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■春からの生活(2)

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ところで青葉は千里2に電話して、11月25日に友人たちと成人式の振袖の撮影会をすることになったことを言い、可能だったら参加者の中で東京に住んでいるメンツを車で高岡まで運んでくれないかと言った。
 
「運ぶのは誰々?」
「奈々美、空帆、純美礼の3人」
 
「奈々美ちゃんと空帆ちゃんは、海香さんとこに住んでいるんだよね。純美礼ちゃんはどこに住んでいるんだっけ?」
 
「東白楽駅の近くなんだけど」
 
「かなり遠い所から通っているね!」
「1年生の時は日吉キャンパスだから近かったんだよね〜」
「なるほど〜」
「そしてこの場所はJRの東神奈川駅にも近いから、東急が止まっていたらJR経由ででも三田まで辿り着けるんだよ」
 
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「ああ、東京の電車は頻繁に止まるからね」
「人身事故が多すぎだよね」
 

「それで“誰”か対応してくれる?」
と青葉は訊く。
 
「奈々美ちゃんが居なければ簡単なんだよ。千里1でもできる」
「やばかったっけ?」
と青葉は今更ながら訊く。
 
「この日程は私は日本時間で11月26日23:30から試合がある」
「わっ、ごめん」
「それはまあ何とかするんだけど、困ったことに千里3が26日13:00に平塚市で全日本バスケの3次ラウンドの試合に出る」
 
「うっ・・・」
「当然、奈々美は私がその試合に出るものと思っている。だからこれをどう誤魔化すのかが課題なんだよ」
 
「ごめーん」
「だから帰りは青葉が運転してよ」
「分かった!それならOK」
 
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「24日金曜日の夕方に、奈々美ちゃん、空帆ちゃん、純美礼ちゃんを拾って、夜間に高岡まで私が走る。私か3でないと、奈々美ちゃんと話が合わせられないけど、3は大事な試合の前に高岡往復なんてさせられない。更に3だと高岡に来てからお母さんに結婚のことを訊かれたら困る」
 
「うん」
 
「だから私が行くしかないけど、25日の午前中からお昼に掛けてその振袖撮影会をするのなら、私はそれが終わったら新幹線で東京に戻ることにする」
 
「なるほどー!」
 
「そして帰りは青葉が車を運転して東京に戻ればいい」
 
「うん、そうしよう」
 

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それでこの週末の“ミッション”は実行されたのである。
 
青葉はワゴン車をレンタルしてと言っていたのだが、実際は千里2は風花に電話して、冬子のエルグランドを借りることにした。
 
11月20日に千里2は『ふるさと』の譜面とデータを冬子に渡しがてら、エルグランド(とマンション)の鍵を受け取った。その時千里は冬子からカウントダウンライブでバヤンを弾いてくれないかと依頼され、実際の楽器を触ってみたら、以前触ったことのあるドイツ製アコーディオンとボタン配列が似ていたので
 
「これならちょっとやれば弾けると思う」
と言って、その楽器も借りて帰った。
 
そして千里2は24日の午前中に恵比寿のマンションに行ってエルグランドを出し、(冬子たちは23日勤労感謝の日から郷愁村に入っている)まずは経堂のアパートで桃香と早月を拾う。2人はベビーシートの関係があるので最後尾に乗せる。そして13時頃に東白楽駅前で純美礼を拾い、神田駅前まで戻って、14時頃に奈々美と空帆を拾った。案の定、奈々美は
 
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「千里さん、全日本の3次ラウンドはいいんですか?」
と訊いた。それで千里は
 
「うん。それがあるから私は撮影会が終わったら新幹線で戻るよ。私は25日は試合が無いから」
と答えた。
 
「大変ですね!」
 
レッドインパルスは神奈川会場(トッケイセキュリティ平塚総合体育館)に出場するのだが、25日はアレンズと大阪HS大学の試合が行われ、その勝者が26日にレッドインパルスに挑戦するのである。
 
この時、奈々美は助手席、2列目に空帆と純美礼を乗せたので、この会話は3列目に乗っている桃香には聞こえていない。
 

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実際の運転は、上里SAまでを千里、そこから米山SAまでを奈々美、その先をまた千里が運転して高岡には24日の22時頃到着した。奈々美に運転させるので夜間運転の難易度が高い上信越道を避けて関越経由にした。米山SAで夕食を取っている。なお空帆も運転はできるのだが、やや“運転品質”に難がある。また純美礼は運転免許を持っていない。むろん桃香には絶対に運転させられない!
 
