里1は17日朝、雨宮先生からの“急ぎの仕事”の曲を書き上げ、その後半日爆睡して昨日午後結婚式・披露宴をして、取り敢えず初夜を経て今日は義兄となった太一の結婚式に出ようとしていた所であった。
私って結婚式や新婚旅行でも全く休めないのね。。。
とは思ったものの、気を取り直して蓮菜に作詞依頼をした。
なお蓮菜は3つのメールアドレスから相前後して作詞依頼を受けて「どうなってんだ?」とは思ったのだが、元々千里は機械音痴・パソコン音痴で、自分でもよく管理できているとは思えない多数のアドレスを使用していたので、気にせず依頼のあったアドレスにその分の歌詞を書いては返信していた。今回は短期間に多数の歌詞が必要になったので、7割くらいはストックを使用した。
そして。。。《きーちゃん》が千里3に連絡した時、千里3は貴司に多大な“DV”を働いていた所であった。貴司が「落ち着いて〜」「許して〜」と悲鳴をあげていた所に《きーちゃん》からの電話が掛かってきたので、千里3は
「いったい何?」
と怒ったように言い、《きーちゃん》がギョッとした。
《きーちゃん》が恐る恐る今頼んでいるものに加えて、4月10日までにあと5曲書いて欲しいと言うと
「それはいいけどさ、貴司を去勢したいから協力してくんない?」
などと千里3は言った。
「いいですよ〜」
と《きーちゃん》は気軽に言い、次の瞬間貴司の男性器が消失する。
「うっそー!?」
と貴司が叫ぶ。
「いっそ女の子にしちゃいます?」
と《きーちゃん》が言うと
「それやるときっと男と浮気するから、どちらともできない形がいい」
と千里3は言って電話を切った。
「貴司、そのビバビバだかビバノンノンだかという女と離婚して、私の所に戻って来たら、ちんちん戻してあげるから、それまではちんちん無しで過ごしなさい」
と千里3は怒りの表情で言い、最後に「これは阿倍子さんの怒りの分」と言って貴司に数回蹴りを入れてから、
「この部屋、私が投げつけたものはちゃんと片付けておいてよね」
と言い残してホテルの部屋を出た。
貴司は「1月にこの件は話したのに〜」と情けない顔で言うと、渋々部屋を片付け始めた。その様子をリモートで眺めていた千里2は含み笑いをしてから
「ああ、スッキリした」
と言った。
そして貴司が千里に渡しそこねたエスティローダーの春のセットと、千里3が渡しそこねたホワイトチョコのセットを《つーちゃん》に頼んで入れ替えてもらった。
「千里も人が悪い。あのホワイトチョコ、きっと美映さんが見つけるよ」
と《つーちゃん》が言うと
「だから、いいんじゃない」
と千里2は苦笑しながら言った。
23日(金)の深夜。
息子(多分娘ではない)の西湖から純泉高校の入学許可証をもらったので酒井学園の入学辞退手続きのため月曜日に学校に連絡して欲しいと言われた天月湖斐は、自分が“酒泉女子高校”の電話番号を持っていないことに気付いた。
それで「酒泉女子高校 東京都」でネット検索したら「酒井学園」というのがヒットする。あれ〜?何か名前が違うような気がするけど、と思うものの、入試関係の連絡先を調べていると「入学辞退をする場合は」という項目があり、そこをクリックすると、氏名カナ・生年月日と電話番号を入れるフォームが出てきた。
入力しただけで確認無しで辞退にはなるまいと思い、アマギセイコ・H14.08.20 048-***-**** と入力すると、受験番号と「天月西子・桶川市***」と表示されて
《入学辞退届を登録された住所に郵送しますか?》
と表示された。
名前の漢字が違う〜!と思ったものの、どうもここで良かったようだと考える。念のため、コマンドキーを押しながらクリックして、このページはそのままにしてトップページを表示させてみると、確かに女子校のようである。
西湖が辞退すると言っていたのは女子校だったはずだから、この学校で間違い無いなと湖斐は判断した。
『あの子、本人は忘れているみたいだけどそもそも『いやじゃ姫』役で初舞台を踏んでいるし、幼稚園の時は将来の夢はお嫁さんと言ってたし、他の生徒は女子ばかりというピアノ教室にずっと通っていたし、本人けっこうスカート穿くのが小さい頃から好きだったみたいだし、女子校でもやっていける気がするけどね〜。高校では少ないかも知れないけど大学では女子大の授業を資格取得のため受けに来る男子学生は普通に居るし』
などとも思いながらも
『まあ辞退すると言っているからいいか』
