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■春からの生活(7)

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それから西湖はドアを開けて
「どうでしたか?」
と訊く。
 
「何も問題無いと思う」
とワルツは言った。
 
「だったらどうして落とされたんでしょう?」
「うーん。謎だ」
とワルツも悩んだ。
 
母からS学園が残っているのならS学園頑張って受けなさいと言われたことを言う。
 
「ああ、あそこに通いながら芸能活動している子も多いよ。だったら頑張りなよ。あそこも落とされた人って聞いたこと無い。芸能人だけでなく、一般の受験生でも」
「そうなんですか!?」
「だって偏差値30だよ」
「えーっと・・・」
 
西湖は受験のシステムについても無知なので偏差値というのが分からない。
 
「よく分からないけど、凄く易しい学校だということですか?」
「うん。それで落とされるのは、ヤンキーな格好して行ったとか、面接の時に暴れたとか、そんなのしかあり得ないと思う」
 
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と言ってから
「D高校も似たようなものだったと思うんだけどね」
と付け加えた。
 
それで西湖は「うーん」と言って悩む。
 

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「試験はいつ?」
「10日なんですけど」
「その日はまたリズムちゃん空いてるから彼女に代わらせるよ。試験に行っておいで」
「でも・・・」
「何?」
「S学園って女子校なんですけど、ボクが本当に受けていいもんなんでしょうか」
 
と西湖が言うと、ワルツは一瞬キョトンとしてから
「そういえばそうだった!」
と言った。
 
そして訊いた。
「でもなんであんたが女子校に願書出したのよ?」
 
「それが・・・」
と言って西湖はワルツに説明する。
 
J高校の説明会に行った時、たまたまS学園の先生とエレベータで一緒になり、その先生がS学園の受験生と思い込んで、そちらの会場に連れ込んでしまったこと。それでともかくも入試の書類をもらってしまったこと。母に願書を書いてもらいに行った時、うっかりその書類も持っていったら、母がそれにも記入して出してしまったこと。それで受験票が送られてきたこと。
 
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「なぜ男子が女子校に願書を出して受け付けられて受験票が送られてくる?いやそもそもなぜS学園の先生はあんたを間違って女子校の説明会に連れ込んでしまったの?」
 
「ボク私服だったから女の子に見えたのかも。それで実際ボクが、私男の子なんですけどと言ったら、女の子になりたい男の子と間違われてしまったみたいで、S学園の教頭先生が、うちは以前にも女の子になりたい男の子を女子生徒として受け入れたことがあるから、君もちゃんと女子生徒としてふるまってくれるなら、来てもいいよと言われたんですけど」
 
「そういうことか!」
と言ってからワルツはしばらく考えていたが言った。
 
「あんただったら、10日はしっかり女の子らしい服装で行きなよ。セーラー服持ってたよね?」
「衣裳のなら自宅にも置いてます」
「だったらセーラー服を着ていけばいいよ」
「えー!?」
「ちゃんと女の子らしい態度で面接を受けよう。さっきのは男らしすぎた」
「うっ」
「ちょっと女の子らしい面接の練習をしよう。部屋に入ってくる所から」
「うっそー!?」
 
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それで西湖は事務所にあった衣裳のセーラー服に着換えるよう言われる。
 
「あんたその髪は女子としては短すぎる。ウィッグも付けよう」
と言われて、西湖が撮影の時に使うセミロングのウィッグを付けさせられる。
 
それで西湖は再び部屋に入ってくる所から出ていく所まで面接の練習をしたが、今度はセーラー服を着ているのが心理的な影響を与えたようで、話し方なども女の子らしい、控えめな声量でハイトーンの声で受け答えをした。
 
「どうでしたか?」
と部屋を出る所までやってからドアを開けて訊く。
 
「充分女の子らしかったよ。10日はそれで頑張って」
「はい」
 
そしてワルツは突然気付いたように言った。
 
「あんたD高校落とされた理由だけどさ、あんた女子生徒と思われていて、女なのに、全然女らしくない態度だし髪も男みたいに短くしていたから、性格的に問題のある生徒かと思われたのかも」
 