高岡に着いたら、まず赤ちゃん連れの桃香と早月を最初に降ろした後、奈々美・空帆・純美礼を各々の自宅まで送り届けた。
 
しかし千里2は伏木の自宅では、朋子から結婚のことでかなり色々と訊かれるのに閉口した。くそ〜。ここは千里1にやらせたい!と千里2は思った。婚約指輪も忘れてきたことにしておいた(千里1は11月3日に信次の婚約指輪を受け取っている)。しかしこの時の会話で朋子は、千里が本当はこの結婚に乗り気でないのでは?という疑いを持った。
 
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翌日25日は朝からホテルに集まり、参加者の着付けを、千里と朋子、それに明日香の母の3人で手分けしておこなう。
 
そして着付けが終わると、参加者のスマホ、明日香の母のデジカメ、桃香が持って来たLumixなどで撮影をする。撮影の間は、千里はずっと早月の相手をしていた。むろん千里には絶対に撮影させられない!
 
その後、振袖を脱いで、畳むが、畳むのは青葉と明日香もできるので20分ほどで全て元の和服バッグに収納することができた。その後、ホテルのレストランで食事会をした。
 
食事会の後は、千里は
「仕事があるので」
と言って、青葉に新高岡駅まで送ってもらった。青葉は千里を駅で降ろしてから帰っていったものの、ちゃっかり笹竹が駅に残って千里の様子を伺っている。
 
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千里2はむろん笹竹には気付かないふりをして東京行きの切符を買い、そのまま新幹線に乗った。笹竹は千里がどこ行きの切符を買うかまでじっと見ていたが、千里がちゃんと東京までの切符を買い新幹線に乗ったのを見ると帰っていった。
 
全く青葉もよくやるよ!と千里2は思った。
 

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千里2は実際には新幹線の中でぐっすりと眠って東京まで行き、そこからフランスに転送してもらった。
 
この日、千里3は明日の試合に向けていつもの川崎の体育館でレッドインパルスのチーム練習に参加していた。
 
千里1は「リハビリに」と雨宮先生から言われて大量の編曲依頼と《埋め曲》の作成を頼まれたのを、用賀のアパートで頑張ってこなしていた。
 
そして青葉は26日の夕方、奈々美・空帆・純美礼をエルグランドに乗せて東京に戻った。桃香は高岡に来たついでにしばらく実家に滞在するということだった。帰りの運転も青葉と奈々美の交代で運転した。
 
そして深夜東京に到着すると、青葉は全員を各々の自宅前で降ろしてから大宮まで行き、彪志のアパート近くの駐車場にエルグランドを駐めて、その日はアパートで寝た。
 
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そして翌朝、彪志を送り出してからエルグランドをマンションに回送し返却した。冬子たちはまだ郷愁村から戻っていなかったので、鍵は次の機会に返すことにした。そして新幹線で高岡に帰還した。
 

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青葉は12月4日、YS大賞の授賞式に出席するため、再び東京に出た。今回はアクアの曲が優秀賞に選ばれたので、作曲者としてアクアに同席するためであるが、新幹線での往復になった。千里や冬子たちも出席しているので手を振っておく。
 
12月27日にはアクアの11枚目のシングル『夕暮れ時間BDFight!』が発売されたが、今回は青葉は楽曲に関わっていないので、記者会見には出席しなかった。
 
青葉は世梨奈・美津穂とともに、12月31日から1月1日にまたがって行われるローズ+リリーのカウントダウンライブに参加することにしていた。それで12月30日にアクアで世梨奈・美津穂を拾い、小松空港まで走って、福岡行きの飛行機に乗った。その日は前泊用に確保してもらっていたヒルトン福岡・シーホークに泊まる。
 
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「高そうなホテルだ!」
と世梨奈が喜んでいた。
 
夕食を食べに行ったら、鈴木真知子ちゃんと遭遇したので、一緒に食べた。
 
「今回は七美花ちゃんは参加してないのね」
「今年が大学受験だから、今必死で勉強しているらしい」
「そうか!受験の年か。どこに行くんだろう?」
「♪♪大学の邦楽科を受けるって」
「すごーい!」
 
「ほうがくかって、弁護士か何かになるの?」
と世梨奈が訊くので
「いや、そちらの法学ではなく、日本の音楽の方の邦楽」
「そっちの方か!」
と世梨奈が言うと
 
「今のダジャレ?」
と美津穂が言う。
 
世梨奈は一瞬考えてから、やっと気付いたようで
「あ!」
と言った。
 

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「高崎ひろかちゃん、西宮ネオン君、品川ありさちゃんも高校3年だけど、進学はせずに、高校出たら歌手・タレントの専業になるらしい」
 