と思って、湖斐はOKボタンを押そうとした。
ところがそこに劇団の女性が
「常務、すみません」
と言って呼びに来た。
「こんな時間まで起きてたの?」
「それが。これちょっと見てもらえませんか?」
それで湖斐は、こういう時は落ち着いてからクリックすべきと思い、画面を放置したまま、その女性と一緒に部屋の外に出て行った。
湖斐が出て行った後、足音も立てずにその部屋に入ってきた人物がいる。その人物はしばらくパソコンを操作した上で
「これでよし。男の娘が女子校に入れるチャンスなんてまずないし、わざわざ男とバレにくいように虚空さんが喉仏を“変形させて”突起の無い状態にしてあげたのに無駄にしちゃいけないよ。次は去勢が先かなあ、おっぱい大きくするのが先かなあ」
などと独り言を呟くと、そっと部屋から立ち去った。
20分ほどして湖斐が部屋に戻る。
「まったく。あと9日だというのに、こんな時に壊れるなんて。修理代が頭痛い」
とぶつぶつ文句を言いながらパソコンの前に座る。
再度表示されている内容を確認して、湖斐はOKボタンを押した。
これが3月24日(土)の午前1:30頃であった。
西湖は28日(水)も都内で仕事があるので朝から仕事場に出かけた。お昼頃父からメールが来ているのに気付く。
話し合いたいから、今夜23時すぎに劇団事務所に来ないかというのである。
基本的には中高生は22時で解放してもらえるので、一応現場に来ていたアクアのサブマネージャー高村友香に確認して、こちらの仕事が終わってから行くと返信した。
しかし内容を書かないまま単に来ないかというのは良くない話なのだろうか。西湖は動揺したものの、その心理的な不安が表に出ないよう自分を励ましてこの日のお仕事は頑張った。
仕事は21:30に鎌倉市内で終わったので、それから西湖はアクアと一緒に友香が運転する車に同乗して信濃町まで戻り、普段着(男物)に着替えて、タクシーで劇団事務所まで行った。到着したのが23時半頃であった。
両親と西湖で休憩室に入る。
「ごめん」
と母が机に頭をつけて西湖に謝った。
「ダメだったの?」
「朝1番に電話して、間違って別の学校の辞退をするつもりがそちらに辞退の連絡をしてしまったので取り消したいと言ったんだけど、そういう間違いがあってはいけないから、電話やネットだけでは完了させずにわざわざ書類を郵送往復させているのだから、今更取り消しはできないと言われた」
と父が言った。
「そんなあ」
「かなり食い下がった。特にこちらからの辞退確認届の宛名が『酒泉高校』となっていたことに気付かずに処理したのはそちらのミスではないかと、こちらのミスは棚に上げて主張した。それで向こうもその点は謝ると言ったし、他に行く高校が無いということにも同情してくれた。しかし、うちが連絡した後で、親の急な転勤で編入試験を受けた生徒が数人あって、こちらが辞退するというのを見込んで、定員ギリギリになる所まで合格させてしまったらしい。だから西湖の入学を再許可してしまうと定員オーバーになってしまうと。定員オーバーがバレると文部科学省から処分を食らうので、こちらでもどうにもできないと言われた」
「じゃ、ボクどうすればいいの?」
と西湖は泣きながら言う。
「それでふたりで話し合ったんだけど、お前、やはり.酒井学園に行きなさい」
と父は言った。
「え〜〜〜!?」
「それで酒井学園からは事前面談をしたいという連絡があっていたから、電話して明日の午前中に行きたいと伝えた。お前明日の午前中は仕事休めるか?」
「訊いてみる」
それで西湖は事務所に電話してみた。ここの所上島先生の問題の対処の関係で多分まだ誰かいるだろうと思った。
電話に出たのは川崎ゆりこである。こんな時間までお仕事しているのか、大変だなあ、と西湖は思う。
「おはようございます」
「おはようございます」
と挨拶を交わしてから、急で申し訳無いが、進学予定の学校との面談があるので、明日の午前中、お仕事を休ませてもらえないか言った。
「ああ、それは大丈夫だよ。明日はボディダブルのお仕事は無いし。リハーサル歌手の仕事はあるけど、それは代わりに誰か行かせるから、学校に行っておいで。明日は1日休みにしておくよ」
「ありがとうございます!助かります」
それで明日、西湖は父と一緒に酒井学園に行くことにしたのである。
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