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「え〜〜〜!?」
 
「それにあんたが芸歴書いてたのを見て、その映像とか確認すると、やはり女優じゃんということになったとか」
「それありそー」
 
「だから、あんたS学園の後、いくつか二次募集を受けるのなら全部セーラー服で行きなよ」
「そんなあ」
 
「まあ取り敢えず10日のS学園はその予行練習のつもりで行ったら?」
「そうします!」
 

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しかしともかくも10日は西湖はセーラー服を着て、頭もウィッグをつけて、受けに行った。
 
先日の説明会は渋谷で行われたため気付いていなかったが、この高校は、先日受けたJ高校と最寄り駅が同じ用賀駅であった。通学するとこの駅でJ高校の生徒と一緒になるかも、などというのも考える。
 
ワルツから「この高校を落とした人を知らない」と言われたこともあり、試験の問題が分からなくても開き直って問題を見ていたら、逆に「あれ?これ分かるかも」と思う問題もある。それでD高校やJ高校の試験に比べたら随分問題が解けた気がした。
 
午後から面接となるが、ここはグループ面接であった。4人単位で案内された。西湖は4人の中の先頭になったので、ノックをして「失礼します」と言ってドアを開け、一礼してから中に入る訳だった。
 
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中に入ると、面接官に二本松先生がいて目が合ったので会釈した。
 
歩く時もスカートの動きを意識し、膝より下だけを使って歩くようにする。これで凄く女らしくなるのである。座る時もスカートならではの座り方をする。D高校もJ高校もズボンだったので、座る時の仕草がまるで違った。
 
ひとつの質問に対して4人で順番に答えていく。西湖は先日までの面接とは違って、明るい声ではあるものの、あまり大きすぎず、女らしさを感じさせる話し方をした。そういう話し方も、ドラマでさんざん女の子役をしているのでけっこう慣れている。それで面接は終わって退出する。
 
退出する時は最後になったので、一礼してから「ありがとうございました」と言ってドアを閉めた。
 
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そして、翌11日S学園のサイトで合格者リストを見ると、自分の受験番号が掲載されていたのである。
 
西湖は嬉しくて涙が出てきた。人間って悲しくても嬉しくても泣くもんなんだなあとあらためて思った。
 
ただ合格させてくれたことには感謝するものの、さすがにここには通えないよなあとも思う。
 
合格した人は2月16日までに入学手続きをしてくださいと書かれている。むろん入学金と設備費を納める必要がある。その後で辞退することもできるが、その場合、入学金の分は返ってこない(設備費は返却される)。一応その期間に「延長手続き」をしておくと、埼玉県の中学を卒業する西湖の場合、埼玉県立高校の合格発表がある3月9日まで手続きを延ばすことができる(都内の中学を出る生徒は都立高校の合格発表のある3月1日まで)。
 
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しかし西湖はどっちみち公立なんて受けても通らないから延長しても無意味である。
 
西湖はワルツに電話してみた。
 
「和紗さん、S学園は合格しました」
「良かったね!」
と言ってくれる。
 
それで入学手続きをするかどうか迷っていることを言うと
「お金の心配が無いのなら、入学金を納めて手続きしておくべき」
と言われた。
 
「たぶん、西湖ちゃんにとってはたいしたことない金額だよね?」
 
西湖の収入はアクアのサポートをしているだけにかなり物凄い。高額納税者である。アクアの財産が雨宮先生たちによりしっかり管理されているのに対して西湖の資産は西湖が自分で管理しているものの、無駄遣いしたりする子ではないので、どんどん貯まっていっている。実際無駄遣いする時間も無い!
 