「その方がいいと思う。大学行きながら歌手活動というのは結構厳しいもん」
「実際問題として、中高生は学業優先にしてもらえるけど、大学生はあまり考慮してもらえないから、単位を落としやすいよね」
「うん、大学生の場合は、だいたいお仕事優先にされるから売れっ子の場合、大学を卒業するのは至難のわざ」
 
「ローズ+リリーの場合も、ずっと限定的な活動していたのは、やはり大学生をしながらというのもあったんじゃないのかなあ」
「実際大学を卒業してから活動が本格化しているよね」
 
「あれは色々な人の思惑が絡んでややこしくなっていたみたい」
と青葉は言う。
 
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「ケイちゃんが性転換手術を終えて身体が落ち着いてから本格活動再開というのもあったんでしょう?」
 
「その説はあるけど、正直、ケイさんが本当はいつ性転換手術を受けたのかはいまいちよく分からない。本人は2011年4月に受けたと主張しているんだけど、マリさんは否定しているし」
などと鈴木真知子は言う。
 
「あれ実際問題として、ケイさん以外、誰もそれを信じてないよね」
「私がケイさんと初めて会ったのは、ケイさんが中学1年の時だったけど、女の子と信じて疑ってなかった」
と真知子。
 
「wikipediaのケイの項には、本人は2011年4月3日に手術を受けたと主張しているが、信頼すべき証拠は見当たらない、なんて書かれているよ」
と美津穂。
 
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「ただケイさんに手術証明書見せてもらったことあるけど、手術証明書は確かに2011年4月の日付になっていたよ。あれはさすがに開示しないと思うけど」
と青葉は言う。
 
「じゃ本当に本人の主張通りなのかなあ」
 

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「青葉も中学3年の時に性転換手術を受けたと主張しているけど、どう考えてもそれ嘘だし」
などと世梨奈が言う。
 
「そうそう。青葉が2011年4月に転校してきた時、女の子にしか見えないから、本当に男の子なのか確認するのに、みんなで温泉に行ったんだよね」
と美津穂。
 
「凄いことやってるな」
と鈴木真知子。
 
「裸になったのを見ても女の子にしか見えなかったから、普通に一緒に女湯に入ったよ」
「じゃ、その時に既にもう女の子の身体だったんだ?」
 
「いや、あれは偽装なんだけど」
「そんなきれいに偽装できるわけがない」
 
「うーん。。。どうしたら信じてもらえるんだろう?」
と青葉は困った。
 

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31日の朝政子が風花と一緒に来る。お昼頃千里が来て、夕方前座が始まった頃、冬子も到着した。青葉は夜のためにお昼過ぎまでホテルで仮眠しておいた。(ホテルは会場のすぐ隣である)
 
カウントダウンライブは22時に始まり、0:20頃アンコールまで終了した。青葉は主として龍笛を吹いたのだが、幾つかの曲ではサックスを吹いた。
 
公演終了後は出演者の中で、ローズ+リリー、スターキッズ&フレンズ、冬子の個人的なツテで参加した追加演奏者(青葉や千里を含む)と、若干のスタッフでチャーターしたバスに乗り、大分県の耶馬溪(やばけい)まで移動して宿泊した。
 
この旅館に泊まったのは24名で次のような部屋割りだった。
 
■4階
桜 マリ、ケイ
橘 鈴木真知子、古城美野里
松 近藤夫妻
梓 村山千里、川上青葉、鮎川ゆま
■3階
鳳凰 鷹野繁樹、酒向芳知、月丘晃靖、宮本越雄、香月康宏、加藤銀河
朱雀 氷川真友子、秩父光恵、甲斐窓香、江口マル、鱒渕水帆
麒麟 秋乃風花、近藤詩津紅、田中世梨奈、上野美津穂
 
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この部屋割りを作ったのは風花だと思うが、鮎川ゆまをどこに入れるかかなり悩んだのではないかという気がした。彼女はレスビアンで、特に酒に酔うと無差別に女の子を襲う困った癖がある。といって男性と同じ部屋にすると本人は問題無いが、同室にされた男性が困る。
 
ということで、千里・青葉姉妹の部屋になった。この3人のギャラが同額程度であることもあるし、また千里・青葉は性転換していることから、ゆまも天然女子に比べれば襲おうとする可能性が少し低いこと、そして千里も青葉も自分で身を守れる!というのがあった。
 

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