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■春からの生活(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-12-31
 
アキナたちの漫才の後は、◎◎中学の吹奏楽部の子たち(この子たちはずっと別室にいたようなので、アキナたちの漫才も聞いてない。さすがにさっきの話は中学生には聞かせられない)が再登場して、演奏のパフォーマンスをした。
 
ショスタコヴィッチ『祝典序曲』を演奏した後、THE SQUARE『TAKARAJIMA』、いきものがかり『ブルーバード』、AKB48『願いごとの持ち腐れ』、レミオロメン『3月9日』と演奏し、最後はローズ+リリー『門出』で締めた。
 
アキナたちの漫才ではかなり騒然としていた会場も中学生たちのパフォーマンスには掛け値無しで拍手が送られ、ひじょうに盛り上がった
 

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成人式が終わって会場を出た後は、また会場前で色々な組合せで並んだりして記念写真を撮った。会場前で待機していた親などもいるので、そういう人も入れて撮影する。千里姉も来ていたので美由紀が並んでいる所を撮ってくれた。
 
「さっきも明日香ちゃんに撮ってもらったんだけどね」
「まあ何度撮ってもいいし」
 
「あれ?千里さん、左手薬指に結婚指輪つけてる」
「うん。近い内に結婚する予定だから」
「わあ、おめでとうございます」
「でもすぐに離婚する予定だから」
「そうなんですか!?」
 
千里が左手薬指につけているのは金色の指輪なので、それでこれは千里2であることが確認できる。つまり千里は1番には(多分眷属を使って言いくるめて)家で留守番をさせておいた上で、式が始まる前に3番、終わった後に2番が来て、3人とも青葉の成人式を祝福できるように調整したのだろう。
 
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でもお陰でご祝儀も3回もらった!
 

その日は千里と朋子が協力して、料理を作り、成人の日のお祝いとした。
 
寒鰤・甘エビ・鯨のお刺身、鱈の子付け、海老・鱈・カボチャ・サツマイモの天麩羅、車麩に玉子を落として煮たもの、それに桃香の要望でローストチキンも作った。
 
「美味しい美味しい」
と言って、主として桃香が食べている!
 
お酒も高岡の地酒・勝駒の純米吟醸を美味しそうに飲んでいる。
 
「あんたお酒飲んでるの?」
と朋子が訊く。
 
「今日はめでたい青葉の成人式だし」
「それで早月におっぱいやったらダメだよ」
「ダメだっけ?」
「早月がアルコール中毒になっちゃう」
「むむむ」
 
「まあ今日はミルクあげておこう」
と千里が言う。
 
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「こないだまでは千里もおっぱいが出ていたのだが、最近出にくいみたいだ」
と桃香は言っている。
「おっぱい出ていたのは、青葉が出るようにしてあげたんだっけ?」
と朋子が言うが、青葉は
「そうだねー」
と曖昧な返事をしておいた。
 
千里のおっぱいが出ていたのは京平君を産んだからである。そして最近出なくなったのはお正月に聞いたように“妊娠”したからなんだろうなと青葉は思った。京平君の時と同様、美映さんが妊娠しているように見えて、本当に妊娠しているのは千里姉なのだろう。“どの千里姉”が妊娠しているのかはよく分からないが。
 

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「そういえば、千里ちゃんが買物に出た時に、追加で玉子も頼もうと思って電話したら、この番号は現在使われておりませんとアナウンスがあったんだけど、千里ちゃん番号変えたんだっけ?」
 
と朋子が尋ねた。すると
 
「この電話、どうも使い方が分からなくて。鳴った時もどうやって電話に出ればいいのか分からないし」
と千里は言っている。
 
「はあ?どういう設定にしてんのさ?」
「さあ」
 
それで桃香はその場で千里のiPhoneの番号を確認した上で、そこに自分のスマホから掛けてみた。
 
するとiPhoneは鳴らないし、桃香のスマホではやはり
「この番号は現在使われておりません」
というアナウンスが帰ってくる。
 
「千里、ひょっとしてこの携帯は解約されているとか」
「え〜?」
「もしかしたら口座の残高不足か何かで長期間料金が払われていなくて解約になったのかも」
 
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「あ・・・」
「心当たりある?」
「この電話、4月に落雷に遭って入院した時に友だちに頼んで契約してもらったんだよ。その時口座番号伝えていなかったから、もしかしたら請求書とかで送られて来ていたのに私気付かなくて、料金払っていなかったのかも」
 