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「金額は全然問題無いです」
「だったら、行くかどうかは後で決めればいいんだし、取り敢えず手続きしておきなよ。万一残りの学校を落としたら、ほんとにやばいよ」
 
「分かりました。手続きしておきます」
 

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それで西湖は週明けの2月13日、まずは中学に(学生服で)出て行って先生に卒業見込み証明書を書いてもらい、午後から早退して、まずは銀行で入学金と設備費を振り込む。その後、いったん自宅に戻ってセーラー服に着替え!受験票と振込票控え、記入済みの芸術科目選択希望票・家族調査票を持って東京まで出て、世田谷区のS学園まで行く。
 
桶川→新宿→渋谷→用賀
 
というルートである。S学園もJ高校もこの用賀駅の近くにあるのだが、J高校が東急の路線(昔の路面電車・玉川線の跡地:現在の東急は地下を走っていて跡地は都道427号になっている)の南側にあるのに対してS学園は北側にある。それでJ高校に行く時は東口から、S学園に行く時は北口から出ることを西湖は再認識した。
 
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学校に行って書類を提出する。芸術科の選択は音楽と書いた。もっとも多分成績下位の方で通っているだろう西湖の場合、希望通りの科目選択にはならない可能性もある。人数調整で美術か書道に回される可能性もあるよなと西湖は思った。家族調査票はこのように書いている。
 
生徒氏名 天月西湖・あまぎせいこ・15歳・生年月日2002.8.20
住所 埼玉県桶川市**** 048-***-****
緊急連絡先 新宿区信濃町*** §§ミュージック(契約事務所)03-5***-****
家族構成
天月晴渡・あまぎはると・53歳・父 090-****-****
天月湖斐・あまぎこい・45歳・母 080-****-****
 
西湖はこの調査票には自分にしても家族にしても性別を書く欄が全く無いことを書きながら感じていた。共学校ならたぶん最初に自分の性別を書くのだろうが、女子校に入るのはふつう女子のみだから、わざわざ性別を書かせる必要がないのだろうと考えると、何か新鮮な発見をした気がした。
 
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そういえばここの学校のトイレには男女表示が無いというのも先日試験を受けに来た時に気付いた。女子生徒しかいないから、トイレも女子トイレしか存在せず、性別を表示する必要がないのである。こういう世界が存在することを西湖は今まで知らなかった。むろん西湖は散々女の子役を演じていて女子の格好をしている時には普通に女子トイレを使っているので、今更学校で女子トイレに入ることには全く抵抗を感じない。
 
父と母の所も性別を書く欄が無いが、普通父は男だし、母は普通は女だから続柄だけ書けば、性別をあらためて書く必要は無い。
 

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書類を提出したらいくつか質問をされた。
 
「ああ、芸能コースの人ですね」
「はい、そうです」
「契約事務所を緊急連絡先に指定なさっていますが、お祖父さんかお祖母さんとかはおられません?」
「父方の祖母は青森、母方の祖父母は大阪に住んでいるので緊急事態があっても、すぐには来られないと思います」
「なるほどですね」
 
「あ、そうだ。一応家電(いえでん)の電話番号は書いておきましたが、両親とも仕事で不在がちなので、FAXは受信できますが、電話を掛けてもまず誰も取れないんですよ。ですから連絡は私自身の携帯か、両親の携帯にお願いしたいんですが」
「分かりました。でしたら、この欄外にあなたの携帯番号を書いてください」
 
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それで西湖は自分のスマホを取り出して電話番号を確認しながら記入した。
 
「現在ご住所は桶川市なんですね。通学の時は都内にアパートか何かを借りられますか?」
 
「はい、そのつもりです」
「ではアパートが決まったらすぐに住所変更届けを出してください」
「分かりました」
 
「実際問題として、ここに入学するのは確定ですか?」
「すみません。他の私立にも併願するつもりなので、そちらの結果を見てから最終的には決めさせて下さい」
 
「分かりました。もし辞退なさる場合はできるだけ早くご連絡ください」
「はい、すみません。お手数お掛けします」
「通学時は標準服を着られますか?」
「え〜?どうしよう?」
「まだ決めておられないのでしたら、とりあえず採寸だけしておきましょうか?それで作る場合ですけど、あなたはわりと標準的な体型みたいですから、3月20日の夕方までに連絡してもらえば、4月9日の入学式に間に合いますから」
 
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「分かりました」
 

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