「それは千里なら充分あり得る話だ」
と桃香が言っている。
 
千里はわりとその手の単純ミスが昔から多い。
 
桃香は更に千里のiPhoneにしばらく触っていたのだが、やがて言った。
 
「そもそもこのiPhoneは壊れている」
「え〜〜〜!?」
「恐らく高電圧の物に接触したか何かで回路がいかれている感じ。多分修理不能」
と桃香が言うと
 
「高電圧の物体ってちー姉のことだと思う」
と青葉が言っている。
「それ凄く心当たりある」
と本人も言う。
 
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「だったら明日にでも近所の携帯ショップに行って、新しいのを買う?」
と桃香が訊くと、千里は言った。
 
「ガラケーがいい!私静電気が凄いから、たぶんまたスマホ買ってもすぐ壊れると思う」
 
「確かに千里の静電気は凄まじいもんなあ。家電(かでん)もよく壊れるし。ガラケーがいいのなら、中古のガラケー扱っているショップで調達して私が調整してあげるよ」
 
「助かる!」
 
そういう訳で千里1が携帯を使えない状態は半年で終了することになったのである。
 

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桃香は千里と一緒に東京に戻ることにし、その日の深夜にミラに一緒に乗って帰還していった。助手席を最大限前に寄せて、その後ろの席にベビーシートをセットし、千里が運転席、その後ろに桃香が乗るという形である。
 
そして8日の日中に桃香は千里を連れて中古ガラケーの専門店に行き、結局京セラの最後のガラケーGratina2 KYY10 pinkを買った。すぐにauショップに行き、持ち込みの新規契約をする(千里はそのあたりの意味がさっぱり分かっていなかったようである)。桃香はその電話番号とアドレスを自分のスマホに登録するとともに、メールで朋子と青葉に送った。青葉はその番号を千里2に送っておいた。
 
iPhoneからは桃香の努力をもってしてもアドレス帳を取り出すことができなかった。閲覧操作自体ができない。それで桃香は自分のスマホに登録されていた信次の番号を千里の新しい携帯に登録してあげた。千里は信次に連絡を取って、信次のお母さんとお兄さんの番号を教えてもらって再登録した。microSDカードはその付近に適当に転がっていたのを挿してあげた。
 
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そして・・・千里1は密かに貴司の電話番号も登録しておいた。また貴司が会社に居る時間帯を狙って電話を掛け、携帯を変えたのでと言ってGratinaの番号とアドレスを伝えておいた。
 
また9日に横浜の2軍練習場に行った時に、前の携帯が壊れたので、コーチや同僚選手の携帯番号を教えて欲しいと言った。するとコーチは接続ケーブルを使って、直接自分のパソコンから千里が必要と思われる球団関係者(コーチ、二軍選手、事務関係者)の電話番号一覧を一気に千里のGratina2に転送したので
 
「そんな凄い方法があるんですね!」
と千里が感心したように言う。
 
「いや、アドレスなんて普通、パソコンにセーブしておくべきものだし」
 
とコーチは困ったように言っていた。
 
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天月西湖は1月15日朝、劇団事務所に行って、母に高校入試の願書を書いてもらった。西湖は本命はJ高校で滑り止めにD高校と考えていてその2つの願書に、自分が記入すべき所を書いた上で、保護者欄を母に書いてもらったのだが、この時、うっかり(女子高である)S学園の願書も一緒に持って行っていたので、母はそれも書いて、一緒に写真を貼り付けて受験料を払い、投函してしまった。
 
S学園は女子高で葉月は受けるつもりも無かったので何も記入していなかったのだが、母は親切にもその願書の西湖が書くべき部分まで一緒に書いてくれていたのである。
 
この3つの高校の入試は、D高校が2月3日(土)、J高校が2月4日(日)、S学園は翌週の2月10日(土)に行われる。合格発表は3校とも翌日である。
 
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西湖はうっかり書類を読み間違っていてD高校が1月22日(月)、J高校は1月23日(火)と思い込んでいたのだが、それは推薦入試の日程で、一般入試の試験日は2月に入ってからであった。西湖は中学の成績は体育・音楽・美術以外全て1で、年間の欠席日数も30日ほどあり、推薦入試を受ける条件を全く満たしていない。
 
この勘違いは、1月15日に願書を郵送したはずなのに、1月19日(金)になっても受験票が送られてこなかったので電話してみて、分かったものである。受験票は実際には1月25日(木)に到着した。
 

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しかし到着した受験票を見て、西湖は困惑した。D高校とJ高校からも受験票が届いていたが、S学園からも受験票が届いていたのである。母に電話してみたら「願書が3つあったから3つとも出しておいたよ」ということだった。
 
S学園は女子校なのに〜と思うが、まあ受験料は払い込んだものは返却されることはないし、実際には受験には行かないものの、まあいいかと思った。
 
しかし普通なら、そもそも男の自分が出したS学園の願書は拒否されたと思うのだが、受験票を送って来てくれたのは、説明会の時に「女学生として行動してくれるのなら、受け入れてもいいよ」と先生たちが言っていたからだろうなと思った。
 
女子高生としての生活・・・
 
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何かそれもしてみたいような気がするけど、ボク男の子なんだから無理だよねなどと考える。最低でも去勢してくださいとか、おっぱい大きくして下さい、なんて言われたらどうしよう?などと妄想したら、あそこが大きくなるのを感じた。
 
西湖は自分が女の子に改造されちゃうような妄想をすると男の子の器官が大きくなるのはなぜだろう?と不思議に思う。
 
しかしアクアさんは時々女子制服を着ているけど(*1)、アクアさんのC学園での扱いって、本当に男子生徒なんだろうか?もしかして女子生徒扱いだったりしないのだろうか??などと西湖は疑問を感じた。
 
(*1)女子制服を着て出歩いているのは、大抵アクアFである。
 

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千里C(せいちゃん)が中心になって開発していた○○建設のシステムは2018年1月15日に納品され、最初の2日間は小さなトラブルがあったものの、その後はノートラブルで動き続けていた。千里Cはドキュメントの整理もあるのでずっと会社で待機しながらその整理作業をしていたのだが、矢島課長が言った。
 
「千里ちゃん、ここしばらく全く休んでないでしょう?22日から24日まで休みあげるから自宅で休んでいるといいよ」
「いいんですか?」
「私もいるし、(サブリーダーの)旬子ちゃんもいるから大丈夫よ。それにあんた、結婚式の準備も全然進んでないんじゃないの?」
「実はそうなんですよね−」
 
と言いつつ《せいちゃん》は気が重い。千里A(千里本人)はちゃんと信次と結婚してくれるよな?俺に代わりに結婚してくれなんて言わないよな?俺はさすがに男と結婚するのは嫌だぞ。
 
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それでともかくも千里Cは休みをもらうことにして、《きーちゃん》が取ってくれたホテルでひたすら寝て過ごすことにした。今回のシステムは途中でどんどん仕様を変更せざるを得なくなって、ほんとに疲れた!
 

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青葉は1月20日(土)、アクアの次のCD制作のため東京に出てきた。次のCDは4月から新たに始まるドラマ『ほのぼの奉行所物語』のエンディングテーマ『お江戸ツツジ』と挿入歌『帯に短し襷に長し』をカップリングしたものである。例によって、青葉はマリの歌詞に曲をつけ、もう1曲は千里3が琴沢幸穂名義で書き、現在の醍醐春海こと千里1が編曲をしている。
 
月初めに書き上げて送っておいたが、先週末にスコアが完成してアクアやエレメントガードのメンバー、青葉や和泉にも送られて来ている。
 
金曜日までにエレメントガードは充分練習していたので、この2日間はアクアの歌唱練習と本番収録が行われる予定であった。しかしアクアも忙しい中かなり練習していたようで、20日午前中の段階で一発でうまく行った。そこから調整を掛けていって、その日の午後には完成の域に達して、録音を確定させた。
 
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「最近、アクアちゃんはよく事前に練習しているよね」
と和泉が感心したように言う。
 
「だってたくさんの人が動いているのに、ボクがもたもたしていたらいけないもん」
「いや、よく練習する時間があるものだと思う」
「それは何とかしますよー」
 
それで21日はPVの撮影、ジャケットに使う写真の撮影などをした。
 
このCDは通常表紙版と、ドラマのスティルを使ったジャケットのものと2種類を発売することになる。
 

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